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世界説明SS
幕間
(2010/1/2)
『ねぇ』
「んに?」
 制御ユニットからの思念波に猫娘は展開している魔法陣の数増やしながら応じる。
『あの子、心が折れちゃったかしら』
 ここはとらいあんぐる・かーぺんたーずの裏庭。サンロードリバーの沿岸に面しており、潮風ではないものの空気は絶えず流れ、冷たい。が、彼女の居る一角についてはまったくもって気温が違った。というのもヒトガタの炎がすぐ近くで暇そうに座り込んでいるのである。
 エフリート───イフリートとも呼ばれる炎の魔人だ。暖房のためだけに呼ばれるなど名折れも良いところだが、何時もの事とあきらめて胡坐に頬杖をついている。
「ばっきばきじゃない? 喧嘩もしたことありませんって感じだし。すっごいなよなよにゃよ」
『オーソドックスな地球世界人なのよ。
 ……もう乗ってくれないのかも』
 悲しげな声にアルカは肩を軽く竦めると「なるようにしかならないにゃよ」とまるで適当に応じる。
「自分でこの世界に来たわけじゃないし、意志もそんなに強くない。そこから立ち直れるかなんて本人以外の誰にも扱えないにゃよ」
『わかるけどね。せっかくあの子以外に私と感応できるのが現れたのよ?』
「それはあちしの仕様じゃないでしょーに」
 呆れたように言い放ち、宙で光を放つ全ての魔法陣を消去。一気に薄暗くなったのも気にせずに制御ユニットを車体へ戻す。
「元々は汎用型だったのをエルが勝手に最適化という名前の区別をしたんじゃない。
 あちしでさえマスター権限での干渉じゃないと念話できないなんて、どーよ?」
『そんなの知らないわよ。そうなっちゃったんだから』
 不貞腐れるような声に「はふ」と腰に手を当てため息。
「まぁそれだけ相性が良かったとも言えるけどさー。それを押し付けるのは酷過ぎるにゃよ?」
 自分が被れそうなカウルを持ち上げて制御ユニットを覆い隠す。
「あの子はこの世界に向いてない。それはエルだって充分わかってるっしょ?
 今は扉が開かないから帰れないだけ。もし開いたときにエルの都合だけで引き止めたりなんてできないにゃよ?」
『……それもわかってるわよ』
「ま、」
 手際よくカウルを固定し、苦笑。
「エルがユキヤちんの世界に行くのはアリだと思うけどね。ガソリン車に改造するのはわけないし」
『……』
 迷いを含む言葉にならない念にやれやれとつぶやいてレンチを置く。
「少なくともユキヤちんにはランサーの才能は皆無。あの子みたいな事を求めるのは傲慢と言うより絵空事にゃよ」
 ぽんと座席を叩き「最低でもあの子が望まない限り、どんな教師が居たって身につく技術なんて無いにゃよ」と言いながら店に戻っていってしまった。
 気まぐれかつ無責任な主人が去って気まずい雰囲気の裏庭からこっそり去るイフリート。
 そうして訪れた静寂の中、会話する相手も居なくなったインテリジェンスバイクはまるで夢でも見るかのように、かつての主人の事を思い出していた。
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