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【inv01】『後ろ足のジョニー』
〜その3〜
(2009/12/25)
「It’s fun」
 アドウィック・ノアスは目を細めて囁く。手には紅茶、オープンテラスのカフェテリアで彼は一人くつろいでいた。
 仕事中とは思えない優雅さだが、誰も気にとめることはない。
「ボクの推理が正しければ……
 つまり、そういうことなのだろうね」
 完全なひとりごと。だが彼は気にしないように続ける。
「BUT……」
 かちゃりとカップが置かれる。それからいったん瞑目し、彼は空を見上げた。
「それでは納得しない者も居るだろうね。だからボクは今日、今、ここに居る」
 傍らのハンチング帽をふと手に取り、くるり指先に引っ掛けて回しそれを宙に放る。
「いらっしゃい。最初のお客さん?」
 それはふわりトラベラーズハットにひっかかる。
 憮然とそれを手にとって投げ返しながら彼女────アイシャは席に着く。
「おかしな能力を使うだなんて聞いていないわ。説明してくれるわよね?」
「Of course」
 アドウィックは応じてから肩を竦め、そしてにぃと三枚目の笑みを浮かべた。
「BUT。
 そう、お客様は君だけじゃないようだから」
 視線をアイシャの背後へ。彼女もつられるように振り向くと、そこには小さな魔女が驚いたようにこちらを見上げていたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ジョニーさんが二人いる……なんて話は聞いていないんだけど……」
 うんうんと悩みながらノアノはクロスロードの街を歩いていた。
 今まで得られた情報はまるでジョニーらしき人物が2人居るようだった。もちろん二人並んで歩いていたわけじゃないから確証はないけど。
「……他にもこのお仕事してる人いたよね?」
 自分ひとりの情報だとイマイチ確証を持てない。こうなったら誰かと話してみよう!と思い立ったところで
「うん?」
 なんか知っている人がこっちを見ていた。
「やぁ、ノアノ君。君も座るかな?」
 まるで誘拐犯のような、不自然ににこやかな笑みを浮かべたアドウィックを胡散臭そうに見て、その正面に座る同じくアドウィックの胡散臭さに眉根を寄せている女性に視線を転じた。
「あなたもこの男の依頼を受けてるの?」
「え? あ、うん。そうだけど……」
「なら丁度良いわ。依頼人の義理を果たしてもらうところだから」
「What?
 酷いな。ボクに何か不手際でもあったかな?」
「あるじゃない!」
 あくまで茶化した口調にアイシャが鋭い視線を向ける。
「アタシはあれを確実に追い込んだ。でも逃げられた。
 そんな妙なことができるだなんて聞いていないわ!」
 静かだが激しい怒気を受けてもどこ吹く風。それに苛立ちが膨れ上がる。
「当然だよ。ボクだって知らなかったんだから」
「え? そうなんですか?」
 それを背景に空いた席についたノアノが問いかけると
「ああ。運び屋って話だけだったからね。
 そうですよね?」
 にぃと小さく口の端を吊り上げての問いかけを送る。え?と二人は周囲を見渡すが問いかけの相手は見当たらない。
「こっちに座りませんか?」
「……」
 動きがあったのは彼の背後。戦いに従事する人が多いこのクロスロードで肩幅ががっしりした人間なんて珍しくもないが、制服じみた戦闘服というのはアウトローの多いここでは特徴的といえるだろう。
 彼はしばらく沈黙を保っていたものの、ふいに立ち上がり何事かと見上げる二人に顔を見せる。
「紹介しておきましょうか。
 彼はジェニック・ロードライ。依頼人で君たちの言う所の『依頼人の義務を果たしていない男』さ」
「どういうつもりだ探偵。いきなり人の後ろの席に陣取ったと思えば」
 諦めたように首を振り、男は空いた最後の席にどかりと座る。
「Not separate anything
 ボクがお茶をしていたら彼女たちが乗り込んできて、そして彼女たちの疑問に答えられるあなたが丁度そこに居た。
 それだけじゃありませんか」
 三人の目が「絶対に嘘だ」という言葉を投げかけるが、やっぱり完全に無視して見せる。
「ボクも彼女たちにお願いしている分、疑問には応じたいんですよ。よろしいかな?」
「……思った以上に食えない男だな」
「Of course」
 彼は大仰にうなずく。
「万魔殿たるこのクロスロードではうかうかしてるとあっさり食べられちゃうからね。
 さて、では途中経過の確認といきましょうかね」
「アドウィックさんからの依頼で動いている人って私たちだけなんですか?」
 ノアノがひょいと手を挙げて問う。
「NO、あとイベリー君が居るよ。
 But、彼は今このお茶会に招くわけにはいかないんだ」
「え? どうしてです?」
 返事は無く、視線がジェニックへと向けられる。釣られるようにジェニックを見るノアノ。
「そこまで気づいてやがんのか探偵。お山の大将気取りのゴッコ遊びだと思ったんだがな」
「どういう意味?」
 主要な単語が抜けた会話にいら立つようにアイシャが問いを放つが、アドウィックは「それはMr.ジョニーを探す事には関係ないことさ」とはぐらかして見せる。
「強いて言えば、彼は今、Mr.ジェニックの相方と一緒に居るんだ。
 さて、まずはアイシャ君の質問からかな。
 ジェニック、君の世界の事についての質問だ」
「……まぁ、異能については説明しとくべきだったか」
「異能?」
 特殊能力。このクロスロードでは別に珍しい話じゃないのだが、その分その性能性質には極端な差異がある。
「俺たちの世界には極稀に異能者が生まれる。俺は警察って言っても主にその異能に関する捜査を専門にしている部署だ」
「魔法とは違うの?」
 ノアノの問いにジェニックは眉根を寄せてがりと頭を掻く。
「俺は学者じゃねーんだ。違いなんてわかんねーよ。呪文や魔法陣なんかは必要じゃねーってことくらいか、言えるのは」
「いわゆるサイキックだね。
 If you compare、1つの魔法に特化した魔法使いって感覚かな」
「じゃああのジョニーってのも異能使い?」
 先に言いなさいよ的なオーラで問うアイシャにジェニックは怯むことなく
「可能性はある。だが確証はない」
 と、やや投げやりな回答をする。
「ええ? でもお兄さん達は異能者の犯罪に対応するんじゃないの?」
 ノアノのもっともな言葉にも彼は表情一つ変えない。
「正確には捜査官の全員が異能者だ。だから異能者犯罪に対応する事が多くなる」
「でも、あんな逃げ方、それ以外に考えられないわ!」
「だったら、ジョニーは異能者なんだろう」
「アンタねぇ!!」
 ばんと叩かれたテーブルが踊る。
「アタシは急ぎって聞いてたからこのクソ寒い中張り込みとかしてんのよ?
 なんでそんなに非協力的なのよ!」
「まぁまぁ、落ち着きたまえアイシャ君。
 Mr.ジョニーの情報については君たちもそれほど多くの情報を有していない。そういう前提でいいのかな、Mr.?」
「その通りだ探偵。今の情報でターゲットがどうしてここまで逃げおおせることができたのか、確信が持てた」
「じゃあ、どんな能力を持ってるかまでは分からないの?」
「わからないな、そこは実際に見た人間の方が推論も立つだろう」
 テーブルクロスをゆがめるように叩きつけたままの手をわなわなしていたアイシャが腕を組んで顔を背ける。
「うーん。じゃあやっぱりジョニーさんが2人居るわけじゃないんだよね」
「2人?」
「あ、うん。ジョニーさんが1日2回も同じ店に来たりするって話がいくつかあってね……」
 変な話ではあると思うがアイシャとしては2人居ようと追い詰めた人間が消えるトリックには結びつかない。
「異能って……テレポート能力者とか居ないわよね?」
「居るには居るが……」
「じゃあそれで決まりじゃない!
 ……あと、そんなもの使える人間をどうしろって言うのよ!」
「アイシャ君、最後まで聞いた方が良い。それにこの多重交錯世界での制約もあるしね」
「制約?」
 片眉を上げるアイシャにノアノがうーんと空を見上げながら「確か100mくらいしか転移できないんだっけ?」とどこかで聞いた内容を思い出すようにつぶやく。
「Exactly、この世界では大体100mを境にして電波や念波、転移やなんやは届かなくなる。
 なにしろ光通信までだめになる念の入りようだ」
「それに、テレポートはこちらの世界では不可能能力と言われている。
 移動対象のデータの保管、転移座標の計算、転移座標の空間確保、物質転送と、数種類の能力を複合的に使うようなものだからね。
 例えテレポートの異能に覚醒した者が居ても人間一人の脳ではそのすべてを計算しきれないと考えられている。
 それこそ脳にチップを埋め込んで計算補助しても追い付けないほどに」
「……はぁ」
 あれも違うこれも違うでどうしろと言うのだろう。
 そう思いながらもアイシャとノアノの頭の中では何か絡まりあうような感覚があった。
「あの、アイシャさん」
「何?」
「もう一度お互いの話を整理しませんか?」
「……そうね、どうもこの二人にはぐらかされてる気がしてならないわ」
 心外だなと肩をすくめるアドウィックを無視し、二人は顔を突き合わせてこれまでの経緯を話し合うのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 さて、そんな事とは関係なく爆走するブタが一匹いるわけだが……
「どこだ……どこに居る、ジャニさん……!」
 そもそも対象の名前を間違えまくってる彼がどこに辿り着くのか誰もわかりゃしない。
 まぁ、そんな彼がうろうろしているのはケイオスタウンにあるとある一角。
 安宿が密集するところは無いか!? と聞きまわっているのだが、このクロスロードはその特異な性質から普通の街とは町の様相が異なる部分がいくつもある。
 宿についてがその1つだ。PBを受け取り、この地に住まう事を望んだ来訪者には家が貸与される。家を持つことがまずない探索者もこのクロスロードに限っては自分のねぐらを確保できるのだ。
 そうなると宿は無いのか? というとそうでもない。貿易を主体にこの世界と異世界を行き来する者には当然宿も必要になるだろう。そういう人を対象とした宿があり、クロスロードに広く点在している。
 では今イベリーが探しているようなガラの悪いのが集まりそうな、酒場件安宿はどこにあるのか。答えはやはりケイオスタウンになる。もっとも、この宿の意味は宿泊に無い。いわゆる連れ込み宿というやつだ。ケイオスタウンの歓楽街を中心にそういう宿はいくらか集まり色街と言うべき区画を形成している。
 ただ、まぁ。そういう場所を発見したからと彼に(本人はそう思ってないけど)堅実な捜査方針があるわけでなく、
「悪人ならガラの悪い酒場に居るはずだ!」
「寝床付きならそこに泊まるに違いない!」
 と意気込んで走り回っているわけである。
 そこらかしこにネオンが輝き、雑多に人が歩きまわる背徳のエリアで怪しめない人がどれだけ居るかという問題を全く解決できずにきょろきょろと見回すばかりだ。
「そうだ! きっと部屋を暗くしてチラチラ外を見ているに違いない!」
 と、上を見ながら疾走しては人にぶつかって怒られたりしている。

 ……どうしようかね、この豚。
 
 まぁ、このまま見ても進展がなさそうなので少し時間を戻そう。
  
「ここに有能な正義の仲間がいる」
 見た目に反して妙にキリリとしたイベリーの発言に広域特別捜査官ユニアはきょとんとし、それから苦笑して首を横に振る。
「ううん。これは私の任務だもの。誰かに頼るなんておかしいし」
「そう言う物なのか?」
「そういう物よ。誰かに助けてもらう捜査官なんて聞いたことないもの」
「ふむ……」
 感慨深げだが、イマイチ何か考えているようには見えない。
「ヒーローとは孤独なものなのだな」
「……そうね」
 ふと、寂しげな視線を何処かに彷徨わせる。
「だが、仲間を信じる心もまた正義だ。仲間がほしければその酒場に行くといい」
「……イベリーってほんと見た目間違えてるよね」
 クスリと笑みを漏らし、くるりと背を向ける。
「仲間は……当てにできないから私一人でやってるんだもの。やってみせるわよ」
「?」
 どこか背負いすぎた声にイベリーは首を傾げつつも、特に言う事も見つからず見送るのであった。

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総合GM神衣舞です。やほー。
今回は情報のまとめ回になりましたねー。
さて、そろそろジョニーの逃亡のからくりは見えてきたと思います。そんなジョニーをどうやってひっ捕まえるか。それが問題になるわけでして。
うまくすれば次に捕縛も可能ですが、私の予想では次で地盤を固めてその次で確保……かな。
年越しになっちゃいましたけど、掲示板進行系のテストとしてはまぁこんなものかなぁと思いつつ。
……次からは3回構成位にしようっとw

来年からはセッションシナリオなんかも増やす予定ですのでお楽しみに。

では、リアクションお願いします。
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