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【inv01】『後ろ足のジョニー』
〜その1〜
(2009/12/7)
 どこにでも居そうな目立たない風貌。
 それを気にしつつも、逃げるという点においては有意義に利用してきた。
 木を隠すなら森の中ってな。

 だがなぁ……
 人口十万人の都市だ人間は多い。だがここではそこに「比較的」という形容詞がくっつく。
 何しろ右を見ても左を見ても異形がいやがる。それらをひっくるめて「人」と呼んでいる感覚が俺にはわからねぇ。どう見ても犬っころにしか見えなくてもPBを付けてりゃ人扱いってのはどうなんだ?
 「じゃあ、どこまでが人なのか」なんて区別ができねーからそうなってるんだろうが……っと話が逸れた。
 兎にも角にも自分が浮いているようで気が気でない。特徴が無いことが逆に特徴になっていやしないだろうか。もちろん俺の被害妄想に過ぎないんだが……どうも座りが悪い。
「畜生……なんでこんな事に……」
 そもそも広域特別捜査官になんで俺が追っかけられているのか。それが一番の問題だ。
 これがブツの輸送中ってんならまだ分る。俺達にいつもとは違うものを運ばせたり、囮に使う可能性は何時だって頭の片隅には持っている。だが奴等が現れたのはオフ真っ盛りだった。武器や薬の簡単な運びはあったものの、やつらが食いついてくるようなネタはここ最近なかったはずだ。
 調べようにもここは違う世界。ネットワークも無ければなじみの情報屋もいやしない。まぁ、もっともそんな所と接触しようものなら十秒後には囲まれてるだろうがよ。
 逆にやつらが情報網を使えないって点とあわせて見ればプラスが大きい。どんな情報でも特権で閲覧し放題のやつらだが、ここの支配者はその権力を受け付けない。やたらプライドの高いやつらの事だ。シネマに描かれるようにツーマンセルでしか乗り込んできやしないだろう。バックアップが無いなんて泣き言を言う連中じゃねえしな。
「に、してもだ」
 所詮は1つの町。永遠に逃げ切る事は不可能だ。他にも町があるのならさっさとトンズラこくべきなんだろうが……
 路地を曲がって宿に入る。新しい町とあってどこもここも小奇麗だ。場末のモーテルを仮のねぐらにすることが多い俺としてはこの点は好ましい限りだな。
「おや、お帰り」
 カウンターの向こうからぬっと出てきたそれにももう慣れた。
 「悪魔」────真っ黒でメタリックな皮膚に乱食い歯のように口から溢れた牙。そして角に蝙蝠のような翼。それらをそこいらのおっさんが着そうなビジネススーツに詰め込んだB級映画真っ青のそいつはここの主だ。
「町には慣れたかい?」
 腹の底に響き、魂を凍らせるような声だが声色は比較的というか、滅茶苦茶に柔らかい。泣く子も気絶しそうな顔も柔和な笑顔を足されてなんとも言い難い形を作り上げている。
「ああ」
「そうかい。で、だ」
 そんな宿のオヤジは身を乗り出すように俺見る。
「あんた、追われてるよ」
 ドキリとした。
「……な、」
「なに、別に突き出しやしないさ。元の世界でいろいろあったやつなんて山ほどいる町だからな。
 私なんて昔は生贄を数……いやいや、まぁ昔の話さ」
 これは笑うべきなのか……?
 俺の葛藤を知ってか知らずか悪魔のオヤジはにこやかに言葉を続ける。
「ともあれ知らないって言っておいたがね。
 お客である以上それを売るような真似はしないさ。それが契約ってもんだろ?」
 悪魔に契約なんて言われるとここを出て行くときに魂を奪われそうだな……。
 俺は何とか苦笑いを浮かべてオヤジに手を振ると自室へと向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ジョニーさんかぁ……」
 小柄な少女───ノアノはきょろきょろと周囲を見渡しながら電車を降りる。
 目前には見上げる事すら困難な塔がずんと鎮座しており、周りの建築物も比較的大きい。
 ここは『扉の園南』。この世界に来て、南側の入市管理場を選べばまず最初に訪れる広場だ。路面電車はここで2つの路線に別れ、『扉の園』を迂回しながらサンロードリバーを渡る。
 直ぐ傍には『管理組合本部』や『エンジェルウィングス』の本社があり、その他にもこの地に足を伸ばす企業のビルがちらほら立ち並んでいる。
 彼女の今日の目的地は入市管理場だ。ターミナルに来た以上ここを通らざるを得ない。ならばと思ったのだろう。
 人の出入りはそれほど多くは無い。輸出入を生業とする者が比較的多く見受けられるが、偶然にせよ自主的にせよ新たにこの世界に訪れるような人物は日に百人も居ない。
「すみませーん」
 出国ならぬ出市手続き待ちをしている列を迂回し、管理場事務所を覗くとエルフの女性が「はーい?」と立ち上がる。
「どうしたのお嬢ちゃん?」
「えっと、聞きたい事があるのだ」
「なあに?」
 銀行員のような格好のエルフはノアノの前まで来ると少しだけかがみこんだ。
「ジョニーって人を探してるの。知らない?」
 言いながら写真を見せる。するとエルフの女性は困ったように眉根を寄せる。
「御免ね。規則で来訪者の情報は一般公開できないの」
「どうしても?」
「ええ。どうしても。それがこの街の原則だから。
 ……この人、賞金首?」
「……確か違う……よ?」
 これは管理組合からの依頼ではなく、アドウィックという探偵からのものだ。故に賞金首では無いだろう。
「ならなおさらね。どうして探しているの?」
「アドウィックって人が探してて」
「ああ、あの人が……」
 女性は曖昧な笑顔を造りつつ少し黙考する。その顔には好意というより困った悪がきを思い出すような雰囲気がある。
「そうね。規則で管理組合の入市管理データは公開できないけど私の記憶なら別よ」
「え? いいの?」
 意外にも柔軟な回答にきょとんとすると、エルフの女性は苦笑を濃くして腰に手を当てると
「ええ。アドウィックさんの屁理屈だけど、上も了承済み」と言いながらウインクをした。
「写真見せて。北の人にも聞いてみるわ」
「ありがとー」
「いえいえ。まだお役に立てるかわからないけどね」
 日に通る量が限られているとは言え、この数日だけでも千人近い人間が通っているのだ。確かに記憶だけでは心もとないかもしれない。
 事務所の来客用ソファーに案内されお菓子まで出されて待つ事十数分。すると女性はやや首を傾げるようにして戻って来た。
「ケイオスタウン側で見覚えがある人が居たんだけどね」
「ほんと?」
「ええ。ただ、妙な事を言っていたわ」
「妙って?」
「一週間前くらいの事だったらしいんだけどね。
 午前中にこの人を見て、それから午後にも見たんだって。
 それで覚えてたらしいんだけど、「午前中通りませんでした?」って聞いたら「一度出たんだ」って答えたんだって」
「……?」
 映画館やテーマパークならともかくここは異世界だ。ましてや追われてる理由を持つ人がわざわざ一度戻った?
「それも少し言葉に詰まった後にそう答えたそうよ」
「……うん、ありがとう!」
「お役に立てたかしら?」
 今は良く分からないけどこれは何かのヒントになる。
 直感的にそう思いながら少女は次の行動に移るのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
「こいつを探しているの。知らない?」
 写真をを突きつけるように見せる金髪碧眼の美人と写真を胡乱気に見ながら、店主は首を傾げる。
「こいつがどうかしたのかい?」
「探してるだけよ」
「は、逃げた男でも追いかけて……」
 ギンと音のしそうな視線に射すくめられて店主は「じょ、冗談だよ。そうカッカしちゃ美人が台無しだぜ?」と引きつった声を零す。
「で?」
「見覚えはある。この界隈でたまにな」
「そう。
 何処に泊まっているかは?」
「しらねえな。ただ来訪者は基本的に家を貰うんだ。その分宿は比較的少ない」
「……。感謝するわ」
 言いながら果物を1つ手に取り、腕を差し出す。
 店主はすこしきょとんとした後に「まいど」と苦笑して料金を受け取った。
「……ふむ」
 リンゴに似たそれを齧りつつ歩く少女は頭の中で今日得た情報を整理する。
 ケイオスタウンで目撃情報がいくつかある。食料品を買った様子はあまり無く、暇つぶしの材料だろう本や雑誌を数度購入しているようだ。
 もちろんそれが本当にジョニーであったかはやや怪しい。というのもケイオスタウン側は比較的人間種が少ない。店を構える者もロウタウンに人間種、あるいは人間型の種族が固まる傾向にあるため反して亜人種が多いのである。
 中には男女の区別は付くが、声を聞かなきゃ区別は付かないと真顔で言うリザードマンなんかも居た。こっちはその店主が雄か雌かわからなかったが。
 なので集めた情報の何割かは違う人物のものが混ざっていると思うべきだろう。
「ここらを中心に捜索するという基本方針は間違ってはいないかな」
 とは言えこの大都市ではどこまで絞りきれることやら。
 ニュートラルロードを歩きつつ路地にでも入ってみるかと余所見をした瞬間、どんと左肩に人がぶつかってきた。
「っと」
 お互いに余所見をしていたらしい。男の方はよろけながら「悪ぃな」と軽く頭を下げる。
 アイシャは憮然としつつもこちらにも非があると────
「え?」
 振り返ると男は傍の路地に入ろうとしていた。その横顔と写真を照らし合わせて
「見つけた!」
 走る。偶然とは言え早々に見つけられるなんてラッキーだ。
 路地に入ると男は奥の道をさらに曲がる所だった。一気に畳み掛けるか、それとも尾行するか。
 ともあれ見失うわけには行かないと追いかける。
 路地を一気に駆け抜け、慎重に男が曲がった先を覗き込むと
「……え?」
 そこには誰も居ない。どこかの建物に入ったのだろうかとゆっくりと足を進めるがここらはどうやら飲み屋が多いらしくしかもまだお昼前とあってどこもクローズの札が下がっている状態だ。
 念のために扉を押したりしてみたが開いている店は無い。
「……尾行に気付かれたにしても……どこに行ったの?」
 もう一度周囲を見るが入り込めそうな路地は無い。とすれば飛んだか、それとも地面をもぐったか。
「予想以上に厄介かも」
 逆に今度はこちらが見られているかも知れない。顔を覚えられては面倒だとトラベラーズハットを目深に被りなおし、アイシャは早足にその場を立ち去った。

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 というわけでジョニーを探せの第一回です。
 参加者が2人なのは寂しい限り(=ω=)
 あ、一応言っておきますけど情報が揃ってから参加しようだなんて甘い考えはダメですよ?
 もちろんそういう手段もあるにはありますが・・・・うふ。

 さて、GM予想では大体3〜4回でケリが付くと思っています。
 ジョニーの秘密とは。そして特別捜査官が追う物とは。
 次のリアクション、お待ちしております☆

 PS.誤字脱字は後でこっそり修正していきます(ぉい
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