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【inv01】『後ろ足のジョニー』
〜その0〜
(2009/11/26)
 俺の名はジョニー。
 自分で言うのも何だが、ケチな運び屋だ。
 学があるわけでもねーし、顔だって人並み。取り立てて特徴も無く、ついでに飽きっぽい。
 そんな何も無い俺が唯一神様からもらったもんがある。
 ま、そんなかけなしの才能も目端の利く悪い連中からすれば、手駒する切っ掛けでしかないんだがよ。
 ともあれ世を嘆いて自殺する程本気で生きてるわけでもない。不幸中の幸いというべきか、俺の雇い主はケチな方でもない。
 俺がきちんと仕事をやってのければ、真面目に働くのが馬鹿馬鹿しいくらいの金はもらえるんだから、それなりに人生を謳歌できているんだろう。酒も美味いしな。

 俺がやる仕事なんざそんな大掛かりなもんじゃない。
 俺の性格を知ってか、そこまで高価なもんは預けたりはしねぇからよ。そっちの方が俺としても気が楽ってもんだ。 
 いいところ薬か、銃か……。どっちにしても末端価格ってやつからすれば高価だが、原価なんて大したもんじゃない。そして横流しすれば一発でばれちまうようなシロモノだ。
 悪い事をしてるって自覚はあるから「真面目に」なんて言葉は上手くないんだろうが、まぁ真面目にお仕事をこなしていれば悪くない暮らしはできるってもんと当の昔に割り切っている。
 それが俺だ

 ─────いや、それが、俺だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ったく、どういうこった!?」
 長い事こんな仕事をしてると隠れ家や身を潜ませるところの1つや2つ、持ち合わせているもんだ。
 何よりも腐心すべきは身の安全。俺の身が安全なら荷物が安全になる可能性も高いからな。
 だが、今の俺はちょっとやり過ごすような気の軽さは持ち合わせちゃいねぇ。
 何しろ漏れ聞こえてくる声は敵対組織のギャングやそこいらのポリ公じゃねえ。
 特別広域捜査官。国境っていう不可侵であるはずの縄張りをあっさり踏み越えて犯罪者を追いかける特殊にして最高のエリート集団のものだ。
 あいつらと来たら公共施設だろうが連合国会議場だろうが武器の携帯は自由。さらにたんまりと異能者を抱えてやがるとんでもなさだ。
「なんであんなやつらが俺を追っかけてんだよ……」
 密売なんかじゃ、いや、例え人を一人二人殺したところで出てくるような連中じゃない。あいつらが相手にするのは国際的なテロ組織やシンジゲートという大物だ。チンケな俺が拝むとすればスクリーンの中くらいなもんだ。
 だが、そんなファンタジーな連中が近くをうろついている。
 超を5つか6つくらい並べるくらいの権限を持ったあいつらからいつまで逃げられるか分ったもんじゃない。
 へらへら笑って手を上げて出て行ったところで蜂の巣にされるのが目に見えていた。あいつらの一番の権利は捜査対象を任意で射殺できる事なんだからな。

 突然の音に心臓が止まるかと思った。

 響いた音は脳内に、俺の感覚器を通さずに俺に「音」を認識させる。脳内に埋め込んだマイクロコンピュータが通信を受け取ったんだ。
 携帯電話なんてアンティークショップにももう無い。脳に仕込んだマイクロコンピュータで大概のことはできるし、スロットにチップを入れればすぐさま百科事典と同様の知識が得られる。
 便利な世の中という認識はない。それが当たり前なんだから普通にそれを享受するだけだ。
 だが、この状況で通信はいただけない。通信ということは電波が飛ぶ。そしてやつらはそれを今かと待ちわびているのだ。
『逃げ場所が見つかった』
 忌々しさを堪えながら立ち上がった俺に聞きなれた声が響く。
『時間が無い。直ぐに行くぞ』
「……信用するぜ……?」
 ガトリングガンの斉射が壁をぶち抜く。
 そこにすでに俺の姿は無い。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「はぁ、なるほど」
 アンティークに彩られた事務所。ベージュを基調とした室内に設えられたそれらは、産業革命時代を彷彿とさせるものだ。
 かの有名な英国の名探偵に感銘を受けて揃えたのだから無理も無い。
「つまり、彼を大至急捕まえたい、と?」
「そうだ」
 執務机肘を付き、組んだ手の上に顎を置いて彼は笑顔を作る。
 その身なりは名探偵に倣った物だ。わりと整った顔立ちを授かった彼には無理なく似合っているが、やたらにこやかな表情が「三枚目」という感覚を与える。
「可能な限り迅速に、だ。
 貴方はこの街で一番の探し屋と聞いている」
 対する男は革張りのソファーから男を見上げ、言葉を投げつける。
 その装いは黒を基調とする威圧的な物。上着にもその下にも防弾・防刃繊維が用いられた実戦を想定した物で、注意深く見ればホルダーやマガジンなどの膨らみが伺える。
 その傍らには二十にも至らない少女が同じような服を纏いちょこんと座っていた。
「NO」
 部屋の主は心外だとばかりに首を横に振る。
「僕は探し屋なんて無粋な者じゃない。探偵だ」
「……この街一番の探偵だと聞いている」
 言い争うのもバカらしいとばかりの訂正にも男は満足して笑顔を取り戻す。
「Great。まさしく僕はこの街一番の探偵さ。
 よし、君の依頼は引き受けよう。なに僕の手に掛かれば悪党の一人や二人、あっさりお縄にしてみせるよ。
 それで、だ」
「報酬か?」
「NO。彼は何をしたんだい?」
 顔は笑顔のまま。男の問いに黒服は数秒黙り込む。
「我々にとって重要な物を持って逃亡した。
 故にそれさえ取り返せれば生死は問わない」
「そこら辺は詳しく教えてくれないのかい?」
「10cm四方の箱型の装置とだけ伝えておく。
 それ以上の詮索は必要か、探偵」
 沈黙。少女は緩慢な動きで二人の顔を交互に見た。
「NO。僕の領分じゃないね。
 随分とお急ぎのようだね。まぁ精々頑張らせてもらうよ」
「頼む」
 言うなり男は立ち上がり、部屋の主に背を向ける。少女もそれに倣い、部屋を出て行った。
「アドウィックさん」
 まるで背景のように、今の今まで一言も喋らなかった女性が涼やかな声で探偵に問う。
「良いのですか、詳しく聞かずに」
 メイド服。しかしコスプレ感は全く無く本職であることがどことなく伺える女性の問いににアドウィックは肩を竦めて首を振る。
「彼は喋らないさ。そういう人種。
 そこら辺は僕が推理すればいい。そうだろ?」
「然様で」
 女性は二人が全く手をつけなかった紅茶を盆に載せ部屋を出て行く。
「But……焦燥が苛立ちに出てたってことはちょっとは急いであげたほうがいいかもね」
 アドウィック探偵事務所所長アドウィック・ノアスはハンチング帽を手に取りながら優雅に立ち上がった。

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【GMコメント】
 ジョニーを探せのオープニングSSです。
 1ターンごとに短いSSを掲載するつもりですのでよろしくお願いします。
 では、みなさんの健闘を期待しますね。

 ……つか、アドウィックが変なキャラになった……(ぉい
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