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【inv02】『世界(あした)へのアプローチ』
再来
(2010/3/27)
 まさに見上げるほどの巨体。
 全長は軽く20mはあるのではないかという巨大な石の人形がそこに鎮座している。
 その姿を初めて目の当たりにした探索者達は一様に息を飲み、そしてこれからこれに挑む事を覚悟する。
「ほら、支度急げよ」
 運転席からエディが露出した車上へと声をかけてくる。
 彼の用いた『アカイバラノヤリ』により、かの怪物に物理攻撃が通用しない事が分かって居る
 それ故に攻撃属性を変えるスキルはこの戦いに措いてまず必須となる力だ。
 実はエディはそれらを敵前で行わなければならないと覚悟していた。が、対象が余りにも巨大なため遠くからの確認が可能と判明。
 さらに近づかない限り動かないようなのでまずは準備行動となったのである。
「とはいえ」
 ピートリーがあきれ半分に呟き、続く言葉に迷う。
 その巨大さは純粋な脅威である。ただ一歩歩くだけでその周囲に爆弾が落ちたような衝撃を与える存在に対し、真っ当な接近戦など挑めない。
 故に方針はあっさりと決まった。
「遠距離砲撃を開始します」
 彼女の合図と共に様々な光が舞った。
 どどどどどという轟音。ゴーレムを取り囲んで撃ち放たれた攻撃が次々と着弾し、表層を抉っていく。

 オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!

 それは果たして声か、それともその巨体が動く時に生ずる音か。
 座して黙していた巨像が地を、大気を震わせてその身を起こす。
 息を呑む。ただ巨大であるという威圧感。ただそのいち挙動が世界を揺るがすという存在感。
 様々な神話で巨人族が神と同列に扱われるという意味を改めて思い知らされる。
「臆してはいけません。先に戦い、残された知識が必ず私達を勝利に導きます!」
 その声は当然彼女の周囲にすら轟音にかき消されて届く事はない。
 だがほんの僅かな沈黙を吹き飛ばすように砲撃が再開されるのを見て彼女は力強く頷いた。
「来ます!」
 ロックゴーレムがではない。その足元から湧き出すように現れたのは土くれで出来た人形───マッドゴーレムだ。
 わらわらと這い出て襲いかかってくるこれらから砲撃要員を守るのが近接職の仕事となる。
 戦士達は己の武器を握り締め不気味な速度でにじり寄って来る土人形を改めて見定める。
 刹那────ぐぉんと大気を歪ませる音。
 一瞬遅れてロックゴーレムの左方で盛大な土煙が立ち上った。
「無茶苦茶ですねぇ」
 アフロ、じゃないピートリーが冷や汗を流しつつ呟く。ロックゴーレムの攻撃で恐ろしいのはその質量故に防御ができない白兵戦だが、遠距離攻撃が無いわけではない。
 マッドゴーレムを生成する要領か、自分の体の一部を変形させ砲弾として投げつけてくるのである。
 その勢いたるや今見た通り。まるでトン単位の爆弾が落ちたような有様である。
「上手く避けてると良いんですけどね」
 ノアノもそちらを見つつ、土ぼこりをはらむ風に目を細めつつ、生み出した炎の槍を石巨人目掛けて打ち放つ。
 彼らを含め殆どの者は車上に居た。
 遠距離砲撃を行った後は必ず移動する。こうする事により単発の砲撃を避けるようにしているのだ。
 ただしこれもマッドゴーレムに囲まれてしまえばどうする事もできない。
 応戦とばかりに砲撃がロックゴーレムの体表を火花で飾る。同時にその周囲で進路を作るべくマッドゴーレムをなぎ払う音が響き渡った。
「まるで神話の光景だね」
 ピートリーの言葉にユエリアは瞑目し、自らが扱える最大級の魔術を構成し始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 もしこの光景を衛星軌道上から見ることが出来たなら。
 それは黒の海にぽつんと浮かんだ空隙に見えるのだろうか。

「震えが止まらないな」
 ノエルの呟きは周囲で無秩序に発生する音にかき消されていく。
 これまで何千何万発と相棒の銃を使い続けてきた。けれどもグリップを握る感触すら曖昧になるほど撃ち続けた事などあっただろうか。
「迎撃を増援組にシフトします。交代のタイミングで浸透を許さないように!」
 6時間経過。
 この戦況を見守り声を挙げ続けている女性は、凛とした響きを声に宿したまま指示を出す。
 空も陸も怪物だらけだった。
 黒の波────怪物の群れに砦が飲み込まれる直前に滑り込んだ増援組の編成がようやく終わったらしい。
「対空砲火を密にしろ! どうせ通り過ぎた奴らは戻っちゃ来ない!」
「落ちてくる敵に気をつけろよ!」
 それは光の魔法だったり対空砲だったり弓だったりと様々だが、急降下してくる飛行系の怪物に雨あられと打撃を加えて落としていく。
「青で浸透! 遊撃隊C、D班は応援を!」
「っ!」
 衛星都市の至る所には色や模様といった特徴のある旗が掲げられている。迷わないための配慮だ。
「ドラゴンで弾薬要求。補給班対応! ライオンでも補給要請!」
「メシ食いたいやつはこっちこい! 負傷者は無理せずさっさと回復を受けろ!」
 耳がバカになりそうな音の中で指示を送る者の声だけがはっきりと聞こえる。
 精霊種や精霊魔法使いが空気を操って情報伝達を円滑にしているのだ。
 また光を操ったり電子機器に強い者が中空にプロジェクターを展開して状況を投影している。
 出身も立場も、人種もなにもかもが違う連中がそれぞれに自分の長所を生かして獅子奮迅の働きをしている。
 見渡す限りに異形の破壊者が蠢く中で、その都市は未だ健在。
 異様な高揚感に手足たる戦士達は怪物達に死を振り撒く。冷静な頭脳役は手足が十全に動けるように指示を与え続ける。
「それでもまだ18時間もあるのか……!」
 両手の銃に弾を食わせて笑う。
 よく分からなくなってきたが楽しくなってきた。冷静になれと諌める声が頭の中で響くが目に付いたバケモノの額に次から次に穴を開けていく作業が痛快でたまらない。
 すぐに弾切れになる。リロード。撃っても撃っても終わりが無い。苦悶と悲鳴だけは一人前に漏らす怪物がどんどんと散っては補充されていく。
 リロード。急所を外してしまったらしいので腹におまけで数発叩き込んでやる。リロード。
「おい、お嬢ちゃん交代だ」
 大振りの手が痛いくらいの力で肩に掛かりはっとする。
「ん……ああ」
「おら、お嬢ちゃんは休んだ休んだ!」
 やや突き飛ばす感じに前に出た男が壁をよじ登り顔を出したゴブリンの頭を蹴り飛ばす。
「今からここは俺達の舞台になるんだからなっ」
 ニイと男臭い笑みを見せられてノエルは苦笑。感覚が失せ始めている両手を改めて認識してどこが冷静だと呟きを漏らす。
「お前達、元気かぁぁぁああああああい?!」
『YEARRRRRRRRRRRRRR!!』
 周囲の音を飲み込むような嬌声。よく見れば新たにやってきた男達は鋲付きの服やらモヒカンやらと似通った雰囲気をしている。一つのパーティだろうか?
 麻薬でもやってるのかという妙なテンションが周囲の音を圧殺する。
「ヒャッハー! パーティの始まりだぜぇええええ!!」
『YEARRRRRRRRRRRRRR!!』
 まさにガンパレード。男達が思い思い手にした重火器を一気にぶっ放す。
 人間とは思えない巨漢が本来設置して使う機関銃を手に持ったまま振り回すように弾をばら撒いたかと思えば「吹き飛べゃあああああ!」なんて叫びながらロケットランチャーをぶち込んでいる男が居る。
「最っっっっっっっっっっ高にフィーバーしようぜぇええ!!」
『YEARRRRRRRRRRRRRR!!』
 なんというか、滅茶苦茶だ。だがその圧倒的な火力に充分な間隙が生まれる。
「ほら、行った行った。ここは俺達のパーティ会場だ!」
 なんというか……冷や水をぶっかけられたような顔をしていたノエルははっとして「……ああ」と苦笑いで応じる。
 今はとにかく体を───いや、精神を休めるべきだ。
「ボクらしくない……のかな」
 衛星都市を包む異様な空気を幻視して、ノエルは中央へと歩を進めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「こっち頼む!」
「はい!」
 その中央でも目まぐるしい戦いが続いていた。
「高位神官を!」
「切り傷くらいなら絆創膏貼ってろ!」
「コラ! 使い終わった止血スプレーをそこらに捨てるな! 危ないだろうが!!」
 なまじ室内であるせいか、むせ返るような血と汗の匂いに誰もがテンションをおかしくしている。
 元より治療師や医師である者が率先しているため安定を保っているが、手伝いで残った者の中には完全に参ってしまって寝込んでしまった例も少なくない。
「セリナさん、大丈夫ですか?」
 看護士服を纏った女性に声をかけられて彼女ははっとして周囲を見渡した。
 彼女は当初前線で付きっ切りの回復支援をしていたのだが、次第に増える負傷者に対し効率が悪いという事で中央の野戦病院にその仕事場を移している。
「ええ、大丈夫です。次の方」
 魔道書を用いた術式で回復魔術の効率を上げたものの、どうしても人間であるが故に疲労は蓄積する。特に魔術であるために時間を負うごとに脳の疲労は増大する。
「ダメです。休みましょう」
「ですが……!」
 見渡す限りけが人の中でセリナはじっとこちらを見る看護士の瞳に息を呑む。
「魔法治療は私達技術医師にとっては悔しいくらいの存在なんです。
 だから、こんな場所で早々に潰れてもらっては困ります」
 真摯に紡がれる言葉に反論する意志が殺がれていく。
「済みません。興奮してますね……私」
「当然です。私達だって同じですもの」
 天使とも称されることのある職に就く女性の、穏やかな笑みにそんな兆候は見られない。ふと視線を転じれば同じように諌められ苦笑と共に天井を仰ぐ神官の姿があった。
「増援が持ってきてくれた医薬品とかもありますからね。暫くは私達に任せてください」
「はい、お願いします」
 微笑み、目を閉じる。
 それだけで意識は驚くほど早く暗闇の底に落ちて行った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「イルフィナ管理官。突出した『怪物』を補足したと一報が入りました」
「……そうか。数は?」
「予想よりもはるかに少ないです」
 南砦を任された青年は執務椅子から立ち上がり、窓辺に立つ。
 まだ視認はできないものの、確かにその先に怪物の群れが居るのだろう。 
「予定通りMOB討伐隊に先制攻撃を依頼します。
 30分後に南砦の扉を閉鎖。迎撃を開始します」
「了解しました」
「それから、フィールド制圧の方はどうですか?」
「先見からは戦闘開始の連絡がありましたが、以後情報はありません」
 青年は目を細めてぶつぶつと何事かを呟く。
「分かりました。本部にも連絡をお願いします」
「了解」
 早足に去る管理組合員を見送り、青年は掛けていたロングコートを手に取る。
「急いでくれよ」
 彼が危惧するのはフィールド制圧組が例え勝利したとしても逃げ場を失う事だ。
 数時間も経たないうちに怪物は十、百、千とその数を増やしていくだろう。
 防衛の要、砦の一角を任された者として、例え英雄的な働きをしたとしても怪物の流入という危険を冒してまで門を開けることはできない。
 彼は指揮官として立つ為に執務室を後にする。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「畜生っ、いつまで粘るんだ、あの石人形はっ!?」
 エディの言葉に応じる者は居ない。ただ焦燥をより濃くするばかりだ。
 すでに戦闘が始まって数時間が経過している。だが岩の巨人はその身を削りつつも未だに健在。足元からマッドゴーレムを吐き出し、自らは岩の塊を形成しては神罰のように振り下ろしている。
「っ!」
 ノアノは不意にそれを見つけ息を呑む。偶然視界にはいったそれは転倒したジープだ。そのすぐ近くにクレーターがあり、割れた岩の破片がごろごろと転がっている。
 一際鋭く長い、まるで投擲槍を思わせる欠片には赤黒い物がべっとりとまとわり付いていた。
 負傷───特に移動手段を失った者は即時戦線離脱をすることになっている。落ち着いて戦えるならば離脱組みを再編成する事も考えられたが、今にも怪物の群れがこの地も飲み込みかねないとあってはのんびり待っているわけには行かない。
 中にはその射程を生かして未だに支援を続けている者も居るが、空と巨人を彩る光と音は明らかにその数を減じている。
「ノアノさん! 右上方っ!」
 ピートリーの鋭い声に我に返った少女はだんだんその大きさを増していく黒影に息を呑む。
「こっちに来るなぁああっ!」
 先んじてエディがとうの昔に割れて砕けたフロントガラスから銃口を突き出して連射。が、それは砕けた余波で宙を舞う破片であるはずなのに巨大。迎撃をいともせず迫ってくる。
「っ!」
 ノアノも無我夢中で炎の弾丸を作り上げ打ち込む。それは見る間に迫った岩石に直撃し、岩に亀裂を走らせる。
「もういっちょっ!」
 ダメ押しだと打ち込んだ氷の槍が決定打となって岩が砕けるが─────
「危ないっ!」
 ドスドスドスと命を削ぐ音が周囲に響き、車両が狂ったような蛇行運転。
 ノアノは自分を掴むピートリー手にすがりつつ振り落とされないように渾身の力を込める。
「カーター!」
 声に応じてぎゅんと動く球体を見たのが最後、間近での炸裂音。小石が物凄い速度で服をかすめ、ノアノは二の腕に痛みを感じる。
 それでもなんとか体制を整えた車両の上、ノアノは突き放すように自らの体を盾にして覆いかぶさるピートリーの下から這い出る。
「大丈夫で─────」
 がすっ
 身の毛が凍るほどに鈍く、そして嫌な音が耳朶に響く。
 まさに目の前でピートリーの頭が凄まじい揺れ方をし、拳ほどの岩がごろりと転がる。
「おい! 今やばい音しなかったか?!」
 光景を見ていないエディが焦りの声を挙げるくらい酷い音がした。あんな速度で当たったら頭蓋骨なんて砕けてもおかしくない。
 それを証明するかのように、ピートリーはずるりと力なく車上に崩れ落ちる。
「あ、アフロさんっ!」
「揺らしたらだめです! 回復薬を!」
 動転するノアノをユエリアが慌てて抑える。頭を打ったのなら下手に動かすのは逆にそれで殺しかねない。
「おい、次が来るぞ!」
 しかしそんな状況だからと時間は止まらない。車が急旋回する音とエディの怒鳴り声。その半瞬後、間近に落ちた岩塊が車体を派手に揺らした。
「っく!」
「うわあああ!?」
 天地がひっくり返ったっておかしくない。そんな錯覚を覚えるほどの衝撃と、そして爆風に右も左も分からなくなりながらとにかく手近な物を掴んでしがみつく。
「アフロさんはっ!?」
 叫んだところでその姿がどこにあるのかすら分からない。
 十数秒してようやく晴れた視界の中、すでに車上にはピートリーの姿は無かった。
「そ、そんな、アフロさん!?」
「なにかなっ!?」
「……え?」
 声は車両後方から。転げるように移動して覗き込むと、手すりを掴んだピートリーが半身をぶらぶらと衝撃に躍らせながら「痛っ!?」「ちょ、早く引き上げて!?」とか言ってる。
「頭は大丈夫なんですか!?」
「なにか凄い誤解を受けそうだよね?その聞き方っ」
 かなり余裕がありそうである。ともあれエドと協力して引き上げてひと段落。
 そうして彼はおもむろに一言。
「アフロが無ければ即死だった」
 ……
 ……
「それが言いたかっただけとか言うなよ?」
 凍りついた空気の中、エディの突っ込みにアフロは一切応えなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 戦闘開始から12時間が経過し、衛星都市周辺は正視に耐えない有様となっていた。
 大地が赤黒く染まっている。土壁はいたるところで崩れ、それを即席のバリケードで封鎖している。
 それでも進入する怪物に満身創痍の探索者が気力を振り絞った攻撃を加えている。
 誰も彼も耳と鼻がバカになっていた。立ち込める悪臭に慣れきってしまい、また絶え間ない爆音で音が遠い。
 戦傷者の数もさることながら戦死者の数も急激に増え始めていた。その主な原因は不運もあるが、慎重さを欠き不意の一撃を受けたものが大半を占めた。
「疲れが認識できなくなってきている」
 元兵士や将として戦った事のある者は何よりもその事実に焦りを覚える。
 人間に限らず戦いの場において精神は体を騙す。本人は十全で戦っていると認識しているのに不意に体が意識に追いつかなくなるのだ。
 避けられて当然の攻撃を受けて土壁から崩れ落ちる者が続出していた。
 壁の向こうに助けに行く事はできない。だが先ほどまで隣で戦っていた者が無常に落下していく様は少なからず精神を蝕んでいく。
「交代だ! シフトを変える! 良いから離れろ!」
 声は聞こえているはずなのに戦う手が止まらない。多少なりにも冷静さを残す者は余りの光景に背筋を冷たくした。
 戦いそのものは有利に進んでいる。間違いなくこの砦の戦力の十数倍の怪物を倒しているはずだ。だがそうと感じさせないこの怪物の海の中、この小さな島が飲み込まれる悪夢を誰もが幻視する。
「ドラゴンだっ!」
 一際強く響く声。神魔に通じ、おおよその世界で上位に立つ者。
 その羽ばたきは大地を行く中小の怪物を吹き飛ばし、しかし気に咎めることも無く衛星都市へと迫ってくる。
「このまま通り過ぎてくれやしないかね」
 誰かの軽口は実際真摯な願いでもあった。
 その一方で情報を統括する管理組合のスタッフは恐慌状態に陥りかけていた。
 防戦の前提条件の中に含まれる「古竜クラスの超大型怪物の不在」が崩れた瞬間だ。情報を統制し、その意味を知るからこそ目の前で起きた事件に愕然とする。
「落ち着きなさい。対竜装備所持者を集めてください。全力で落とします!」
 竜はあらゆる世界でその威を知られるがため、竜に対し効果を持つ武具も多い。
 アースの声に慌しく動き出すスタッフだが、その姿を彼女もまた内心に焦りを抱きながら見ていた。
 彼女は知られた通り地属性魔法ではトップレベルの力を持っている。だからこそ空中に対する攻撃能力が極端に低いのである。
 指示が伝わるより早く射線が竜に集まるが、毛ほども気にしないかのように悠々と空を舞う姿は神々しくもあった。
「竜に惑わされるな! 壁を越えられたら被害が拡大するぞ!」
 必然として周囲の怪物への圧が全体的に弱まり、悪いところでは大型の怪物に手酷い一撃を受けて土壁に大きな亀裂が走る。
「白に増援を!」
「無茶を言うなっ!」
 地上の混乱をあざ笑うかのように竜は悠々と空を舞い、大地に影を落とす。
 無視しろと言われても無理だ。目が見えずとも耳が聞こえずとも、その存在感は精強な探索者の精神を揺さぶる。
「フェニックス被害拡大。支援攻撃できないか!?」
「余裕のあるところ、名乗り出ろ!」
「予備戦力の投入はまだかよっ!」
「この際けが人でも叩き起こせっ!」
 これまで保ってきた壁が崩れる音がする。それでも瓦解しないのはこれまでの十数時間で連携が生まれた事と、各個人が徴兵された兵士とは違い意志を持って戦っている事にあるだろう。
「私がフェニックスの方に出ます。出れる班はまず戦線を立て直せる箇所へ投入。順次回復を」
「了解」
 この状態で座しているわけにもいかない。大地の精霊に呼びかけ、石巨人を作り出す。
「この2時間は出し惜しみしてはなりません。行きます」
 出現したゴーレムがぶん回す腕で怪物が一気になぎ払われる。それが集団で動き回るのだからその制圧力たるや勢いを取り戻させるのに充分だ。
 だが

 GUOOOoooooooooooooooooooOO!!!!!!!!!!

 咆哮─────
 まさに王の号令。
 生命を揺さぶり魂を吹き散らすほどの轟咆があれほど凄まじかった戦の音を蹴散らし制圧する。
「っ!」
 混乱からの脱却。その出鼻を挫かれて正気を保てた者は声の限り指示を飛ばすが、咆哮に威圧されてしまった者の中には失神する者まで居た。
 特に中央で回復や補給役を務めていた『住人』の被害は凄まじく、数分の混乱で発生した負傷者の対応や補給が一気に滞ってしまう。
 矢継ぎ早に報じられる被害状況。不安がずぐりと心臓を抉る。

 戦闘開始から13時間経過。
 衛星都市は悪夢の時間を迎える。

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●主な登場人物●
・ユエリア・エステロンド:衛星都市の元となる水源を発見したパーティの生き残り。
・イルフィナ・クォンクース:管理組合の人。南砦管理官。
・メルキド・ラ・アース:管理組合の人。東砦管理官。衛星都市へ出張中

●特殊用語
・フィールド
 特殊な怪物が持つ空間制圧能力。
 その中では侵入者が不利となる様々な制限をかけられてしまう事が報告されている。
 ロックゴーレムの場合物理系攻撃の一切を無効化し、更に何か追加効力がある様子。

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 にゃふ(=ω=)
 はい、総合GMの神衣舞でやんす。
 「え? なんでここで区切るの!?」って言わせたかったので区切ってみました(マテ
 幕間を挟んで後半戦を公開します。というのもみんな前のめりすぎ……w
 誰一人クロスロード防衛に残らない前向きさに感動してもうドウシヨウと思っていますw
 なのでそのあたりの描写を幕間という形で少々入れないとって感じです。

 では後半戦をお楽しみに。
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