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【inv08】『Walkers the Nigth』
〜その3〜
(2010/08/06)

「お前ら良く聞けぇ!!」
 号砲もかくやというほどの声がヘルズゲート前に響き渡る。
「俺たち一陣は槌だ! 後の連中の足を止めるなんて無様な真似はできねえ。分かってるだろうな!!」
 シュテンの声に『応』と応じる数は100余り。鬼系や大型幻獣が居並ぶ姿は圧巻で、多くの見物客がびりびりと震える大気に身を竦ませながらも楽しげに見物している。
 時刻はそろそろ夕暮れ────つまりは逢魔ヶ刻だ。
「今年はどうなるかねぇ」
 イバラギが楽しげに瓢箪徳利を煽ると、シュテンは貸せやとそれを奪って喉に流す。
「どうにでもならあな」
 ふいと口を拭ってニヤリと笑う。
「そのための先陣さぁ。後の連中が楽しく騒げるように。武を纏う俺たちは俺たちなりに楽しく行こうじゃねえか」
 瓢箪を投げ返してシュテンは沈み往く日を見る。
 時刻は18時を半ば過ぎる。夏の長い明の時間が終わりを告げる。朱の薄闇の中、誰ぞ彼かも分からぬ時間を迎える。
「アカネイロ、スイル。派手に頼むわ」
 赤い髪と赤い目を持つ長髪の少女、赤音色と青い髪と青い目を持つ肩口で髪を切りそろえた少女、翠流が頷いて空を見上げる。
 見る間に二人の姿が解け刹那の後に昇は赤と青。
 片や『フェニックス』『ヒクイドリ』『朱雀』などの名を連想させる炎を従えた赤い鳥。
 片や『ウォータードラゴン』、あるいは『青龍』を連想させる青い鱗のチャイニーズドラゴンだ。もっとも青龍は木行を象徴するためウォータードラゴンなのだろう。彼女が空へ向かって噴水のように水撃を放つと、夕日とアカネイロの朱と赤がキラキラとクロスロードの夕暮れを彩った。
 わあとクロスロードのいたる場所で歓声が上がる。
「夜を往き、畏を振り撒く百鬼夜行がなんとも華々しいじゃねえか」
 からからと嗤うイバラギにシュテンは「いいじゃねえかよ」と笑みを返す。
「これは百鬼夜行でもなけりゃ脅かしに行くわけでもない。
 このクロスロードって街の派手なお祭りなんだ。とことん歌舞いて往けばいい」
 この巨大な都市クロスロードのいたるところで行進の息吹が生まれ始めていた。その先駆けである第一陣がのんびりしているわけにはいかない。
「さぁおっぱじめるぞ! 祭りの始まりだ!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「始まったか」
 クロスロードの気候はとことん日本に近い。よって夏の盛り、建物や地面に溜まった熱は日が落ちたこの時間にもじりじりと空気を熱している。町の中央を流れるサンロードリバーがある種の冷房効果を持っては居るが湿気と共に警備役の額に汗を浮かべる仕事を怠っては居なかった。
 エディはある建物の上に居る。眼下では祭りの先陣を待っている観客が居る。路面電車も今日はケイオスタウン側は走っては居ない。代わりにエンジェルウィングスが代行のバス等を祭りのルート外に走らせていた。
 彼が視線を転じた先、祭りのルートから道を一本外れたところに集団があった。武装に制限のないクロスロードだが明らかに彼らは臨戦態勢だ。
「二陣狙いか?」
 1から3陣まではそこそこ戦闘能力を持った存在が多い。返せばそれだけ特殊で希少な連中が揃っているとも言える。
「超武闘派の一陣よりかは組みし易い……って発想かね」
 ちらりとその陣容は見たが、冗談でも突っかかりたくないと思うには充分だ。妖怪系の厄介なところは致命的な弱点を持つ代わりにそれ以外の攻撃を無効化する個体が多い事にある。単純に知らないだけで為す術がないことだってある。
「逆に言えば弱点さえ突けば子供でも勝てるか。極端だな」
 それだけではなく、オープニングを飾った高位の幻獣も多数含まれて居る。
「さて」
 目をつけていた一団が動き始める。
 方向からしてやはり二陣は狙いらしい。が、予防をするわけにも行かない。どうせ警告したってこちらの目を盗むだけ。現行犯でぶちのめすのが一番早い。
 動き出そうとして、不意にざわりと大気がざわめいたのを感じる。
 向きはヘルズゲートの方角。出発したばかりの一陣側だ。
「確か……去年も出発直後に問題が発生したってあったっけか」
 あれに喧嘩を売りたがるヤツは居る。気が知れない行為に肩を竦めつつ、エディは行動を開始した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「へぇ、綺麗だねぇ」
 ガスティは北の空を彩る光に目を細める。
 第六陣以降は比較的大人しい存在が多い。というのも途中で一般参加と合流するため暴走しやすい連中を安易に混ぜるわけには行かないのだろう。
 逆に第五陣までに対しては一陣と合流するたびに一陣の連中が広がり、暴走を抑える態勢にシフトしていく。無論合流すればするほど強襲護衛隊も集まるため余程の事がない限りは問題はないだろう……
「とは、思うんだけどね」
 問題が無ければ自分達はこんな仕事をしていないわけで。
 先頭が合図を見て動き始める。妖精や精霊比較的多い第六陣は見た目的にも華やかだ。小人が楽器を鳴らしながら行進したりとパレードらしい。
 道の脇には子供らしい姿が多く見られる。クロスロードでは珍しいので恐らく祭りと知って見に来た来訪者だろう。
「わあっ!?」
 と、いきなり横合いから困ったような悲鳴。見ればホビットが数人でポーチのようなものを投げ合って遊んでいる。悲鳴をあげたのは観客のようで、どうやら盗まれて遊ばれているらしい。
 いたずら好き、盗みをついやってしまう連中だ。盗みやすそうなものを見つけたのか、ついやってしまったのだろう。
「こら、返すんだ」
 ひょいと宙を舞うポーチを空中でキャッチして窘めると、ホビット達は不満げな顔を一瞬するが、強襲護衛だと知るやそそくさと去って行った。
「これの持ち主の方は?」
「ああ、ありがとうございます」
 いえいえと手渡し、ばさりと空に舞い上がる。こういう平和な事件ばかりだったら良いのだけどと思いつつ──────

 げすっ!?

 思いっきり背中に何かがぶつかってバランスを失ったガスティはそのまま体勢を立て直せないままにずざーっと落下。
「気をつけろぃ!」
 空飛ぶ頭────飛頭蛮がぷりぷりと怒りながら去っていく。
 見れば地上を歩いているわけではない。空を飛ぶ者も結構いる。
 ちょっと格好を付け過ぎたと思いつつ、気分を改めるのだった。

 ……おや?

 ずん、と地響きが聞こえた。
 方向的にサンロードリバーの方だろうか。
 そちらの方を見ると、
「うぇ?!」
 体長10mオーバーの竜が、なんか喚きながら飛んでた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ヨンが参加しているのは第九陣だった。八陣と九陣にはスタート地点がサンロードリバーに近いことから水系の人が他よりも多めに参加している。この前知り合った河童もここから出発ということで同行する事にしたのである。ちなみに水から出られない種族は水中を行進したりしている。
 ここに居るのも比較的弱めの妖怪、妖魔種だ。精霊種が比較的多いだろうか。シルフやサラマンダーが闇色に染まりつつある空を悠々と踊っている。
 百鬼夜行妖怪の大行列と聞いたからどうなるかと思ったが、ワイワイと話しながら、観客に手を振りながら、パフォーマンスをしながら歩くだけのイベントだ。確かに『存在を見せ付ける』だけなら十分だろう。中にはいきなりストンと観客の前に落ちて驚かすようなのも居るが、それはそういう存在なのだからと受け入れられている。あくまでタブーは暴力沙汰だ。
「でも、にーさん位の人なら三陣とかのほうがお仲間さん一杯居たんじゃないのかい?」
 河童がぴゅーと水芸なぞしながら話しかけてくる。
「あそこは魔族やらアンデッド系がわんさか集まってるって聞くし」
「僕はそんなに強くもありませんよ。こうやってのんびり歩く方が楽しいですしね」
「そっかー」
 わいわいキャーキャーと驚きと楽しさを含む声が上がる中、平和だなと改めて思う。少し遠くを見れば空を舞う炎を舞う鳥が追随する水龍の水滴にきらきらと赤を乱反射させながら光を振りまいている。それを面白がってかピクシーやウィル・オ・ウィプス等の光モノ系が空を次々と彩っていた。なるほど夜でなければこの演出はできない。
「おんや?」
 河童の声に視線を落とすと黒づくめの男がいきなり行列に飛び込み、フェアリーを一匹袋に押し込んでしまった。
 気付いた周囲が驚きと怒りの声を上げるが、黒づくめは魔法だろうか、炎をばっとまき散らしたために空隙が生まれる。
「感心しませんね」
 行動は早かった。一気に踏み込んだヨンはぎょっとする黒づくめに蹴りを一発叩きこむ。不意を打たれたために袋は手を離れ、中のフェアリーが慌てて逃げ出した。
「畜生がっ!」
 生まれる炎。しかしそれよりも早く炎がヨンの目の前に現れて放たれる炎を食べてしまう。
「感謝します」
 「不味い火だ」と嘯くサラマンダーに礼を呟きつつ黒づくめの顔面に強烈なパンチを叩きこむ。それでノックアウトだ。周囲から歓声が上がる。
「兄ちゃんすげーじゃないか」
 河童がぺたぺたとやってきてヨンの背中をぱしぱしと叩くと、他の連中も面白がってか「やるー」「かっこいー」とぱしぱし叩いていく。
 それに「どうも」と笑みを返したヨンはやってきた強襲護衛隊に黒づくめを引き渡しつつもう一度空を見上げた。
「やれやれ。こういう人が居るから世界は平和では居られないんでしょうかね」
 わずかながらの悲しみを抱きつつ。しかしそれ以外の多くの人が楽しむ祭りに戻るために再び歩き始めたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ああ?」
 路上に一人の男が立っている。
 烏帽子に法衣。平安風貴族の様相をした男は迫りくる妖怪の群れにわずかにおびえる事もなく迎い討つために待っている。
「わりぃ、イバラギ、ちいと外す」
「なんだ、シュテン。頭のおめぇが外れてどうする?」
「野暮用だ。おい、九十九、ちぃと頼みたい」
「ん? 何用かえ?」
 狐の耳と尻尾を生やした幼女がふわりとシュテンの肩に立つ。
「ちぃと俺の代わりやっててくれねえか?」
「構いはせんが、妾は粗暴な言葉は苦手じゃ」
「嘘つけ。つか、キャラ作りすぎだ」
 ニィと笑ってずんと音が鳴るほどに地面を踏みしめて前へ跳躍。
「早う帰ってこんと、打ち上げの酒も妾が頂くからのぅ?」
「そりゃあ勘弁だ」
 その言葉を最後に、シュテンが視界から消える。同時に男も消えていた。
「そぉれ」
 舞うようにツクモと呼ばれた狐の少女がくるりと回ると、そこにはシュテンと瓜二つの姿がある。
「よっしゃ、野郎ども! どんどん行くぞ!」
『応っ!!!』
 何が起きているのか見ている連中も野暮なことは言わない。
 シュテン代行の言葉にただ『応』と答えて祭りの夜に威風堂々と道を往く。



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 というわけで、百鬼夜行の第3話目。
 今回はスタートしたばかりなので簡単に、ですが。すでにいくつかの事件が発生している模様です。
 それらを踏まえて、まぁ踏まえなくてもいいですけどリアクションをお願いします。

 余談ですが。
 茨城童子を『イバラキ』にするか『イバラギ』にするかちょっと悩んだのですがググるとイバラギの方が多かった気がしたのでそうしました。

 ではでは次回リアクションを宜しくお願いします。
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