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【inv08】『Walkers the Nigth』
〜その4〜
(2010/08/20)
「おめぇさんも懲りないねぇ」
 巨体が羽のように軽く屋根の上に降り立つ。対峙するのは法衣を纏う男。
「黙れ下郎。どう取り繕おうと汝が為した罪業は消えはせぬ」
「去年も聞いたしな。わーってるよ」
 詰まらなそうにぼりぼりと頭を掻くシュテン。烏帽子に法衣の男は杓杖をしゃらと鳴らして鋭い眼光を殺意に染め上げる。
「だがよ? 俺は鬼だ。だから人を食った事もある。
 人間も牛や鳥を食うじゃねえか。食物連鎖って言うんだろ? 当たり前のことにいつまでぐちぐち言ってやがるんだ?」
「ならば応じよう。私は外道に落ちても貴様を許さぬ」
 あらん限りの憎悪の言葉に鬼は口をニィと笑みの形に作りなおす。
「怨み辛みも人の業。なら応じぬわけにはいくまいて」
 抜くのは鬼の体には丁度良くとも、男から見れば身の丈も越す大刀。立ち上るのは禍々しい妖気。
「けどよ、祭りの最中なんだ。さっさと終わらせてもらうぜぃ?」
 日の落ちた空に火花が散る。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 賑わいが大きくなるにつれ、空を舞う光も慌しさを増している気がする。そこらかしこで騒ぎが起きて居るのだろうか。
 だがそのざわめきは尾行者となっているエディにとっては都合のいい状況だ。ターゲットには気付かれる事無く良い位置に着くことができた。
 2陣の陣容もなかなか高位の幻獣などが顔を揃えているようで、写真のフラッシュがかなり焚かれている。先頭はすでに出発しており、今この場所に残っているのは出発の順番待ちをしている面々だ。実行委員がギャラリーに離れるように促している。
「出発の最後尾を狙う積もりか」
 連中の視線から察するにそういう目論見だろう。エディは素早く位置を変えてポジションを得る。その過程で2陣の警備を務める強襲護衛の数人と接触して状況を伝えておいた。
 それと同時に連中が動き出す。突然襲い掛かってきた集団にギャラリーは目を丸くして、それから慌てて避難する。同時に参加者は慌てて戦闘態勢を取ろうとするが、周囲のギャラリーを巻き込む事を気にしてか攻撃を躊躇している。その明確な隙を見逃す積もりはないようだ。結界術のような物が展開し、その中に捕らわれたグリフィンがぎゅんと縮んで小さな箱のとなってしまう。それだけでは済まない。次から次にその装置?を使ってめぼしい幻獣を捕獲していく。
「そこまでだ」
 聞こえるようになんて優しいことはしない。口の中で呟いてぽしゅっと気の抜けるような音が付近に響く。
 カンという音の直後、光が炸裂する。フラッシュグレネード。強烈な光で一時的に視覚を奪う非殺傷兵装だ。
 周囲でいろいろと悲鳴が上がる中、光の収まった道を走って問題の連中に次々と無力化していく。話を聞いていた連中もサポートに入り、闇雲に逃げようとした残党を取り押さえている。
「思ったよりもあっけなかったな」
 そのまま2陣に押し込んで包囲しようとしていたのだが、見事に全部捕まえる事が出来たらしい。
「お前か、フラッシュグレネードなんてのを使ったのは!」
 不意に、上からの声に見上げると実行委員の腕章を付けた翼人が舞い降りてきたところだった。
「そうだが?」
「観客に被害が出てるだろうが! あと光に弱いやつも居るんだから範囲系のは自重しろっ!」
 あ、と思って周囲を見れば観客が目を押さえて立ち上がり始めているところだった。あとカメラを慌てて弄ってる人も居る。
「やむを得ない場合があるのは分かってるが、これは祭りなんだからよろしく頼む」
 それだけ言って実行委員は「治療スタッフを用意してますので調子の悪い方はこちらへ」と誘導を始めた。
「ま、去年も荒らした連中を一網打尽に出来たんだ。若干お手柄の方が勝ってるさ」
 捕り物に協力した護衛の一人が苦笑交じりに肩を叩いて去っていく。
 エディは誤魔化しじみた苦笑いを僅かに浮かべ、気を取り直して次へと向かうのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ドラゴンを狙う者が居るのではないか。
 そんな予想と共に6陣の上を飛翔するガスティは、取り囲むように舞う存在を見咎めて慌てて進路を変える。
 護衛ではなく明らかに進路を塞ぐように取り囲んでいる以上、敵対していると見るべきだろう。
 慌てて南下し、サンロードリバーの近くまでやってきたガスティは
「お前ら! 何……」
 何をしているんだ。という言葉を飲み込む。なにしろ囲んでいる連中全員強襲護衛の印を付けているのだ。
「えーっと、裏切り者とか?」
「何を言ってるんだっ、いいからお前も止めるのを手伝え!」
 焦りを過分に含んだ怒鳴りを受けてガスティは周囲の声に耳を向けた。
「ダメですって!」
「風で他の人飛ばしちゃいますよ!」
「いいから戻りやがれ!」
 そんな有象無象の声を無視して空を舞うドラゴンは鬱陶しそうに鼻を鳴らす。
『黙れ小童どもが』
 ぐんと体を上方に向けて滞空するや、わざと大きくはためかせた翼が起こす暴風に強襲護衛の面々が派手に吹き飛ばされる。
「な、何が起こってんだ?」
 暴風の中心からは逃れていたものの、あおりを受けたガスティは目に付いた尖塔に手をかけて体勢を維持する。
 【怪物】か?と一瞬疑ったが確かに今あの竜は言葉を発した。ならば彼もまた来訪者なのだろう。
「随分ともてはやされているじゃない。ファフニール」
 不意に、カン高い女性の声が夜空に響いた。
『その声……ふん、性悪女がっ!』
「あら、祭りの夜だというのに随分と暗い言い様ね」
 女性が一人、中空に当たり前のように立っている。モデルのようなボディラインを強調させる露出度の高い薄手の服で彩っている。
「根暗で陰険な呪いの竜は大人しく遠くの花火でも見守っていればいいのに」
『黙れ歪みの竜め! 多少神魔の属性を持つが故に人化の術に優れているというだけででかい顔しおって!』
 どうやら知り合いらしい。しかも言葉を信じればあの女性も竜族なのだろうか。しかも神魔の属性?
 ガスティがどうした物かと目を白黒させていると応援らしい強襲護衛の一団が周囲に展開する。
「うふふ。お呼びでないそうよ?」
『貴様ら……!!!!』
 挑発大成功。美女の笑みにその言葉を読み取ってガスティは頭を抱える。
 そもそもこんな巨大な竜族が観客が多数集まる祭りで行進だなんて無茶な話だ。竜族専用の区画があるとは聞いているが、そこ以外の場所は彼の巨体が収まりはしないだろう。幅30mを誇るニュートラルロードならば可能かもしれないが、祭りの間にも路面電車は走って居るし、線路や駅を踏み砕きかねない。
『どいつもこいつも俺様が嫌いかぁあああ!!!』
 ぎょろりと視線が自分に向けられる。
 え? と思った瞬間、その巨体が見る間に自分の視線を埋め尽くす。

 轟っ!!!

 風圧だけで耳が破けそうになりながら尖塔ごと吹き飛ばされたガスティは上も下も分からないままに混乱から脱しようとする。幸いという生憎理不尽な不運には慣れている。なんとか下を発見して視線を向ければサンロードリバーの水面が一面に広がっていた。
「ぐぅっ!」
 暴風域からは脱している。なんとか翼を調節して水面に叩きつけられることを回避した直後、水に落ちた尖塔の頭が作り出した巨大な水しぶきにびしょびしょにされてしまった。
 めげずに彼方を見ればなにやら喚きながら遣り合っているようだ。
 このままじゃ他の護衛まで巻き込んで他の地域がお留守になりかねない。
「っても、どうすりゃ良いんだ?」
 一瞬途方に暮れつつ、気を取り直して彼はとりあえず戦域に戻るのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「なんかあちらがにぎやかですね」
 竜の咆哮だろうか。西の方から響き渡っている音に視線を向けるがここからは特に何も見えない。
 最初にどたばたがあったもののそれ以降は平穏にパレードは続いている。といってもまだ始まって一時間も経過していないのだからそう立て続けに騒ぎが起きても困る。
 視線を走らせれば空にいくつもの煙矢が上がっている。今日は強襲護衛の連絡用に使われているはずだ。それがぽんぽんと上がっているということは、色々と問題が発生しているのだろう。
「平和な問題なら良いんですがね」
 そんな気は更々しないのは……気のせいではないのだろう。
 ともあれ、今はイチ参加者としてのんびり楽しもう。
 改めてそう考えた時。

「なんだあれ?」

 河童の指差す方向に視線が集中する。
「……え?」
 例えるならば石膏像だろうか。
 中国風の武将を思わせるフォルムを持った体長20mほどの人型がいつの間にか存在していた。
 色を全く持たないため光の陰影でしか詳細は分からないが、髭を蓄えた男性のようである。
「何かのパフォーマンスでしょうか?」
 場所は一般参加者の集合場所辺りだろうか。ヨンは自分の言葉を欠片も信じていない言いようで周囲の反応を伺う。
「天帝様だ」
 誰かが驚いたように言う。
「天帝様だね」
「一部だけど天帝様だ」
 声の主を探せば狐が二匹踊るように飛び跳ねてそんな言葉を交わしている。
「天帝様って?」
「天帝様は天帝様だよ」
「偉いお方だよ」
「でも一部だね」
「一部だよ。きっと地仙の仙術だよ」
 せんじゅつ、という言葉に首を傾げるとPBがざっくりとした説明を寄越してくれる。
「あれは攻撃魔術なのですか?」
「多分そうだよ。天帝様のお力のほんの一欠けらがあそこにあらせられる」
「そうだね。そしてその偃月刀には伏魔の力があらせられる」
 字面からしてこのカーニバルの天敵のような気がする。
「ちなみに、天帝様という名前なのかい?」
「違うよ。天帝様は代替わりするもの」
「違うね。三界伏魔大帝神威遠震天尊関聖天君だよ」
 あまりに長ったらしい名前で思考停止。
 その間にもその周囲を強襲護衛隊や実行委員が取り囲んでいる。巨人が挙げた手には巨大な槍?があり、それがぶんと振るわれると触れた者がふらり墜ちていく。遠目ではっきりしないが外傷は無いらしい。
「一種の召還術のようなものですよね……術者を止めれば消えるのでしょうか」
「そうだよ」
「そうだね」
 ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねる狐を見て、はてどうした物かと考える。
 始まって丁度一時間くらいだろうか。
「随分と派手なお祭りですよね。ほんと」
 遠目で見る分には派手で興味深い大立ち回り。先ほどの攻撃といい、足元で破壊が起きていないことといい、幽霊みたいな存在なのだろう。それでも誰かがなんらか───恐らく気持ちの良い理由では呼び出してはいないだろう事は明らかだ。
「さてさて、どうしますかね」
 遠雷のような竜の咆哮も聞こえる。
「っていうか、もしかして再来の時よりも派手な騒ぎになってませんか?」

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 そんな気がします<再来の時よりも
 どーも、総合GMの神衣舞です。
 世界にはロケット花火を打ち合う祭りやらトマトをぶつけまくる祭りやら、牛を放って追い掛け回される祭りがあるらしいのですが。
 まぁそんなノリでお送りしております。まぁ、妨害側は悪意やらなんやらが満載なんですけどね。
 まだ開始して1時間という状況。何話やるつもりだよ。って感じですが次以降はもう少しテンポ良く時間は進む予定です。
 さてはて。
 目立ちまくる話の裏にはこっそり悪い事をやってる人たちも居るわけで。
 どこに目を向けるかを楽しみつつ次回リアクションもよろしゅう。

 PS.ちなみにガスティさんや。竜の話題は第二回で伏線張ってますじょ(笑
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