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【inv01】『後ろ足のジョニー』
〜その0〜
(2009/11/26)
 俺の名はジョニー。
 自分で言うのも何だが、ケチな運び屋だ。
 学があるわけでもねーし、顔だって人並み。取り立てて特徴も無く、ついでに飽きっぽい。
 そんな何も無い俺が唯一神様からもらったもんがある。
 ま、そんなかけなしの才能も目端の利く悪い連中からすれば、手駒する切っ掛けでしかないんだがよ。
 ともあれ世を嘆いて自殺する程本気で生きてるわけでもない。不幸中の幸いというべきか、俺の雇い主はケチな方でもない。
 俺がきちんと仕事をやってのければ、真面目に働くのが馬鹿馬鹿しいくらいの金はもらえるんだから、それなりに人生を謳歌できているんだろう。酒も美味いしな。

 俺がやる仕事なんざそんな大掛かりなもんじゃない。
 俺の性格を知ってか、そこまで高価なもんは預けたりはしねぇからよ。そっちの方が俺としても気が楽ってもんだ。 
 いいところ薬か、銃か……。どっちにしても末端価格ってやつからすれば高価だが、原価なんて大したもんじゃない。そして横流しすれば一発でばれちまうようなシロモノだ。
 悪い事をしてるって自覚はあるから「真面目に」なんて言葉は上手くないんだろうが、まぁ真面目にお仕事をこなしていれば悪くない暮らしはできるってもんと当の昔に割り切っている。
 それが俺だ

 ─────いや、それが、俺だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ったく、どういうこった!?」
 長い事こんな仕事をしてると隠れ家や身を潜ませるところの1つや2つ、持ち合わせているもんだ。
 何よりも腐心すべきは身の安全。俺の身が安全なら荷物が安全になる可能性も高いからな。
 だが、今の俺はちょっとやり過ごすような気の軽さは持ち合わせちゃいねぇ。
 何しろ漏れ聞こえてくる声は敵対組織のギャングやそこいらのポリ公じゃねえ。
 特別広域捜査官。国境っていう不可侵であるはずの縄張りをあっさり踏み越えて犯罪者を追いかける特殊にして最高のエリート集団のものだ。
 あいつらと来たら公共施設だろうが連合国会議場だろうが武器の携帯は自由。さらにたんまりと異能者を抱えてやがるとんでもなさだ。
「なんであんなやつらが俺を追っかけてんだよ……」
 密売なんかじゃ、いや、例え人を一人二人殺したところで出てくるような連中じゃない。あいつらが相手にするのは国際的なテロ組織やシンジゲートという大物だ。チンケな俺が拝むとすればスクリーンの中くらいなもんだ。
 だが、そんなファンタジーな連中が近くをうろついている。
 超を5つか6つくらい並べるくらいの権限を持ったあいつらからいつまで逃げられるか分ったもんじゃない。
 へらへら笑って手を上げて出て行ったところで蜂の巣にされるのが目に見えていた。あいつらの一番の権利は捜査対象を任意で射殺できる事なんだからな。

 突然の音に心臓が止まるかと思った。

 響いた音は脳内に、俺の感覚器を通さずに俺に「音」を認識させる。脳内に埋め込んだマイクロコンピュータが通信を受け取ったんだ。
 携帯電話なんてアンティークショップにももう無い。脳に仕込んだマイクロコンピュータで大概のことはできるし、スロットにチップを入れればすぐさま百科事典と同様の知識が得られる。
 便利な世の中という認識はない。それが当たり前なんだから普通にそれを享受するだけだ。
 だが、この状況で通信はいただけない。通信ということは電波が飛ぶ。そしてやつらはそれを今かと待ちわびているのだ。
『逃げ場所が見つかった』
 忌々しさを堪えながら立ち上がった俺に聞きなれた声が響く。
『時間が無い。直ぐに行くぞ』
「……信用するぜ……?」
 ガトリングガンの斉射が壁をぶち抜く。
 そこにすでに俺の姿は無い。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「はぁ、なるほど」
 アンティークに彩られた事務所。ベージュを基調とした室内に設えられたそれらは、産業革命時代を彷彿とさせるものだ。
 かの有名な英国の名探偵に感銘を受けて揃えたのだから無理も無い。
「つまり、彼を大至急捕まえたい、と?」
「そうだ」
 執務机肘を付き、組んだ手の上に顎を置いて彼は笑顔を作る。
 その身なりは名探偵に倣った物だ。わりと整った顔立ちを授かった彼には無理なく似合っているが、やたらにこやかな表情が「三枚目」という感覚を与える。
「可能な限り迅速に、だ。
 貴方はこの街で一番の探し屋と聞いている」
 対する男は革張りのソファーから男を見上げ、言葉を投げつける。
 その装いは黒を基調とする威圧的な物。上着にもその下にも防弾・防刃繊維が用いられた実戦を想定した物で、注意深く見ればホルダーやマガジンなどの膨らみが伺える。
 その傍らには二十にも至らない少女が同じような服を纏いちょこんと座っていた。
「NO」
 部屋の主は心外だとばかりに首を横に振る。
「僕は探し屋なんて無粋な者じゃない。探偵だ」
「……この街一番の探偵だと聞いている」
 言い争うのもバカらしいとばかりの訂正にも男は満足して笑顔を取り戻す。
「Great。まさしく僕はこの街一番の探偵さ。
 よし、君の依頼は引き受けよう。なに僕の手に掛かれば悪党の一人や二人、あっさりお縄にしてみせるよ。
 それで、だ」
「報酬か?」
「NO。彼は何をしたんだい?」
 顔は笑顔のまま。男の問いに黒服は数秒黙り込む。
「我々にとって重要な物を持って逃亡した。
 故にそれさえ取り返せれば生死は問わない」
「そこら辺は詳しく教えてくれないのかい?」
「10cm四方の箱型の装置とだけ伝えておく。
 それ以上の詮索は必要か、探偵」
 沈黙。少女は緩慢な動きで二人の顔を交互に見た。
「NO。僕の領分じゃないね。
 随分とお急ぎのようだね。まぁ精々頑張らせてもらうよ」
「頼む」
 言うなり男は立ち上がり、部屋の主に背を向ける。少女もそれに倣い、部屋を出て行った。
「アドウィックさん」
 まるで背景のように、今の今まで一言も喋らなかった女性が涼やかな声で探偵に問う。
「良いのですか、詳しく聞かずに」
 メイド服。しかしコスプレ感は全く無く本職であることがどことなく伺える女性の問いににアドウィックは肩を竦めて首を振る。
「彼は喋らないさ。そういう人種。
 そこら辺は僕が推理すればいい。そうだろ?」
「然様で」
 女性は二人が全く手をつけなかった紅茶を盆に載せ部屋を出て行く。
「But……焦燥が苛立ちに出てたってことはちょっとは急いであげたほうがいいかもね」
 アドウィック探偵事務所所長アドウィック・ノアスはハンチング帽を手に取りながら優雅に立ち上がった。

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【GMコメント】
 ジョニーを探せのオープニングSSです。
 1ターンごとに短いSSを掲載するつもりですのでよろしくお願いします。
 では、みなさんの健闘を期待しますね。

 ……つか、アドウィックが変なキャラになった……(ぉい
〜その1〜
(2009/12/7)
 どこにでも居そうな目立たない風貌。
 それを気にしつつも、逃げるという点においては有意義に利用してきた。
 木を隠すなら森の中ってな。

 だがなぁ……
 人口十万人の都市だ人間は多い。だがここではそこに「比較的」という形容詞がくっつく。
 何しろ右を見ても左を見ても異形がいやがる。それらをひっくるめて「人」と呼んでいる感覚が俺にはわからねぇ。どう見ても犬っころにしか見えなくてもPBを付けてりゃ人扱いってのはどうなんだ?
 「じゃあ、どこまでが人なのか」なんて区別ができねーからそうなってるんだろうが……っと話が逸れた。
 兎にも角にも自分が浮いているようで気が気でない。特徴が無いことが逆に特徴になっていやしないだろうか。もちろん俺の被害妄想に過ぎないんだが……どうも座りが悪い。
「畜生……なんでこんな事に……」
 そもそも広域特別捜査官になんで俺が追っかけられているのか。それが一番の問題だ。
 これがブツの輸送中ってんならまだ分る。俺達にいつもとは違うものを運ばせたり、囮に使う可能性は何時だって頭の片隅には持っている。だが奴等が現れたのはオフ真っ盛りだった。武器や薬の簡単な運びはあったものの、やつらが食いついてくるようなネタはここ最近なかったはずだ。
 調べようにもここは違う世界。ネットワークも無ければなじみの情報屋もいやしない。まぁ、もっともそんな所と接触しようものなら十秒後には囲まれてるだろうがよ。
 逆にやつらが情報網を使えないって点とあわせて見ればプラスが大きい。どんな情報でも特権で閲覧し放題のやつらだが、ここの支配者はその権力を受け付けない。やたらプライドの高いやつらの事だ。シネマに描かれるようにツーマンセルでしか乗り込んできやしないだろう。バックアップが無いなんて泣き言を言う連中じゃねえしな。
「に、してもだ」
 所詮は1つの町。永遠に逃げ切る事は不可能だ。他にも町があるのならさっさとトンズラこくべきなんだろうが……
 路地を曲がって宿に入る。新しい町とあってどこもここも小奇麗だ。場末のモーテルを仮のねぐらにすることが多い俺としてはこの点は好ましい限りだな。
「おや、お帰り」
 カウンターの向こうからぬっと出てきたそれにももう慣れた。
 「悪魔」────真っ黒でメタリックな皮膚に乱食い歯のように口から溢れた牙。そして角に蝙蝠のような翼。それらをそこいらのおっさんが着そうなビジネススーツに詰め込んだB級映画真っ青のそいつはここの主だ。
「町には慣れたかい?」
 腹の底に響き、魂を凍らせるような声だが声色は比較的というか、滅茶苦茶に柔らかい。泣く子も気絶しそうな顔も柔和な笑顔を足されてなんとも言い難い形を作り上げている。
「ああ」
「そうかい。で、だ」
 そんな宿のオヤジは身を乗り出すように俺見る。
「あんた、追われてるよ」
 ドキリとした。
「……な、」
「なに、別に突き出しやしないさ。元の世界でいろいろあったやつなんて山ほどいる町だからな。
 私なんて昔は生贄を数……いやいや、まぁ昔の話さ」
 これは笑うべきなのか……?
 俺の葛藤を知ってか知らずか悪魔のオヤジはにこやかに言葉を続ける。
「ともあれ知らないって言っておいたがね。
 お客である以上それを売るような真似はしないさ。それが契約ってもんだろ?」
 悪魔に契約なんて言われるとここを出て行くときに魂を奪われそうだな……。
 俺は何とか苦笑いを浮かべてオヤジに手を振ると自室へと向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ジョニーさんかぁ……」
 小柄な少女───ノアノはきょろきょろと周囲を見渡しながら電車を降りる。
 目前には見上げる事すら困難な塔がずんと鎮座しており、周りの建築物も比較的大きい。
 ここは『扉の園南』。この世界に来て、南側の入市管理場を選べばまず最初に訪れる広場だ。路面電車はここで2つの路線に別れ、『扉の園』を迂回しながらサンロードリバーを渡る。
 直ぐ傍には『管理組合本部』や『エンジェルウィングス』の本社があり、その他にもこの地に足を伸ばす企業のビルがちらほら立ち並んでいる。
 彼女の今日の目的地は入市管理場だ。ターミナルに来た以上ここを通らざるを得ない。ならばと思ったのだろう。
 人の出入りはそれほど多くは無い。輸出入を生業とする者が比較的多く見受けられるが、偶然にせよ自主的にせよ新たにこの世界に訪れるような人物は日に百人も居ない。
「すみませーん」
 出国ならぬ出市手続き待ちをしている列を迂回し、管理場事務所を覗くとエルフの女性が「はーい?」と立ち上がる。
「どうしたのお嬢ちゃん?」
「えっと、聞きたい事があるのだ」
「なあに?」
 銀行員のような格好のエルフはノアノの前まで来ると少しだけかがみこんだ。
「ジョニーって人を探してるの。知らない?」
 言いながら写真を見せる。するとエルフの女性は困ったように眉根を寄せる。
「御免ね。規則で来訪者の情報は一般公開できないの」
「どうしても?」
「ええ。どうしても。それがこの街の原則だから。
 ……この人、賞金首?」
「……確か違う……よ?」
 これは管理組合からの依頼ではなく、アドウィックという探偵からのものだ。故に賞金首では無いだろう。
「ならなおさらね。どうして探しているの?」
「アドウィックって人が探してて」
「ああ、あの人が……」
 女性は曖昧な笑顔を造りつつ少し黙考する。その顔には好意というより困った悪がきを思い出すような雰囲気がある。
「そうね。規則で管理組合の入市管理データは公開できないけど私の記憶なら別よ」
「え? いいの?」
 意外にも柔軟な回答にきょとんとすると、エルフの女性は苦笑を濃くして腰に手を当てると
「ええ。アドウィックさんの屁理屈だけど、上も了承済み」と言いながらウインクをした。
「写真見せて。北の人にも聞いてみるわ」
「ありがとー」
「いえいえ。まだお役に立てるかわからないけどね」
 日に通る量が限られているとは言え、この数日だけでも千人近い人間が通っているのだ。確かに記憶だけでは心もとないかもしれない。
 事務所の来客用ソファーに案内されお菓子まで出されて待つ事十数分。すると女性はやや首を傾げるようにして戻って来た。
「ケイオスタウン側で見覚えがある人が居たんだけどね」
「ほんと?」
「ええ。ただ、妙な事を言っていたわ」
「妙って?」
「一週間前くらいの事だったらしいんだけどね。
 午前中にこの人を見て、それから午後にも見たんだって。
 それで覚えてたらしいんだけど、「午前中通りませんでした?」って聞いたら「一度出たんだ」って答えたんだって」
「……?」
 映画館やテーマパークならともかくここは異世界だ。ましてや追われてる理由を持つ人がわざわざ一度戻った?
「それも少し言葉に詰まった後にそう答えたそうよ」
「……うん、ありがとう!」
「お役に立てたかしら?」
 今は良く分からないけどこれは何かのヒントになる。
 直感的にそう思いながら少女は次の行動に移るのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
「こいつを探しているの。知らない?」
 写真をを突きつけるように見せる金髪碧眼の美人と写真を胡乱気に見ながら、店主は首を傾げる。
「こいつがどうかしたのかい?」
「探してるだけよ」
「は、逃げた男でも追いかけて……」
 ギンと音のしそうな視線に射すくめられて店主は「じょ、冗談だよ。そうカッカしちゃ美人が台無しだぜ?」と引きつった声を零す。
「で?」
「見覚えはある。この界隈でたまにな」
「そう。
 何処に泊まっているかは?」
「しらねえな。ただ来訪者は基本的に家を貰うんだ。その分宿は比較的少ない」
「……。感謝するわ」
 言いながら果物を1つ手に取り、腕を差し出す。
 店主はすこしきょとんとした後に「まいど」と苦笑して料金を受け取った。
「……ふむ」
 リンゴに似たそれを齧りつつ歩く少女は頭の中で今日得た情報を整理する。
 ケイオスタウンで目撃情報がいくつかある。食料品を買った様子はあまり無く、暇つぶしの材料だろう本や雑誌を数度購入しているようだ。
 もちろんそれが本当にジョニーであったかはやや怪しい。というのもケイオスタウン側は比較的人間種が少ない。店を構える者もロウタウンに人間種、あるいは人間型の種族が固まる傾向にあるため反して亜人種が多いのである。
 中には男女の区別は付くが、声を聞かなきゃ区別は付かないと真顔で言うリザードマンなんかも居た。こっちはその店主が雄か雌かわからなかったが。
 なので集めた情報の何割かは違う人物のものが混ざっていると思うべきだろう。
「ここらを中心に捜索するという基本方針は間違ってはいないかな」
 とは言えこの大都市ではどこまで絞りきれることやら。
 ニュートラルロードを歩きつつ路地にでも入ってみるかと余所見をした瞬間、どんと左肩に人がぶつかってきた。
「っと」
 お互いに余所見をしていたらしい。男の方はよろけながら「悪ぃな」と軽く頭を下げる。
 アイシャは憮然としつつもこちらにも非があると────
「え?」
 振り返ると男は傍の路地に入ろうとしていた。その横顔と写真を照らし合わせて
「見つけた!」
 走る。偶然とは言え早々に見つけられるなんてラッキーだ。
 路地に入ると男は奥の道をさらに曲がる所だった。一気に畳み掛けるか、それとも尾行するか。
 ともあれ見失うわけには行かないと追いかける。
 路地を一気に駆け抜け、慎重に男が曲がった先を覗き込むと
「……え?」
 そこには誰も居ない。どこかの建物に入ったのだろうかとゆっくりと足を進めるがここらはどうやら飲み屋が多いらしくしかもまだお昼前とあってどこもクローズの札が下がっている状態だ。
 念のために扉を押したりしてみたが開いている店は無い。
「……尾行に気付かれたにしても……どこに行ったの?」
 もう一度周囲を見るが入り込めそうな路地は無い。とすれば飛んだか、それとも地面をもぐったか。
「予想以上に厄介かも」
 逆に今度はこちらが見られているかも知れない。顔を覚えられては面倒だとトラベラーズハットを目深に被りなおし、アイシャは早足にその場を立ち去った。

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 というわけでジョニーを探せの第一回です。
 参加者が2人なのは寂しい限り(=ω=)
 あ、一応言っておきますけど情報が揃ってから参加しようだなんて甘い考えはダメですよ?
 もちろんそういう手段もあるにはありますが・・・・うふ。

 さて、GM予想では大体3〜4回でケリが付くと思っています。
 ジョニーの秘密とは。そして特別捜査官が追う物とは。
 次のリアクション、お待ちしております☆

 PS.誤字脱字は後でこっそり修正していきます(ぉい
〜その2〜
(2009/12/14)
「……」
 薄暗い町を歩く先輩捜査官の後ろを少女は寡黙のままに往く。
 ユニア・ネス。先の人事で捜査官に抜擢された彼女は今回の任務が初となる。だがまさか初の任務が海外どころか別の世界だなんて思いもしなかった。
 というのも『異世界』なんて単語はシネマかゲームの中の存在だ。捜査官になるまで彼女はそう信じていた。
 だがこうして歩く町並みは、自分の知る世界のどこにも無い。ましてや牛頭人や妖精が普通に街角で談話をするような光景に何度自身の正気を疑ったことか。
 彼女の世界ではサイバーテクノロジーやバイオテクノロジーが普遍的な地球世界に比べて発達しており、ロックバンドの歌手がメイクではない悪魔の青白い皮膚を有したり、動物の一部を体に移植するような奇特な連中も居ないわけではない。
 しかしそれは極一部の、むしろアングラ的な行為だ。たかが皮膚の色の違いだけで戦争をした歴史を持つ世界では人間は人間の姿である事が望ましいという社会通念が存在している。間違ってもこんな都市が存在するとは考えられなかった。
 彷徨う視線を大きな背中に向ける。
 先輩捜査官にして捜査局第七課のエース。ジェニック・ロードライ捜査官。数ヶ月前にある事件で殉職した彼のパートナーの代わりとして自分は捜査官に選ばれた。
 『ホロウハウンド』という二つ名を持ち、武力制圧という点に措いては局内随一とも言われる。特に対テロ作戦では彼が出向かない事は無いとまで言われている男が目の前に居る。
 ────そこに小さな疑問がある。
 今回のホシ、ジョニー・ダレダは小火器や麻薬くらいしか扱わない小物の運び屋だ。こんなのは地域のポリスが相手にするべきで、とても特別広域捜査官の仕事とは思えない。ましてや彼が投入されているのは不自然だ。当初は新任の自分が居るから他の局員が対応すべき任務に就いたのかとも考えたのだけど……
 例えば着手した時からジョニーがこの異世界に逃げ込んでいたとしたら、確かにそれは捜査範囲の縛りを受けない当局の仕事になるだろう。
 けれどもジョニーは『逃亡の末にこの世界に逃げ込んだ』。これでは辻褄が合わない。
 それにあの妙な探偵に話していた小箱の存在も自分は聞いていなかった。ターゲットの捕縛または殺害が任務のはずである。
 そして捜査とは言いつつも、この三日間ふらりふらりと街中を歩き回っているだけで、ターゲットの足取りはまるで掴めていないという事実が焦りを生んでいた。
 悪人の悪夢たる特別広域捜査官がこんな体たらくで良いのだろうか?
 何もかもを受け入れられず、けれども自身が新人であると言う枷が今までずっと問いを発する事を躊躇わせていた。

 ────このままで良いのだろうか?

 不安が胸の中を掻き乱す。不安は疑念となり、それを打ち消そうとして否定するための言葉を捜し、惑う。
「そろそろメシ時だな。どこかに寄るか」
 その言葉に頭の中のスイッチがかちりと入る。
「あ、あの、ジェニック先輩」
「何だ?」
 この道に進んでいなければ本当にシネマの中で特別広域捜査官役として勇名を馳せていたかもしれない凛々しい顔立ちをこちらに向ける。
「……ただ探すのであれば手分けして探しても良いでしょうか?」
 思い切って発した言葉に対する洗礼は不満というか、「はぁ? コイツ何言ってるんだ?」的な心臓が締め付けられるような物だった。
「……おい、新人。研修は受けたんだよな?」
 研修とは新任研修のことだろう。軍隊並みとも言われるそれはトラウマに近い形で身に刻まれている。きりきりと響く胸の痛みにはそれを起因にしたものも当然ある。
「特別広域捜査官はツーマンセルを基本とする……でしょうか」
「分ってんなら、どういう積もりだ?」
「……基本、ですよね?」
 返せば応用、場合によってはそれを遵守する必要は無いはずだ。
 ジェニック捜査官はしばらくの沈黙のあと、肩を竦め
「勝手にしろ。定時報告だけは忘れずにな」
 そうとだけ言ってさっさと立ち去ってしまった。
「……」
 胸の奥がうずくまりたくなるほど痛い。やってしまったのではないかという疑念が凄い勢いで自分を叱責する。
 けれども彼の姿は通りの角に消えてしまい、少女は一人路地に立ち尽くす。
 やってしまったものは取り返しがつかない。あとは結果を出すしかない。
 震える手足に喝を入れて、彼女は為すべき事を始める。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ケイオスタウンの歓楽街は敬虔な聖職者なら卒倒しそうなほどに闇が濃い。
 なにしろ彼らを縛る法は存在しないのだ。あらゆる悪徳が当然のように道端に転がっている。
 それでもロウタウンの奥に住む者との折り合いや、「やりすぎて退かれる」事を考慮してその度合いはニュートラルロードから離れれば離れるほど深く、濃くなっていくように形作られている。
 中ほどまでの区画ならばカタギでも存分に楽しめるだろう。だがそこから先は魔境と化す。あらゆる世界から流れてくる非合法な物が並び、ふとした拍子にその深い闇に飲み込まれ消えていく。そこはとある世界の大悪魔が頂点となり管理する特区。PBからの警告を受けてなお踏み入る者に一切の加護は無い。
「……」
 ケイオスタウンで人が一杯居る所。
 そういう発想でこの歓楽街へやってきたノアノは半ば呆然と立ち尽くしていた。
 満ちるアルコールと香水、えも知れぬ香木の香りに眩暈がしそうになる。魔女の修練を受けたためか薬品関係にはやや耐性があるものの、これは一線を画した世界だ。
 ふと視線を転じれば、ほとんど裸の女性が通り過ぎる。背中の蝙蝠の翼や山羊に似た角から悪魔族────サキュバスだろうことは想像に易い。
 このような場所でありながら、ノアノに対し「お子様が来る所ではない」とは誰も言わない。何しろ見た目は子供、実は数千歳なんてのはこのクロスロードではありえない話ではない。
 もっとも、きょろきょろしている今のノアノを見れば、「お子様」と鼻で笑う連中も二、三は居る事だろう。
「と、とりあえず情報収集だよね」
 自分を奮い立たせるように呟いてきょろりと周囲を見渡す。とりあえず目に付いた酒場に入ってみるといろんな匂いが交じり合った空気が出迎える。
 ショットバーだろうか。立ち飲みをする数人の客は彼女の来店に見向きもせず、手の中の酒か隣の友人に視線を合わせている。たまにタバコかはたまたもう少しヤバイものか。そういうのに火を灯すライターがぽっと点った。
「聞きたい事があるんですけど」
 給仕をするメイド(にしてはやたら露出が高い)に思い切って声を掛けてみると「あら、お嬢ちゃんなぁに?」と優しいのか淫猥なのか、混ざったような笑みを浮かべてしゃがみこむ。おかげで胸が零れそうだ。あと、多分後ろからはいろいろ見えてると思う。
「この人を見なかった?」
「人探し? ……んー」
 頬に指を当てて考え込む仕草はわざとらしく、しかも写真よりも明らかにノアノを値踏みしている。
「ウチは景気付けで飲んで帰っていく人が多いから……あ、でもどこかで……うーん」
 思わせぶりなことを言いつつ、その視線は猛禽類のそれである。
「そういえばお嬢ちゃんはウィッチ?」
「え? うん、そうだけど?」
「じゃあ、思い出すいい方法があるんだけど……」
 ノアノは悟る。うん、このままここに居るとすっごくマズい気がする。
「用事を思い出したから帰るね?」
「あら、残念。思い出しそうなのに」
 多少からかうような響きを感じつつも、未だ頭の中のアラームは鳴りっ放しだ。
 ともあれこの場から逃げ出したノアノはくじけずに暫く辺りを歩き回った結果、それらしい男がたまに訪れることだけはなんとかゲットした。
 不思議なことに一日2度現れる事もあり、だから覚えていたんだそうだ。
「やっこさんよっぽど飲んで頭がおかしくなったのか、さっきまでの話を覚えてないときがあってな」と一緒に酒を飲んだ事のあるというウェアウルフの男が愉快そうに喋っていた。
 前に聞いた話といい、何か引っかかる。
 ノアノは小首を傾げつつも更ける夜と共に狂乱の度合いが増す歓楽街から撤収したのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ふぅ」
 吐息が白く視界を染めた。
 冬に当たるこの時期、じっとしているとじんと冷気が体に染み込んで来る。
 アイシャはコートを抱き込むようにして曇天の空を見上げた。こうも寒いと雪の1つも降ってきそうだ。
 彼女が居るのは先日ジョニーを見失った路地だ。この辺りの宿に潜伏しているのではないか。その予想の元にこうして張り込みをしている。
 生憎宿屋への聞き込みは空振りだった。「あんたが客だとして、その客の情報をべらべら喋る店主をどう思うかい?」と返されたのも1件や2件ではない。
 人間種に限定すればこの界隈を歩く者の人相は比較的悪い。ニヤニヤと笑いながら声を掛けてきたやつも1人や2人ではない。しつこいのは張り倒してやったけど。
 壁に背を預け、視線を彷徨わせながら先日の奇怪な光景を思い出す。
 あの男に気付かれた様子は無かった。だが隠れる場所も特に無い道で撒かれてしまったのは腑に落ちない。
 普通に考えればその道にあるの店がねぐらだろうけど、そうと断定できる場所は無かった。
 あとは出てきたところを捕縛するしかない。そう考えてかれこれ二時間、こうして待っている。
 たかだか二時間だがヒントの少なすぎる謎が苛立ちのを加速させていた。
「……っ?」
 冷静じゃない。そう思って今日はやめようかとも考えた瞬間。通路の向こうからポケットに手を突っ込んでぶらぶらと歩く男を見咎める。
 間違いない。ジョニーだ。
 首を竦め、詰まらなそうに歩いてくる。
 謎は本人から聞き出せば良い。ゆっくりと壁から背を離し、気づかれない程度に寒さで悴んだ四肢をほぐす。
 ───────と、不意にジョニーが足を留める。それからきょろきょろと周囲を見て、くるりとこちらに背を向ける。
「なっ!?」
 気付いた風では無いが、明らかにこちらから逃げている。それに気付いてアイシャが慌てて路地から飛び出すと気付いたジョニーが速度を上げた。
「待てっ!」
 攻撃魔法の1つでも放とうかという考えが脳裏を掠めるが少し距離がありすぎるし、ここは街中だ。不幸な通行人に当たってしまえばこちらが賞金を掛けられる身にもなりかねない。
「っ!」
 仕方なく距離を詰めるべく走る。あちらも随分と早いがじりじりと差は縮まっているのが分る。そう感じた瞬間、ジョニーは右手の路地に曲がる。すかさず追いかけると更に奥の道を右に曲がるジョニーの姿。
「ん……?」
 違和感を覚える。奥の道よりも手前、すぐ左手に道があるのにどうしてこっちに行かなかったのだろう?
 いや、今は追いかけることだけを考えて先へ。長い直線をジョニーは一目散に駆け抜けていく。
 幸いと言うべきか、人通りの少ない道だ。一気に加速しながら攻撃のタイミングを計る。その瞬間、ジョニーがはっとしたように右を見て、飛び込むように身を躍らせる。いくら撒こうとしているからとあれでは転ぶだろう。アイシャにとっては追跡相手の間抜けな行動は幸いだが────
「……は?」
 同じく右に曲がろうとしてつんのめる。
 そこにはポリバケツがけり倒され、中のゴミが散乱するという光景があった。
 ちょうど家と家の間。だがそれは通路でなかった。
「……どういうこと?」
 端的に言えば「少し窪んだだけの場所」だ。ポリバケツを見て分るとおりゴミの一時置き場だとは推測できる。その先は家の壁。直ぐ左手にその家の引き戸があるが……
「これじゃ開かないわよね」
 激しく倒された2つのポリバケツが横に転がり、扉を開けるのを邪魔している。しかも扉は鉄製で、開け閉めすれば音の1つも聞こえてくるだろう。
「……」
 それでも一番ありえるのはこの家に逃げ込むという方法だ。アイシャはその家の表側に回る。どうやら飯店を経営しているらしい。暖簾を潜って覗くと「いらっしゃい」とオヤジが彼女に声をかける。
「すみません、表のゴミが散らかってますよ?」
「はぁ?」
 店のオヤジは怪訝そうな顔をしてカウンターから出てくるとアイシャの横を抜けて先ほどの場所へ向かう。
「うわ、なんて事をしやがんだ」
 ぶちまけられたゴミを見てアイシャを睨むが「いえ、何か走ってる人が居て、そこに飛び込んだんです」と中途半端に事実を述べてみる。
「そこに扉があるのでもしかしたらとは思いましたが……」
「ああ? そりゃあ無理だよ」
 オヤジは剥げ頭をぺんと叩いて扉に近付くと無造作に開けようとし、ゴミ箱が邪魔だとしかめっ面をする。「片付けねーとなぁ」とぼやきながらポリバケツを立てると改めて鉄扉を引いた。
 ぎぃぃと甲高い音。そしてその向こうには
「見ての通り、妖精一匹通れやしないさ」
 大量のダンボールが積みあがっていた。
「アルバイトのアホが仕入れ伝票書き間違えてな。たまねぎだったのが幸いだが」
 はぁと深々と溜息を付いて扉を閉めなおすと肩を1つ竦め
「まぁ、そういうわけだ。どうだい嬢ちゃん。不幸なオヤジの損失補てんに少々役立ってはくれんかね?」
 ここまでしてもらって嫌とも言えない。
 別に拘る事も無い。アイシャは今日の昼飯をここで食べて行く事にしたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ピンクの物体が颯爽と町を駆け抜ける。
 いや、まぁイベリーですけどね。
 とりあえずアドウィックの所に行き、ついでにジョニーの匂いが分るものはないかと尋ねたところ、留守を任されたメイドさんからは「ない」との残念な回答を貰ったばかりであった。
 だが、初志貫徹。匂いで追跡だ!
 彼はそう考えて街中をひた走っていた。豚の嗅覚はかなり鋭い。犬並みともそれ以上とも言われるのだから大層なものである。
 ただ、残念な事に目的となる匂いがどれか断定できないため、彼は直感に頼らざるを得なかった。
 あっちへふらふら。こっちへ猛ダッシュ。
 そうしているうちに気がつけば日も暮れ始めた時、ふとその鼻に覚えのある匂いが過ぎった。
 勢いに任せて走り回ったため、疲れきってまともに働かない脳が安易にそれを追いかけ始める。
 近い。ゴールは近い!?
 もう何を追っかけていたのかも定かでは無くなりつつ、ピンクの子豚は突っ走る。
 角を曲がったところで─────
「きゃぁっ!?」
 何かにぶつかった。
 流石はイベリー。ぽんと跳ね返されつつも見事に着地を決めると、自分がぶつかった相手を見上げた。
「一体……何?」
 どうやら膝に激突してしまったのか、膝かっくんした形になって思いっきり腰を打ち付けた少女がやや涙目で周囲をうかがっている。
「……豚?」
 そうして見つけたピンクの子豚に恨めしそうな顔をする。一方のイベリーは彼女が追跡してきた匂いの元だと警戒する。
 ……おや? 確かジョニーとは男では無かったか?
 あの探偵事務所に残っている匂いを辿ってきたのだがと疑問に思っていると細っこい手が伸びてきた。
「貴方、誰かのペット? 危ないじゃない」
 咎めるような声にイベリーは考えを中断し、とりあえずぶつかったのだから「済まない」と謝罪の言葉を述べる。
「……ぶ、豚が喋った……?」
 この三日間で散々異形の種族を見た彼女だが、流石にまんま子豚が喋るというのは理解の外だったらしい。
「何かおかしな事でも?」
「え、あ……」
 流石におかしいとも言えず言葉に詰まる少女を不思議そうに見上げ、それから自分の仕事を思い出す。
「お前がジャニさんか?」
「……え?」
 頭の整理をしている途中で妙な問いをされ、少女は目をぱちくりとして赤いマフラーを巻く豚を見る。
「ジャニさんって?」
「この男だ」
 もぞもぞと器用にマフラーの中から預かった写真を出す。そこに写っているのは
「ジャニって……この写真はジョニー・ダレダ……?」
「いかにも。お前がそうだな?」
 可愛らしい容姿に似合わぬきりっとした言葉に、夢でも見てるのではないかと不安になる。
 とりあえず
「違います!」
 いくら豚からだって異性に間違われるのは心外だと僅かに声を荒げた。写真まで掲げてそれは無いと思う。
「そもそも……豚さんがどうしてジョニー・ダレダを探しているの?」
「豚さんではない。私はイベリーだ。
 アドウィックという男からの依頼だ。事務所の匂いを追ってきた」
 軽い頭痛を覚えつつ少女───ユニア・ネスは頭の中を再整理する。あの探偵、あれだけ大口叩いて人任せってどういうこと?
「ジョニー・ダレダはあの探偵事務所に立ち寄ってはいないと思うけど?」
「何……?!」
 意外な事実を突きつけられイベリーはカッと目を見開く。
「匂いって心外だけど……私はその事務所に寄ったから」
「ではお前がジョニー……」
「ツッコミ疲れるからやめてね?」
 とりあえず黙るイベリー。ちょっと目がマジだった。
「で、ジャニさんとは知り合いなのか?」
「捜査対象だけど直接の面識は無いわ」
「匂いが分るものを持っていないか?」
「……指紋データやニューロデータのパターンとかはあるけど、匂いのサンプルなんて無いわよ……」
 豚と会話するなんてシニアスクール、それも低学年の時に読んだ童話の世界の話だと眩暈を覚えつつ、気合を入れなおす。
「それに匂いは無いのか?」
「……無いわね」
 この豚の出身世界がどんなものか想像も付かない。豚だけの世界なんてあるんだろうか?
 どこか牧歌的な光景に逃避しつつもユニアは状況を整理する。
「あの探偵は他にも人を雇っているの?」
「そう聞いている。お前もそうなのか?」
「私は……」
 依頼人の側になるのだろうか? いや、そもそも依頼するのがおかしいのだ。捜査する事が自分達の仕事なのだから。
「……ある意味そうかもしれないわ」
「そうか。では悪いやつを早く捕まえよう」
 ある意味純粋な言葉に少女は思わず苦笑を漏らし「そうね」と頷く。
「私はユニアよ。ユニア・ネス」
 そう言いながら慣れない手つきで特別広域捜査官の印章を見せる。
「ミスタ・イベリー。情報交換をしてくれないかしら?」
 一つ迷いを吹っ切ったようにユニアは笑顔を作るのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-


さて、今回は参加者の皆さんのパートを少し長めに描いてみました。
こんな感じでいいのかなー?とちょい不安。つか、イベリー面白くしすぎた。
今回の進展具合は全体を10として1か2くらいかな。結構なヒントや足がかりは出ているもののまだ核心には至らない、そんな感じでしょうか。
次でチェックをかけることは可能ですが、チェックをかけない状態でチェックメイトをするのはまず不可能だと考えています。
理由はアイシャがジョニーを逃がしてしまった事が裏付けているかと。

さてさて、それでは皆さんの次のリアクションお待ちしております。

PS.ユニアって沈黙系キャラにするつもりだったのに。なんか可愛くなってしまった(=ω=)
〜その3〜
(2009/12/25)
「It’s fun」
 アドウィック・ノアスは目を細めて囁く。手には紅茶、オープンテラスのカフェテリアで彼は一人くつろいでいた。
 仕事中とは思えない優雅さだが、誰も気にとめることはない。
「ボクの推理が正しければ……
 つまり、そういうことなのだろうね」
 完全なひとりごと。だが彼は気にしないように続ける。
「BUT……」
 かちゃりとカップが置かれる。それからいったん瞑目し、彼は空を見上げた。
「それでは納得しない者も居るだろうね。だからボクは今日、今、ここに居る」
 傍らのハンチング帽をふと手に取り、くるり指先に引っ掛けて回しそれを宙に放る。
「いらっしゃい。最初のお客さん?」
 それはふわりトラベラーズハットにひっかかる。
 憮然とそれを手にとって投げ返しながら彼女────アイシャは席に着く。
「おかしな能力を使うだなんて聞いていないわ。説明してくれるわよね?」
「Of course」
 アドウィックは応じてから肩を竦め、そしてにぃと三枚目の笑みを浮かべた。
「BUT。
 そう、お客様は君だけじゃないようだから」
 視線をアイシャの背後へ。彼女もつられるように振り向くと、そこには小さな魔女が驚いたようにこちらを見上げていたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ジョニーさんが二人いる……なんて話は聞いていないんだけど……」
 うんうんと悩みながらノアノはクロスロードの街を歩いていた。
 今まで得られた情報はまるでジョニーらしき人物が2人居るようだった。もちろん二人並んで歩いていたわけじゃないから確証はないけど。
「……他にもこのお仕事してる人いたよね?」
 自分ひとりの情報だとイマイチ確証を持てない。こうなったら誰かと話してみよう!と思い立ったところで
「うん?」
 なんか知っている人がこっちを見ていた。
「やぁ、ノアノ君。君も座るかな?」
 まるで誘拐犯のような、不自然ににこやかな笑みを浮かべたアドウィックを胡散臭そうに見て、その正面に座る同じくアドウィックの胡散臭さに眉根を寄せている女性に視線を転じた。
「あなたもこの男の依頼を受けてるの?」
「え? あ、うん。そうだけど……」
「なら丁度良いわ。依頼人の義理を果たしてもらうところだから」
「What?
 酷いな。ボクに何か不手際でもあったかな?」
「あるじゃない!」
 あくまで茶化した口調にアイシャが鋭い視線を向ける。
「アタシはあれを確実に追い込んだ。でも逃げられた。
 そんな妙なことができるだなんて聞いていないわ!」
 静かだが激しい怒気を受けてもどこ吹く風。それに苛立ちが膨れ上がる。
「当然だよ。ボクだって知らなかったんだから」
「え? そうなんですか?」
 それを背景に空いた席についたノアノが問いかけると
「ああ。運び屋って話だけだったからね。
 そうですよね?」
 にぃと小さく口の端を吊り上げての問いかけを送る。え?と二人は周囲を見渡すが問いかけの相手は見当たらない。
「こっちに座りませんか?」
「……」
 動きがあったのは彼の背後。戦いに従事する人が多いこのクロスロードで肩幅ががっしりした人間なんて珍しくもないが、制服じみた戦闘服というのはアウトローの多いここでは特徴的といえるだろう。
 彼はしばらく沈黙を保っていたものの、ふいに立ち上がり何事かと見上げる二人に顔を見せる。
「紹介しておきましょうか。
 彼はジェニック・ロードライ。依頼人で君たちの言う所の『依頼人の義務を果たしていない男』さ」
「どういうつもりだ探偵。いきなり人の後ろの席に陣取ったと思えば」
 諦めたように首を振り、男は空いた最後の席にどかりと座る。
「Not separate anything
 ボクがお茶をしていたら彼女たちが乗り込んできて、そして彼女たちの疑問に答えられるあなたが丁度そこに居た。
 それだけじゃありませんか」
 三人の目が「絶対に嘘だ」という言葉を投げかけるが、やっぱり完全に無視して見せる。
「ボクも彼女たちにお願いしている分、疑問には応じたいんですよ。よろしいかな?」
「……思った以上に食えない男だな」
「Of course」
 彼は大仰にうなずく。
「万魔殿たるこのクロスロードではうかうかしてるとあっさり食べられちゃうからね。
 さて、では途中経過の確認といきましょうかね」
「アドウィックさんからの依頼で動いている人って私たちだけなんですか?」
 ノアノがひょいと手を挙げて問う。
「NO、あとイベリー君が居るよ。
 But、彼は今このお茶会に招くわけにはいかないんだ」
「え? どうしてです?」
 返事は無く、視線がジェニックへと向けられる。釣られるようにジェニックを見るノアノ。
「そこまで気づいてやがんのか探偵。お山の大将気取りのゴッコ遊びだと思ったんだがな」
「どういう意味?」
 主要な単語が抜けた会話にいら立つようにアイシャが問いを放つが、アドウィックは「それはMr.ジョニーを探す事には関係ないことさ」とはぐらかして見せる。
「強いて言えば、彼は今、Mr.ジェニックの相方と一緒に居るんだ。
 さて、まずはアイシャ君の質問からかな。
 ジェニック、君の世界の事についての質問だ」
「……まぁ、異能については説明しとくべきだったか」
「異能?」
 特殊能力。このクロスロードでは別に珍しい話じゃないのだが、その分その性能性質には極端な差異がある。
「俺たちの世界には極稀に異能者が生まれる。俺は警察って言っても主にその異能に関する捜査を専門にしている部署だ」
「魔法とは違うの?」
 ノアノの問いにジェニックは眉根を寄せてがりと頭を掻く。
「俺は学者じゃねーんだ。違いなんてわかんねーよ。呪文や魔法陣なんかは必要じゃねーってことくらいか、言えるのは」
「いわゆるサイキックだね。
 If you compare、1つの魔法に特化した魔法使いって感覚かな」
「じゃああのジョニーってのも異能使い?」
 先に言いなさいよ的なオーラで問うアイシャにジェニックは怯むことなく
「可能性はある。だが確証はない」
 と、やや投げやりな回答をする。
「ええ? でもお兄さん達は異能者の犯罪に対応するんじゃないの?」
 ノアノのもっともな言葉にも彼は表情一つ変えない。
「正確には捜査官の全員が異能者だ。だから異能者犯罪に対応する事が多くなる」
「でも、あんな逃げ方、それ以外に考えられないわ!」
「だったら、ジョニーは異能者なんだろう」
「アンタねぇ!!」
 ばんと叩かれたテーブルが踊る。
「アタシは急ぎって聞いてたからこのクソ寒い中張り込みとかしてんのよ?
 なんでそんなに非協力的なのよ!」
「まぁまぁ、落ち着きたまえアイシャ君。
 Mr.ジョニーの情報については君たちもそれほど多くの情報を有していない。そういう前提でいいのかな、Mr.?」
「その通りだ探偵。今の情報でターゲットがどうしてここまで逃げおおせることができたのか、確信が持てた」
「じゃあ、どんな能力を持ってるかまでは分からないの?」
「わからないな、そこは実際に見た人間の方が推論も立つだろう」
 テーブルクロスをゆがめるように叩きつけたままの手をわなわなしていたアイシャが腕を組んで顔を背ける。
「うーん。じゃあやっぱりジョニーさんが2人居るわけじゃないんだよね」
「2人?」
「あ、うん。ジョニーさんが1日2回も同じ店に来たりするって話がいくつかあってね……」
 変な話ではあると思うがアイシャとしては2人居ようと追い詰めた人間が消えるトリックには結びつかない。
「異能って……テレポート能力者とか居ないわよね?」
「居るには居るが……」
「じゃあそれで決まりじゃない!
 ……あと、そんなもの使える人間をどうしろって言うのよ!」
「アイシャ君、最後まで聞いた方が良い。それにこの多重交錯世界での制約もあるしね」
「制約?」
 片眉を上げるアイシャにノアノがうーんと空を見上げながら「確か100mくらいしか転移できないんだっけ?」とどこかで聞いた内容を思い出すようにつぶやく。
「Exactly、この世界では大体100mを境にして電波や念波、転移やなんやは届かなくなる。
 なにしろ光通信までだめになる念の入りようだ」
「それに、テレポートはこちらの世界では不可能能力と言われている。
 移動対象のデータの保管、転移座標の計算、転移座標の空間確保、物質転送と、数種類の能力を複合的に使うようなものだからね。
 例えテレポートの異能に覚醒した者が居ても人間一人の脳ではそのすべてを計算しきれないと考えられている。
 それこそ脳にチップを埋め込んで計算補助しても追い付けないほどに」
「……はぁ」
 あれも違うこれも違うでどうしろと言うのだろう。
 そう思いながらもアイシャとノアノの頭の中では何か絡まりあうような感覚があった。
「あの、アイシャさん」
「何?」
「もう一度お互いの話を整理しませんか?」
「……そうね、どうもこの二人にはぐらかされてる気がしてならないわ」
 心外だなと肩をすくめるアドウィックを無視し、二人は顔を突き合わせてこれまでの経緯を話し合うのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 さて、そんな事とは関係なく爆走するブタが一匹いるわけだが……
「どこだ……どこに居る、ジャニさん……!」
 そもそも対象の名前を間違えまくってる彼がどこに辿り着くのか誰もわかりゃしない。
 まぁ、そんな彼がうろうろしているのはケイオスタウンにあるとある一角。
 安宿が密集するところは無いか!? と聞きまわっているのだが、このクロスロードはその特異な性質から普通の街とは町の様相が異なる部分がいくつもある。
 宿についてがその1つだ。PBを受け取り、この地に住まう事を望んだ来訪者には家が貸与される。家を持つことがまずない探索者もこのクロスロードに限っては自分のねぐらを確保できるのだ。
 そうなると宿は無いのか? というとそうでもない。貿易を主体にこの世界と異世界を行き来する者には当然宿も必要になるだろう。そういう人を対象とした宿があり、クロスロードに広く点在している。
 では今イベリーが探しているようなガラの悪いのが集まりそうな、酒場件安宿はどこにあるのか。答えはやはりケイオスタウンになる。もっとも、この宿の意味は宿泊に無い。いわゆる連れ込み宿というやつだ。ケイオスタウンの歓楽街を中心にそういう宿はいくらか集まり色街と言うべき区画を形成している。
 ただ、まぁ。そういう場所を発見したからと彼に(本人はそう思ってないけど)堅実な捜査方針があるわけでなく、
「悪人ならガラの悪い酒場に居るはずだ!」
「寝床付きならそこに泊まるに違いない!」
 と意気込んで走り回っているわけである。
 そこらかしこにネオンが輝き、雑多に人が歩きまわる背徳のエリアで怪しめない人がどれだけ居るかという問題を全く解決できずにきょろきょろと見回すばかりだ。
「そうだ! きっと部屋を暗くしてチラチラ外を見ているに違いない!」
 と、上を見ながら疾走しては人にぶつかって怒られたりしている。

 ……どうしようかね、この豚。
 
 まぁ、このまま見ても進展がなさそうなので少し時間を戻そう。
  
「ここに有能な正義の仲間がいる」
 見た目に反して妙にキリリとしたイベリーの発言に広域特別捜査官ユニアはきょとんとし、それから苦笑して首を横に振る。
「ううん。これは私の任務だもの。誰かに頼るなんておかしいし」
「そう言う物なのか?」
「そういう物よ。誰かに助けてもらう捜査官なんて聞いたことないもの」
「ふむ……」
 感慨深げだが、イマイチ何か考えているようには見えない。
「ヒーローとは孤独なものなのだな」
「……そうね」
 ふと、寂しげな視線を何処かに彷徨わせる。
「だが、仲間を信じる心もまた正義だ。仲間がほしければその酒場に行くといい」
「……イベリーってほんと見た目間違えてるよね」
 クスリと笑みを漏らし、くるりと背を向ける。
「仲間は……当てにできないから私一人でやってるんだもの。やってみせるわよ」
「?」
 どこか背負いすぎた声にイベリーは首を傾げつつも、特に言う事も見つからず見送るのであった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

総合GM神衣舞です。やほー。
今回は情報のまとめ回になりましたねー。
さて、そろそろジョニーの逃亡のからくりは見えてきたと思います。そんなジョニーをどうやってひっ捕まえるか。それが問題になるわけでして。
うまくすれば次に捕縛も可能ですが、私の予想では次で地盤を固めてその次で確保……かな。
年越しになっちゃいましたけど、掲示板進行系のテストとしてはまぁこんなものかなぁと思いつつ。
……次からは3回構成位にしようっとw

来年からはセッションシナリオなんかも増やす予定ですのでお楽しみに。

では、リアクションお願いします。
〜その4〜
(2010/1/7)
「……クソッ」
 悪態をついてジョッキをカウンターに叩きつける。
 ったく……! 何が「安全な逃げ場」だ。
 確かに世界中にネットワークを張り巡らすヤツらから数週間も逃げおおせているのは行幸だって事は俺にだって分かる。ンな事ができるのはシンジゲートを有するような大悪党くらいなもんだ。
 だが……良く分からん連中が俺をかぎまわってやがるのはどういう了見だ。
 「捕まるのが嫌なら飲みに出るな」なんて当たり前のこと言われるまでもねえ。
 けれどもよぅ、飲まずに部屋で縮こまってるだなんて気がおかしくなりそうだ。
「兄さん、飲みすぎだよ」
 気に障る一言に睨み挙げると、仮装大会じゃあるまいし、ライオンみてぇな顔をしたヤツがバーテンの衣装なんざ着込んでこちらを見ている。
「るせぇ! 客に指図すんじゃねえ!」
「ここは楽しく飲む場所だ。兄さん一人で他の客を不快にさせるんなら、お引取り願うんだがね」
「……っ!」
 どんなにガンたれても通じるたぁ思えねえ。どこもここもバケモンだらけ。
「ったぁよ! 出て行けばいいんだろ!」
 蹴りつけるように席を立って店を出る。とたんに冷たい空気が折角の酔いを吹き飛ばしていくようで、苛立ちと不安がアホみたいに頭の中をかき回していく。
「畜生……」
 何度目かもわからない悪態。
 逃げるあてなんか俺には無い。ここで逃げ切るしか無い。
 ──────
「……」
 俺は足を止める。
 それから周囲を確認し、別の道を見つける。幸いにしてそろそろここらの地理も覚えた。確かこっちならそこまで離れる事は無いはずだ。
「何時になったら……!」
 そのおおよそ一分後、忌々しい黒の制服を着た女がそこを通り過ぎるのを俺が見る事はない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「来ましたね」
 ノアノがひょっこり顔を出して確認し、壁に背を預けて腕組みするアイシャへ視線を転じる。
「本当に捕まえないの?
 二人だったら挟み撃ちにもできるんじゃない?」
「うーん。でもアイシャさん、追い込んで逃げられたんですよね?」
 痛いところを突かれたと嫌そうな顔をするのを見てノアノは慌てて手を振る。
「いえ、だから多分挟み撃ちにしてもだめだと思うんですよ。
 どんな能力かはいくつか候補はありますけど、逃げる事に関する物だと思うんですよね」
「否定しないわ」
 と、どちらとなく沈黙する。
 物陰の向こう側。ターゲットのジョニーが機嫌悪そうに歩き去って行く。
「行きましょうか」
「……もう少しだけ距離をとる」
 アイシャは少しだけ考えてそう呟く。
「前にもあの男には気づかれてないはずなのに急にこちらに気づいたもの」
 不自然にきょろきょろとし、それからこちらから離れる方向で走り始めた。
「感知系の能力でしょうか?」
「それにしてはこちらを知覚していなかったわ」
 頃合かとアイシャは動き出し、ノアノもそれに倣う。
「まるで他の人から教えてもらったような、そんな感じね」
「他の人……ですか」
 ノアノが入手した情報もまるでジョニーが二人居るようにも思える話がちらほらと見られた。
「もしかして、今も見られているんでしょうか?」
「……」
 思わず周囲を見渡すが比較的人通りも少なくこちらを覗き見ている気配も特には無い。
 はるか前を歩くジョニーにしても何かにイラつくようではあるが警戒している風には見えないままだ。
「あ、あそこの宿に入りますよ」
 ノアノが指差す先、一見の宿にジョニーが忌々しそうな横顔を晒して入っていく。ブラフの可能性も考慮し、2分ほど見守ってみるが出てくる様子は無い。
「あそこが彼の潜伏場所と見て間違いなさそうですね」
「そうね」
 さて、乗り込むかと思考が動き出すがこちらと何かしらの捜査権限があるわけでなく、クロスロードから賞金首指定されているわけでもない。乱暴な突撃できないし、ごたついている間に同じような逃亡をされかねない。
 一方のノアノとしては何か思うところがあるらしく今回は塒を突き止める事だけが目的らしい。
 細く吐息を漏らし、次の行動について問いを口にしようとしたとき、不意に真逆の方向から声がした。
「ってぇ! 何だぁ!?」
 思わず振り返った二人が目にした物。それは─────

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「そうだ! 犯人は現場に戻ると言うぞ!!」
 彼は不意に悟った。それこそが全ての原点にして解決の鍵だと。
 ゆえに走った。
 現場がどこか分からない気もするがそこはそれ、正義という便利な言葉が全力サポートしてくれるに違いない。
 正義が示す先に現場があるのだ。事件は現場で起こっているんだ。
 というわけで相変わらずむやみやたらに走り回る子豚がいるわけです。
 犬も歩けば棒にあたると言うが、今回はまさにそんな事が起きた。
 まぁ数日走り回って幸運判定にでも成功したんでしょうな。36回に1回は大成功するご時勢ですし。
「ってぇ! 何だぁ!?」
 不意の衝撃。どうやら横の店─────宿から出てきた男にダイレクトヒットしたらしい。
 かなりの速度で走っていたのでイベリーはぽーんとはじき返されて転がり、壁に激突した。
「……ブタ? なんでこんな所走り回ってんだ?」
 ふくらはぎ辺りに全力で突撃された男は、うずくまりつつ転がる子豚をなんとも言い辛い目で見る。
「む、むぅ。不覚」
 ひょこりと起き上がりプルプルと頭を振ったイベリーはぶつかった対象を確認。
「失敬。急いでいたんだ────悪を追ってな!」
「……なんだこのブタ……」
 いきなりみょうちくりんな事をキリリと言い始めたイベリーにとりあえず現状把握が追いついていない男は唖然と痛む足を撫でる。
「時に、ジョナさんを知らないか?」
「……は?」
「ジェナさんだったか? とにかく悪だ」
「……」
 眉間にしわを寄せて黙考。触らぬ方がいい気がしてきたという顔で立ち上がると「知らねえ」と手をひらひら立ち去ろうとする。
 そんな光景を見ていた二人が居る。
「あれって……」
 二人が注目していたのはイベリーでなく、彼が激突した男だ。
 というのもたった今、宿に入るのを確認したはずの男───ジョニーだった。
「どういうことですか?」
 ノアノがやや呆然とした声を漏らすが、アイシャもさすがに即断できない光景だ。
 だがよくよく見てみると僅かに違和感がある。
「あれ、さっきの男なのか?」
「え?」
 言われてノアノも改めて男を見るが、確かに間違い探しのようにどこかしら違和感がある。最たるは先ほどまでのジョニーと服装が若干違うのだ。
 それからぶつかられて不快そうにしてはいるものの、先ほどまでのジョニーにあった焦燥感から来る苛立ちはどうも見えてこない。
「悪を追うことに興味は無いのか?」
「ねぇよ。ったく遊びは他所でやれ!」
「遊びではない。これは正義の所業なのだ。
 見てみろ。この悪い顔を!」
 と、もぞもぞと器用に首に巻いたスカーフだかなんだかから写真を取り出し
「……」
 しばし黙考。
 それからさっさと立ち去ろうとする男をしばし凝視。
「……悪、発見!」
 どうやらようやく気づいたらしい。ぎょっとした男は駆け出そうとするがしたたかに打った足の性で転びかける。
「ちぃっ! ────────!」
 口が何かしらの言葉を紡ぐように動くが声は無い。視線はアイシャやノアノの居る方向の更に先、ちょうど先ほどジョニーを見送った宿の方角だ。
「逃がすか悪めっ!」
 ダッと地面を蹴ってイベリーが突進する。それを転がるように避けながらふらふらと路地へと逃げ込む。
「アイシャさん!」
 言われるまでも無いと駆け出す。この展開は予想外に過ぎるが見逃すわけにも行かない。
「おおぅ!?」
 イベリーの声。
 急展開に混乱しそうになる頭に喝を入れ、路地へと走りこんだ二人が見た物。それは残像を残して消えるジョニーの姿だった。

 ちなみに、そのちょっと先に見事にそんな残像を突き抜けて壁に大激突して目を回している子豚が居るのだが。
 そっちは余りにもお約束過ぎて触るに触れず、しばらく放置されたらしい。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 さてはて、次回が終局でしょうか(=ω=)
 逃亡のカラクリは見えたと思います。ちゃんと前回のお話は意味があるんですよ?
 というわけでリアクションよろしくお願いします。
〜その5(終)〜
(2010/1/16)
「ついに追い詰めたなっ!」
 彼は目を細め、言い放つ。
 今日は冬晴れのいい天気で一見海にも見間違えかねない大河────サンロードリバーの流れも穏やかに見える。
「悪人のパターンなどお見通しだ……!」
 この河を渡る方法は大きく分けて3種類。
 1つは陸路。ニュートラルロードは『扉の塔』を前に2つに別れ、河を前にして石の橋と木の橋がどどんと両岸をつないでいる。
 これについては精霊術により作られたという噂だけがあるものの、「誰が」は未だ噂の域を出ない。
 木の橋は実際生きている。春にはそのところどころに花を咲かせ、夏には葉を、秋には紅葉を見せる。
 そのためその景観を好んで町の人たちは木の橋ルートを好む傾向にある。天気のいい日にはわざわざ散歩がてらにのんびり橋を往く者も居る。
 一方の石の橋はその頑強さから物流に用いられる事が多い。
 2つ目は空路。エンジェルウィングスが提供する飛竜による運送サービスや自ら翼や飛行能力を持つ者は宙を舞い河を渡る。
 そして3つ目は海路……河路と言うべき船での渡河だ。
 まっすぐ対岸に行きたいのにわざわざ門の塔まで赴き、橋を渡るのは面倒とあってサンロードリバーの河原には多くの渡し守が船を並べている。
 渡し守のほとんどはその水底に居を構えるもう一つの町、アクアエリアの住人だ。マーマンや河童、ウンディーネ等の水にその生活の場を持つ者が船や巨大な亀。水で作った乗り物などで渡河をさせてくれる。
「ふっ、簡単だな。
 波止場で待ち伏せだ!!!」
 長くなったがこのクロスロードにおける波止場とはサンロードリバーに点在する船着場の事となる。
 んでまぁ、そこで「でん」と構えたつもりの子豚の声が、冷たい風の吹きつける波止場に響いているという感じでして。
 ちなみにそんな子豚を「何だアレ?」的な目で見る通行人はちらほら居るものの、肝心の犯人だとか悪だとかの姿はどこにも無い。
 なお船着場というか波止場というか……そういうものは両岸合わせて100以上あると言われる。
 彼が居るのはその一つだ。選んだ理由はもちろん正義の勘。
「そもそも犯罪者が波止場から逃亡する」との考えの末らしいのだが、現状のクロスロードでは『扉』を抑えるべきであろう事を助言してくれる人は残念ながら居ない。
 ともあれ。
 彼、イベリは余りにも暇で「自分が何でここに居るんだっけ?」と首を捻るまで、そこに居る事になるのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「おぃ! どういうつもりだ!!」
 胸倉を掴みあげて怒鳴りつけるが、相手は涼しい顔のままこちらを見るのみだ。
「どうもこうも無いあs。捕まりそうだったから逃げざるを得なかっただけ」
「だからって! あれじゃ手の内を晒したようなもんじゃねえか!」
 傍から見ればそれは奇妙な光景だったかもしれない。
 同じ顔の男が片方は怒り、片方は平然と顔を突き合わしているのだから。
「てめぇが絶対安全な逃げ場つーからこんな奇妙な場所にまで来たんだぞ!
 なのに捜査官の奴らまで着やがるし、良くわからねえ連中まで追ってくる始末だ! どうなってやがる!」
「俺も吃驚しているよ。
 とにかく二人で居るとどうしようもない。文句も分かるけどまずは逃げようか?」
 ぎりと奥歯が軋む音が室内に響くがベッドに突き放すようにして男───ジョニー・ダレダは「畜生」と壁を叩く。
「後で話はきっちり付けっからな!」
「分かってるよ兄さん」
 怒りを脚力に込めるように出て行く男を見送る同じ顔の男───ジョニー・ダルダは苦笑しつつ窓の外に視線を送るのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「っ! 最初の宿屋!」
 アイシャがはっとして駆け出す。
 最初のジョニーが宿屋に消え、別の宿屋から出てきたジョニーがイベリに追われていきなり消えた。
 とすれば本命は最初にジョニーが消えた宿屋と踏んだのだろう。
「アイシャさん!? ちょっと待ってよ!」
 慌ててノアノもアイシャに続く。予想通りであるならば今2人のジョニーは一緒に居るはずだ。ならばそこを抑えるのが一番確実である。
 二人がUターンした瞬間、件の宿から飛び出す人影がある。まさしくジョニーだ。
「もう逃がさないよっ!」
 速度を上げて追いかけ始めるアイシャを見てノアノは足を止める。相手の特性が想像通りなら二人で追いかけては本末転倒だ。
 即座に速度を緩め、宿に飛び込む。
「なんだね、お嬢さん」
 カウンターの向こうで新聞を広げる男が、乱暴な扉の開け方に怪訝な顔を見せる。
「さっき出て行った人の部屋教えて!」
「藪から棒だねぇ。こっちと客商売なんだ。そう簡単に教えられるわけないだろ?」
「そうなんですけど!」
 ここがロウタウンなら事情を話せばまだ通じるかもしれないがここはケイオスタウン。そこで宿なんかを経営しているくらいだから多少の裏事情くらい飲み込むのが常套だ。
「202号室だよ、ノアノ君」
「え?」
 いつの間にやら後ろに立っていた男────アドウィックは締まらない笑みを浮かべて帽子の位置を正す。
「おやっさん。ジョニー氏とは約束を取り付けている。入っていいかな?」
 男は怪訝そうな顔をより一層深めて、内線電話に手を伸ばす。
「ど、どういう事なんですか?」
「What? どうもこうもないよ?
 僕は依頼どおり、君達にジョニーを追いかけてもらっただけさ」
 Butと続けて呟き、彼は人の悪い笑みを浮かべる。
「僕は依頼人の本当の意図にいち早く気づき、その上で彼に協力したまでさ。
 Apart from that、彼の所に行こうか」
「彼って……もう一人のジョニーさんですか?」
 言わんとしている事がいまひとつ理解できていないノアノは困惑のままに怪しい探偵を見上げる。
「Correct 追いかけているのがアイシャ君ならそう時間も掛からず追い込めるだろう。
 何しろ、彼らの能力がいかに凄かろうとこのクロスロードではリードに繋がれた犬のような物だからね」
 カウンター越しに「いいよ。入りな」とおやっさんが声をかけてくるのにひらひらと手を振って応じ、彼らは階段を上るのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「待ちなさいっ!」
 全力疾走。細い路地を潜るように走りながら彼女はじりじりとその距離を詰めていた。
 恐らくまっすぐ走る分にはアイシャの方が早いのだろう。ジョニーの有利な点と言えば突発的に路地に飛び込む事くらいだが、すでに彼女にはジョニーがどちらへ行くかおおよその見当はついていた。
 というか、
「逃げているのに逃げていないわね……!」
 ジョニー本人としては全力で逃げているのだろう。しかしある一点を中心として回るようにしか逃げられない事にはとうに気づいていた。
 この多重交錯世界に仕組まれた一つのルール。電波などの通信波は100m以上届かない。それは転移魔法についても適用される。つまりはあの消失のトリックも転移術に関する物と確信できる。
 後ろからノアノが追いかけてきている気配が無い。ちゃんともう一人のジョニーの下に走りこんだのだろう。ならば自分は追い込むだけでいい。
 そう考えた矢先に、ジョニーの行く手をふさぐように立つ少女が見えた。
 先を走る男に狼狽が見える。知っているのだろうか?
「見つけたわ……ジョニー・ダレダ、逮捕します!」
 その言葉に連想し、それがカフェテリアで出合った例の依頼人と同じ意匠であると気付く。
「くそったれ! こんな時に……!」
 周囲に逃げ込める場所は無い。アイシャは足を止めず立ちはだかる少女もジョニーとの距離を詰めていく。
「チィッ!!」
 間合いに入ったのだろう。踏み込んだ少女の目前でジョニーの姿が掻き消える。
「え!?」
 どうやら彼の能力を未だ知らないのだろう。自分が追い詰めて逃がした事を思い出しそうな顔をする少女に苦笑を漏らしつつ振り替える。
 アイシャは息を整えると困惑した表情の少女に歩み寄った。
「ねえ、あなた。依頼人の知り合いでしょ?」
「え? あ、……あの探偵の手下ですか?」
 手下とはお言葉とは思いつつも目に見える焦燥からか怒る気にはなれない。
「ジョニーを捕まえに行きましょ。
 貴女も来るでしょ?」
「……」
 瞳が揺れる原因はプライドだろうか。
 アイシャは一つ肩を竦め、もと来た道を歩き始める。
 ずいぶんと追い掛け回したが、目的地まではどうせ100mも無いはずだ。
 後ろからしぶしぶと付いてくる足音を聞きながら、彼女はノアノが居るであろう宿を目指して来た道を戻るのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「By the way、解答の時間だね」
 安宿の一室。
 お世辞にも広くない部屋に人間が7人も入れば狭苦しいにも程がある。
 アイシャとユニアが室内に入ると同時に狭いのにムダに大仰な動作でアドウィックが宣誓する。
「先輩……どうしてここに……」
 ふてくされているジョニーAと苦笑をするジョニーB。それから所在無くきょろきょろしているノアノに鏡台前の椅子を占有して瞑目する捜査官ジェニック。
 イベリがどこに行ったかはさて置き、勢ぞろいと言うべき様相がそこにあった。
「Rigth out!
 簡単に言うとMr.ジェニックとジョニーB氏は共犯だったというわけだね?」
「共……」
 信じられないとばかりに目を見開く。ジョニーBことジョニー・ダルダもジェニックも一切否定の言葉は発しない。
「どういう事なんですか!」
「まぁこれは犯人に語ってもらう方が早いんだけど。僕の推理を述べさせてもらおう」
 まさしく探偵「きどり」。ムダなアクションを交えつつアドウィックは語る。
「これはMis.ユニアとMr.ジョニーAのテストではなかったのかと」
「Aって何だよ! 俺はジョニー・ダレダだ!」
「だれだれ?」
 ノアノのきょとんとした問いにがーっと噛み付くのをBことダルダが抑える。
 そんなやり取りに笑みを滲ませつつ、黒服の男が低音の声で応じる。
「正解だ探偵」
「テストって何なんですか!!!」
 少女特有の高い声音がキンと室内に満ちた。困惑が怒りに取って代わられるのを受け流すのを見て兄を抑えていた男が口を開く。
「まぁ、俺達の方は世界でも珍しい転移能力者ってことでスカウトを受けたんだよ。
 もっとも、受けたのは俺のほうだけで兄さんとセットだと分かってから、テストが必要かって話になったんだけど」
 ケッとそっぽを向くジョニーA。同じような顔をしているが性格というか気性はまるで違うらしい。
「転移能力は『1人では処理できない』……でしたね」
「詳細は調べてみなければ分からないが、どちらかが転移能力者でどちらかが共感能力者と見ている」
「1人の脳で処理できないなら2人でってことね」
 何のひっかけよ?とアイシャが愚痴る。
「位置情報は自分の場所そのもの、双子とあって転送する生体情報も把握しやすい。
 要するに『転移能力』が不可能である理由を自然と緩和しているというわけだな、この二人は」
 アイシャの言葉をジェニックは肯定しつつ補足する。
「クロスロードを選んだ理由はこの『制約』と見るけど?」
 推理?を続けるアドウィックにジョニーBは「そのとおりです」と応じる。
「俺達のテストではありますが、彼女のテストでもある。
 俺達が本気で逃げたらいかに広域特別捜査官でも1人では捕まえられないでしょ」
「なっ! 私は……!」
 続けようとした言葉が尻すぼみに消える。結局彼女は何一つできないまま町を彷徨ってただけだ。
「つまり、あたし達は噛ませ犬だったってことね?」
 アイシャがぎろりと睨むと「What? 仕掛けたのは彼だよ?」とアドウィックは人を食った笑みを浮かべる。
「その点については謝罪しよう。そしてこの探偵と君達が思う以上に有能だったのは俺の誤算だ」
 ジェニックの言葉にずんと一人暗くなるのはユニアだ。
「まぁ、他にもこの世界の調査等の仕事も兼ねていたんだがな。
 さて、ユニア」
 びくりと少女の体が震える。
「どうだ、やれそうか?」
 鋭い眼光に射すくめられ言葉は出ない。
 視線の集まる中、ユニア・ネスは一分近い沈黙の中を思考の混濁の中で過ごす。
「私は……。ダメかもしれません」
 こぼれるような言葉への反応はそれぞれだ。アイシャは腕を組んで静観し、ノアノは心配そうに捜査官の二人を交互に見る。
「じゃあ合格だ。はー、やれやれ。これで帰れるな」
「え?」
 予想とは真逆の言葉にぽかんとしてしまうユニア。唯一アドウィックだけは笑顔を崩さない。
「ここでゴネるヤツが居るんだよ。下手に才能がある自称エリートってヤツが多いから特にな。
 パートナーの助けが無いからだとか、情報が得られない環境なんか普通無いだとか。ンな甘い仕事じゃねーんだよ」
「え? あ? でも?」
「良かったじゃねーか。失敗が「練習」の時でよ」
 十数秒、困惑に視線を彷徨わせるも、やがてうつむきつつ「はい」と応じる新人捜査官をそれぞれがそれぞれの感想を抱きつつ眺め見ていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「世話になったな」
「Non また何かあったらどうぞ」
「こっちに来たときには頼りにさせてもらう。探偵」
 ここは『扉の園』。彼ら捜査官達の世界に続く扉の前だ。
 握手を交わす二人を横目に三人の女の子も別れの挨拶をしていた。
「と言っても私達はあんまり面識なかったですよね」
 ノアノの言葉に二人は首肯する。
「ずっとあたしたちはジョニーが良そうなところをうろうろしてたからね」
「……あ、そういえばあの子豚さんもあなた達の仲間なんですか?」
 子豚と言われてアイシャは首をかしげるが、ノアノにはすぐに思い浮かぶ存在がある。
「イベリさんですか?」
「ええ。彼にもよろしく伝えておいてください」
 そう言えばこの依頼に参加していたけどどこに行ったのだろうと首を傾げつつノアノは応じる。
「もう少し愚直に任務に励む事にしますって」
「イベリさんにも見習うところはあるんですねー」
 わりかし失礼な呟きにユニアは微笑を浮かべ一つ頭を下げた。
 そうして扉の向こうに去っていく2人+2人。
 やがて扉が閉じたのを確認してアドウィックは振り返る。
「Congratulations!
 君達のおかげでワンランク上の任務達成だったねぇ」
「色々と文句が言いたくなる依頼だったけどね」
 若干どころでないトゲのある言葉にさっと視線を逸らす三枚目。
「ともあれ報酬を支払わないとね。
 また手が足りなかったら協力をお願いするよ」
「はい」
 素直に応じるノアノと仕方ないねと肩を竦めるアイシャ。
「で、Mis.ユニアも言ってたけどイベリ君はどこに行ったんだろうね?」
「探偵でもわからないの?」
「昨日河原で仁王立ちしてたって噂は聞いたんだけどね」
 ふーむと顎に手をやる探偵の言葉に「この寒いのに何で河原?」と二人は顔を見合わせるのだった。

 ちなみに───────────
  当の本人は暇と寒さに耐えかねて、結局街中を爆走していたとさ。

 めでたしめでたし……?

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イベリ君。ちょっと正座しなさい(笑
はい、総合GMの(=ω=)です。IRCでこれニックネームにできないんだよなー。

というわけで無事?ジョニーを探せは終了となります。
実験としての色合いも濃かった今回のお話ですがいかがだったでしょうか。
今回はぬるま湯の結末でしたが次回はちょーっとハードな方向にシフトしていこうかなぁとたくらんでおります。
ぐふふ
……ハードというかダークな気もするけど、ま、いっか☆

報酬等に関しては掲示板の方に掲載しておきますので参照してください。
お疲れ様でした!
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