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単発シナリオ集
【invS06】桜前線予報
(2011/03/29)

 ────お花見。

 そのままの意味で取れば季節の花を愛でるイベントか、あるいはそれを口実にした宴会を指す。
 が、このクロスロードで言うお花見、そして桜前線は花にまつわるには違いないが、その意味を大きく違えていた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「というわけで、トレント種サクラ科の怪物が年に一回4の月頃にクロスロードへ襲来します。それが壁のように押し寄せてそのまま通り過ぎる事から、気象用語を用いて『桜前線』、これの迎撃作戦を『お花見』と呼称しています」
 今回の作業に参加したうち、これらの言葉の意味を知らない新参者に対しての説明会。中空に表示された映像には花びらをまき散らしながら猛然と迫る『サクラ』の姿が映されている。
「『大襲撃』や『再来』と比較すれば圧倒的に少数ですが、去年の記録では一万足らずを観測しています。ただこの『サクラ』は積極的に攻撃してくることはありません」
 説明員の言葉に「なーんだ」という顔をする探索者も少なくない。
「ただ『怪物』であることは変わりないので『扉の園』へ侵入させるわけにはいきません。
 なのでクロスロードへの接近を妨害する必要があります」
「やりたい放題というわけか?」
「攻撃に対して反撃もほぼ無いのでそう称して構いませんが、厄介なのは『サクラ』の花弁に含まれる成分です。これから発せられる物質、或いは呪力に触れるとある程度個人差はありますが種族を問わず酔います」
「種族を問わずって言ってもロボットや魔法生物は大丈夫なんだろ?」
 探索者の問いかけにスタッフはふるふると首を横に振る。
「いえ、酔います。正確には朦朧、足元が覚束なくなり、思考能力の低下が発現します。また支離滅裂な行為に及ぶ事も多く、酒酔い状態に似ていることから『酔う』と表現しています。ゴーレムでもロボットでもスライムでも酔います」
 ざわりと呆れ声が膨らむ。
「というわけで、基本的な迎撃は遠距離砲撃。呼吸しない来訪者も酔うのに何故かガスマスク等は有効ですので近接職の方は砲撃を抜けてきた対象への迎撃を担当してもらう事になるわけです。
と言っても今回はその準備としてなるべくクロスロードに寄らないようにするための溝を掘ったり、柵を作ったりする作業が主となります」
「桜前線がもう来ているというわけではないのか?」
 ポリゴンで構成したようなロボットが抑揚のない声音で問う。
「まだ観測されていませんが、まだ寒いですから4月の中旬頃になるかもしれません。
 今回は事前準備です」
「えー! 折角自作兵器を試せるって思ったのにっ!」
 その隣で話を聞いていた少女が思いっきり残念そうな声を挙げた。
「えーっと、アイディアとかそういう物は別途受付いたします」
 やたっ!と声を弾ませるのを確認して説明員は視線を周囲へ向けた。
「他に何か質問は?」
 基本的な性質はPBを介して全員にすでに伝えられている。
 一言で言えば『動く木』。体である幹の強度も木材程度で、その耐久性も木と同じで銃弾を数発受けた所で倒れる事はまず無い。
 火は有効だが松明状態になった木が迫った場合非常に危険なので積極的には使わないということ。また花びらが燃えるとその成分(?)が拡散することも確認されている。なんでも昨年は『サクラ』に登って火を付けたツワモノがいるとか。
「無いなら作業に取り掛かっていただきます。随所に管理組合員が居ますので指示に従ってください。報酬は作業量に応じて増減します。ではよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げた管理組合員を見て探索者達は自分に向いた作業を探して散って行った。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「大量ですね」
 スティルの言葉にトーマはえへんと胸を張る。
「自信作っスよ!」
 二人が何をしているかというと、なにやらいろいろ持ちこんだトーマの発明品をえっちらと運搬中。使うにせよいきなり実戦に持ち込むわけにも行かないので事前評価をする事になったのである。たまたま近くに居たスティルはそのお手伝いをお願いされたという経緯だ。
「それで、どれから持って行くのですか?」
「じゃあまずはこの試作型タイタンストンパーっスね」
「試作機なのですか?」
「いやいや、試作機と言ってもですね、性能は十分っスよ!」
 言いながらボタンを押す。その瞬間────

 タイタンストンパーが空を飛んだ。

 そして放物線を描いて
「うぉっ!」
「上だっ!」
「ぎゃぁああ!?」
 ずどんと作業者の集まっている地点に落下した。
「……」
「コストの割には威力が伴わない兵器ですね。火薬等を積んだほうが良いかと」
「え、あ、い、いや今のはノーカンっすス!」
 ちなみにストンプとは踏みつけの意味。簡単に言えば地震発生機だったのだが十分に固定しないまま起動したので地面に加えるはずの力で本体の方が飛んで行っただけだったりする。
「じゃ、じゃあこれっす! トリモチ地雷!
 こいつを踏んだら最後、動けなくなるっスよ!」
「いくつ用意できるのでしょうか?」
「え?」
 冷静な突っ込みに間抜けな声が挙がる。
「推定襲撃数1万程度。クロスロードの直径が30km程度で有効範囲が2mとしますと、1列目の捕獲のためだけに7000個ほど設置する必要があるかと」
「……え、いや、そのっスね」
「あとどの程度の粘着性かにもよりますが地面が乾燥気味の土ですのですぐに粘着能力を失うと推測します」
「……、つ、次っス」
 と、言いつつ次にだそうとした落とし穴とかしびれ罠も数の問題がありそうなのでスルー。
「こ、これならどうっスか! 失神するほどの臭いをまき散らすグレネード! これなら広範囲に……」
 言いながら気づいたらしい。スティルは無表情のまま、しかし残念そうに首を横に振った。
「トレント種に嗅覚は無いとのことです」
「デスヨネー」
 ちなみにサウラは壁を垂直に登る能力があるため、落とし穴は意味が無く、木材なので多少のびりびりでしびれたりしない。それこそ電撃レベルでないと効果は薄い。
「ええい、ならばこのガオリンガル! なんと怪物の感情を文字にできるっスよ!」
「……」
「……」
「コメント、必要でしょうか?」
「ごめんなさい、勘弁してほしいっス」
 ぶっちゃけ「だからなんだ」である。ちなみに本当に怪物と意思疎通ができる機械であれば誰もが賞賛する技術ではあるのだが、今のところあらゆるアプローチは失敗に終わっていた。試してみる価値がないとは言わないが見込みは無いに等しいだろう。
「どれを運びましょうか?」
「あっちの防衛兵装整備に行かないっスか?」
 じ、実戦までにはぁ! と内心でメラメラと炎をこっそり燃やしつつも、今はがっくりなトーマにスティルはやはり機械的に頷きを返すのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 というわけで2日ほどの作業は順調に進み、南砦を軸にした誘導ラインと、それが突破された時のための防衛ラインの構築は無事完了した。
 あくまで桜前線用の布陣なのでこれが終われば破棄されるものだ。トーマではないがいろいろな新兵器のテストなども並行して行われている。
 中でも一番目立つのは武装列車だ。その前後に位置する車両には衝角が取り付けられており線路上のサクラを打ち砕きながら弾幕を張り巡らす。
 物々しさの中にも妙なこだわりを見せるアーマード武装列車を横目に来訪者達は街へと戻っていくのだった。

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にゃふ。神衣舞です。
今回はコントだな(笑
本番は桜の咲く頃に行いますのでお楽しみに。

あくまでも迎撃『準備』だったのですが、ちょっと依頼文章が足りなかったなぁ。反省。そのやる気は後日発揮していただけるようにお願いしますw
piyopiyo.php
ADMIN