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【inv06】『ばとる おぶ せいぎのみかた』
〜その3〜
(2010/6/23)
「っ!」
「とぉっ!」
 ヨンとアフロが同時に駆け出す。
「ダイアクトーさんを止めてくださいっ!」
 吹き飛ばされた特殊趣味の黒タイツ。それが運よく生み出した一瞬の時間を利用して残る三人がダイアクトー三世と盾持ちの間に割って入る。
「謎のヒーロー『V』っ! 危ないですよっ!」
 三人を槍持ちがなぎ払おうと迫る。一人がすぐさま身を翻して迎撃に移るのを見ながらアフロは自分よりも先を往くヒーローに警告を発する。
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
 地面に発生した魔法陣が自分にとって致命的なことは重々承知だ。けれどもえも知れぬ悪寒がそれ以上の災厄を訴えていた。
「アフロさん、そっちに吹き飛ばします!」
「うぉっ!?」
 ヨンの言ってる意味が分からずにうろたえている間にも加速。
「あんた達、邪魔よっ!」
 完全にやる気のダイアクトーの罵声を目前に聞きながらヨンはその横をすり抜けると同時に急制動。
「ごめんなさいっ!」
「っ!?」
 制動のエネルギーを体術で転換して、吹き飛ばす事を目的とした一撃。完全に不意を付かれたダイアクトーはその身が小柄である事も助長して予想以上に吹き飛ばされる。
「アフロ博士っ!」
「おぅいえー任せろっ!」
 飛んできたダイアクトーをキャッチしてそのまま白衣で包む。「なにすんのよっ!」と大暴れするが、その力は心なし弱い。
 下の魔法陣のせいですかね。と考えながらとりあえずダッシュ。小柄な体を小脇に抱えて煙幕をぶん投げる。
「良い方法だ」
 その背後で黒タイツの声。どごっと凄まじい音がしたかと思うとアフロの横を凄いスピードで何かが通り過ぎて、瓦礫の山に激突した。
 それがヨンだと気付いた瞬間
「発動するぞ、そのまま潜ってろ!」
 慌ててピートリーは白衣の団子を抱きすくめ、世界が白に包まれる。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「……」
 観客席はざわめきに満ちていた。客席から俯瞰すれば描かれた魔法陣が神聖なものであると言う事は何となく察せられる。
 野次馬を決め込むつもりだったが、とエディは武器に手を伸ばす。新調したばかりのこれをこんな場所で使うとは思っていなかった。
 周囲が慌てふためく中、標的を目視。術に集中しているせいか身じろぎ一つしていない。
「随分とまぁ、狙ってみると遠いな」
 有効射程のずっと外だ。思わず嘯いて舞台の光が強まるのを感じる。時間は残されてないようだ。
 弓矢と違って銃には有効射程距離と到達距離と言う物がある。火薬式のハンドガンの場合有効射程距離はおおよそ4〜5mだ。これは確実な効果を与えられ、なおかつ一定以上の命中率を確保できる距離と言う意味で捉えるべき数字だ。4〜5mを越えるといきなり弾が消失するわけではない。そして威力も突然ゼロになるわけではない。
 今エディがすべき事は術の妨害だ。威力だけは馬鹿高い単発式の銃を手に彼は標的をじっと睨んだ。
「外しても怨むなよ」
 その中で死力を尽くしているだろう連中に言葉を零し、彼は輝きを増す世界の中で引き金を引いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 おおよそ5秒後。
 不意に光は消え、魔法陣は姿を消す。
 展開していた律法の翼のメンバーは一様に「予定外の事態」にたじろぎ周囲を見渡す。
「撤収するぞ!」
 盾が腹に響く声で怒鳴る。すでに二人の前に黒タイツは居ないためその行動を阻害する者は居ないし、ピートリーがこれでもかとばら撒いた煙幕で視界も定かではない。
「えーっと。ふははは、何が律法の翼だ。所詮は────」
「いや、ピートリーさん。うちら、今回正義の味方役ですから」
 光が収まったので出てきたヨンが腹を撫でながら呆れ声で突っ込む。どうやら黒タイツに思いっきり蹴られたらしい。
「おっとそうでした。
 ……俺が、正義だ?」
「いや、そういうのはちょっと置いておいて。それ、ダイアクトーさんですよね?」
「そういえば忘れていました。大丈夫ですか?」
 白衣をかけた上に光の発生源から背を向けるように抱きしめていた物から手を離すと。
「っ」
 それはばっと白衣を投げ捨てるように飛び出したかと思うと着地と同時にくるんとターン。
 はて?とアフロが思った瞬間────
「何するのよぉぉぉおおおっ!!!」

 ごぎゃっ

 見事すぎる裏拳が炸裂し、首だか頭蓋骨だかから良い音を響かせたアフロがきりもみ飛行をしつつ舞台に落下した。
「う、うわぁ……」
 再生能力を持つために多少の攻撃は許容する主義のヨンだが、あれは喰らいたくないと心のそこから思う程見事な一撃。
「あ、あんた達絶対に許さないんだからねっ!」
「え? ええ?」
 びしりと指差されてヨンはうろたえるしかない。ダイアクトーが状況を全く理解していないのは承知の上だったのだが……
 どう考えても今敵意を向けるべきは間違いなくこちらではないだろう。顔の見えてる部分が滅茶苦茶赤いのは憤怒のためか。
「特にそこのアフロは絶対に死なすっ!」
 ヨガもびっくりの姿勢でぴくぴくして、すでに死に掛けている気がする状態なのでもちろん返事は無い。
「えーっと……じょ、状況わかってますか?」
「言われるまでも無いわよ! アンタはあたしのお腹を蹴って、そいつはドサクサに紛れてあたしのむ────」
 そこで言いよどみ、うーっと唸る。
「帰るっ!」
 たっと地面を蹴って観客席へ。その境界にある結界をおもむろに掴んで
「邪魔っ」
 まるでふすまを開けるかのように横に引き裂いて出て行ってしまった。
「……えー?」
 この闘技場の結界は昨年末のグランドチャンピオンシップで超級の魔術が炸裂しても耐え切ったと評判なのだが。
 常識はずれの出来事に呆然とすること数秒。
 ふと気がつけば。
 闘技場全ての視線がただ一人舞台に立つヨンに集まっていた。
 それは余りにも空虚で、行き場の無い視線が仕方なくそこに集ったと言う
「い、居心地悪いですね」
 そう呟かざるを得ない物で。
 多分彼らが望んでいるのはそれだろうなぁとは判断しつつも、ヨンは我に返ってしまった手前どうしても圧し掛かってくる照れをなんとか飲み込み、高らかに手を振り上げた。
「見よ! 正義は勝つっ!」

 シーーーーーーーーーーーーーーーーン

 胃に穴が開くかと思った。

 が、その数秒からぱらぱらと降り注いできた拍手。『舞台の幕引き』。どうしたもんかと途方にくれる彼らに対する行動は、ひとまず成功したらしかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 とりあえず事実だけを整理しておこう。
 闘技場での被害は魔属性の来訪者が多少やけどした程度でたいした被害はなかった。これは術がすぐに停止したからというところが大きく、あと10秒も続いていれば例え結界の外であろうともその光に焼かれて命を落とす者が出てもおかしくなかった。
 主犯であった律法の翼過激派の神官イァイリエムは200万Cの賞金首となったが目下行方不明。事件当日に目撃情報のあった闘技場VIP席にはかなりの血痕が残されていたという。
 律法の翼はイァイリエムの行方を知らないとしている。匿われているのはまず間違いないだろう。事務所を構えて慈善活動をしている穏健派と異なり過激派はそのアジトも定かではない。
「はーっはっはっは!」
 それからダイアクトーはというと、今日も元気に悪事(笑)を繰り広げていた。
「おや、ヨンさん。こんにちわ」
 ふとその傍を通りかかったとき、黒タイツが倒れたまま挨拶をしてきた。声の調子からあの調整役だろう。
「こんにちわ。大変そうですね」
「いやいや、いつもの事です。ああ、またお嬢様がわがまま言い始めたらお願いしますよ」
「ええ、あー……う」
 妙な敵視のされ方してるんですよねと高笑いするダイアクトーを眺める。多分あの時の捨て台詞からすると「女の子のお腹を蹴るなんて以下略」なんだろうが。戦闘中でしかも助けるための行動にそんな事言われてもなぁと今更に思う。
「ああ、でもアフロ博士さんには警告して置いてください」
「え?」
「詳しくは口にしないのですがアフロ博士を恐ろしく敵視していましてね」
「……絶対に死なすとか言ってましたっけ」
 瓦礫に叩き込まれてる間に何をしたんだろうと苦笑。
「まぁ、お嬢様のことなので同じ格好をしない限りは気付かないと思いますが」
「実は近眼とかじゃないですよね?」
「不思議ですよね」
 側近が言うなという感じではあるが、ご満悦でヒーローに扮した黒タイツに攻撃をするダイアクトーの姿をほのぼのと見る。
「でも良いんですか? また律法の翼がちょっかいかけてきそうなものですけど」
「ゲリラ的にやる分には大丈夫だろうと。向こうも準備なしに早々お嬢様をどうにかできるとは思えないので」
 消されそうになった方としてはそんな気楽に考えていいものかと悩むが、考えても無駄だと思考を打ち切った。
「あ、わ、わ、わ?」
 飛び乗った木箱がぐらりと揺れて、さっさと飛び降りれば良いのにそのまま巻き込まれて盛大な砂埃を上げる。
「今日は終わりだな」
 起き上がった黒タイツの向こうで残りの黒タイツがせっせと片づけを開始している。いつもより数が多いが、後で話に聞いたファンクラブとか言う連中だろう。
「お嬢様の事だ。不意に再戦を思い立つだろうからその時はよろしく頼みます」
「あー、考えておきます」
 改めてのお願いに苦笑しながら作業を始める背を見送った。
「おや、ヨンさん、奇遇ですな」
 蠢くアフロ。もといピートリーがひょいと近づいてくる。
「……微妙に運が良いですね」
「はて、何がですか?」
 木屑の中で目を回しているだろうダイアクトー三世を慮りつつ「夕飯でもどうですか」とこの場からの撤収を提案する。

 謎のヒーロー『V』とアフロ博士が再びクロスロードに現れるかは、今のところ誰も知らない。

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 というわけで総合GMの神衣舞デス。イェイ。
 ……『イェイ』って泣いてる顔に見えなくね? どーでもいいけど。
 さて、これにて【inv06】ばとる・おぶ・せいぎのみかた は終了となります。
 随分と対応に悩んでいただいてなによりです。
 ちょっと思ったことは普段ロールをすると正義側に立つ事が多いせいか、(自称)悪人の考え方について行っていない、って感じかな。ぶっちゃけダイアクトーはめんどくさい子なので(笑)「うぉ、そんな事やっちゃうのかい?」って思うリアクションがちらほらと。
 こういうところは物書き(笑)の性分か、きっちりリアクション取らせちゃいますので存分に悩んでください。
 ちなみにアフロ博士がなにやらかしたかはご想像にお任せします。多分ダイアクトー以外に事実を知る者はいないはずです。だってry

 で、では。次のイベントも宜しくお願いします。
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