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【inv06】『ばとる おぶ せいぎのみかた』
〜その0〜
(2010/5/11)
「ねえ」
 玉座に座る少女が誰にと無く問いかける。
「最近思うんだよね。ヒーローって弱すぎない?」
「ダイアクトー様のお強さ故です」
 代表して全身タイツの1人が応じると「そんなの当たり前よっ」と言いながら蹴りを入れられる。子気味いい音がして黒タイツは壁まで吹っ飛んだ。
「私が期待しているのはそういう言葉じゃないの」
「ダイアクトー様の美しさ故ぐほっ!?」
「じゃあダイアクトー様の可愛いらぶへぇ!?」
「ならばダイアクトー様のげぼぉっ!?」
「俺も蹴ってぶべらっ!?」
「何か最後変なの混じったけど……まぁいいわ」
 玉座に座りなおして睥睨する。
「やっぱりヒーローは正義の象徴。それを無残に潰せば愚民どもは恐怖に怯えるわ。
 でも弱いヒーローじゃダメなの。強いヒーローをけちょんけちょんにしてこそと思うのよ」
 おーと言う感嘆詞と共に拍手。とても統一された───言い換えればコテハンの動きだが、彼女はお気に召したらしい。声のトーンを一段階上げる。
「でも出てくるヒーローはみんな弱いのよ。これじゃだめだわ」
 そりゃあそうだろう。何しろヒーロー役も交代交代で黒タイツが変装しているのだから。間違っても彼女を傷つけてはならないがバレても困るというぎりぎりのラインで戦いを繰り広げている。困る事はあっても危機に陥った事など一度も無いはずだ。
「もっと強いヒーローを探して。いつもの連中はもう飽きたわ!」
「……」
 顔を見合わせる黒タイツ集団。
「返事は?」
 問われれば答えは一つしかない。
「「「「「「御意!!!!」」」」」」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「とは言ったものの」
 黒タイツAが言った。
「どうする? お嬢様に怪我されるわけにもいかんし」
 黒タイツBが言葉を引き継ぐ。
「いや、もう傷を云々という心配をした戦い方じゃお嬢様は納得しないのだろう」
 黒タイツCの神妙な言葉に全員が驚きの雰囲気を漏らす。顔も隠れて居るのでジェスチャーと雰囲気で推し量るしかない。
「だがっ!」
 Dの言葉をCは断ち切る。
「旦那様もお嬢様の教育としてこのクロスロードに留学させているのだぞ」
「あれ? そうだっけ?」
 Eはぽつりと零す。全員沈黙。口にしたCもまた「うん、そんな事実は無かった。スマン」と謝罪。ぶっちゃけ面白そうだからでここに来ているだけである。
「だが我々ではお嬢様を傷つけることがまず許されん」
 F? あー、Bだっけか? めんどくさい。『黒タイツ』が言うと「そこが一番の問題だ」と黒タイツが応じる。
「お嬢様の望みを叶えるには他の来訪者に頼む他無い」
「だが……万が一の事があれば!」
 黒タイツの大胆な意見に黒タイツが食って掛かる。
「無論その可能性もある。だから我々が居る。逆に考えるんだ。お嬢様をサポートすると言う本分に立ち返ることが出来るんだぞ?
 それにいつまでも子供扱いするわけにもいかない。多少の傷はこの際目を瞑るべきだ」
 黒タイツは冷静に諭し、他の黒タイツはうーんと考え込む。
「だが当然KYな律法の翼などには依頼できない。
 一般の探索者の中から選ばなければならないだろうな」
「あいつら容赦無いからなぁ」
 悪の組織を名乗るがため、律法の翼(特に過激派)からはたまに襲撃を受けることがある。
「そういえば最近純白の酒場に来る客でわりかし気のいい連中が居るという噂を耳にしたな」
「ほう」
「その辺りに依頼すればなんとかなるかもしれん」
「だが、腕は確かなのか?」
 黒タイツが神妙な声で問う。
「ああ、そっちの問題もあったな」
 別の黒タイツが呟き、だが答えは誰の口からも出ない。
「なぁ、次々回からにしないか?」
 今まで一言もしゃべっていなかった黒タイツがおもむろに口を挟む。
「何を……お嬢様は次の対戦からを望まれている。それを……」
「次なんだ……」
 その黒タイツの中に篭るような熱のある言葉に黒タイツが息を呑む。
「次が俺が殴られる番というのに。みすみす他人にぶべらぁああああ!?」
 全員の物理ダメージを伴うツッコミに黒タイツダウン。
「も……もっと……!」
 留めの一撃が決まった。
「ともあれ時間もない」
 何も無かった。暗黙の了解の下で黒タイツは皆(一名を除く)に告げる。
「物は試しとも言う。早速行動に移ろう」
「「「「「応」」」」」

 そうして悪の組織は動き出したのだった。
 かっこわらい

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

総合GMの神衣舞だぜぃ(=ω=)
というわけで隠れた人気を誇る(どこで?)ダイアクトーとその一味が動き出すコミカルシナリオとなります。
まぁ、今回はジャブなので長くても2話くらいになります。

……むしろ黒タイツ集団@戦闘員の方が気に入り始めたんだが、そこは内緒な?
〜その1〜
(2010/5/28)
「では、まず概要を説明いたしましょう」
 ビジネススーツに眼鏡をかけ、金髪を七三分けにした男がにこやかに口を開く。
「今回の催し物は『乱入』というサプライズを目的としています」
「はぁ……?」
 動作は軽やかだが動くたびにピシリミシリと縫製が悲鳴を上げさせている男にヨンはやや引きつった声で応じる。
 体の隅々まで筋肉。どう見てもお前の着るスーツは黒で、眼鏡はサングラスだと指差して言い放ちたいという衝動を抑えつつ話に耳を傾ける。
「闘技場でのイベントマッチにダイアクトーが乱入。場の占拠を宣言します。
 そこに貴方達も乱入し、食い止めんと戦うという演出ですね。
 ただしダイアクトー側はこれを演出と思っていません。なので全力で戦ってください」
「ほほう。それは心沸きますなぁ」
 アフロが心のそこから楽しそうに頷く。非戦闘系の彼のことだ。戦いにでなく演出に、だろう。
「ええと、それで我々は勝てば良いんですか?」
「どちらでも結構です。本気で戦って客を盛り立てる事が狙いですからね。
 一般的な世界なら何としても正義側に……ということもあるでしょうが、ここはクロスロードですし、ダイアクトーはダイアクトーで人気がありますから」
「ちなみに演出の方はどうですか? 爆発とか煙幕とか!」
「元々闘技場にそういう演出設備もありますのである程度は自由になります。
 ただ戦闘中の演出は危険なので登場時や敗退時の演出がメインになるでしょうね。
 ああ、あとご存知だと思いますが闘技場には安全装置が備わっており、致死ダメージを受けると自動的に保護されます。安心して戦ってください」
 クロスロードの闘技場はスポーツ的な娯楽と力試しを主にしているらしい。というのもそういう日常から乖離した血生臭い演出を求めるのは非戦闘な人たちである。町の大半が戦いに身を置き、外からの脅威も身近なこの町では賞金稼ぎや力試しの色合いの方が濃くなって居るようだ。
「ほほーーー! いいですね!!いいですね! ぜひ派手にやりましょう。
 いやぁ懐かしいですねぇ。子供の頃は採石場に爆薬を仕掛けたものです」
「……」
 子供が遊びで爆薬を扱うのはいかがな物かと思いつつも
「……」
 ピートリーがその手に気付く。そしてにやりと笑ってがっしりと握手。
「いいですね、それ!」
「分かりますか! いや、分からなくても分かるべきですよね!!」
「はい!」
 ヨンさん。実は事前にヒーローショウの予習をしてきたらしいのですが、見事にハマったらしいです。はい。
「いやぁ、ノリの良い方が着てくださって助かります。
 では展開についてお話を進めましょう。
 ああ、ちなみにダイアクトーの戦闘員の方数名とは話をつけていますので」
「ほほう。それは演技の幅が広がりますね!」
 いい年した男三人が顔を突き合わせて熱く語り合う様はこの後3時間ほど続いたらしい。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「今日だよなぁ?」
 エディがやや胡散臭そうな顔をしつつ闘技場のゲートを潜る。
 怪しさ満点の依頼を気にはしつつも参加にまでは踏み切れなかった彼はどんな事をやるつもりかと見物にきていた。
 コロッセオに概観を似せては居るものの、内部は屋台やグッズ売り場がずらり並んでおり、資料館なんてものもあるらしい。ちょっとしたテーマパークを思わせる。行きかう人も殺し合いを見に来たというよりはスポーツ観戦を楽しみに来たような明るい雰囲気だ。中には特定の選手のおっかけみたいな人も居る。
 所々にある大型モニターを見ると現在行われている試合が表示されていた。今日は年に一度行われるチャンピオンズリーグの予選が主に組まれているらしい。
『本日のプログラムを受領しました。参照が可能です』
 PBからのメッセージ。とりあえず連中が参加するだろう試合を探すが、少なくとも名前は見当たらない。
「ありえるとすると、このイベントマッチってやつかな?」
 プログラムの中ごろにあまりぱっとしない試合が1つ組まれている。どっかの錬金術師が作ったゴーレムと戦士が戦うらしい。
 それまでだいたい一時間くらいある。折角来たのだから適当に楽しむかと呟き、適当なスナックと飲み物を求めに場内をうろつくのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「うぉおおおお!!」
 メイスの一撃がゴーレムの腕を叩き、カァアアアアアンと甲高い音を響かせる。相手がゴーレムと言う事でチョイスした武器らしいがゴーレムに何の痛痒も与えていない事は明白だ。
 贔屓目に見てもコメディに近いやり取りは観客にトイレ休憩だろうかと思わせる程だ。茶番にも満たない。
 見切りを付けた人の流れが飲食の補給等に向こうとしたとき、それは起こった。

 ドォオオオオオオオオオン!!!

 突如闘技場、それも観客席の一角で強烈な煙が上がったのだ。
 不意打ちに泡を食う観客だが─────
「なんてお粗末な試合なのっ!」
 幼いながらに凛として、マイクも必要も無いほど響く声。
 場内は何事かと探るように静まる中、各所で声が上がる。
「ダイアクトー様だっ」
 伝言ゲームのように広がる囁きに好奇の視線が錯綜する。そして煙幕を突っ切るようにして小柄な影が飛び出し、危なげも無く闘技場の舞台に降り立った。
 黒を基調とした禍々しい革鎧には所々に刺々しい装飾が備え付けられている。靡く赤髪を背に払い、続く動作でピシリと実況解説席を指差した。
「この闘技場はこのダイアクトー三世が占拠するわ!!!」
 目元を仮面で隠した少女の宣言に場内の一部から歓声が上がる。
「ふん、あたしに支配されて喜ぶ愚民どもも居るようね」
 よーく聞くと「ダイアクトーちゃんかわいいー」だとか「いいぞー、もっとやれー」とか、どう考えても尊敬と崇拝から程遠い内容なのだが彼女が気にする事はない。
「うふふ。いいわね。私をあがめなさい。私の力で世界を恐怖に叩き込んであげるわ!」
 ぽかんとしていた人たちもダイアクトーの噂はちらほらと耳にしている。これが本当のイベントマッチだと察して席に戻り始める。

「待ちなさい!!」
 
 闘技場のスピーカーを使っての一喝。
「何ヤツっ!?」
 振り返り見上げるといつの間に用意されたのか、せり出した台の上に立つ影1つ。
「貴様らの悪行をこれ以上見過ごすわけには行かない!」
「何物だっ!」
 背後に控えていた黒タイツの一人が叫ぶ。
「貴様らに名を名乗る必要も無いが……問うならば応えねばなるまい!
 我が名は『V』。悪を狩る勝利のヒーロー『V』だ!」
 どーんと背後で色の付いた煙が弾けるとなんとなくノリを理解した観客からやんやと歓声が上がる。中の人の声が凛々しいせいもあるだろう。
「はぁん? ヒーローのお出ましねっ、良い度胸じゃない!」
「ダイアクトー様、まずは我々が」
 すっと前に出る黒タイツ達。「珍しいわね。あんた達が前に出るなんて」と少し意外そうに呟くが、「まぁ、いいわ。お前達程度でどうにかなるようなヒーローに用はないしね」と笑みを浮かべる。
「何人でもかかって来い! とうっ!」
 防御力0を堂々と謳えそうなカラフルなスーツに身を包んだ『V』が軽やかに着地。すぐさま加速して黒タイツを迎え撃つ。互いに無手。一人目のパンチを受け流し続く連撃も打ち払う。すぐざま足払いを放って浮いた黒タイツのどてっぱらを蹴り抜くと、派手に後方に飛んで二人目を巻き込む。
 左右に展開して挟み討った三人目と四人目の息のあった攻撃を屈む事で紙一重で避け、追撃を前転することでさらに回避する。すると五人目が蹴りを放ってくるが両手をクロスさせてガード。後ろに転がる回転を変えつつ首が地面に付いたタイミングでぐいと押し返し宙に押しやると最小の動作で立ち上がり落ちてくる背中にパンチ一発。取り囲もうとした3人目と4人目にぶつかって転がっていく。
 そうすると棍棒を構えた六人目と七人目が待ち構える。『V』は腰に挿していた銃を抜くとトンと側面を叩く。するとどうだろう銃口部分が延びて剣の形に早変わりした。
 一合、二合と剣と棍棒が激しく互いを打ち鳴らし、黒タイツがどんと強く押しのけると『V』はたまらず体勢を崩してしまう。好期とばかりに踏み込んできた五人目だが『V』は即座に後ろ足を踏ん張って前へ。虚を突かれて反応できない五人目の腹を剣が薙ぐと、バチバチと派手な放電音と共にバーンと意味不明な爆発が起こり派手に吹き飛ぶ。それを当然のようにしながら返す刃で七人目を切り裂くと、同じく電気が走りばーんと爆発する。
「……役に立たない連中ねっ!」
 だんと地団太を踏みつつもオープンになっている小さな唇は笑みの形を取っている。
「いいわ、あたしが直接相手してあげる!」
 ダイアクトー三世が手を一振りすると真紅の鞭が現れる。
「ここからが本番ですね」
 『V』は相手に届かない距離で一人ごちる。
「あたしの前に立ちふさがった事を後悔しなさいっ!」
 どっ、と地面が鳴いた。何の音かと惚ける頭に対し、脊髄が締め付けるような危機感に手を動かせと命じてくる。

 がっ

 右腕に焼け付くような痛み。気が付けばダイアクトー三世が3m先に立ち、鞭のベクトルを変えている。
 ちらり右腕を見るとスーツが引き裂かれていた。
「何重にも敷いた防御膜を……っ」
 流石に呟きも引きつる。先ほどの黒タイツたちとのやり取りはただの演舞ではない。各々が『V』に付与魔術を掛けながらのやりとりである。今の『V』には予め付与した防御魔術の他にも各種能力値を向上させる魔術が掛けられていた。
「ちょっ、お嬢様いきなり《第二制御魔術解除(セカンドリミットリリース)》っ!?」
 倒れた(振りをしている)黒タイツの1人が焦った声を挙げる。
「ボーっとしてると死ぬわよ、ヒーローさんっ!」
 ひゅんと鞭が鳴き、その速度は目視可能な範囲をあっさり逸脱。「正面だ、腕をクロスして防御っ」必死の囁き声に意味も分からず応じた瞬間、両の腕にとんでもない衝撃が走り、体はあっさり宙を舞って観客席前の壁に叩きつけられる。
「あっけないわね」
「はっはっは、それはどうかなぁっ!?」
 不意に横合いからやたら胡散臭い声が響き渡る。
 続いてばしゅっと地面から大量の煙が噴出し、やたらカッコだけはつけた曲が闘技場全体を包み込む。
 そんな中せり上がってきたのは────巨大ロボだ。
 その肩に立つ男は白衣にアフロ。彼はがしょんとしっかり地面に立った巨人の上でニイと笑う。
「人呼んでアフロ博士、ただいま推参!」
 妙なポーズを決めるアフロ博士とやらと巨大ロボット。余りの超展開っぷりに分けが分からず指差して笑ってる観客も居る。
「へいへい、ダイアクトーさんよぅ。この正義の巨大ロボットが相手するぜぃ!?」
 どう見てもお前の方が悪役です。本当にありがとうございました。
「ピートリーさん、予定変更です! 彼女の攻撃力は計算外っ」
「はぁ? 何ですか? よく聞こえないんですが」
 ばばばばばんと派手な演出が巻き起こる中、『V』が一次撤退をジェスチャーするが、登場の派手な土ぼこりなどで声も動作も届かない。
「いいわね、こういう展開大好きだわっ」
 はじけるような明るい声。ん?と忘れていたダイアクトーの方に視線をやったアフロ博士は軽々と8mはあろうという彼のところまでジャンプし、そのまま細い腕を巨大ロボットの顔面に叩き込む。

 めきょ

「えっ?」
 驚いたのはダイアクトーの方。予想よりも遥かに脆い感触にバランスを崩して思いっきり巨大ロボットの顔面に突っ込んでしまう。ネタ晴らしをすればこの巨大ロボットはほぼ廃材の塊。動力部を適当にごまかし、関節部を強化の魔術で補強しただけのガラクタ山である。
 見た目がやたら格好良いのは宙に浮いているカーターからの映像投射のおかげだったのだが。もちろん実物はごらんの有様なので
「わぷっ!?」
 金属もあっさりぶち抜く攻撃力を有したダイアクトー三世は、思いっきりロボの顔面部に飛び込んでメキメキと派手な音を立てた。表面が映像のため、見た目はまるで巨大ロボットが彼女を食べてしまったようにも錯覚できる。
「……」
「……」
 そんなシュールな光景の中、腹に当たる部分でメキョ、バキと破壊音が響く。
「こんな破壊力聞いてないですよっ!?」
「す、スマン。お嬢様が妙にやる気になってしまったらしいっ……」
 黒タイツの一人がよろよろと起き上がる演技をしながら周囲を見渡す。そこで初めて気付くが倒れた黒タイツの数が若干少ない。
「っていうか、あんたあの調整役でしょ!?
 お嬢様ってどういうことですか」
「なっ、何故それを!?」
「流石は『V』、まさかそんな秘密に気付くなんて!?」
 アフロ博士がムダに驚いているが、本気か演技か判断に苦しむので無視。
「と、とにかく事情は後で話す事を約束する。
 今は超やる気になったお嬢様が更にテンション挙げないうち上手く敗退する方法についてだ」
 破壊音が派手に響く中、流石に反論の言葉は躊躇われた。
「闘技場の結界魔術は恐ろしく優秀だが安全装置については性質上やや不安がある。
 上手くダメージコントロールをしてくれ」
 その一撃を目の当たりにした『V』ことヨンの喉から「無茶な」と言葉が出かかった瞬間
 ばんと巨大ロボの腹が弾けた。
「やっと出られたわ。まさかこんな罠なんで思いもよらなかったわ。やるわね……!」
「ま、まさかこんなにあっさり罠が破られるとは!?」
「いや、罠じゃないでしょうに」
 オーバーアクションでダイアクトー三世に応じるアフロに、ヨンが冷静に突っ込む。
「ええい、かくなる上はっ!?」
「いや、それ、悪役(こっち側)のせりふですからね?」
 調整役黒タイツの突っ込みとか無視してアフロ博士はきょろきょろと見渡し。
「まだ、何か用意していましたっけ?」
「してないと思うよ」
「デスヨネー」
 だらだらと脂汗を流し始める。
「……もうネタ切れかしら。ふふ、少しは楽しめたけど所詮木っ端のヒーロー。あたしという巨悪の前に平伏すのが定めよっ!」
 風にマントと赤い髪をなびかせながらピシリと指差し宣言され、「ぬぅぅぅぅうう!」と悔しがるアフロ博士。
「ええい、かくなる上は最終手段だっ!」
 今、もうネタが無いと言ったばかりなのにばっと白衣をはためかせる。最後の手段と言われて警戒するダイアクトーに対し、彼はにやりと笑みを作った。
「せん─────」
 その言葉を遮るかのように闘技場の一角に降り立つ影。
「援軍ってわけ?」
 楽しそうにそちらを見るダイアクトー三世だが、
「あれ、誰?」
「知らないですよ。っていうか、今何を言おうとしたんですか?」
「戦略的撤退」
「……」
 こそこそとやり取りをしつつ新たな乱入者を確認。男女のペアで片方はフルプレートの重装にその二周りも大きくなった体が充分に隠れるほどの盾を持っている。もう片方の女は軽装の革鎧にロングスピアといういでたちだ。
「っ、あいつら」
 調整役黒タイツがある点に気付いて声を漏らす。
 二人の鎧に刻まれたエンブレム。このクロスロードに措いて『翼』をシンボルにしている組織と言えば挙がる名前は2つ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「平和だねぇ」
 『V』とかいうやつの戦闘までは闘技場らしい出し物だったのだが、あのアフロが出てきてからとたんにコメディになってしまった。
 まぁ、箸休めみたいなもんかね。とエディは割かし楽しんでいるらしい周囲の顔を眺める。
「ん?」
 笑うか呆れるか。観客の反応は大体この2種類だが、ふと視界に留まった男は違った。
「……」
 素早く視線を走らせる。彼の視線は闘技場の観客席、それも決まった数点を巡るように見ている。それを追ってみれば何人か同じように首をめぐらす者の姿がある。クロスロードで武装したまま歩くのは珍しくないが、全ての条件を合わせてみれば余りにも挙動不審だ。
 舞台の上ではダイアクトーとか言う女がロボットの腹から飛び出してきたところだ。アフロのあからさまに取り繕った言い様に大爆笑が巻き起こっている。『V』とアフロ博士、それからダイアクトーには小型マイクが付いているらしく、観客席にはその声が届いているのだ。
 エディは立ち上がり何気ない動作で男の隣に座る。男の肩がびくりと震え、あからさまにこちらを気にするのを無視。
 男が一番気にしているポイントはどうやら特別席の上部らしい。ごみごみした場所で観戦するのを嫌ったりする人が利用するVIP席というやつだ。当然人の密度はそんなに無い。その最上部にやたら物々しい杖を持った人族の姿がある。

『せん─────』

 アフロが格好つけて何やら宣言しようとした瞬間、観客席前方から闘技場に2人が飛び込んだ。
 それと同時に隣の男は荷物から水晶玉を手に取り周囲に目配せを、そしてVIP席に座る杖持ちを見上げた。何をしようとしているのかは分からないが……
「よぅ、兄ちゃん。何をしようとしてんだい?」
 新たな乱入者に注目が集まる中、クイックアクションで銃を抜いたエディは周囲に見えないように男のわき腹に拳銃を突きつける。
「な、何をする……!」
「俺が聞いてるんだが? っと、動くなよ。サイレンサーくらい付いてるから容赦なく撃つぞ」
 サイレンサーについてはブラフだが、男からは体を捩らないと銃口は見えない。
「我々はクロスロードの秩序のために行動をして居る。心あるなら邪魔をするな」
「秩序だと?」
 眼下では乱入者がなにやら宣誓をしているようだが……
 ぞくりとした。
 視線。いくつもの視線がこちらに集中している。いや、有象無象は良い。VIP席に座る杖持ちが一直線にこちらを見据えている。
「もう一度言うぞ。俺たちはクロスロードの秩序のために行動している。アンタが秩序を乱す者でなければ銃を降ろせ」
「……乱す者だったらどうするってんだ?」
 内心の動揺を押し殺してニイと笑う。
「抹殺する」
 こいつはヤバイ。銃を突きつけられた男の驚愕はすでに治まり、その視線に宿るのは覚悟の色だ。
 残り時間はそう無い。今までの経験が首筋をチリチリさせながら訴えかけている。
「お前らは……」

『我々律法の翼はここでダイアクトーと名乗る悪を討つ!』

 舞台から響き渡る女性の声に舌打ちを堪え、エディはどうするべきかを決めた。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

ギャグシナリオで終わると思ったら大間違いだ!(=ω=)
というわけで総合GMの神衣舞です。
今回のシナリオのメインゲストはダイアクトーだけでなく律法の翼(過激派)もだったりします。
そろそろこのあたりを表現したかったので。
さて、今回の律法の翼の行動は明らかに「お前らが迷惑だよ」なんですが、ちゃんと行動は理に適っていたりします。
「警察が空気読んで犯罪者見逃したらだめだよね?」
穏健派はわりかし空気読むんですが過激派は強い治安維持組織を目指しているため、悪名が勝っても構わないし、むしろそれを望んでいます。いくら警察が鬱陶しいからと警察に積極的に喧嘩を売りに行くのは馬鹿馬鹿しい。そういう風潮を作りたいのです。

ここら辺は説明しとかないとって事でちょっと長めですが。
次回のリアクションをよろしくお願いします。
〜その2〜
(2010/6/10)
「……悪かったな。ちょっとした冗談だ」
 ぽんと男の肩を叩いてエディは何事も無かったように席を立つ。銃を突きつけられていた男は眼光鋭く睨み付けてくるが、追いかけてくる気配は無い。自分の役割があるのだろう。
 やがて、最もヤバい視線も自分から離れたのを悟り、彼はは暫く歩いて適当な席に座る。
 テロリストならどうかとも思ったが律法の翼であるという宣言があって関わる気が失せた。連中の噂は僅かながらに聞いているが邪魔をするほどのことじゃないと思っている。ダイアクトーは『悪』を自称している組織だ。自称『善』の連中が手を出すのは当然だろう。
「さて、何をやらかすやら」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ふん、面白いじゃない」
 やる気を見せるダイアクトー三世の後ろで三人はひそひそと言葉を交わす。
「あれは予定外ですよね?」
「ああ……。恐らく過激派だ。たまにちょっかいをかけてくる」
 調整役兼黒タイツの言葉にヨンは不快そうな面持ちを見せる。
「折角楽しい仕事だっていうのに空気を読まない連中ですね」
「まぁ、結構切羽詰まってましたけどね。はっはっは」
 アフロ博士の言葉はとりあえず無視して
「状況的にまずくないですか?」
「……正直あの状態のお嬢様が負けるとは思えないんだが……それはあいつらも承知しているはずだ。
 それでもここで挑んできたというなら……ここで戦いたくは無いな」
 周囲に目配せをする。残る4人の黒タイツは素早くダイアクトー三世を守るように展開した。
「余計な事はしないでいいわよ。あんな奴らあたし一人で充分だわ」
「いえいえ、我々は戦闘員ですから」
「まずは露払いをさせて頂かなくては立場がありません」
「それにお嬢様を煩わせるほどの相手でもありませんので」
「そしてそこに快楽があるかrげふぉ!?」
 約一名はさておき。
 先ほどまでのショウとは明らかに気配が違う。それを感じ取りながらヨンはピートリーに視線を向ける。
「まぁ、適当にあしらって逃げるべきですね。下手に関わると延々絡まれそうですし」
 そう言いながらわさわさと動くアフロからなにやら玉をいくつか取り出す。
「……突っ込みませんよ? で、それは何ですか?」
「煙幕弾と閃光弾です。備えあれば嬉しいなと言いますしね」
「……まぁ、それは良いとして。彼女がやる気のままでは退くに退けませんね」
 視線を転じると律法の翼の二人と黒タイツが間合いの探りあいを始めていた。
「とりあえず口八丁で介入して場を濁しましょう。興が逸れたという感じで撤退するように誘導してもらえませんか?」
「……それが妥当そうだな。よし、お嬢様は何とか説得してみる」
「ならば任せていただきたいっ!」
 びしっと手を挙げるアフロ博士。どっから調達してきたのかマイクを片手にガラクタの山となった巨大ロボットの上によじ登る。
「聞けぇぇえええええええ!!!」
 不意の一声に視線が注目。それを確認して彼はびしりと乱入者を指差す。
「貴様ら、それでも恥ずかしくないのかっ!」
「……」
 返事は無い。だが構わずに彼は続ける。
「古来より変身中に攻撃してはならない、背後から不意打ちをしてはならない。ピンチにならないと巨大ロボットを出してはいけない!
 それがわびさびと言う物だろう! それすら理解できずに何が正義だ! 何が法だっ!!」
 槍使いの女が鬱陶しそうに見上げるが、興を削がれた観客からは「おー」という変な納得の声と拍手が舞い降りる。
「やや、どーもどーも」
 律儀にそれらに応じるアフロ博士。
「まったくです。場を考えたら如何ですか?
 今のあなた方は間違いなく調和を乱し、この闘技場のルールを逸脱している。それでよくも律法などと言う大仰な大儀を掲げられる物ですね」
 そうだ、ひっこめという野次にようやく槍を持った女は苛立ちを見せて声のほうを睨む。
 それから視線を戻し、はんと鼻を鳴らす。
「知ったことじゃないね。そいつらは悪を自称し私達は善を自称しているんだ。そのやりあう場所がたまたまここだっただけに過ぎない。
 それともテロリストが舞踏会の会場に逃げ込んだら終わるまで放置しとくのかい?」
「だがここにはテロリストなんか居ない。というか、苦しすぎないかい。そう思い込もうとするのは」
 ヨンの言葉に目くじらを立てたのは
「テロリストなんて冗談じゃないわ。あたし達は正しい悪の組織なんだから!」
「お、お嬢様、今はおとなしくお願いしますっ!?」
 ダイアクトー三世の方だったりする。それを見てヨンは続けようとした理論展開に最悪の破綻を感じ取った。
 事実上、これはショウだ。闘技場の主催者も観客もそう見ている。だがそれを律法の翼は認めない。それだけなら問題はない。
 問題はダイアクトー三世もこれをショウと思っていない一人なのだ。これでは律法の翼に向けた否定は全てダイアクトーが叩き潰してしまう事になる。仮に「これはパフォーマンスだと分からないのか」なんて事を言えば絶対にキレる。
 ピートリーも「あー」と困ったように口をパクパクさせている。
「ごちゃごちゃ煩いわっ! 正義の味方なんてあたしが全部叩き潰してあげるから掛かって来なさい!」
「言われなくてもっ!」
 槍使いが足の裏が爆発したような加速で一気に間合いを詰める。それを二人の黒タイツがインターセプトし、息のあった動きで槍を上へと蹴り上げる。女はその力に決して力ではむかわずに槍を回転。そのまま体を使ってベクトルだけを操作し、なぎ払いの一撃に変換。一人がもう一人を庇う形で前にでて「あふん」と嬉しそうな声を挙げて吹き飛んだ。
 攻撃の隙を突くように槍の懐に飛び込もうとしたもう一人が横からの圧力に身を震わせる。金属鎧の男が重装を苦も無いとばかりに迫っていた。こうなると掲げる盾は巨人のハンマーに等しい。咄嗟に防御体勢を取り素直に吹き飛ばされた。
 すぐさま残る二人が追撃を防ぐべくフォローに入る。
「ど、どうします? もうばら撒いてうやむやにしますか?」
「……とは言え……ダイアクトーさんをどうやって連れ出すかですね」
 ヨンが調整役に視線を向けると彼はふるふると首を横に振った。
「いつものお嬢様ならなんとかなるが、今は無理だ。三人がかりじゃないと力負けする」
「……じゃあこちらで足止めするので三人がかりでなんとか引きずって下さい」
「ええっ? 結構強いですよ、あの人たち」
 アフロの言葉は間違っていない。現に黒タイツ4人を相手に互角以上の戦いを繰り広げている。特に重装鎧の動きが目覚ましく、盾と鎧を見事に操って全ての攻撃を一人で防ぎきっている。そして黒タイツ一人ひとりの戦闘能力は恐らくヨンよりも高いだろう。
「むしろダイアクトーさんにがつんって殴ってもらった方が早くないですか?」
「そうなんでしょうけどね」
 言いながらヨンは目の前で繰り広げられる戦いを見る。彼らは果たして無策の力押しで乗り込んできたのか?
 黒タイツの先ほどの言葉は納得できていた。ヨンもまた引っかかるのだ。道端ならまだしもこの闘技場には大勢の客が詰め掛けている。正義の象徴を名乗るのであれば彼らはここで無様に負けるわけには行かないだろう。
「彼女を戦わせない方が良い気がします。
 ……いつもはどう収めているんですか?」
「正義役が負けると、いい気になって何かしらドジをする。もしくは結果的に感謝をされて照れて逃げる」
「……なんですか、その萌えキャラは?」
 ピートリーの呟きに調整役はノーコメント。
「と、ともあれ恥しがり屋ということですか?」
「ああ。あの仮面をつけてるから正体がばれてないと思って気が大きくなっているだけだからな。
 ……だが、仮面を取るのはダメだぞ。お嬢様が立ち直れなくなる」
 難儀な子だなぁと緊張感を削いだ感想を抱きつつ膠着状態の戦場から視線を転じる。
「ああ、もうじれったい! あたしがやるっ!」
 そう宣言した瞬間、重装鎧の気配が一変する。周囲四人を無視し、代わりに槍持ちが武器に炎を纏わせた大技で薙ぎ払う。それはあたかもダイアクトーのための道を開けさせるような一撃だ。
「何ですかっ?」
 同時にカーターが観測したデータにアフロ博士が視線をめぐらすと観客席から光が幾条にも走り地面に模様を描いていく。ぞわりとその光に、模様にヨンは根源的な恐怖を抱く。
「神聖術……っ!?」
「お嬢様を止めろっ!」
 黒タイツの1人がなんとかダイアクトーの前に飛び出るが
「あふん☆」
 防御を全くせずに弾き飛ばされる。おまえ、何しに来たんだというくらいに見事に飛んだ。
 槍持ちがあからさまに笑みを作った。
 重装が防御の構えを取る。
 そしてダイアクトー三世が力強く大地を蹴る。

 そして長い数秒が始まる。
 勘の良い者は気付いていた。もしかするとこの数秒の後

 ─────世界がとんでも無い事になるかもしれない。と

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総合GMの神衣舞です。前回に引き続き緊迫状態での引きとなります。
そしてこっそり再来よりヤバイ状態かもしれません。うひひ。
さぁ、これまでの情報を元になんとかしましょう。世界の命運はあなた方の手にかかっています。

補足情報として
・すでに神聖術は完成しているので今から補助術者をどうにかしてもダメ
・神聖術の規模は『超強力』。ヨンが食らうと余波でも蒸発する可能性があります。
 ただ人間種であるピートリーやエディには余り意味はありません。

 さぁ、長くて短い数秒のリアクションをお願いします。
〜その3〜
(2010/6/23)
「っ!」
「とぉっ!」
 ヨンとアフロが同時に駆け出す。
「ダイアクトーさんを止めてくださいっ!」
 吹き飛ばされた特殊趣味の黒タイツ。それが運よく生み出した一瞬の時間を利用して残る三人がダイアクトー三世と盾持ちの間に割って入る。
「謎のヒーロー『V』っ! 危ないですよっ!」
 三人を槍持ちがなぎ払おうと迫る。一人がすぐさま身を翻して迎撃に移るのを見ながらアフロは自分よりも先を往くヒーローに警告を発する。
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
 地面に発生した魔法陣が自分にとって致命的なことは重々承知だ。けれどもえも知れぬ悪寒がそれ以上の災厄を訴えていた。
「アフロさん、そっちに吹き飛ばします!」
「うぉっ!?」
 ヨンの言ってる意味が分からずにうろたえている間にも加速。
「あんた達、邪魔よっ!」
 完全にやる気のダイアクトーの罵声を目前に聞きながらヨンはその横をすり抜けると同時に急制動。
「ごめんなさいっ!」
「っ!?」
 制動のエネルギーを体術で転換して、吹き飛ばす事を目的とした一撃。完全に不意を付かれたダイアクトーはその身が小柄である事も助長して予想以上に吹き飛ばされる。
「アフロ博士っ!」
「おぅいえー任せろっ!」
 飛んできたダイアクトーをキャッチしてそのまま白衣で包む。「なにすんのよっ!」と大暴れするが、その力は心なし弱い。
 下の魔法陣のせいですかね。と考えながらとりあえずダッシュ。小柄な体を小脇に抱えて煙幕をぶん投げる。
「良い方法だ」
 その背後で黒タイツの声。どごっと凄まじい音がしたかと思うとアフロの横を凄いスピードで何かが通り過ぎて、瓦礫の山に激突した。
 それがヨンだと気付いた瞬間
「発動するぞ、そのまま潜ってろ!」
 慌ててピートリーは白衣の団子を抱きすくめ、世界が白に包まれる。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「……」
 観客席はざわめきに満ちていた。客席から俯瞰すれば描かれた魔法陣が神聖なものであると言う事は何となく察せられる。
 野次馬を決め込むつもりだったが、とエディは武器に手を伸ばす。新調したばかりのこれをこんな場所で使うとは思っていなかった。
 周囲が慌てふためく中、標的を目視。術に集中しているせいか身じろぎ一つしていない。
「随分とまぁ、狙ってみると遠いな」
 有効射程のずっと外だ。思わず嘯いて舞台の光が強まるのを感じる。時間は残されてないようだ。
 弓矢と違って銃には有効射程距離と到達距離と言う物がある。火薬式のハンドガンの場合有効射程距離はおおよそ4〜5mだ。これは確実な効果を与えられ、なおかつ一定以上の命中率を確保できる距離と言う意味で捉えるべき数字だ。4〜5mを越えるといきなり弾が消失するわけではない。そして威力も突然ゼロになるわけではない。
 今エディがすべき事は術の妨害だ。威力だけは馬鹿高い単発式の銃を手に彼は標的をじっと睨んだ。
「外しても怨むなよ」
 その中で死力を尽くしているだろう連中に言葉を零し、彼は輝きを増す世界の中で引き金を引いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 おおよそ5秒後。
 不意に光は消え、魔法陣は姿を消す。
 展開していた律法の翼のメンバーは一様に「予定外の事態」にたじろぎ周囲を見渡す。
「撤収するぞ!」
 盾が腹に響く声で怒鳴る。すでに二人の前に黒タイツは居ないためその行動を阻害する者は居ないし、ピートリーがこれでもかとばら撒いた煙幕で視界も定かではない。
「えーっと。ふははは、何が律法の翼だ。所詮は────」
「いや、ピートリーさん。うちら、今回正義の味方役ですから」
 光が収まったので出てきたヨンが腹を撫でながら呆れ声で突っ込む。どうやら黒タイツに思いっきり蹴られたらしい。
「おっとそうでした。
 ……俺が、正義だ?」
「いや、そういうのはちょっと置いておいて。それ、ダイアクトーさんですよね?」
「そういえば忘れていました。大丈夫ですか?」
 白衣をかけた上に光の発生源から背を向けるように抱きしめていた物から手を離すと。
「っ」
 それはばっと白衣を投げ捨てるように飛び出したかと思うと着地と同時にくるんとターン。
 はて?とアフロが思った瞬間────
「何するのよぉぉぉおおおっ!!!」

 ごぎゃっ

 見事すぎる裏拳が炸裂し、首だか頭蓋骨だかから良い音を響かせたアフロがきりもみ飛行をしつつ舞台に落下した。
「う、うわぁ……」
 再生能力を持つために多少の攻撃は許容する主義のヨンだが、あれは喰らいたくないと心のそこから思う程見事な一撃。
「あ、あんた達絶対に許さないんだからねっ!」
「え? ええ?」
 びしりと指差されてヨンはうろたえるしかない。ダイアクトーが状況を全く理解していないのは承知の上だったのだが……
 どう考えても今敵意を向けるべきは間違いなくこちらではないだろう。顔の見えてる部分が滅茶苦茶赤いのは憤怒のためか。
「特にそこのアフロは絶対に死なすっ!」
 ヨガもびっくりの姿勢でぴくぴくして、すでに死に掛けている気がする状態なのでもちろん返事は無い。
「えーっと……じょ、状況わかってますか?」
「言われるまでも無いわよ! アンタはあたしのお腹を蹴って、そいつはドサクサに紛れてあたしのむ────」
 そこで言いよどみ、うーっと唸る。
「帰るっ!」
 たっと地面を蹴って観客席へ。その境界にある結界をおもむろに掴んで
「邪魔っ」
 まるでふすまを開けるかのように横に引き裂いて出て行ってしまった。
「……えー?」
 この闘技場の結界は昨年末のグランドチャンピオンシップで超級の魔術が炸裂しても耐え切ったと評判なのだが。
 常識はずれの出来事に呆然とすること数秒。
 ふと気がつけば。
 闘技場全ての視線がただ一人舞台に立つヨンに集まっていた。
 それは余りにも空虚で、行き場の無い視線が仕方なくそこに集ったと言う
「い、居心地悪いですね」
 そう呟かざるを得ない物で。
 多分彼らが望んでいるのはそれだろうなぁとは判断しつつも、ヨンは我に返ってしまった手前どうしても圧し掛かってくる照れをなんとか飲み込み、高らかに手を振り上げた。
「見よ! 正義は勝つっ!」

 シーーーーーーーーーーーーーーーーン

 胃に穴が開くかと思った。

 が、その数秒からぱらぱらと降り注いできた拍手。『舞台の幕引き』。どうしたもんかと途方にくれる彼らに対する行動は、ひとまず成功したらしかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 とりあえず事実だけを整理しておこう。
 闘技場での被害は魔属性の来訪者が多少やけどした程度でたいした被害はなかった。これは術がすぐに停止したからというところが大きく、あと10秒も続いていれば例え結界の外であろうともその光に焼かれて命を落とす者が出てもおかしくなかった。
 主犯であった律法の翼過激派の神官イァイリエムは200万Cの賞金首となったが目下行方不明。事件当日に目撃情報のあった闘技場VIP席にはかなりの血痕が残されていたという。
 律法の翼はイァイリエムの行方を知らないとしている。匿われているのはまず間違いないだろう。事務所を構えて慈善活動をしている穏健派と異なり過激派はそのアジトも定かではない。
「はーっはっはっは!」
 それからダイアクトーはというと、今日も元気に悪事(笑)を繰り広げていた。
「おや、ヨンさん。こんにちわ」
 ふとその傍を通りかかったとき、黒タイツが倒れたまま挨拶をしてきた。声の調子からあの調整役だろう。
「こんにちわ。大変そうですね」
「いやいや、いつもの事です。ああ、またお嬢様がわがまま言い始めたらお願いしますよ」
「ええ、あー……う」
 妙な敵視のされ方してるんですよねと高笑いするダイアクトーを眺める。多分あの時の捨て台詞からすると「女の子のお腹を蹴るなんて以下略」なんだろうが。戦闘中でしかも助けるための行動にそんな事言われてもなぁと今更に思う。
「ああ、でもアフロ博士さんには警告して置いてください」
「え?」
「詳しくは口にしないのですがアフロ博士を恐ろしく敵視していましてね」
「……絶対に死なすとか言ってましたっけ」
 瓦礫に叩き込まれてる間に何をしたんだろうと苦笑。
「まぁ、お嬢様のことなので同じ格好をしない限りは気付かないと思いますが」
「実は近眼とかじゃないですよね?」
「不思議ですよね」
 側近が言うなという感じではあるが、ご満悦でヒーローに扮した黒タイツに攻撃をするダイアクトーの姿をほのぼのと見る。
「でも良いんですか? また律法の翼がちょっかいかけてきそうなものですけど」
「ゲリラ的にやる分には大丈夫だろうと。向こうも準備なしに早々お嬢様をどうにかできるとは思えないので」
 消されそうになった方としてはそんな気楽に考えていいものかと悩むが、考えても無駄だと思考を打ち切った。
「あ、わ、わ、わ?」
 飛び乗った木箱がぐらりと揺れて、さっさと飛び降りれば良いのにそのまま巻き込まれて盛大な砂埃を上げる。
「今日は終わりだな」
 起き上がった黒タイツの向こうで残りの黒タイツがせっせと片づけを開始している。いつもより数が多いが、後で話に聞いたファンクラブとか言う連中だろう。
「お嬢様の事だ。不意に再戦を思い立つだろうからその時はよろしく頼みます」
「あー、考えておきます」
 改めてのお願いに苦笑しながら作業を始める背を見送った。
「おや、ヨンさん、奇遇ですな」
 蠢くアフロ。もといピートリーがひょいと近づいてくる。
「……微妙に運が良いですね」
「はて、何がですか?」
 木屑の中で目を回しているだろうダイアクトー三世を慮りつつ「夕飯でもどうですか」とこの場からの撤収を提案する。

 謎のヒーロー『V』とアフロ博士が再びクロスロードに現れるかは、今のところ誰も知らない。

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 というわけで総合GMの神衣舞デス。イェイ。
 ……『イェイ』って泣いてる顔に見えなくね? どーでもいいけど。
 さて、これにて【inv06】ばとる・おぶ・せいぎのみかた は終了となります。
 随分と対応に悩んでいただいてなによりです。
 ちょっと思ったことは普段ロールをすると正義側に立つ事が多いせいか、(自称)悪人の考え方について行っていない、って感じかな。ぶっちゃけダイアクトーはめんどくさい子なので(笑)「うぉ、そんな事やっちゃうのかい?」って思うリアクションがちらほらと。
 こういうところは物書き(笑)の性分か、きっちりリアクション取らせちゃいますので存分に悩んでください。
 ちなみにアフロ博士がなにやらかしたかはご想像にお任せします。多分ダイアクトー以外に事実を知る者はいないはずです。だってry

 で、では。次のイベントも宜しくお願いします。
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