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【inv08】『Walkers the Nigth』
〜その1〜
(2010/07/12)
 数多の世界、数多の種族が交錯する街クロスロード。
 それ故に数多の文化風習が入り乱れ、発する問題も多い。
 その代表格が『冠婚葬祭』である。ある者からすれば決して行ってはならない禁忌もまたある者からすれば正式な神事だったりするのだから当然と言えば当然だろう。それが一目に付くのであればなおさら。
 『祭』───いわゆる「お祭り」は基本的に神事ではあるが、人々のストレス発散の場に変化する事はどこでもある話だ。しかしその理由はもちろん様々で時期もばらばら。その全てを行っていたらクロスロードは年中お祭りになってしまう。(それはそれでOKな人も居るだろうが)
 そこでクロスロード発足の後、いくつかの祭りが「公式行事」として設定されている。



「『Walkers the Nigth』運営本部、ねぇ」
 『夜を往く』と訳すべきか。
 ガスティはケイオスタウンに設置されたその事務所に訪れていた。そして、
「なんだ、この気配?」
 なんと言うか、薄ら寒いというか……ゾクゾクするというか。えも知れぬ妙な感覚に首を傾げる。
「何か用?」
 と、後ろから声をかけられる。
「ええ、パレードの護衛っていう仕事で着たんですが」
 振り返って、ずざっと距離を取る。
「困ったねぇ。驚いて逃げてくれないと回り込めないじゃないか」
 身構えられては困ると少し不満げに言うが、その顔にはその言葉を発した口は無い。それどころか目も鼻も耳も無い。
「え、あ、えーっと」
「こら、ノッペラ。客人に何をしてんのさ」
 すると壁の向こうから女性が顔を出してくる。
「いやぁ、つい。この人護衛の希望者だって。シュテンさん中に居たっけ?」
「さっきイバラギの旦那が着たからって酒を飲み始めてるよ」
 ゆらゆらと揺れる女の頭。
「ああ、旦那ももう着てるのか。あの人おっかねーからなぁ」
「なに、酒さえ飲んでれば大人しいもんさ、おっとお兄ちゃん、入って入って」
 いいながら女がすたすたと壁の向こうから出てくる。
「……」
 とても長い首を壁の上から戻しつつ、女はおやと首を『?』の形にする。
「あんた、妖怪種を見慣れてないのかい?」
 妖怪種?と疑問が浮かぶ。PBがすぐさま彼の世界の表現で説明をするが、単に首が伸びる、顔が無いというだけの『脅かし系』妖怪はどうもしっくりとこない。
「まぁ、いいや。こっちだよ」
 おどけるように肩を竦めた女がくるりと振返ってガスティを案内しようとして。
「おい、クビナガ、危ないぞ」
 げんと、良い音を起てて彼女は後頭部を壁にぶつけたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ほほぅ。もうそんな時期じゃなぁ」
 大図書館の一角にあるカフェテラス。オープンキッチンでコック姿の老人が夏の日差しを見上げて笑みを浮かべる。
 彼はスガワラ翁。大図書館の館長なのだが、何故か嬉々としてオマケであるはずのカフェで腕を奮っている老人である。
「スガワラさんがこのパレードについてお詳しいと聞いて」
 視線を戻してヨンは老人に問いを投げかける。すると、ん?と片眉をあげた老人はなるほどと呟く。
「ほっほ。いや、まぁ実行委員ではあるがのぅ」
 テキパキとクラブサンドを仕上げつつ、片手間にパスタの茹で加減を見る。日に数百人から千人程度利用すると言われている大図書館の付属施設のため客もそれなりに多い。2頭身でバスケットボールサイズの人形2人がふわふわと宙を飛びながら給仕をしているのが横目に入る。
「百鬼夜行という言葉を知っておるかね?」
「……いえ」
 意味合いからすると『たくさんの鬼が夜歩く』という感じだろうか。
「要するに妖怪、妖魔種と呼ばれる者達が街を練り歩くというお祭りじゃな。ハロゥインでも良いんじゃが」
「はぁ、それは……」
 自分も関係するのだろうかと自問しつつ、同時に「仮装行列みたいなものでしょうかね」と呟いた。
「仮装もなにも本性なんじゃが、他の来訪者よりも独特の姿をしておるのは間違いない。仮装行列という雰囲気に違いはなかろうなぁ」
 気を悪くする事なく「見学者には仮装をして来る者も居るよ」と続ける。
「つまりは参加者が練り歩くお祭り、と言う事でしょうか。
 でも、何でそんな事を?」
「妖怪種や妖魔種、それから幻想種の中には自分の存在を認知してもらわねば存在できん者が居るんじゃよ。
 妖怪種の殆どは元々神族かその系列での、信仰の代わりに恐怖や興味を受けて存在するんじゃ」
 吸血鬼も妖怪種に属するのだが、吸血鬼やゾンビ等のアンデッド系は生前という存在があるため、そういうあり方ではない。
「なるほど。それで……」
 ならばパレードという形で多くの注目を集めるのは効率の良い方法だろう。
「でも『強襲護衛』って何ですか?」
「良いネーミングじゃろ?」
 誇るように老人は笑みを作る。お前が考えたのかよという心のうちはしっかり隠して続きを待つ。
「要は自分を知ってもらうためのアピールの場と言う事は分かってもらえたのぅ?」
 それにはええと頷きを返す。
「じゃがアピールすると言う事は自分の本性を包み隠さずさらけ出すと言う事でもある。
 妖怪種の殆どは『不明の意味付け』として生まれておってな、その裏には『不明の恐怖』を背負っておる」
 少し分からなくなってきた。スガワラ翁は出来上がったカルボナーラを女の子の方の人形に手渡し、ジューサーへ向かう。
「誰も居ないはずなのに音がする。それはきっと何かが歩き回って居るんじゃという決め付けじゃな。
 それが固まって生まれた妖怪種は『何も無いところで音を立てる』事を目的とした妖怪として生まれるんじゃ」
「……えーと?」
「吸血種からすれば随分とアバウトな発生方法かもしれんがの。そういう世界は随分とあるんじゃよ」
 そう言われると、そうなんだろうなぁと思うしかない。
「で、そこがパレードでは問題になるんじゃ」
「と言いますと?」
「『物音を起てる』ならそんなに害は無い。が、これが『暗闇に潜む殺人鬼』じゃとどうかな?」
「そんな方も居るんですか?」
 驚いて問うヨンに「何を言って居るんじゃ」と半眼を返す。
「あ」
 居るもなにも自身が「人の生き血を吸う」存在である。
「お前さんのように皆普段は抑えておるんじゃが、祭りとなるとそのタガも外れやすい。そこで強襲護衛の役目が生まれてくるんじゃ」
「つまり……やりすぎになる前に止めると」
「それが強襲の部分じゃな。もちろん護衛の意味合いもあるぞぃ。
 去年も退魔師気取りが数人邪魔をしてきたからのぅ」
「邪魔って……」
「クロスロードに居る妖魔種や幻想種は多岐に渡るし高位の者も少なくない。
 喉から手が出るほど欲しいという輩も居るんじゃよ」
 確かに魔物使いや召喚師からすれば使役対象の展覧会に見えるかもしれない。
「そういう連中からの護衛という意味合いもある。
 そしてわしらは何かしら弱点を有しておると相場が決まっているからのぅ」
 竜種と括られる事も多いが、幻想種の筆頭である竜にも竜殺しの剣や逆鱗という弱点が存在しているし、吸血鬼にも様々な弱点がある。
「って、わしら?」
「なんじゃ、知らんで聞きに来たのか?」
 まぁ、地球世界人でもないからのと呆れたような笑みを浮かべ
「わしも妖怪種じゃよ。小さな島国で怨霊やら神やらやっておったの」
 菅原道真公の化身はよっとハンバーグステーキをひっくり返しながら軽くそう言ったのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ああ、もうそんな季節だねぇ」
 とある路地の奥。ひっそりとたたずむショットバーでエディは情報屋と対峙する。
「強襲護衛か、まぁ大変ではあるが面白いと思うぞ」
「そんな事より聞かれた事を応えろ」
 ぶっきらぼうに返すと「ハイハイ」と男は眼鏡を掛け直し
「去年のデータねぇ。総合的には『つつがなく終わった』って感じだけどトラブルはやっぱり起きてるよ」
 言いながらスクリーンをポップアップさせる。空中に浮かんだウィンドウに映るのは映像記録らしい。妙な格好をした男がオーガのような男に何かを宣言している。
「百鬼夜行……パレードの顔役の一人に陰陽師だとか名乗ったやつが喧嘩を売ってな」
 解説しているうちに映像は進む。陰陽師とか言う男の周りに人型の何かが現れ、オーガを取り囲む。周囲は騒然となるがオーガは呆れたように肩を竦めて ───殴り合いが始まった。
 その凄まじさはちょっとした災害だ。周囲の観客が慌てて避難している。
「まぁ、この後強襲護衛体が陰陽師にドロップキックかまして終結するんだが」
「何でこの男は襲い掛かったんだ?」
「その鬼はかなりのビックネームでな。使役したかったんだと。
 他にもユニコーンの角を狙ったヤツとか、色々さ。逆につい観客に襲い掛かってしばかれたパレード参加者も居るんだが……」
 カタカタとキーボードを叩く。
「事件総数で言うとざっと6時間で100件程度だな」
 これを少ないとは言えないだろうが、
「強襲護衛って何人くらい居たんだ?」
「あー、23人だったかな。流石に一部手が回らなかったり、こっそり誘拐を企んだりとあったから今年は探索能力に優れた連中を別途配置するそうだ」
 とはいえ、と呟く。その先は言うまでもない。この世界には100mの壁がある。
「参加者はのべ1万人程度。今年は住人以外も祭りを見に来る可能性が高いって言われてるから、大々的に護衛隊を集めてるらしいぜ」
 なんともまぁ凄い規模の話である。
「管理組合も協力するとかしないとかだから、去年より厄介になるって事はないんじゃないかなぁ。
 まぁ、厄介事も外から来るからなんとも言えないんだけどね」
「そっちの情報は?」
「流数万ある異世界全部の情報なんてクロスロードの誰が把握してるって言うんだい?」
 それもそうかと嘆息。
「妖怪種は打たれ強いし、人間種の護衛よりかはよっぽど気楽な仕事とは付け加えておくよ」
「参考にさせてもらう。追加情報があったら教えてくれ」
「毎度あり」
 PBで情報料の支払いを済ませたエディはさてどうしたものかと店を出た。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「おお、来たか」
 座敷にオーガが2匹居た。
「ん? ああ、護衛のか。宜しく頼むわ」
「え、ええ」
 巨体も然ることながら纏う気配が半端ない。この前瘴気対策の植物を作るために招いた魔王も凄まじかったがどっこいどっこいの威圧感だ。
 ここに来る前にパレードと仕事内容については轆轤首の女に説明を受けた。ちなみに彼女は頭のコブを治療中である。
「俺はお前らを取り仕切る事になる酒天童子だ。シュテンでいいぞ。
 こっちは進行整理……つーか、脱線したやつを殴って戻す役の茨城童子だ」
 猪口に見えるが、普通サイズから見れば杯を軽く上げて挨拶をする。
「まぁ、一回集まり開くから、その他の事はそん時に説明するわ。
 お前も飲むか?」
 どんと置かれたひょうたん徳利はガスティが充分入って隠れられるサイズ。相伴に預かろうものなら軽く酒で溺れさせられそうな気がする。
「大変ありがたいのですが、今から巡回任務なんで」
「そうか。それじゃ仕方ねえな。次の集まりの後は飲み会やるから仕事入れんなよ?」
 咄嗟のことだが幸い気を悪くはしなかったらしい。
「それでは、また今度」
 撤収撤収とその場を辞したガスティは外にでてようやく安堵の息をつくのだった。

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はい、総合GMの神衣舞です。
夏だ祭りだ怪談だ。ということで【inv07】と合わせて怪談系話でございます。
と言ってもこちらはお祭りということではっちゃけムードで進んでいきます。
ちなみに日本系の妖怪ばかりじゃね?という意見もあるでしょうが、参加者の知らない世界の知らない妖怪を出しても仕方ないのでという配慮です。きっと九尾の狐やらオベロンやら居ますよ……w
次回は事前説明会&その後の飲み会がメインになる予定です。

ではリアクションおねがいしますね。
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