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単発シナリオ集
【invS04】あんだーざらいぶらりー
(2011/02/18)
「皆さん。一応レジストを掛けますけど、くれぐれも途中の本には触らないようにしてくださいね」
 司書院の長、サンドラの言葉に皆一様にうなずく。
「触ったらどうなるんですか?」
 トーマがひょいと手を挙げて問うと
「死ぬならまだ良い方かと」
 さらりとした返答に一同絶句。
「基本的に本という媒体は読まなければ本質を発動しませんので、触らなければ問題ありません」

 と言う事だったのだが。
 読まなければ問題は無いという制限に対し、読ませるという呪いが掛かっているのも少なくなく。

「う、うわぁあああ!!」
「ががががが」

 途中2名ほど、レジストを突破して誘惑されたりしたりして。
 脱落したのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「というわけで、これから皆さんにはここの掃除をしていただきます」
 まるで無限迷宮にでも迷い込んだような、本棚と本の暗い空間を抜けた先にはまるで病院か研究所かと言わんばかりの空間が広がっていた。リノリウムの床は綺麗に続いていて壁にも床にも大した汚れがあるようには見えない。まるで暗闇から真夏の炎天下に放り出されたような顔をする一行は声を発したサンドラに視線を向ける。
「本の整理じゃなかったの?」
 クネスの問いかけは数名の疑問でもあった。先ほどとは打って変わって全く本棚らしき物は見当たらない。
「ここは確かマッドな連中の溜まり場になっているはずだな」
 事情を知るエディが呟くと
「研究者に貸し出している場所ですね。貴方がたに担当していただくのは部屋の中です。
 ロックは外していますし、先週のうちに掃除を行う事は告知していますので遠慮なく片づけてください。本はあちらのラックに。それ以外のゴミは資材用エレベータに放り込んでください。後で上の係員が分別しますので」
「えっと、ゴミかどうかわからない物がいっぱいありそうなんだけど?」
 トーマの言葉にサンドラは
「整理されてなかったらゴミ扱いして結構です」
 と、ばっさり言いきった。
 その余りの容赦の無さに一同は顔を見合わせ
「あの……サンドラさん、怒ってる?」
 クネスがこそりと呟く声を彼女は表情を消した顔でスルーした。
 皆、状況を認識。
「危険な奴とかはどうするんだ?」
 エディが問うと「危険物がありそうな部屋にはシールを張っていますので十分に注意して対応してください。また掃除の邪魔になる物は排除して構いません。殺さないようにしていただけると幸いです」
 大図書館を利用した事のある人なら知っている事だが、普段のサンドラは利用者に丁寧に案内してくれる優しいお姉さんだ。見た目がラテン系人種ではあるが、落ち着いた人である。
 そんな彼女にこうまで言わせるという事は、よっぽど酷いのだろう。
「ではみなさん、よろしくお願いしますね」
 作ったような笑顔で、司書院長は開始の宣言をした。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「開けなさいよっ!」
「ぬぉおおお! 開けてなるものかぁあああ!!」
 クネスが力いっぱい扉を引こうとするが、研究者が向こう抑えているようで……
開始早々こんなやりとりがそこらで始まっていたりする。
 確かにロックは外れているが、力づくで扉を抑えつけて中に入れさせまいとする研究者の多い事多い事。きちんと部屋を整理している連中はさっさと開放してチェックを受けているのであるが、その数は全部屋数に対して十分の一にも満たない。
 中には
「あのぅ」
「どうしました?」
「部屋の人が埋まってたんですが」
 トーマの入った部屋では開けるなり何とも知れない物がどちゃっと溢れだして途方に暮れ、とにかく物を出していくと半死半生の研究者が発掘された。
「面倒ですので資材エレベータに乗っけてください」
「え? あれ、人が乗って良いの?」
 だったらあんな危険な道を通ってくる意味が無い。
「多少命にかかわりますが、発掘されなければ死んでいたでしょうし、大差ありません」
 厳しいなぁと聞いていた探索者達が背に汗を浮かべる。
 ちなみに事前説明にあった事だが、この第三階層には複数の結界やら防爆やら耐核やらの防護策が仕掛けられている。元より上の危険な本の影響を地下に留めるための物であったが、この三階層で研究する連中に合わせてその防御のレパートリーを追加しているらしい。資材用エレベータはそんな結界をやや強引に突破するようで、生命体は乗らないに越したことが無いらしい。
 しかしまぁ、周囲のどたばたを見れば彼女の表情に出ていない怒りの理由も分かるという物だ。
「もー、いい加減諦めなさいよ!」
「ちと、開けよ」
 ドンドンと扉を叩くクネスの後ろ、やや下からの声。振り返ると空いたスペースに処刑鎌のフォルムを持つ杖がぬっと差し込まれ、戸にコツンと当たる。
「そ、その声!? お嬢っ、まっ」
 中からの慌てた声。しかしそれを聞き届ける前に甘ロリ姿の10歳程度の少女はぽつりと一言を零す。

 どがんっ

 扉が僅かに震え、更にその向こう側で何かが吹き飛び、転がって、何かにぶつかり、更に崩落したような音が響いた。
「ほれ、空いたぞぃ」
 何事も無かったかのような平坦な声。老人の口調だが、その声音は見た目相応の少女の物だ。
「開いたって……わぁ……」
 クネスが中を覗きこむと、全身擬体の男がガラクタに埋もれて目を回している。
「衝撃を壁越しに叩き込んだだけじゃ。どうせあれは脳以外はカラクリじゃて、死にはせん」
 そう言って他の扉の前へ行き、同じ仕打ちを容赦なく再演する。
「くくく、こうなれば私の作ったこの────」
「やかましい」
 ガウンガウンと2発の銃声が響き渡る。それから胸に2発のゴム弾を食らった研究者が部屋の外に投げ出された。エディの仕業らしい。
「あれくらいで丁度良いってことなのかしら?」
 呟いてみるが
「いやぁ、納得したらいけないと思うんですけどねぇ」
 近くを通ったトーマが冷や汗混じりに突っ込みを入れて行く。
「掃除の意味が違ってきそうっす」
「ホントにね」
 制圧戦と書いて掃除と読む戦いはこうして淡々と繰り広げられていった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「皆さん、お疲れさまでした」
 そうして4時間後。
「うぉー、離せ!」
「私の研究資料があああ!」
 最後まで抵抗した連中が縄やらバインド系の魔術やらで縛られて転がされている。ちょっと怪我が派手だった数名はすでに運び出されているようだ。
「ニギヤマさん所は綺麗だったのね」
 それを遠巻きに見ている「片づけていた連中」の中に『森』事件の首謀者だったニギヤマをクネスは見つけていた。
「うむ。コアにやってもらってるからな」
「コアって……あの?」
「オリジナルはもちろん森に居るがね。高位のコピーに常識を学ばせて後で情報共有させるんだよ」
「ヨンダ?」
「パパ、ヨンダ?」
 ひょこんとニギヤマの頭と肩に幼稚園児サイズのコアが現れる。
「管理が上手くいくようなら衛星都市にも森を作る計画を持ちかけられているからねぇ」
「管理って……まだ反発してる子が居るんでしょ?」
 『森』は一応はオリジナル・コアが多くの部分を制圧しているものの、未だに狂ったコピーが至る所に点在している。最近は探索者達が乗り込んでイレギュラーコアと呼ばれるオリジナルに反発するコアの退治を行っているが、その終着点はまだ見えない。
「うむ。もう少し知能を挙げて効率的な制圧作戦を行えるようになれば進展するだろうが……それを教え込む事でいらん反逆をしないかという心配もあってねぇ。なかなか難しいよ」
「……笑えねえな。それ」
 隣で聞いていたエディが半眼でツッコむ。
「でも、その子達が掃除できるくらいだったら他の研究者とかに貸したら良いんじゃないっすかね?」
 トーマがコピーのほっぺたをつつきながらそんな事を言うと「それは駄目だ!」とニギヤマはきっぱりと拒否する。
「あいつらはまず研究だからな。何をするか分かったもんじゃない」

「「「「お前が言うな」」」」

 縛られた連中も含めてのそう突っ込みをニギヤマは笑ってごまかしたのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 余談ではあるが。
 この日廃棄されたゴミが何故か合体変身して巨大怪獣になったり、それの迎撃で大騒ぎになったりしたというのは、数時間後に地上戻るであろう彼らには知る由も無い話。
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というわけでお掃除おーわりっと。
 やふい。神衣舞です。一回書き終わってセーブしようとしたらフリーズしたりとかしてうがーーーーーーーとかなってる神衣舞です。
 うがーーーーーーーーーーーーー。
 さて、Sシリーズにはちょっとした目的があるのですが、それが実を結ぶのはちっと先なので今は気にせず楽しんでもらえると幸いかと。

 さて、次は何をしようかなー。
piyopiyo.php
ADMIN