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【inv03】『薄氷の表裏』
〜その0〜
(2010/1/21)
 わたしは永遠にここにある
  わたしはやがて死を受け入れる
 見上げる月は手を伸ばしても届かない
  触れる大地を冷たく感じる
 わたしの世界は暗い塔
  本の挿絵とどれほどの差があるというのか
 たった一つの窓から見える帳色の世界
  現実も心も全ては灰色に閉ざされるばかり
 ああ
  ああ
 わたしは
  わたしは
 ───────
  ────────

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 一人の女性が走っていた。
 年のころは人間種なら15かそこから。背を風受けてなびく髪は美しく、着ている物もデザインはシンプルだが良く見れば絹で作られていると分かる。
 見目麗しい顔───意志の強さを垣間見せるだろう凛とした顔が困惑と焦燥にゆがんでいる。
 しきりに後ろを気にしているのは追われているからだろうか。
 周囲の人は女性を見て、しかし特に何かをしようとする様子は無い。なにしろここでは何が起きてもおかしくない。助けを求められれば手出しをしようとする者ももちろん居るかもしれないが、理由も察せられぬ事態に介入しようとする物好きは
「どうしたんですか?」
 ……まぁ、わりかし居たりする。
 その人物は急に横合いから声をかけられた女性が驚いて足をふらつかせるのを見て、「あら?」と気の抜けた声を伴い受け止める。
 介入者もまた女性だった。しかも超が付くほどの美少女だ。走る女性よりも華奢に見えるのに難なく受け止めて小首をかしげる。
「貴女は……?」
「え? 私ですか? 通りがかりですよ?」
 助けた形になった女性は背景にお花かデフォルメされたお日様の光でも輝きそうなまじりっけの無い笑顔でピントのずれた回答をする。
「何かお困りですか?」
 見た目は年下の女の子。そこに不安────というよりも「巻き込んではいけない」という責任感を覚えたのか、口ごもる女性に近づく男一人。こちらもずいぶんと走ったのか息を切らせている。
「見つけたっ!」
 女性の体がびくりと震える。それで察した少女はくるーりと振り返り、男の姿をロックオン。
「ストッカーとか言うのですかねぇ」
 残念ながら『ストーカー』という単語の存在しない世界出身の女性には突っ込みはできない。まぁ、できても呆然とこの少女を見上げるだけだっただろうけど。
「その女性を渡してくれないか?」
「ヤです☆」
 ぽんと女性の肩を叩いてバランスを保たせると、くるんと半回転。スカートがふわりと浮かんだと思うとある一点で加速のすべてを一方向に収束させる。
 まさに一閃。ドンという音と共に男がぽーんと3mくらい横に飛び、余った慣性でストリートを転がっていく。
 周囲から「おー」というなんともヒトゴトな歓声があがるのを「どーも〜」と笑顔で応じ、少女はぽかんとする女性の元に戻って「じゃあ行きましょうか?」と微笑む。
「行くって……」
「事情をゆっくり伺えるところですよぉ」
 まるで世間話でもしようかという陽気さに追いつかない頭のまま、女性は手を引かれて行ったのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「あのゴーレムの言う通り、面妖な場所だな」
 厳つい顔の武人が入市管理所を抜けた光景を見て呟く。
 近代的な町並みは彼には見慣れぬ光景だ。ましてやそこに歩いているのは人間だけでなく亜人や下手をすれば化け物と呼びかねない存在である。
 エルフやドワーフならば多少なりと城下で見かけることはあるが、この光景は仮装行列にしか思えない。
「人と魔物が争わぬ世界か……気色悪いな」
「そう言う物ではありませんよ」
 たしなめる様にやわらかい声音で彼に声をかけるのは司祭服に身を包んだ初老の男だ。
「神の教えを理解した魔物が人と共に魔を討ったという話があります」
「ふん」
 聞く耳を持つつもりは無いとばかりに鼻を鳴らし、ずかずかとニュートラルロードを歩き始める。
「大丈夫っすかねぇ。変に騒ぎを起こさなきゃいいけど」
 司祭の後ろにひょっこり現れたのは若い男だ。身なりこそ初老の司祭に近いがどう見ても衣装に着られている。
「余計な心配ですよ。彼とて国政に関わる人間ですから、外交の初歩は心得ています」
「なるほど。で? 俺は何を?」
「今はおとなしくしておいてください。場合によっては貴方の手を借りる事になりますから」
「へいへい。んじゃ宿とか探してきますよ。夕暮れ頃にここらで落ち合いましょう」
「頼みましたよ」
 すっと人ごみに消えていく男。司祭はふぅと一つ息をついて見えなくなりつつある武人を追いかけるのだった。

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はい、総合GMの(=ω=)です。これを定着させたいキモチでいっぱいです! 嘘だけど。
新しいシリーズを始めます。大体3話くらいで終わらせたいと思ってます。
この序文でどーしろと!? って感じですがちゃんと依頼掲示板には依頼を書きますのでよろしくお願いします。
ちなみに同時進行中の「世界へのアプローチ」とは微妙に違う時間軸と思ってもらって結構です。

ではよろしくお願いします。
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