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単発シナリオ集
【invS07】呪われてしまいました!
(2011/05/10)
「……」
 ポリゴンロボはニュートラルロードで立ち尽くしていた。
 ここは依頼主。呪われたという男が恐らく呪詛をかけられた場所。現場の確認は捜査の基本。そう思ってはみたものの。
「さて、呪いとは一体如何なる概念なのでしょうかね」
 存在はやや奇跡よりだが、一応サイエンスな世界のスティルは『呪い』という言葉が意味する事を辞書の上では知って居ても、噂や迷信という範疇でしか括っておらず、どう行動すべきかと困っている次第だ。
 一応は聞きこみなどもしたが、大した情報は得られていなかった。
「そもそも呪いというのはレーダーに観測できるのでしょうか」
「おなじの疑問を感じる」
 レーダーに感。上から舞い降りたのは人間の形をしているが何処かメカメカしい少女だ。
「……あなたも呪いを探しているの?」
「はい。しかし呪いとそのかけた相手とはどうやって探せばいいのでしょうね」
「わからない。でも、あるのだからわかるのかもしれない」
「なるほど。確かにある事は事実のようですから。しかしどのように分かるのでしょうか?」
「……もやもやっと」
「もやもや?」
「そう、もやもや」

 ……
  ……

 二体のロボ系男女の不可思議な会話を通り過ぎる人達は聞かなかった事にする。

「そのもやもやはセンサーに映るのでしょうか?」
「映るかもしれない」
「ほう、ではやはり地道にもやもやを探していくしかありませんね」
「……うん」

「ぐぁあああああああっ!?」

 突然の叫び声に二人はのんびりと視線を向ける。その先で小柄な少女が頭を抱えて蹲っていた。
「呪い、でしょうか?」
「かもしれない」
 二人は頷きあってその少女の方へと近づくと
「頭がっ、頭が痛いっス! あと、焼けるように熱いっス!」
 ゴーグルを頭に付けた少女がそんな事を言いながら呻いている。
「……あの」
 スティルが声をかけようとすると
「い、今、すっごくヤバイっス……!」
 少女はこの世の終わりのようなしがれた声で呪詛のような声を漏らす。
 それに対し、スティルはやや間を開けて、れから冷静にこう言った。
「頭部に熱反応。恐らくゴーグルのレンズが光を収束し、頭部を加熱している模様ですが」
「……へっ?」
「それから、ベルトの革が縮んでる。たぶん汗を吸ってから乾いたから」
「……」
 ぎっちりと頭に食い込んだベルトを四苦八苦しつつ外してベンっと地面に叩きつけ、
「な、治ったっス!」
 この世で唯一の幸せを見つけたような叫びを少女は高々と上げた。
「呪いではないみたい」
「そのようですね」
「呪いっスか?」
 ぎゅるんと顔を向けた少女が二人に問いかける。
「お二人も呪いをかけた犯人をお探しっスか?」
「みゆはそう。あなたも?」
「そうっス! このゴーグルは記録した魔力と同質の魔力を可視化できる優れモノっスよ! こいつで同じ魔力を探せるっスよ!」
「……しかし」
 スティルが指さす先。
「ん? ああぁあああ!?」
 目玉が飛び出しているようなデザインだったゴーグルのレンズは見事に砕けていた。
「だ、誰がこんなひどい事をっ! 酷いっス! あたしの傑作を!」
「……みゆはあなたが壊したと記録しているの」
「……」
「……」
「……まぁ、過ぎた事は忘れるっス」
 コホンと咳払いする少女───トーマにスティルと美夕は顔を見合わせ、とりあえず問題は解決したらしいと処理した。
「時にそちらはなにか手がかりを見つけたんスか?」
「いえ、呪いというのはセンサーに映るかどうかを議論していまして」
「調整次第じゃ映るっスよ。このゴーグルもそう言う仕様っス」
「壊れたけどね」
「それはもう過去の事っス」
 明後日の方向を見るトーマ。
 スティルはふとしゃがみこむとそのゴーグルを拾い上げた。
「ふむ」
「どうしたの?」
「この機構を使えば呪いが可視化できるのですね?」
「この人はそう言ってるみたい」
「事実っスよっ!」
 遺憾だとばかりに噛みつくトーマ。
「ならば、この機能をお借りしましょう」
「……ああ。うん。そうだね」
 機械組二人の会話に首を傾げたトーマだが、
「うん。多分何とかなる」
「ですね。なるほど、魔力というのは人間で言う所の赤外線みたいなものなのですね」
「見えた。多分あっち」
 並んで歩き始めた二人に置いて行かれたトーマは
「……って、ちょっと待つっスよ!! それ、あたしの! あたしの機械の機能なんだから……連れて行って欲しいっス!」
 慌てて二人を追いかけたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「なるほどねぇ」
 クネスはメモった事を眺め見ながら呟く。
 依頼人であるライアンにいろいろと話を聞いた彼女はある一つの予想をつけてこの場所にやってきていた。
 クネスが聞いたのは彼の身の回りの事だ。姿を変質させる呪いとなるとヒキガエルにするような本当の意味での『呪詛』も確かに考えられるが……
「流石にそんな呪いを恨まれる覚えのないような人が受けるとも思えないわね。
 それに、あの変化……」
 ライアンはライカンスロープ種。ワードックだった。その彼が変化しようとしているのは何か別の動物。
「それにしても……。他にもこの仕事受けてる子が居るらしいけど……。依頼人に何も聞かずになにしてるのかしらね。一人変なのがいきなり押しかけて来たとは言ってたけど」
 その何者かは『これでバッチリ記録できたっス!』とか言って去って行ったらしい。ナニソレコワイ。
「ここね」
 そんな事を思い出しつつ到着したのはある惣菜屋さんだった。おべんとうも取り扱っており、和食───地球世界の日本食に似た物がディスプレイされている。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
「ねえ。ここのお店に獣人は居るかしら?」
「え?」
 店主だろうか、人間種の女性は訝しげにクネスを見る。
「居るけど……どういう用件かしら?」
「ちょっとお話したい事があるの。今居るかしら?」
「……まだ居ないよ。で、どういう話かい? コトによったら人を呼ぶよ?」
 どうもこの女将さん、クネスがいちゃもんかなにかを付けに来たと誤解したらしく険のこもった視線を向けてくる。
「んー」
 まさかそれに対して「その人が呪いをかけてる疑いがありまして」とは言いづらい。どうしたものかしらと口ごもっていると
「……こんにちは。……あ、いらっしゃいませ」
 どこか気弱そうな少女が入ってきてクネスに頭を下げる。
「ん? ヤッコちゃん。その人知り合いじゃないのかい?」
「え? 知り合い……ですか?」
 ぴょこんと狐耳を揺らしてヤッコと呼ばれた少女はクネスをまじまじと見る。
「……ねぇ。貴女。ライアンってワードック知ってるかしら?」
 大きめの尻尾が目に見えて大きくなり、ぶわっと毛羽立った。
「ライアン? ああ、あの毎日うちに買いに来る子かい? それが……って、ヤッコちゃん?!」
 不意打ちだった。どんっとクネスを押しのけてヤッコは店の外へと飛び出していく。
「ちょっと! ヤッコちゃん!? アンタ! こりゃどういう事だい!!」
「ごめんね。話は後で!!」
 クネスも慌てて体勢を整えて少女の後ろ姿を追う。どうやらビンゴらしい。
「待ちなさい! 別に捕まえに来たわけじゃないわっ!」
 そう声をかけるが流石は獣人種。見た目に寄らないスピードでぐんぐんと距離を離していく。
「もうっ!」
「あれ? クネスさんじゃないっスか。奇遇っスねってどうしたっスか?」
 と、横合いから出てきたトーマとプラス二人が走るクネスを見送る。
「あんたも依頼受けてるんでしょ! あの子が重要参考人!」
「ああ、確かに彼女から同じ魔力をサーチできますね」
 スティルがうんと頷き
「捕まえる」
 美夕が即座に動いた。さしもの獣人も空を一直線に迫ってくる者には勝てない。あっさりと回り込まれて尻もちをついた。
「ご、ごめんなさいっ! 出来心だったんです!」
涙目でそう訴え始めた少女に周りの人々が何事かと視線を向けてくる。なまじ狐の少女が薄倖そうで可憐なので取り囲んだ一行が悪役に見えて仕方ない。
「犯人ですか?」
「じきょうした」
 まぁ、その視線を全く気にして居ないロボ二人はさておき。
「あー、これは正式な依頼に基づく行動っス! 暴力は振るわないっスよ」
 トーマがぶんぶんと手をふって周囲にそんなアピールをすると、まぁ、こんな事は日常茶飯事だと周囲は見守るにとどめた。
「貴女がライアンさんに呪いをかけた、で間違いないわね?」
「うう。ごめんなさいごめんなさい……」
「とって食いやしないから、落ち着いて話をしてくれないかしら。貴女がどういうつもりか大体想像はついてるけどね」
「恨みつらみではないのですか?」
 典型的な呪いの元を口にするスティルにクネスは苦笑一つ。
「正反対よ」
 そう告げたのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ヤッコは人化の術を会得した狐だった。
 というわけで元は狐である。そして狐の術の大敵は犬の咆哮だったりする。
 が、そんなヤッコは恋焦がれてしまったのが毎日お店にお弁当を買いに来るワードックのライアンだった。しかし前述の通り彼の感情的な言葉一つで術が解けてしかねない、さらには狐の天敵である犬族だという負い目にため息を吐く日々を過ごしていた。
 そこに天啓がひらめいた。
 彼を狐にしてしまえば問題は無くなるじゃないか。と。
「犬も狐もイヌ科だと記録されていますが」
「そこは魔術の世界のルールってやつね」
 クネスの言葉に機械組はメモリに刻むように飲みこんだ。
「でもまぁ、同じイヌ科ではある事は間違いないし、ついでに言えばライアンさんは元人間でライカンスロープに感染した人だから……咆哮に禍払いの力は薄いんじゃないかしら」
「問題ない?」
 美夕の半疑問にクネスは「たぶんね」と頷いた。
「でも……こんな事をしたら嫌われますよね」
「それに関しては何とも言えないっスね」
「あら、それだけ強く思われているんなら悪くは思わないんじゃない?」
「そういうものなのですか?」
 この中で唯一男性型のスティルだが、元々は肉体を持たない機械知性体。そう言う事にはまだ疎いらしい。
「そういうものよ。ね、トーマちゃん?」
「……。そ、そういうものっスよ! うん」
「トーマ、冷や汗」
 美夕の指摘に「さ、最近熱いっスからねっ!」とか言っている少女はさておき。
「さくっと謝っちゃえばいいのよ。じゃあ、行きましょうか」
「い、今からですか!? 心の準備が……!」
「女は度胸よ」
 クネスの笑みと手に引かれた少女はおずおずと立ち上がったのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 このあとどうなったのかは
 また別のお話。

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やっほーい、神衣舞です。
なんでこんなに締め切り重ねたねんっ!って呟きながら頑張って書いてげふげふ。

さて、今回はハートウォーミングな話になっちゃいましたとさ。
たまにはこういうお話もいいでしょーって事でひとつ。
では次回のお話にも参加よろしくおねがいしますー。
piyopiyo.php
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