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単発シナリオ集
【invS01】怪盗現る
(2011/01/11)
「とりあえず、よろしくお願いしますね」
 集まった人数は約20名。それから大迷宮都市の自警団の姿もある。
 随分と大所帯だがリリー・フローレンを名乗る見目麗しい少女の邸宅はこの大迷宮都市でも際立って大きかった。限りあるはずの大迷宮1階というフロアに悠々としつらえられた庭に護衛は悠々と散っている。
「家の中の警備は良いのですか?」
 盗まれて困る物に罠でも仕掛けようと思っていたトゥタールだったが、護衛は全員庭での警備を言いつけられたのである。
「流石に良くご存じない方を大勢家に招くわけにもいきませんから」
 言われてみればその通り。護衛が泥棒に心変わりされては目も当てられない。
「しかし、いざ盗まれたら分からないのでは?」
「そうですね。でも……」
 少女は困ったように微笑み、
「盗まれて困る物なんてPBくらいしか無いのです」
 リリーは言って腕をかざす。
「確かにそこそこの価値のある装飾品や家財はありますけど、目を剥くようなものはありません。
 旅商人だった手前価値のある物を大量に持つのは不安なのです」
 そしてPBは盗まれても本人以外使えない。
「……となると、何を盗みに?」
「私にもさっぱりなのです。クロスロードと違って確かに大迷宮都市のセキュリティは低いので盗みに入る余地はあると思うのですが……
 単に家屋の大きさで選ばれたのかもしれませんね」
「確かに大きな家ですね」
「ありがとうございます。でもほとんどは従業員のための部屋ですから」
「従業員ですか?」
「はい。迷い込んだ子供なんかを引き取って商売を教えているんです。希望者には職人に付かせたりもしていますけどね」
 へぇと感嘆を漏らす。
 実際この世界には偶然迷い込んだ女子供も少なからず存在している。中にはまともに足し算すらできず、生きる糧を得られないまま途方に暮れる者も居るらしい。それに対してクロスロードでは同じく住民に引き取り手を探して手伝い兼就労教育としているが、彼女はこの大迷宮都市に措いてそれを個人で行っているらしい。
「立派ですね」
「先行投資でもありますよ。折角店を構えられたんですから、大きく伸ばしたいですからね」
 なるほど、とは思うが少女の顔には打算やずるさは無い。
「というわけで、盗まれて困る事なんてそうないんですよね。流石に商品全て盗まれるなんてことになれば困りますけど……
 ここにあるわけじゃありませんしね」
 こうなると本当にさっぱりだ。
「いたずらじゃないかと思ったのはそういう事です。
 ともあれだからとただ盗まれるのも癪ですし、他の犯罪行動抑制にもなると思いますからしっかりお願いしますね」
「わかりました」
 いろいろと手を尽くすのは好まれないらしいが、その理屈には納得できない事も無い。
「じゃあ、よろしくお願いしますね」
 少女は微笑んでその場を後にした。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 そして予告時間。
 正直護衛の士気はそれほど高くは無かった。というのも管理組合が有する建材の強度やPBと連動した鍵の存在は身をもって実感しており、それに劣るとはいえ護衛付きのこの屋敷に乗り込む馬鹿も居ないだろうとたかを括っているのである。
 が─────
「諸君! 良い夜に……だねっ!」
 周囲に幼い声が響く。
「怪盗R・C只今参上だよっ!」
 木の上に小柄な影があった。ぱっと見て小学生、マントを付けて顔にはマスク。ダイアクトーが見るといろんな意味で憤慨しそうである。
「……予想以上に変なのでてきましたね。しかし……」
 あの特徴的な若草色の髪と、マスクの上から飛び出てる動物系の耳は……
「おい、あれ……」
「あ、ああ。お前もそう思ったか?」
 護衛たちのひそひそ話も彼の予想を後押しする物だった。
「……それで怪盗様。今宵は何を盗みに?」
 グダって来た空気を引き裂くようにやや険しい声音でリリーが問いかける。
「にふ……! 貴女の大切にしている物をちょうだいしに来たに……ダ!」
「ニダって何ですかね」
 明らかに口調修正して変に噛んだなぁとさらにあきれた空気増量。
 リリーも真面目に取り合うのが馬鹿馬鹿しくなったのか、ひとつ小さくため息。
「何を考えてるのかは知りませんが、盗まれて困るような大切な物などありません。
 何が目的なんですか、ケル────」
「『白の本』が狙いに……だよっ」
 リリーの表情がこわばる。
「その変化に近くに居た者は少なからず気付くも、『白の本』とやらが何かもわからずではやりとりを見守るしかない。
「て……貴女、まさか……!」
「で、それはもうこの手にある!」
 高々と掲げた手には確かに一冊の本がある。真っ白な革装丁の本。その表紙がどうであるかはここから詳しく見る事はできなかった。
「では、さらばに……だっ!」
 身軽に屋根から飛び降りた怪盗に我に返った護衛たちが慌てて追いかけようとするが……
「お待ちください」
 その全てをリリーが制止した。
「……あの怪盗を名乗る輩が何を勘違いしたかは存じませんが、あれは別段大切なものでもなんでもありません。
 単なる白紙の本。ノートとも言うべき物です」
 凛とした言葉が響くが、少なくとも近くに居た者はそれを鵜呑みにはできなかった。『何でもない物』にしては彼女の表情の変化は余りにも大きい。
「ともあれ、護衛はこれにて終了です。皆さまお疲れ様でした。
 報償は帰りに門番が支払いますのでお受け取りください」
 リリーは優雅に一礼し、満点の笑顔を見せてその場を辞する。
 怪盗の登場からわけのわからないやりとり。しかも仕事を欠片もしないままの終了宣言。取り残された感じの探索者達は互いに顔を見合わせ、やがて諦めたように帰路に就くのだった。
【invS02】冷たい空気に混ざる熱は
(2011/01)
 慰霊祭────

 いろいろな種族、集団がさまざまな祭りを勝手に、或いは大々的に行っているが、この行事だけは趣が違う。
 クロスロードを興すきっかけでもあり、そして最初の混乱の終焉。
 『大襲撃』と称される最初の怪物の大襲撃。その犠牲者の追悼と、同時にこの地に訪れた来訪者が共に力を合わせて戦った証明として
 この祭りはおごそかに、そして大々的に行われる。

 とは言え。

 1回目の慰霊祭は確かにその通りに行われた。しかし2回目は『再来』と呼ばれる二回目の大襲撃のためにその規模を縮小せざるを得なかった。
 幸いと言うべきか、今回の冬は大した事件も無かったため、去年できなかった分もと、大々的に祭りの準備が始まっていた。

 まぁ、実のところ────この『大々的』には裏があったりするのだが。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「いや、この祭りは『慰霊祭』ってのが前提なんだぞ?」
 広報活動の一環でポスターを手にニュートラルロードを歩いていたクネスはそんなやりとりの声に首を巡らせた。
 ちなみにここに来る前にケイオスタウン側を巡っていたのだが思ったよりも皆この祭りの事を知っていた。というか、字面の上では魔族やアンデッド種に向かないイベントだがこの町の一番重要なお祭りという認識は普遍的らしい。
「分かってるさ。でも、再来の時にクロスロードの被害がゼロだったのはこの街がしっかりとした防衛能力を持ってたからだろ?
 墓を守るのも武力なのさ」
「……建前を言えば良いってもんじゃないだろ」
 物騒な単語がちらほらと出ているが語り合っている二人は探索者のようではない。
「まったく……」
 果物屋の店員が腕組みして嘆息する。
「ねぇ、あれって?」
「ん? ああ。気にしないでいいわよ」
 エルフ種っぽいその女性は眉根を寄せたまま腰に手を当てる。
「慰霊祭で武器の市を開きたい連中が居るの」
「……慰霊祭、で?」
 普通に考えて一番売ってはいけないものではなかろうか。
「ほら、今年の冬は平和だったじゃない? だから武器関係の商品がダブついているらしいのよ」
「……ああ」
 正味、このクロスロードに措いては『冬』は不吉な季節だ。今年も何かあると思ってもおかしくは無い。
「大きな祭りだから大々的に売りさばきたいんだろうけどさ……
 でもほら。流石にそんな事したら商人組合その物がひんしゅくを受けるからね」
「当たり前ね」
 とは言え、在庫を抱え過ぎた商人も必死なのだろう。
「貴方も同じ立場だったらあそこに立ってる?」
 クネスは不意にそんな問いをする。流石に気に障るかなと思っていると女性はほんの少しだけ目を大きく開いて
「当たり前じゃない」
 小さく肩をすくめた。
 それは本気か冗談か。しかし「商人ねぇ」と苦笑いを浮かべるしかなかった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ザザさん、こっちお願いします」
『おぅ』
 柱を抱え上げるその姿はいつもの大男でなく、それよりもなおでかい野獣のフォルム。
『ここで良いのかい?』
「はい、ここで」
 ずんと柱を力任せに付きたてると、他の建築作業者がそれの固定に入る。
「じゃあ次はこの柱を」
『おう』
 応じながらザザは内心の苦笑をかみ砕く。
 ここは『扉の園』内部の本会場予定地だ。大勢のセンタ君や、探索者達が会場設営に協力していた。
 何で探索者が?と思うかもしれないが冬場の行軍というのは単純に考えて危険だ。そのため未探索地域をめぐる探索者の殆どが休業して街に居座っているらしい。もちろんそんなコンディションでも気にせず巡っているのも居るのだが。
 加えて言うのであれば、やはり冬という季節には少なからずトラウマが存在するのかもしれない。
 彼自身がここに居るのはそういう理由ではないのだが────
「いやぁ、ザザさんみたいな人が居て助かりますよ」
 その言葉に目を細める。
 彼はその暴力の行く末に飢えていた。が、まさかそれをこんな土木作業に使う事になろうとは思っていなかった。しかも人間形態でなく野獣形態で、だ。
 普通の人間種が暮らす世界の街ならまずあり得ない。人間からすればどうあっても化け物なのだから当然だ。
 が、ここはクロスロード。
「茨の迷宮のせいで重機が入れませんからね。竜種じゃ大きすぎるし、あいつら大雑把だから」
 ばっさばっさと上空を音と影が通過する。ふと視線をやれば巨竜が足に建材をぶら下げて滑空し、ぽいと会場あたりに投下した。
 ずんと響き渡る音とともに悲鳴やら怒声やらが遠く聞こえる。
「分かってれば使いようもありますが、あんな調子ですからね」
 確か先ほど通った時にはクッションみたいなのが広く敷かれていたはずだ。一応はそこに投擲しているのだろうが……
『奇妙な話だな』
「え?」
『……いや、こっちの話だ』
 カッコ悪いとか、情けないとか、そういう言葉を思い浮かべるべきなのだろうか。或いはそんな目的では無いと。
 が、どれもこれも口にしてみればきっとその言葉こそが情けなくなるトリガーでしかないように思える。
『トレーニングと大して変わる物でもない』
「ああ、そういう目的で参加してる探索者の方。結構多いらしいですよ。小遣い稼ぎも出来て一石二鳥だって」
 そいつらはどう思って力を奮っているのだろうか。
 そんな事を考えながら次の資材を担ぎあげる。
「おや、ザザさん」
 と、足元からの声に視線を向けるとひらひらと手を振る吸血鬼の姿がある。
『ヨン、とか言ったか』
「ええ、凄いですね」
 何がと訝しがって、それから担いだ柱の事かと肩をすくめる。
『どうという事じゃない。お前も参加しているのか?』
「ええ、こういう皆でわいわいとやるのは楽しいですからね」
『……仕事に来たという雰囲気じゃないな』
「あはは。でもお祭りの準備は楽しいって事には代わりありませんよ。
 このお祭りに対しては不謹慎ですかね?」
 どうなのだろうか。
「良いんじゃないですか? この祭りは慰霊の意味もありますけど、多くの種族が力を合わせた証拠の、結束式見たいなものでもありますし」
 ザザに付いていたスタッフの言葉に「そう言ってもらえると助かります」とヨンは笑みをこぼす。
 そう言えばこいつもアンデッド種か。
 世界によるだろうが、人間を糧にする種族なのだから人間種から毛嫌いされていたとしてもおかしくない。それが他の種族と交わりたいと願う理由はどこにあるのか。
「おっと、邪魔してしまいましたか。僕はこれで」
 手に持つ丸めたポスターをひらりと振って軽い足取りで吸血鬼は去っていく。
『……』
 グダグダ考えるよりも体を動かすか。
 疲れた後に酒でも飲めば何か納得する答えでも見つかるかもしれないからな。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「随分と準備が早いですね」
 ここは純白の酒場。街を行き来する人々の中にスタッフの腕章を付けたのがちらほら見える。
「肩すかしの発散かもよ?」
 アルティシニの言葉にフィルが応じる。
「良くも悪くも冒険者の町よね、ホント」
 先ほどやってきた商人組合からの会議の開催通知を思い出しつつ頬杖を付く。
「良いじゃない。うちも景気良くお酒呑んで行ってくれる人が増えると思えば」
 そんな言葉にアルティシニは小さく笑みを返すのだった。
 慰霊祭まであと2週ほど。冷たい風に小さな熱気がいくつも混ざっては溶けて行くのをウェイトレスの少女は幻視した。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 はい、神衣舞です。
 慰霊祭がそろそろありますよー的なetc
 SSシリーズは1本1本短くぽんぽんとやっていきましょーってことで。
 次は何か挟んで慰霊祭本番でも……流石にこのお祭りで騒ぎはきっついしなぁw
【invS03】きゃっとぱにっく?
(2011/02/06)
「これで一網打尽っ!」
 マタタビに群がってゴロゴロしている猫。
 ある程度数が集まった所で檻の入口を落とすが、完全に酔っぱらってる猫は焦ることなくゴロゴロを継続。
「それにしてもどれだけ居るんですかねぇ……?」
 この檻を閉じたのも早4回目。もう20匹近くを捕まえている。
 トーマは大迷宮都市の自警団が猫を回収するのを横に周囲を見渡す。この捕獲作戦には10人くらいとこの大迷宮都市の自警団が参加している。全員分を足すとすでに50匹近く捕まえているのではないだろうか。
「どっから湧いて出たんですかねぇ」
 猫の大量発生。それが大迷宮都市で突如発生した事件だ。とは言え、魔獣や獣人種が平気で闊歩するこの町で大した問題とは思えない。せいぜいゴミ漁りをされて困る程度か、夜に騒音を起こす事がある程度。
 この捕獲作戦の主な理由と言えば先ほどのトーマの言葉通り「どっから湧いて出できたか?」という疑問の解消のためだろう。
「マタタビが効いてるから猫なんでしょーけどね」
 猫が回収された檻にマタタビを仕掛け直しつつ、妖怪とか獣人にもマタタビ効くっすかねぇ? と呟いてみる。
「殺処分なんて事にはならないようにしたいもんですけどね」
 それはちょっと気分が悪い。が────これがもし大迷宮の地下階層から出て来た怪物であれば話は違うと言う事にもなるだろう。
「……ホント、どっから出てきたんすかね」

 結局のところ、その日捕獲できた猫の数は70匹を数える事となったのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「んー」
 そんな捕獲劇の最中、クネスは道を歩く猫の後ろをのんびりと付いて歩いていた。
 どこから湧いて出てきたのか、彼女はそれを優先して猫との御散歩をしているところだった。
 猫はそれを毛嫌いする様子もなくクネスを無視して悠々と歩きまわっている。
「猫と思って追い払ったらケットシーだったって事もあるしね。この世界」
 一応猫の捕獲作戦は通知済みなのでケットシーがふらふら歩いているとも思えないが、普段なら追い払って見たら酷い反撃を受けるなんてこともあるかもしれない。
「PBは付けてないしね。少なくとも来訪者じゃないと思うんだけど。
 誰かがペットとして持ち込んだのかしら?」
 独り言に猫はくるりと首を巡らしてクネスを仰ぎ見るが、特に何も答える事無くまた我が道を行く。
「言葉が分かる……と言う事は無いのかしらね?」
 耳も頭もある以上、言葉ではなく音には反応する。但しそれを理解しているかどうかは別の問題だ。
 ただ、音のつながりに意味を設定する事はこの世界の加護を得ていない動物にも可能だ。呼べば来るというのはそういうこと。
「それに喋れる犬は喋れない犬と会話できるらしいしねぇ……」
 どういう原理かはさっぱりだが、元の世界で動物と会話できるスキルを持っていた者は、こちらでも動物と会話が可能らしい。ただし、『怪物』に対してはコミュニケーションは成功したという話を聞かない。
 そんな事を考えていると、猫がててと加速して壁を登ってしまった。
「あら」
 ちょっとよじ登るのは大変だが、クネスは少し考えて地霊を呼び出すとすっと壁を突き抜ける。大迷宮都市の壁は基本的に大迷宮にあった土だ。土中移動のスキルをこの前の森の騒ぎで用意していたクネスはさっさと突破して猫の姿を追う。
 居た。そう思うと再び猫はひょいと壁をよじ登る。再び追いかけようとして
「……?」
 止まる。というのもその壁が今までの家とは比べ物にならないほど広く広がっており、その向こう側にはやや立派な建物が見えたからだ。
「ここは?」
『リリー・フローレン氏のお宅です』
 最近は大迷宮都市のMAPもPBに搭載されているらしい。
「リリー? 随分と立派な家だけど……」
 独り言と問いを混ぜた言葉には反応がない。そこまで細かい個人情報は流石にクロスロードでも入っていないから当然だろう。
 流石にちょっとしたお屋敷に乗り込むのはセキュリティに引っ掛かる恐れもわきまえるとちょっと悩んでしまう。
 そうこうしているうちに別の猫がひょいと屋敷側から上ってきてこちらを睥睨してきた。
「もしかして、中に結構居る?」
 だが猫は応じない。つまらなそうにかーっと大口開けて欠伸をするだけだ。
「……とりあえず報告だけはしておきましょうかね」
 そう呟いてクネスは元来た道を戻り始めた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「ええ、まぁ。構いませんが」
 ヨンが抱きかかえたすっかりお休み中の猫を胡乱げに見つつ自警団の係員は頷く。
「はい、ありがとうございます」
「まぁ、こちらとしても集めたは良いですがどうしたものかと思っていましたしね。
 里親探しをするべきか。……ただ放置してると食べる人もいますからねぇ」
 狩猟民族の人々も当然来訪者には混ざっている。いつもの癖で狩猟してしまう事はとがめられる事ではない。
「首輪をしている子は襲ってはいけない、って話にでもしないと面倒な事になりそうですよ」
「はは。まぁPBが付いてるかどうかなんてわざわざ見る人なら狩猟なんてしなさそうですけどね」
 全くですねと苦笑いをする自警団員。その視線が向かう先には檻の中で余り境遇を理解していない様子でじゃれたり遊んだり寝たりする猫の群れ。軽く見て50匹は越えている。
「怪物では無いんですよね?」
「ええ。一足先にクロスロードに行って調査してます。というか怪物なら気軽にお譲りなんてできませんよ」
 このターミナルで怪物とは珍しい存在ではないし、強さもピンキリ。手の中に居る猫のように貧弱な存在ももちろん多数存在している。
 しかし、どんなに弱くともクロスロードに安易に怪物を入れる事は許されない。怪物の持つ最大の能力は『扉』を傷つける事が出来るとということにあるからだ。大襲撃の折にはいくつかの扉が『扉の園』にまで踏み込んだ怪物に破壊されている。そのうちの一つが永遠信教世界に繋がる扉と言うのは有名な話。
「ラビリンス商業組合での議題に挙げてから処分を決めると思いますが。
 流石に殺す事はないでしょうね。特におかしな病気を持っていないようですし、あの方たちは商品として見るでしょうから」
「幸せになってくれるなら良い事ですよ。
 ……もっとも、飼う人が良い人ならって事になるんでしょうけどね」
 そればっかりはと自警団員は苦笑い。
 ぱちくりと目を開いた猫がなーと一声挙げる。
「お腹でも空きましたか?」
 ごそりとポケットを漁って煮干しを取り出す。それを前足で挟みこむように捕まえた猫はかじかじとそれをかじりは閉めた。
「こうして見てもただの猫ではありますが……」
 世界が変わればどんな性能を持っているかも知れない。
「発生して数日、ゴミを荒らすとか夜に騒ぐ事くらいしか被害届はありませんしね。
 大した問題は無いと思いますよ」
「だと良いのですけどね」
 一人暮らしも寂しいのでと引き取るわけだが、何かあるのではないかと思う心もある。
「ともあれ、こちらは報酬です。お疲れさまでした」
「ああ、どうも」
 PB越しに報酬を受け取ったヨンはクロスロード行きの武装列車に乗るために駅へと向かうのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
やほほい。神衣舞です。
というわけで猫はほぼ一掃されまし……た?
なにやら某氏の家にはまだ居そうな雰囲気はありそうですが、そこはラビリンス商業組合が会議かなんかでどうするか決める事になるでしょう。
さてはて、とにかく今回のお仕事はこれにて終了です。
お疲れさまでした。

PS.こー、夜中に人間になってヨンさんに迫ってくるとかチラっと考えたけどやらないよ?
 うん、やらないやらない。
【invS04】あんだーざらいぶらりー
(2011/02/18)
「皆さん。一応レジストを掛けますけど、くれぐれも途中の本には触らないようにしてくださいね」
 司書院の長、サンドラの言葉に皆一様にうなずく。
「触ったらどうなるんですか?」
 トーマがひょいと手を挙げて問うと
「死ぬならまだ良い方かと」
 さらりとした返答に一同絶句。
「基本的に本という媒体は読まなければ本質を発動しませんので、触らなければ問題ありません」

 と言う事だったのだが。
 読まなければ問題は無いという制限に対し、読ませるという呪いが掛かっているのも少なくなく。

「う、うわぁあああ!!」
「ががががが」

 途中2名ほど、レジストを突破して誘惑されたりしたりして。
 脱落したのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「というわけで、これから皆さんにはここの掃除をしていただきます」
 まるで無限迷宮にでも迷い込んだような、本棚と本の暗い空間を抜けた先にはまるで病院か研究所かと言わんばかりの空間が広がっていた。リノリウムの床は綺麗に続いていて壁にも床にも大した汚れがあるようには見えない。まるで暗闇から真夏の炎天下に放り出されたような顔をする一行は声を発したサンドラに視線を向ける。
「本の整理じゃなかったの?」
 クネスの問いかけは数名の疑問でもあった。先ほどとは打って変わって全く本棚らしき物は見当たらない。
「ここは確かマッドな連中の溜まり場になっているはずだな」
 事情を知るエディが呟くと
「研究者に貸し出している場所ですね。貴方がたに担当していただくのは部屋の中です。
 ロックは外していますし、先週のうちに掃除を行う事は告知していますので遠慮なく片づけてください。本はあちらのラックに。それ以外のゴミは資材用エレベータに放り込んでください。後で上の係員が分別しますので」
「えっと、ゴミかどうかわからない物がいっぱいありそうなんだけど?」
 トーマの言葉にサンドラは
「整理されてなかったらゴミ扱いして結構です」
 と、ばっさり言いきった。
 その余りの容赦の無さに一同は顔を見合わせ
「あの……サンドラさん、怒ってる?」
 クネスがこそりと呟く声を彼女は表情を消した顔でスルーした。
 皆、状況を認識。
「危険な奴とかはどうするんだ?」
 エディが問うと「危険物がありそうな部屋にはシールを張っていますので十分に注意して対応してください。また掃除の邪魔になる物は排除して構いません。殺さないようにしていただけると幸いです」
 大図書館を利用した事のある人なら知っている事だが、普段のサンドラは利用者に丁寧に案内してくれる優しいお姉さんだ。見た目がラテン系人種ではあるが、落ち着いた人である。
 そんな彼女にこうまで言わせるという事は、よっぽど酷いのだろう。
「ではみなさん、よろしくお願いしますね」
 作ったような笑顔で、司書院長は開始の宣言をした。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「開けなさいよっ!」
「ぬぉおおお! 開けてなるものかぁあああ!!」
 クネスが力いっぱい扉を引こうとするが、研究者が向こう抑えているようで……
開始早々こんなやりとりがそこらで始まっていたりする。
 確かにロックは外れているが、力づくで扉を抑えつけて中に入れさせまいとする研究者の多い事多い事。きちんと部屋を整理している連中はさっさと開放してチェックを受けているのであるが、その数は全部屋数に対して十分の一にも満たない。
 中には
「あのぅ」
「どうしました?」
「部屋の人が埋まってたんですが」
 トーマの入った部屋では開けるなり何とも知れない物がどちゃっと溢れだして途方に暮れ、とにかく物を出していくと半死半生の研究者が発掘された。
「面倒ですので資材エレベータに乗っけてください」
「え? あれ、人が乗って良いの?」
 だったらあんな危険な道を通ってくる意味が無い。
「多少命にかかわりますが、発掘されなければ死んでいたでしょうし、大差ありません」
 厳しいなぁと聞いていた探索者達が背に汗を浮かべる。
 ちなみに事前説明にあった事だが、この第三階層には複数の結界やら防爆やら耐核やらの防護策が仕掛けられている。元より上の危険な本の影響を地下に留めるための物であったが、この三階層で研究する連中に合わせてその防御のレパートリーを追加しているらしい。資材用エレベータはそんな結界をやや強引に突破するようで、生命体は乗らないに越したことが無いらしい。
 しかしまぁ、周囲のどたばたを見れば彼女の表情に出ていない怒りの理由も分かるという物だ。
「もー、いい加減諦めなさいよ!」
「ちと、開けよ」
 ドンドンと扉を叩くクネスの後ろ、やや下からの声。振り返ると空いたスペースに処刑鎌のフォルムを持つ杖がぬっと差し込まれ、戸にコツンと当たる。
「そ、その声!? お嬢っ、まっ」
 中からの慌てた声。しかしそれを聞き届ける前に甘ロリ姿の10歳程度の少女はぽつりと一言を零す。

 どがんっ

 扉が僅かに震え、更にその向こう側で何かが吹き飛び、転がって、何かにぶつかり、更に崩落したような音が響いた。
「ほれ、空いたぞぃ」
 何事も無かったかのような平坦な声。老人の口調だが、その声音は見た目相応の少女の物だ。
「開いたって……わぁ……」
 クネスが中を覗きこむと、全身擬体の男がガラクタに埋もれて目を回している。
「衝撃を壁越しに叩き込んだだけじゃ。どうせあれは脳以外はカラクリじゃて、死にはせん」
 そう言って他の扉の前へ行き、同じ仕打ちを容赦なく再演する。
「くくく、こうなれば私の作ったこの────」
「やかましい」
 ガウンガウンと2発の銃声が響き渡る。それから胸に2発のゴム弾を食らった研究者が部屋の外に投げ出された。エディの仕業らしい。
「あれくらいで丁度良いってことなのかしら?」
 呟いてみるが
「いやぁ、納得したらいけないと思うんですけどねぇ」
 近くを通ったトーマが冷や汗混じりに突っ込みを入れて行く。
「掃除の意味が違ってきそうっす」
「ホントにね」
 制圧戦と書いて掃除と読む戦いはこうして淡々と繰り広げられていった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「皆さん、お疲れさまでした」
 そうして4時間後。
「うぉー、離せ!」
「私の研究資料があああ!」
 最後まで抵抗した連中が縄やらバインド系の魔術やらで縛られて転がされている。ちょっと怪我が派手だった数名はすでに運び出されているようだ。
「ニギヤマさん所は綺麗だったのね」
 それを遠巻きに見ている「片づけていた連中」の中に『森』事件の首謀者だったニギヤマをクネスは見つけていた。
「うむ。コアにやってもらってるからな」
「コアって……あの?」
「オリジナルはもちろん森に居るがね。高位のコピーに常識を学ばせて後で情報共有させるんだよ」
「ヨンダ?」
「パパ、ヨンダ?」
 ひょこんとニギヤマの頭と肩に幼稚園児サイズのコアが現れる。
「管理が上手くいくようなら衛星都市にも森を作る計画を持ちかけられているからねぇ」
「管理って……まだ反発してる子が居るんでしょ?」
 『森』は一応はオリジナル・コアが多くの部分を制圧しているものの、未だに狂ったコピーが至る所に点在している。最近は探索者達が乗り込んでイレギュラーコアと呼ばれるオリジナルに反発するコアの退治を行っているが、その終着点はまだ見えない。
「うむ。もう少し知能を挙げて効率的な制圧作戦を行えるようになれば進展するだろうが……それを教え込む事でいらん反逆をしないかという心配もあってねぇ。なかなか難しいよ」
「……笑えねえな。それ」
 隣で聞いていたエディが半眼でツッコむ。
「でも、その子達が掃除できるくらいだったら他の研究者とかに貸したら良いんじゃないっすかね?」
 トーマがコピーのほっぺたをつつきながらそんな事を言うと「それは駄目だ!」とニギヤマはきっぱりと拒否する。
「あいつらはまず研究だからな。何をするか分かったもんじゃない」

「「「「お前が言うな」」」」

 縛られた連中も含めてのそう突っ込みをニギヤマは笑ってごまかしたのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 余談ではあるが。
 この日廃棄されたゴミが何故か合体変身して巨大怪獣になったり、それの迎撃で大騒ぎになったりしたというのは、数時間後に地上戻るであろう彼らには知る由も無い話。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
というわけでお掃除おーわりっと。
 やふい。神衣舞です。一回書き終わってセーブしようとしたらフリーズしたりとかしてうがーーーーーーーとかなってる神衣舞です。
 うがーーーーーーーーーーーーー。
 さて、Sシリーズにはちょっとした目的があるのですが、それが実を結ぶのはちっと先なので今は気にせず楽しんでもらえると幸いかと。

 さて、次は何をしようかなー。
【invS06】桜前線予報
(2011/03/29)

 ────お花見。

 そのままの意味で取れば季節の花を愛でるイベントか、あるいはそれを口実にした宴会を指す。
 が、このクロスロードで言うお花見、そして桜前線は花にまつわるには違いないが、その意味を大きく違えていた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「というわけで、トレント種サクラ科の怪物が年に一回4の月頃にクロスロードへ襲来します。それが壁のように押し寄せてそのまま通り過ぎる事から、気象用語を用いて『桜前線』、これの迎撃作戦を『お花見』と呼称しています」
 今回の作業に参加したうち、これらの言葉の意味を知らない新参者に対しての説明会。中空に表示された映像には花びらをまき散らしながら猛然と迫る『サクラ』の姿が映されている。
「『大襲撃』や『再来』と比較すれば圧倒的に少数ですが、去年の記録では一万足らずを観測しています。ただこの『サクラ』は積極的に攻撃してくることはありません」
 説明員の言葉に「なーんだ」という顔をする探索者も少なくない。
「ただ『怪物』であることは変わりないので『扉の園』へ侵入させるわけにはいきません。
 なのでクロスロードへの接近を妨害する必要があります」
「やりたい放題というわけか?」
「攻撃に対して反撃もほぼ無いのでそう称して構いませんが、厄介なのは『サクラ』の花弁に含まれる成分です。これから発せられる物質、或いは呪力に触れるとある程度個人差はありますが種族を問わず酔います」
「種族を問わずって言ってもロボットや魔法生物は大丈夫なんだろ?」
 探索者の問いかけにスタッフはふるふると首を横に振る。
「いえ、酔います。正確には朦朧、足元が覚束なくなり、思考能力の低下が発現します。また支離滅裂な行為に及ぶ事も多く、酒酔い状態に似ていることから『酔う』と表現しています。ゴーレムでもロボットでもスライムでも酔います」
 ざわりと呆れ声が膨らむ。
「というわけで、基本的な迎撃は遠距離砲撃。呼吸しない来訪者も酔うのに何故かガスマスク等は有効ですので近接職の方は砲撃を抜けてきた対象への迎撃を担当してもらう事になるわけです。
と言っても今回はその準備としてなるべくクロスロードに寄らないようにするための溝を掘ったり、柵を作ったりする作業が主となります」
「桜前線がもう来ているというわけではないのか?」
 ポリゴンで構成したようなロボットが抑揚のない声音で問う。
「まだ観測されていませんが、まだ寒いですから4月の中旬頃になるかもしれません。
 今回は事前準備です」
「えー! 折角自作兵器を試せるって思ったのにっ!」
 その隣で話を聞いていた少女が思いっきり残念そうな声を挙げた。
「えーっと、アイディアとかそういう物は別途受付いたします」
 やたっ!と声を弾ませるのを確認して説明員は視線を周囲へ向けた。
「他に何か質問は?」
 基本的な性質はPBを介して全員にすでに伝えられている。
 一言で言えば『動く木』。体である幹の強度も木材程度で、その耐久性も木と同じで銃弾を数発受けた所で倒れる事はまず無い。
 火は有効だが松明状態になった木が迫った場合非常に危険なので積極的には使わないということ。また花びらが燃えるとその成分(?)が拡散することも確認されている。なんでも昨年は『サクラ』に登って火を付けたツワモノがいるとか。
「無いなら作業に取り掛かっていただきます。随所に管理組合員が居ますので指示に従ってください。報酬は作業量に応じて増減します。ではよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げた管理組合員を見て探索者達は自分に向いた作業を探して散って行った。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「大量ですね」
 スティルの言葉にトーマはえへんと胸を張る。
「自信作っスよ!」
 二人が何をしているかというと、なにやらいろいろ持ちこんだトーマの発明品をえっちらと運搬中。使うにせよいきなり実戦に持ち込むわけにも行かないので事前評価をする事になったのである。たまたま近くに居たスティルはそのお手伝いをお願いされたという経緯だ。
「それで、どれから持って行くのですか?」
「じゃあまずはこの試作型タイタンストンパーっスね」
「試作機なのですか?」
「いやいや、試作機と言ってもですね、性能は十分っスよ!」
 言いながらボタンを押す。その瞬間────

 タイタンストンパーが空を飛んだ。

 そして放物線を描いて
「うぉっ!」
「上だっ!」
「ぎゃぁああ!?」
 ずどんと作業者の集まっている地点に落下した。
「……」
「コストの割には威力が伴わない兵器ですね。火薬等を積んだほうが良いかと」
「え、あ、い、いや今のはノーカンっすス!」
 ちなみにストンプとは踏みつけの意味。簡単に言えば地震発生機だったのだが十分に固定しないまま起動したので地面に加えるはずの力で本体の方が飛んで行っただけだったりする。
「じゃ、じゃあこれっす! トリモチ地雷!
 こいつを踏んだら最後、動けなくなるっスよ!」
「いくつ用意できるのでしょうか?」
「え?」
 冷静な突っ込みに間抜けな声が挙がる。
「推定襲撃数1万程度。クロスロードの直径が30km程度で有効範囲が2mとしますと、1列目の捕獲のためだけに7000個ほど設置する必要があるかと」
「……え、いや、そのっスね」
「あとどの程度の粘着性かにもよりますが地面が乾燥気味の土ですのですぐに粘着能力を失うと推測します」
「……、つ、次っス」
 と、言いつつ次にだそうとした落とし穴とかしびれ罠も数の問題がありそうなのでスルー。
「こ、これならどうっスか! 失神するほどの臭いをまき散らすグレネード! これなら広範囲に……」
 言いながら気づいたらしい。スティルは無表情のまま、しかし残念そうに首を横に振った。
「トレント種に嗅覚は無いとのことです」
「デスヨネー」
 ちなみにサウラは壁を垂直に登る能力があるため、落とし穴は意味が無く、木材なので多少のびりびりでしびれたりしない。それこそ電撃レベルでないと効果は薄い。
「ええい、ならばこのガオリンガル! なんと怪物の感情を文字にできるっスよ!」
「……」
「……」
「コメント、必要でしょうか?」
「ごめんなさい、勘弁してほしいっス」
 ぶっちゃけ「だからなんだ」である。ちなみに本当に怪物と意思疎通ができる機械であれば誰もが賞賛する技術ではあるのだが、今のところあらゆるアプローチは失敗に終わっていた。試してみる価値がないとは言わないが見込みは無いに等しいだろう。
「どれを運びましょうか?」
「あっちの防衛兵装整備に行かないっスか?」
 じ、実戦までにはぁ! と内心でメラメラと炎をこっそり燃やしつつも、今はがっくりなトーマにスティルはやはり機械的に頷きを返すのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 というわけで2日ほどの作業は順調に進み、南砦を軸にした誘導ラインと、それが突破された時のための防衛ラインの構築は無事完了した。
 あくまで桜前線用の布陣なのでこれが終われば破棄されるものだ。トーマではないがいろいろな新兵器のテストなども並行して行われている。
 中でも一番目立つのは武装列車だ。その前後に位置する車両には衝角が取り付けられており線路上のサクラを打ち砕きながら弾幕を張り巡らす。
 物々しさの中にも妙なこだわりを見せるアーマード武装列車を横目に来訪者達は街へと戻っていくのだった。

 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
にゃふ。神衣舞です。
今回はコントだな(笑
本番は桜の咲く頃に行いますのでお楽しみに。

あくまでも迎撃『準備』だったのですが、ちょっと依頼文章が足りなかったなぁ。反省。そのやる気は後日発揮していただけるようにお願いしますw
【invS07】呪われてしまいました!
(2011/05/10)
「……」
 ポリゴンロボはニュートラルロードで立ち尽くしていた。
 ここは依頼主。呪われたという男が恐らく呪詛をかけられた場所。現場の確認は捜査の基本。そう思ってはみたものの。
「さて、呪いとは一体如何なる概念なのでしょうかね」
 存在はやや奇跡よりだが、一応サイエンスな世界のスティルは『呪い』という言葉が意味する事を辞書の上では知って居ても、噂や迷信という範疇でしか括っておらず、どう行動すべきかと困っている次第だ。
 一応は聞きこみなどもしたが、大した情報は得られていなかった。
「そもそも呪いというのはレーダーに観測できるのでしょうか」
「おなじの疑問を感じる」
 レーダーに感。上から舞い降りたのは人間の形をしているが何処かメカメカしい少女だ。
「……あなたも呪いを探しているの?」
「はい。しかし呪いとそのかけた相手とはどうやって探せばいいのでしょうね」
「わからない。でも、あるのだからわかるのかもしれない」
「なるほど。確かにある事は事実のようですから。しかしどのように分かるのでしょうか?」
「……もやもやっと」
「もやもや?」
「そう、もやもや」

 ……
  ……

 二体のロボ系男女の不可思議な会話を通り過ぎる人達は聞かなかった事にする。

「そのもやもやはセンサーに映るのでしょうか?」
「映るかもしれない」
「ほう、ではやはり地道にもやもやを探していくしかありませんね」
「……うん」

「ぐぁあああああああっ!?」

 突然の叫び声に二人はのんびりと視線を向ける。その先で小柄な少女が頭を抱えて蹲っていた。
「呪い、でしょうか?」
「かもしれない」
 二人は頷きあってその少女の方へと近づくと
「頭がっ、頭が痛いっス! あと、焼けるように熱いっス!」
 ゴーグルを頭に付けた少女がそんな事を言いながら呻いている。
「……あの」
 スティルが声をかけようとすると
「い、今、すっごくヤバイっス……!」
 少女はこの世の終わりのようなしがれた声で呪詛のような声を漏らす。
 それに対し、スティルはやや間を開けて、れから冷静にこう言った。
「頭部に熱反応。恐らくゴーグルのレンズが光を収束し、頭部を加熱している模様ですが」
「……へっ?」
「それから、ベルトの革が縮んでる。たぶん汗を吸ってから乾いたから」
「……」
 ぎっちりと頭に食い込んだベルトを四苦八苦しつつ外してベンっと地面に叩きつけ、
「な、治ったっス!」
 この世で唯一の幸せを見つけたような叫びを少女は高々と上げた。
「呪いではないみたい」
「そのようですね」
「呪いっスか?」
 ぎゅるんと顔を向けた少女が二人に問いかける。
「お二人も呪いをかけた犯人をお探しっスか?」
「みゆはそう。あなたも?」
「そうっス! このゴーグルは記録した魔力と同質の魔力を可視化できる優れモノっスよ! こいつで同じ魔力を探せるっスよ!」
「……しかし」
 スティルが指さす先。
「ん? ああぁあああ!?」
 目玉が飛び出しているようなデザインだったゴーグルのレンズは見事に砕けていた。
「だ、誰がこんなひどい事をっ! 酷いっス! あたしの傑作を!」
「……みゆはあなたが壊したと記録しているの」
「……」
「……」
「……まぁ、過ぎた事は忘れるっス」
 コホンと咳払いする少女───トーマにスティルと美夕は顔を見合わせ、とりあえず問題は解決したらしいと処理した。
「時にそちらはなにか手がかりを見つけたんスか?」
「いえ、呪いというのはセンサーに映るかどうかを議論していまして」
「調整次第じゃ映るっスよ。このゴーグルもそう言う仕様っス」
「壊れたけどね」
「それはもう過去の事っス」
 明後日の方向を見るトーマ。
 スティルはふとしゃがみこむとそのゴーグルを拾い上げた。
「ふむ」
「どうしたの?」
「この機構を使えば呪いが可視化できるのですね?」
「この人はそう言ってるみたい」
「事実っスよっ!」
 遺憾だとばかりに噛みつくトーマ。
「ならば、この機能をお借りしましょう」
「……ああ。うん。そうだね」
 機械組二人の会話に首を傾げたトーマだが、
「うん。多分何とかなる」
「ですね。なるほど、魔力というのは人間で言う所の赤外線みたいなものなのですね」
「見えた。多分あっち」
 並んで歩き始めた二人に置いて行かれたトーマは
「……って、ちょっと待つっスよ!! それ、あたしの! あたしの機械の機能なんだから……連れて行って欲しいっス!」
 慌てて二人を追いかけたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「なるほどねぇ」
 クネスはメモった事を眺め見ながら呟く。
 依頼人であるライアンにいろいろと話を聞いた彼女はある一つの予想をつけてこの場所にやってきていた。
 クネスが聞いたのは彼の身の回りの事だ。姿を変質させる呪いとなるとヒキガエルにするような本当の意味での『呪詛』も確かに考えられるが……
「流石にそんな呪いを恨まれる覚えのないような人が受けるとも思えないわね。
 それに、あの変化……」
 ライアンはライカンスロープ種。ワードックだった。その彼が変化しようとしているのは何か別の動物。
「それにしても……。他にもこの仕事受けてる子が居るらしいけど……。依頼人に何も聞かずになにしてるのかしらね。一人変なのがいきなり押しかけて来たとは言ってたけど」
 その何者かは『これでバッチリ記録できたっス!』とか言って去って行ったらしい。ナニソレコワイ。
「ここね」
 そんな事を思い出しつつ到着したのはある惣菜屋さんだった。おべんとうも取り扱っており、和食───地球世界の日本食に似た物がディスプレイされている。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
「ねえ。ここのお店に獣人は居るかしら?」
「え?」
 店主だろうか、人間種の女性は訝しげにクネスを見る。
「居るけど……どういう用件かしら?」
「ちょっとお話したい事があるの。今居るかしら?」
「……まだ居ないよ。で、どういう話かい? コトによったら人を呼ぶよ?」
 どうもこの女将さん、クネスがいちゃもんかなにかを付けに来たと誤解したらしく険のこもった視線を向けてくる。
「んー」
 まさかそれに対して「その人が呪いをかけてる疑いがありまして」とは言いづらい。どうしたものかしらと口ごもっていると
「……こんにちは。……あ、いらっしゃいませ」
 どこか気弱そうな少女が入ってきてクネスに頭を下げる。
「ん? ヤッコちゃん。その人知り合いじゃないのかい?」
「え? 知り合い……ですか?」
 ぴょこんと狐耳を揺らしてヤッコと呼ばれた少女はクネスをまじまじと見る。
「……ねぇ。貴女。ライアンってワードック知ってるかしら?」
 大きめの尻尾が目に見えて大きくなり、ぶわっと毛羽立った。
「ライアン? ああ、あの毎日うちに買いに来る子かい? それが……って、ヤッコちゃん?!」
 不意打ちだった。どんっとクネスを押しのけてヤッコは店の外へと飛び出していく。
「ちょっと! ヤッコちゃん!? アンタ! こりゃどういう事だい!!」
「ごめんね。話は後で!!」
 クネスも慌てて体勢を整えて少女の後ろ姿を追う。どうやらビンゴらしい。
「待ちなさい! 別に捕まえに来たわけじゃないわっ!」
 そう声をかけるが流石は獣人種。見た目に寄らないスピードでぐんぐんと距離を離していく。
「もうっ!」
「あれ? クネスさんじゃないっスか。奇遇っスねってどうしたっスか?」
 と、横合いから出てきたトーマとプラス二人が走るクネスを見送る。
「あんたも依頼受けてるんでしょ! あの子が重要参考人!」
「ああ、確かに彼女から同じ魔力をサーチできますね」
 スティルがうんと頷き
「捕まえる」
 美夕が即座に動いた。さしもの獣人も空を一直線に迫ってくる者には勝てない。あっさりと回り込まれて尻もちをついた。
「ご、ごめんなさいっ! 出来心だったんです!」
涙目でそう訴え始めた少女に周りの人々が何事かと視線を向けてくる。なまじ狐の少女が薄倖そうで可憐なので取り囲んだ一行が悪役に見えて仕方ない。
「犯人ですか?」
「じきょうした」
 まぁ、その視線を全く気にして居ないロボ二人はさておき。
「あー、これは正式な依頼に基づく行動っス! 暴力は振るわないっスよ」
 トーマがぶんぶんと手をふって周囲にそんなアピールをすると、まぁ、こんな事は日常茶飯事だと周囲は見守るにとどめた。
「貴女がライアンさんに呪いをかけた、で間違いないわね?」
「うう。ごめんなさいごめんなさい……」
「とって食いやしないから、落ち着いて話をしてくれないかしら。貴女がどういうつもりか大体想像はついてるけどね」
「恨みつらみではないのですか?」
 典型的な呪いの元を口にするスティルにクネスは苦笑一つ。
「正反対よ」
 そう告げたのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ヤッコは人化の術を会得した狐だった。
 というわけで元は狐である。そして狐の術の大敵は犬の咆哮だったりする。
 が、そんなヤッコは恋焦がれてしまったのが毎日お店にお弁当を買いに来るワードックのライアンだった。しかし前述の通り彼の感情的な言葉一つで術が解けてしかねない、さらには狐の天敵である犬族だという負い目にため息を吐く日々を過ごしていた。
 そこに天啓がひらめいた。
 彼を狐にしてしまえば問題は無くなるじゃないか。と。
「犬も狐もイヌ科だと記録されていますが」
「そこは魔術の世界のルールってやつね」
 クネスの言葉に機械組はメモリに刻むように飲みこんだ。
「でもまぁ、同じイヌ科ではある事は間違いないし、ついでに言えばライアンさんは元人間でライカンスロープに感染した人だから……咆哮に禍払いの力は薄いんじゃないかしら」
「問題ない?」
 美夕の半疑問にクネスは「たぶんね」と頷いた。
「でも……こんな事をしたら嫌われますよね」
「それに関しては何とも言えないっスね」
「あら、それだけ強く思われているんなら悪くは思わないんじゃない?」
「そういうものなのですか?」
 この中で唯一男性型のスティルだが、元々は肉体を持たない機械知性体。そう言う事にはまだ疎いらしい。
「そういうものよ。ね、トーマちゃん?」
「……。そ、そういうものっスよ! うん」
「トーマ、冷や汗」
 美夕の指摘に「さ、最近熱いっスからねっ!」とか言っている少女はさておき。
「さくっと謝っちゃえばいいのよ。じゃあ、行きましょうか」
「い、今からですか!? 心の準備が……!」
「女は度胸よ」
 クネスの笑みと手に引かれた少女はおずおずと立ち上がったのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 このあとどうなったのかは
 また別のお話。

 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
やっほーい、神衣舞です。
なんでこんなに締め切り重ねたねんっ!って呟きながら頑張って書いてげふげふ。

さて、今回はハートウォーミングな話になっちゃいましたとさ。
たまにはこういうお話もいいでしょーって事でひとつ。
では次回のお話にも参加よろしくおねがいしますー。
【invS08】巨大ナニカ移送作戦
(2011/05/31)

『もぞもぞするっ!』
 巨大ナニカの表面に描かれた文字に全員がげんなりする。
 クロスロードから北に約70km
 なに一つ無い荒野のどまんなかにぽつんとできた穴があった。
 そこに沈むのは巨大な『ナニカ』。先日まで『怪物』化していた自律防衛兵器である。
この兵器、量産能力は素晴らしいのだが、いかんせんAIと言うか性格がウザい。要らない事をべらべらと喋りまくるが、研究者たちは解析のためにそれを調べなければならないので、どうみてもからかい半分の言葉に自然とストレスが上昇していっているという具合だ。
「おそらはだめ?」
「こちらの有視界内であれば安全ですが」
「うん。そのつもり」
「では、よろしくお願いします」
「うん」
 ふわりと宙に舞う美夕。ある程度の高さまで行くと四方が遠くまで見える。
 ……まぁ、特に何も無いのだが。
「……どこまでもおんなじ」
 この世界は地球と同サイズの惑星である事が推測されている。多少空を飛んだところで見える範囲はそう変わらない。
「んー」
 きょろりと周囲を見渡してみる。広がるは荒野のみ。
「んーーー」
 ずーっと先まで目を凝らしてみるが、特に動くものも見当たらない。
「……へいわかも」
「気を抜かない方が良い」
 下方からの声に視線を向ければ
「ひぃっ!?」
 巨大な獣がぬっと横に並んできた。
「かいぶつ?」
『……一般的にはな。連中とは違うぞ』
 やや憮然とした声が返ってきて、美夕はほんの少し考え
「……そうみたいだね」
 ザザの言葉にあっさりと頷きを返す。
『……まぁ、いい。あれにちょっかい掛けるやつがいる可能性が高い。監視は怠らない方が良い』
「……やつ?」
 そこに怪物以外の何者かの存在を感じ取り、小首をひねる。
『ああ、この前の一件に怪物じゃないやつらが関わってた。
 ……正確にはどうかはわからんがな』
「そいつらがくる?」
『かもしれん』
 本当にそうかと言えば難しい所だ。
「どんなひとたち?」
『……一人らしいな。猫の獣人だとか……』
「んー?」
 美夕はその言葉にやや考えて
「じゃあこない気がするよ」
 と呟く。
『来ない……? 何故だ?』
「ねこさんなんでしょ?」
『……気まぐれとでも言いたいのか?』
「んー、というよりも、あきたらもうどっかに行っちゃうんじゃないかな」
 適当にも思える言葉だが、返す言葉も見つからずにむぅと眉根を寄せる。
『だが、警戒するに越した事は無い』
「そうだね。じゃあけいかいしてくるよ」
 言うなりその姿を戦闘機に似せたものへと返ると、彼女はぎゅんと加速して周囲を旋回し始める。
『……』
 ザザはその姿をしばらく眺め、ひとつと息を吐く。
 その先に輸送本隊が迫ってきていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ふむ」
 驚異度は「低」。その判断を下しながらスティルは拳を振う。
 巨大ナニカを運ぶための大荷物のために、近くの怪物たちがどうも寄ってくるらしい。
 今のところ致命的な怪物は出ては居ない。オークをブン殴りながら順調だと判断する。
 護衛部隊の参加者は思ったより少なかった。流石に相手がついこの前、クロスロードに恐怖をもたらした原因とあっては気が引けるのも無理は無いが。
「しかし、割り当てが多いと大変です」
 どうやらMOBの集団と当たったらしい。次々と襲い来るオークを蹴散らしながらポリゴンロボは周囲を見渡した。
 とはいえ、流石にオークごときで参るメンバーでは無いらしく、もうしばらくすればカタは付きそうだ。
 位置データを参照する。
 この戦いが終わったら辿り着くまでにそう距離はないようだ。
「予定外のトラブルが無くて何よりです」
 場合によってはと思っていたが今回についてはそんなことはなかったらしい。
「さて、もう一仕事ですね」
 オークたちの数もかなりまばらになってきた。
 スティルは手近な一匹をブン殴って前方を眺め見た。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「なんなのこれ。生物なのかしら?」
 機材の設置を手伝っていたKe=iは表面にナニカで描かれる文字にうんざりしながら表面をつついてみる。なんというか、ゴムボールのようだなぁと思う手触りだ。これが災いしてロープをうまく負けていないというのが現状だったりする。
「切ってみても良い?」
「意外と弾力があって切れないんですよ、これ。あと、斬ろうとするとそこにナニカを発生させる性質があるようで……研究者の一人が爆発しました」
「……それは厄介ね」
 自動防御と言う事だろうか意外としっかりしている
「これをクロスロードの所まで運ぶのよね?
 ……大丈夫?」
「会話はできているので何とかなるでしょう。あとは帰りに問題が無ければ、ですが」
「フラグ?」
「最近はフラグを立てまくると回避できるらしいですよ?」
「そう言う物なのかしら?」
 Ke=iは真っ白の壁を見上げて嘆息。
 本格的に参戦はしなかったがあの爆発する白の大軍は背筋が寒い思いをした。ちゃんとクロスロードの防衛をやってくれるのなら確かにありがたい戦力だろう。
「とはいえ、これが必要無い状況が一番なんだけどね」
「まったくです」
 振り返れば南側が騒がしい。
 どうやら輸送部隊と護衛部隊が到着したようだ。
「さて、ざっと3時間の帰路ね。何も無い事を祈りましょうか」
 Ke=iの言葉に隣に居た技術者は「それもフラグですよ?」と苦笑を零した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 新暦3年6の月

 クロスロード北砦の傍にでかい饅頭がひとつ鎮座する事になる。
 これがどういう結果をもたらすか。
 今のところ、誰にもわからない。

 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 やふーい神衣舞だお。
 今回は特に何事もなく移動完了ということになります。
 ある意味歴史が動いた瞬間ではありますが……

 これでクロスロードは南側に『森』、北側には『(=ω=)』を有する事になります。
 面白い事にどちらもまだ完全な制御ができていない状態なのが……ね?(うひ
 ともあれ今後の展開にご期待くださいということで、ひとつw
【invS09】大迷宮の仕掛け
(2011/06/27)

「面白い要求をするね」
 今回の依頼人であるヨルムはヨンの要求ににやりと笑みを返す。
「私たちの独力ではまだ3階層も突破できていませんからね。
 お金よりも情報が欲しいです」
「はっはっは。必要経費を考えれば有力な情報の方がよっぽど有益だろうからな。
 宜しい、その要求受けようじゃないか」
 ヨンの要求とは地下三階層の地図だ。無論完全ではないだろうが、すでに地下四階層を突破しようというパーティの物とあってかなりしっかりと書きこまれている。
「ありがとうございます。それからついでと言っては何ですが……」
 そう言って取り出したのはかつてこの大迷宮で見つけた金属プレートだ。
「……これは?」
「地下一階層の制圧作戦の時に見つけた物です。
 これについてなにか知りませんか?」
「ふむ?」
 ヨルムは金属板をしげしげと見て、それから記憶をまさぐるように視線を天井へ。
「ひとつ、ある」
 やがて出てきた言葉にヨンは目を見開いた。
「さて、その前にだ。
 20万C出そうじゃないか。これを私に売らないかな?」
 鋭い眼光。しかしヨンはすぐさま微苦笑と共にかぶりを振った。
「申し訳ありません。これは私一人の物ではありませんから」
「それは断るための方便かな?」
「それも含まれますが、先を往く貴方たちに対するせめてものアドバンテージですから」
「なるほどな。すでに難攻不落と名高く、挑む者も減りつつあるというのに君たちはこの奥に挑戦し続けたいわけだな」
「貴方達と同じ程度には」
 しばしの沈黙。
 やがてヨルムは大笑いして、「よろしい! 共に目指す物が同じ身だ。今回は俺たちが君たちに協力したが、反対があって悪いわけじゃないしな」と膝を打った。
「地下2階層に隠し部屋を一つ見つけた。そこに固定された宝箱があってな。
 鍵穴は無いがスリットが付いていた。おそらくこれはそこの鍵じゃないかと踏んだわけだ」
「……地下2階層、ですか」
「西ブロックとまでは教えてやろう。なに、一度暴かれた隠し部屋さ。熱意があれば見つける事ができるだろうよ」
「ありがとうございます」
「なんのなんの。それよりも今はこの作戦に全力を注いでくれよ!」
「はい」
 そして、ヨルムを含む攻略パーティからの説明が始まった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 今回集まったのは50人程度。
 多いのか少ないのかはイマイチ判断しづらい所だが、第4階層に踏み込めている探索者が数パーティだと考えれば相当な物と思うべきか。
「4箇所には赤いランプが3つある。4箇所に人が立つと自分の箇所を除く3つがそれぞれ点灯し、全て点灯した時点でボタンが初めて押せる。そういう仕掛けだと推測している」
 推測なのは仕方あるまいが、1つでも点灯を確認したというのは十分に驚きだ。
「無論、スイッチを押した後に何があるかは分からないし、保障も出来ない。
 同時に依頼はそこまでだ。抜け駆けでもなんでも自由にしてもらってかまわない」
 なんとも太っ腹な発言に周囲はざわめくが
「もっとも、我々を差し置いて先へ進む自信のある者がどれだけ居るか、だがね」
 全く以てその通りであると苦笑いが広がった。
「では各班に分かれ移動を開始してくれ。
 くれぐれも罠で全滅なんてことにならないでくれよ!」
 その声に各々目的地を目指して行動を開始する。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「よろしい、ならば戦闘です!」
 一瞬の迷いも無く踏み出したポリゴンロボがゴーレムのボディをしたたかに蹴りつける。
「おい、あんた! 突出するな!!」
「目の前を塞ぐ敵が居れば戦うのみですよ」
「駄目だこいつ、早く何とかしないと!」
 がんがんと岩肌を殴りまくるスティルに呆れていた面々は各々動き始める。幸いと言うべきかゴーレムのターゲットはスティルに限定されているようで、援護攻撃は面白いように当たっていく。
 十数分の戦闘後、ゴーレムは体全体にひびを走らせ、轟沈した。
「良い敵でした」
「いや、ちったぁ反省しろよ」
「いやはや、気持が抑えられず。申し訳ない」
「この人数だから何とかなっているがな」
「そう言えば何故最初から大人数で攻略しようとしなかったのでしょうね?」
 今実演した通り、人数を限らなければ地下3階層くらいならなんとでもなりそうな気もする。
「なんでぃ、知らないのか?」
 ホビットが肩をすくめた。
「第一階層や第二階層で4人以上じゃ通れない通路がたくさんあったんだよ。
 それ以降3人がこのダンジョンの攻略条件じゃないかって事になって今に至るわけだ」
「なるほど。この階層で再び常識が変わってしまったという事でしょうか?」
「何とも言えねえな。或いは次の階層でまた同じルールに縛られるかもしれねえ。
 そうなったら余ったヤツは酷い目にあうだろうな」
「随分と意地の悪い場所と言うわけですね」
「でなけりゃ、あらゆる技術を動員できる俺たちが足踏みするわきゃねーだろ」
「なるほど、一理ありますね」
 そうこう言っているうちに地図の上では目的地は目前だった。
「さて、もう少しだ。気を抜くなよ!」

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「おくないせんとうくんれん!」
 それが掛け声なのか。にゅと出て来たミサイルが通路を叩く。
「これがイミテーターね。ほんと、タチ悪いわ」
 後ろでその光景を見守るクネスが微苦笑を漏らす。
 第四階層は一見敵の姿は無い。しかし壁が突如動き出し、ゴーレムとなるか、フロアイミテーターとして襲いかかってくる事がよくある。気を抜けば不意打ちを食らってアウトだ。
その情報を元にセンサーに自信があるという美夕がサーチアンドデストロイを実施中と言うわけだ。もちろんファーストヒットだけで倒せるほどヤワでないため、他の面々が即座に攻撃に加わり、追撃を叩きこんでいく。
「このまま行けば何事も無く到着できそうね。帰って不気味だけど」
 そんな事を呟きながらクネスはきょろりと周囲を見渡す。
 なにかあればとも思うが、早々なにかがあるわけでもない。簡単に見つかるようなものであれば依頼人のパーティがすでに見つけている事だろう。
「早々上手くは行かないものね」
 と、不意に気になる窪みを見つける。
「何かしら?」
「どうしたの?」
 殲滅が完了したらしい美夕がふわりとやってくる。
「なにかを嵌めこむような穴があったのよ」
「なにを入れるの?」
「さぁ?」
 いろいろすっ飛ばして第四階層に来ている彼女らにはなにひとつヒントは無い。
「覚えておいて損はなさそうだけど、次はいつ来れるのかしらね」
「……いつか?」
 いつか来れると良いけどと呟いてクネスは先を急ぐ事にした。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ぐぅっ!」
 ゴーレムの重いパンチをクロスガードで受け切ったザザの背後からアインが飛び出して膝関節部分を強く切りつける。
「厳しいな、これはっ!」
 奥歯を噛み砕かんばかりに食いしばり、前へと飛び出す。並走するヨンと共に先ほどアインが切りつけた膝関節へと打撃を叩きこんだ。
 びしりという音が響いたかと思えば右ひざが破壊されてゴーレムはずんと転倒した。
「後は任せたぜ」
 後ろに手を上げて合図すれば、遠距離攻撃が雨あられと倒れたゴーレムに降り注ぎ沈黙させる。回復能力を持った探索者がザザに駆けよって治療を施すと、その間にヨンともう一人シーフツールを用意して来たらしいラットマンが少し先の調査を開始する。
 Bチームは大迷宮探索に比較的慣れているザザ達を中心に損耗少なく進んでいた。
「こっちは問題無い。進めるか?」
「ええ、罠は見当たりませんね」
 振り返ればアインがこっくりとうなずきを返す。
 ザザはよしと同じく頷いて前へと前進を再開する。
「地図の上では間もなくなんですが」
 ヨンがそう呟けば角を曲がった所に言われたとおりの装置が見えた。すでに3つのランプは点灯しており
「……私たちが最後?」
「少々慎重に進み過ぎたか」
 それが示すのはザザとアインの会話の通りだろう。
 何かあった時のためにと頑丈なザザが装置の前に立つと三角形の頂点を描くように並ぶランプに対し、重心に当たる箇所にあったボタンが白く点灯した。
「こいつを押せってことか」
 一つ呼吸をし、押し込む。
 すると数秒のラグがあって何処かで石やらなにやらが大きく動く音が響いた。
「道が開いたってことでしょうかね」
「……恐らく。でも私たちはまず素直に生還するのが大切」
「だな。よし、任務は達成だ。戻るとしよう」

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 この日の探索者達の行為により、恐らく地下第五階層への道が開いたと推測される。
 それがどういう結果を導くのかは──────


 もう少し後の話である。

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 Inv0Xで良かったと思った!
 どもー神衣舞です。
 最近inv0Xをやってたなかったからその単語をすっかり忘れてました。ダメやんw
 今回は素直に終わりました。
 今回は。
 うひひひ。
 というわけで大迷宮についてものんびり進捗して行きたいと思いますのでよろしくおねがいしますね。
 ではでは〜
piyopiyo.php
ADMIN