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【inv06】『ばとる おぶ せいぎのみかた』
〜その2〜
(2010/6/10)
「……悪かったな。ちょっとした冗談だ」
 ぽんと男の肩を叩いてエディは何事も無かったように席を立つ。銃を突きつけられていた男は眼光鋭く睨み付けてくるが、追いかけてくる気配は無い。自分の役割があるのだろう。
 やがて、最もヤバい視線も自分から離れたのを悟り、彼はは暫く歩いて適当な席に座る。
 テロリストならどうかとも思ったが律法の翼であるという宣言があって関わる気が失せた。連中の噂は僅かながらに聞いているが邪魔をするほどのことじゃないと思っている。ダイアクトーは『悪』を自称している組織だ。自称『善』の連中が手を出すのは当然だろう。
「さて、何をやらかすやら」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ふん、面白いじゃない」
 やる気を見せるダイアクトー三世の後ろで三人はひそひそと言葉を交わす。
「あれは予定外ですよね?」
「ああ……。恐らく過激派だ。たまにちょっかいをかけてくる」
 調整役兼黒タイツの言葉にヨンは不快そうな面持ちを見せる。
「折角楽しい仕事だっていうのに空気を読まない連中ですね」
「まぁ、結構切羽詰まってましたけどね。はっはっは」
 アフロ博士の言葉はとりあえず無視して
「状況的にまずくないですか?」
「……正直あの状態のお嬢様が負けるとは思えないんだが……それはあいつらも承知しているはずだ。
 それでもここで挑んできたというなら……ここで戦いたくは無いな」
 周囲に目配せをする。残る4人の黒タイツは素早くダイアクトー三世を守るように展開した。
「余計な事はしないでいいわよ。あんな奴らあたし一人で充分だわ」
「いえいえ、我々は戦闘員ですから」
「まずは露払いをさせて頂かなくては立場がありません」
「それにお嬢様を煩わせるほどの相手でもありませんので」
「そしてそこに快楽があるかrげふぉ!?」
 約一名はさておき。
 先ほどまでのショウとは明らかに気配が違う。それを感じ取りながらヨンはピートリーに視線を向ける。
「まぁ、適当にあしらって逃げるべきですね。下手に関わると延々絡まれそうですし」
 そう言いながらわさわさと動くアフロからなにやら玉をいくつか取り出す。
「……突っ込みませんよ? で、それは何ですか?」
「煙幕弾と閃光弾です。備えあれば嬉しいなと言いますしね」
「……まぁ、それは良いとして。彼女がやる気のままでは退くに退けませんね」
 視線を転じると律法の翼の二人と黒タイツが間合いの探りあいを始めていた。
「とりあえず口八丁で介入して場を濁しましょう。興が逸れたという感じで撤退するように誘導してもらえませんか?」
「……それが妥当そうだな。よし、お嬢様は何とか説得してみる」
「ならば任せていただきたいっ!」
 びしっと手を挙げるアフロ博士。どっから調達してきたのかマイクを片手にガラクタの山となった巨大ロボットの上によじ登る。
「聞けぇぇえええええええ!!!」
 不意の一声に視線が注目。それを確認して彼はびしりと乱入者を指差す。
「貴様ら、それでも恥ずかしくないのかっ!」
「……」
 返事は無い。だが構わずに彼は続ける。
「古来より変身中に攻撃してはならない、背後から不意打ちをしてはならない。ピンチにならないと巨大ロボットを出してはいけない!
 それがわびさびと言う物だろう! それすら理解できずに何が正義だ! 何が法だっ!!」
 槍使いの女が鬱陶しそうに見上げるが、興を削がれた観客からは「おー」という変な納得の声と拍手が舞い降りる。
「やや、どーもどーも」
 律儀にそれらに応じるアフロ博士。
「まったくです。場を考えたら如何ですか?
 今のあなた方は間違いなく調和を乱し、この闘技場のルールを逸脱している。それでよくも律法などと言う大仰な大儀を掲げられる物ですね」
 そうだ、ひっこめという野次にようやく槍を持った女は苛立ちを見せて声のほうを睨む。
 それから視線を戻し、はんと鼻を鳴らす。
「知ったことじゃないね。そいつらは悪を自称し私達は善を自称しているんだ。そのやりあう場所がたまたまここだっただけに過ぎない。
 それともテロリストが舞踏会の会場に逃げ込んだら終わるまで放置しとくのかい?」
「だがここにはテロリストなんか居ない。というか、苦しすぎないかい。そう思い込もうとするのは」
 ヨンの言葉に目くじらを立てたのは
「テロリストなんて冗談じゃないわ。あたし達は正しい悪の組織なんだから!」
「お、お嬢様、今はおとなしくお願いしますっ!?」
 ダイアクトー三世の方だったりする。それを見てヨンは続けようとした理論展開に最悪の破綻を感じ取った。
 事実上、これはショウだ。闘技場の主催者も観客もそう見ている。だがそれを律法の翼は認めない。それだけなら問題はない。
 問題はダイアクトー三世もこれをショウと思っていない一人なのだ。これでは律法の翼に向けた否定は全てダイアクトーが叩き潰してしまう事になる。仮に「これはパフォーマンスだと分からないのか」なんて事を言えば絶対にキレる。
 ピートリーも「あー」と困ったように口をパクパクさせている。
「ごちゃごちゃ煩いわっ! 正義の味方なんてあたしが全部叩き潰してあげるから掛かって来なさい!」
「言われなくてもっ!」
 槍使いが足の裏が爆発したような加速で一気に間合いを詰める。それを二人の黒タイツがインターセプトし、息のあった動きで槍を上へと蹴り上げる。女はその力に決して力ではむかわずに槍を回転。そのまま体を使ってベクトルだけを操作し、なぎ払いの一撃に変換。一人がもう一人を庇う形で前にでて「あふん」と嬉しそうな声を挙げて吹き飛んだ。
 攻撃の隙を突くように槍の懐に飛び込もうとしたもう一人が横からの圧力に身を震わせる。金属鎧の男が重装を苦も無いとばかりに迫っていた。こうなると掲げる盾は巨人のハンマーに等しい。咄嗟に防御体勢を取り素直に吹き飛ばされた。
 すぐさま残る二人が追撃を防ぐべくフォローに入る。
「ど、どうします? もうばら撒いてうやむやにしますか?」
「……とは言え……ダイアクトーさんをどうやって連れ出すかですね」
 ヨンが調整役に視線を向けると彼はふるふると首を横に振った。
「いつものお嬢様ならなんとかなるが、今は無理だ。三人がかりじゃないと力負けする」
「……じゃあこちらで足止めするので三人がかりでなんとか引きずって下さい」
「ええっ? 結構強いですよ、あの人たち」
 アフロの言葉は間違っていない。現に黒タイツ4人を相手に互角以上の戦いを繰り広げている。特に重装鎧の動きが目覚ましく、盾と鎧を見事に操って全ての攻撃を一人で防ぎきっている。そして黒タイツ一人ひとりの戦闘能力は恐らくヨンよりも高いだろう。
「むしろダイアクトーさんにがつんって殴ってもらった方が早くないですか?」
「そうなんでしょうけどね」
 言いながらヨンは目の前で繰り広げられる戦いを見る。彼らは果たして無策の力押しで乗り込んできたのか?
 黒タイツの先ほどの言葉は納得できていた。ヨンもまた引っかかるのだ。道端ならまだしもこの闘技場には大勢の客が詰め掛けている。正義の象徴を名乗るのであれば彼らはここで無様に負けるわけには行かないだろう。
「彼女を戦わせない方が良い気がします。
 ……いつもはどう収めているんですか?」
「正義役が負けると、いい気になって何かしらドジをする。もしくは結果的に感謝をされて照れて逃げる」
「……なんですか、その萌えキャラは?」
 ピートリーの呟きに調整役はノーコメント。
「と、ともあれ恥しがり屋ということですか?」
「ああ。あの仮面をつけてるから正体がばれてないと思って気が大きくなっているだけだからな。
 ……だが、仮面を取るのはダメだぞ。お嬢様が立ち直れなくなる」
 難儀な子だなぁと緊張感を削いだ感想を抱きつつ膠着状態の戦場から視線を転じる。
「ああ、もうじれったい! あたしがやるっ!」
 そう宣言した瞬間、重装鎧の気配が一変する。周囲四人を無視し、代わりに槍持ちが武器に炎を纏わせた大技で薙ぎ払う。それはあたかもダイアクトーのための道を開けさせるような一撃だ。
「何ですかっ?」
 同時にカーターが観測したデータにアフロ博士が視線をめぐらすと観客席から光が幾条にも走り地面に模様を描いていく。ぞわりとその光に、模様にヨンは根源的な恐怖を抱く。
「神聖術……っ!?」
「お嬢様を止めろっ!」
 黒タイツの1人がなんとかダイアクトーの前に飛び出るが
「あふん☆」
 防御を全くせずに弾き飛ばされる。おまえ、何しに来たんだというくらいに見事に飛んだ。
 槍持ちがあからさまに笑みを作った。
 重装が防御の構えを取る。
 そしてダイアクトー三世が力強く大地を蹴る。

 そして長い数秒が始まる。
 勘の良い者は気付いていた。もしかするとこの数秒の後

 ─────世界がとんでも無い事になるかもしれない。と

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総合GMの神衣舞です。前回に引き続き緊迫状態での引きとなります。
そしてこっそり再来よりヤバイ状態かもしれません。うひひ。
さぁ、これまでの情報を元になんとかしましょう。世界の命運はあなた方の手にかかっています。

補足情報として
・すでに神聖術は完成しているので今から補助術者をどうにかしてもダメ
・神聖術の規模は『超強力』。ヨンが食らうと余波でも蒸発する可能性があります。
 ただ人間種であるピートリーやエディには余り意味はありません。

 さぁ、長くて短い数秒のリアクションをお願いします。
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