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【inv08】『Walkers the Nigth』
〜その2〜
(2010/07/25)
「よーし会議始めっぞ」
 シュテンの号令はさて置いて。どう見ても宴席なのはどういうことだろうか。

 夕暮れのクロスロード、コロッセオには『Walkers the Nigth 説明会』という看板がかけられいていた。
 黄昏色に染まるこの時刻を地球世界は日本では逢魔ヶ刻と言う。黄昏とは『誰ぞ彼』を語源とし、正面に居る誰かを判別し辛い光加減から「実はそこに居るのは違う誰かかもしれない」という幻想から、そこに居るのは知っている誰かではなく、妖物魔物であるということで魔に逢う時刻と謳ったという。
 それを踏襲してか、大小さまざまな妖魔種、幻想種がコロッセオに集まっていた。
 まぁなんというか、ここまで来ると壮観である。
 想像力の限界を試すような多種多様の存在が蠢いては談笑したり言い争ったり、喧嘩したりとにぎやかしい。大きな揉め事になりそうなところには『実行委員』の印章を付けた者が仲裁に入ったりしている。

「まぁ、楽に聞いてくれや。ざっくり説明するぞ」
 空中モニターに表示されたのはクロスロードの簡略図だ。ヘルズゲートにまず大きな点が灯った。
「まず第一陣はヘルズゲートを出発地点とする。ここは主力部隊なんで希望者のみにするが、自身の無いヤツは邪魔だからな。踏み潰されない程度の実力があるやつだけにしとけ」
 主力部隊という単語に反応は二種。意味を理解する者としていない者だ。
「強襲偵察と言い、荒々しい空気が満載だね」
 ガスティはシュテンの声に耳を傾けつつ周囲を物珍しそうに見渡す。
「第二、第三陣は派手な連中を集める。当然目立つから強襲護衛の優先防衛部位になる」
 ウィンドウではケイオスタウン側のニュートラルロードのラインを10度くらいずらした外壁にぽつぽつと光が点り、大き目の通路をうねうねと通ってニュートラルロードに合流するルートが表示された。
「次にだな」
 と、次々に示されるルートを見れば外壁に沿って出発地点が設定されており、ケイオスタウンの大通りの練り歩きニュートラルロードへ合流。最後は扉の園に到着するというものらしい。
 一般参加と銘打たれている人間種を初めとした魔属性でない(瘴気に耐性を持たない者)だけはケイオスタウンの中ごろ辺りからのスタートとなっているようだ。
「あんた、初参加かい?」
 声をかけられて隣に視線を転じれば、リザードマンの男が酒を手にこちらを見ていた。
「ああ、そうだが」
「強襲護衛か?」
「そちらも?」
 肯定しつつ聞き返せば「おう、俺は二回目だがな」と頷いた。
「この祭りは好きでな。多分来年もずーっと参加するつもりさ」
 ぐぃと杯を煽って視線をシュテンへ向ける。
「人間種にとって俺たちは害獣のように扱われる事が多い。もちろん友好的に暮らしている世界もあるし、人間種を奴隷にしている世界だってあるんだが。
 まだこの土地に慣れていない人間種の目を見れば大体どう見てるかは読み取れる」
 翼を除けば見た目は人間種には近いが、竜種に属するガスティはどうと言うべきかと思い、今はそのまま口を閉ざした。
「こうやって楽しく一緒に騒げば、そんな小さなわだかまりも消えるってもんだ。
 あとは頭の固い馬鹿どもをぶちのめせば良い」
 シュテンの説明が続いている。表示されているのは去年問題のあった箇所らしい。
「第一陣は結構な戦力を持つからまぁ気にするな。問題は中陣、そして殿だ。一般参加者を傷つけちゃ名折れだし、殿はどうしても援軍に行きづらい。
 また、合流前の陣も部隊によっては戦力が著しく低い。一応陣頭はそこそこのヤツを配しているがそのあたりを強襲護衛隊には巡回してもらうことになる」
 ぐいと酒を煽って言葉を続ける。
「あと、何箇所にか百々目鬼やクレアポワンズの魔女、広目天なんかを配置しておく。ただ制限があるからな。異常があったらすぐに笛を鳴らすんだぞ。本部にゃ多聞天も控えてるから助けに行く。
 本部はゴール地点の扉の園だ。そこにはエンジェルウィングスの援助もあって飛行部隊を用意してるからな。上空からの警備も同時にやる事になっている」
 分かり合うための祭りか。とガスティは小さく呟く。
 存在を認知されなければならないだとかよく分からない理論はさて置き、確かにそれだけでもやる価値はあるのかもしれない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ん? あんた吸血種だろ?」
 遠くの空中ウィンドウを眺めていたヨンは横合いからの声に視線を転じた。
「ええ、そうですが?」
「なんで仮装してるんだい? 趣味?」 
 と聞いてきたのは河童だった。
「いえ、仮装行列のようなものと聞いたので」
 すると河童はきょとんとして、それから腹を抱えて笑い出す。
「あんた、そりゃ人間種や亜人種の参加方法だよ!」
 げらげらと笑いながら「ま、まぁ吸血種も亜人種と同じで見た目は人間種だからアリはアリかもなー!」と息を整える。
「ああ、なるほど。それもそうですね」
 今日のコロッセオ自体もちょっとしたお祭りのように見える。一般参加登録の受付も同じくコロッセオで行われており、気の早い参加者がヨンと同じく仮装してはせ参じていた。カボチャで作った仮面をつけたホビットとジャック・オ・ランタンが楽しそうにぐるぐると踊っていたりする。
「瘴気耐性の無い方はこちらへどうぞー。神気系を持つ方は抑制処理について説明しますので青旗の揚がってる所へ行って下さい!」
 ホッケーマスクの大男がメガホン片手にそんな事を言いつつ歩いていく。
「去年に比べて使徒系種族や神仙種の参加も増えたもんだなぁ」
 鎧甲冑の男が小脇に抱えた頭でしみじみと呟く。
「エンジェルウィングスの協賛もありますしね。永遠信教世界は思いっきり神聖系ですし」
 二つ角の馬、ドイコーンがきょろきょろと周辺を見ながら言葉に応じた。
「そういえばファフニールの旦那、まだ諦めてないんだって?」
「ん? ああ。あの人、人間種に変身できないのにまだぐずってるらしいよ」
「いくらニュートラルロードでもあの人が歩くとなるとなぁ」
 ヨンは疑問符を浮かべながらその言葉を聞く。クロスロードに措ける『人』の定義は『来訪者』全てとなる。どんな姿形しようとも人で、数え方は一人二人となる。
「レヴィさんが煽ったらしいんだけどね。あの人も大人気ないから」
「あー。あの人かなりの上位者なんだろ? 子供っぽいと言うかなんと言うか」
 どこからかの呼び声に二人は去ってしまう。
「ファフニールってと」
 すっかり忘れていたが河童がうーんと考え込み、それからポンと手を打った。
「確か竜種だよ」
 なるほど、それでニュートラルロードの広さなどが話題に上がったのかと納得。
 ヨンは三日月を見上げて苦笑する。さて何が起ころうとしているのやら。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「まぁ、こんな所だ。質問のあるやつは居るか?」
 一通りの説明を聞き終えてエディは頭の中を整理する。
 強襲護衛隊は主に2つの仕事に分かれる。
 一つは陣と呼ばれる集団付きになってパレードと一緒に移動。問題があったときの対処に当たる。
 もう一つは主要なポイントに待機をして、問題があったときに応援として駆けつける。
 前者にはつい本能的な行動をしてしまったパレード参加者を殴って正気に戻したり、襲撃者の足止めが最優先となる。一方後者は決定打として送り込まれる上にひっきりなしに移動することになるだろう。どちらも危険度で言えばそう代わらない。
「地上の足が使いにくいのが面倒だな」
 パレード中の道は混雑し、駆動機器での乗り入れは困難だ。そのためのエンジェルウィングス航空配達隊の投入ということだろう。
 ルートをしげしげと見る。襲撃を行いやすい場所というのはやはり殿だろうが、それと合流する前、路地の多い道などは誘拐に適しているだろう。
 祭りとなると客は数多。先手を打つには難しく後手に回らざるを得ない部分が難易度を上げている。
 それにも増して気になるのは────
 視線を向けた先、楽しげに談話している他の面々とは違い、真剣な顔でなにやら相談している一団が居る。舞台の方には降りず観客席から時折値踏みするように視線を走らせており、更にはうち二人は周囲を警戒しているように思える。
「値踏み、値踏みねぇ……」
 パレードに限らず多種多様な存在が行き交うクロスロードでは密猟者の存在が囁かれ始めていた。
 ユニコーンの角やドラゴンの骨や鱗など、一笑遊んで暮らせる金に化けるシロモノがのんきに転がっている街という見方をする者が確かに居るのである。
 護衛役と思われる一人がこちらへと視線を転じる。
 エディは自然な動作を心がけるように目線を逸らし、どうしたものかと考えを巡らせるのだった。


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 というわけで、百鬼夜行の第二話目。
 今回は説明&複線パートです。
 次回はパレード開始まで時間が進みますが、こちらでも今までとは違う方法でお話を進めてみたいなーと思っていますのでお楽しみに。
 もちろんパレード参加者、見物人としての新規参加も大歓迎ですのでどしどしよろしゅう。

 ではでは次回リアクションを宜しくお願いします。
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