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【inv08】『Walkers the Nigth』
〜その5〜
(2010/09/01)
「地仙の目的?」
「地仙の目的?」
 狐が二匹、揃って首を傾げる。
「そんなの決まっているよ」
「そんなの当然だよ」
「教えてもらえるかな?」
 ヨンの言葉にぴょんぴょん跳ねる狐が楽しげに告げる。
「アヤカシを討てば善行と見做されるから」
「天仙へ至る修行のためにいっぱいいっぱい倒したいだけだね」
「……っちょ!?」
 ぎゅんと振り返って緩慢な動きで動く巨人を見上げる。その体長は20mほど。老竜クラスの大きさがある。それがパレードにあの槍みたいなのを叩きつけようものなら────
 ヨンは大慌てで近くに居る強襲護衛隊の姿を探す。見つけるとすぐに近付き「連絡手段はありませんか!?」と詰め寄った。
「え? いや、な、なんだい?」
 突然の事に驚くエルフ風の男にヨンは狐から聞いた言葉をそっくり告げた。見る間に男の顔色が変わり、彼は慌てて腰に挿していたリボルバーのような物を手にすると上空に向けて打ち上げる。青の煙がすっと上に昇る。それからややあって上空に小型のワイバーンが滞空する。エルフは暫く上を向いて、時折頷きを見せるとすぐさまその飛竜は天帝の方向へと飛んでいってしまった。
「とりあえず今の内容は伝えました」
「念話……のようなものですか?」
「ええ。この世界では使いにくいですけど、100m以内であればこういう使い方もできるんですよね」
 言いながら流石に彼も不安そうに遠くの巨人を見る。
「西の方でも古竜が暴れているそうです。そのため小さな問題も多発しているそうですから気をつけてくださいね」
 あくまで警備隊としての発言をしてエルフはその場を去った。
「……」
 もう一度ヨンは天帝を見る。流石にこの距離だ。走っていってどうにかなるものか。それよりも彼の言う通りこの辺りで不穏な動きをする輩に注意した方が建設的だろう。
「みなさん、聞いてください! どうも各所で騒動が起きているらしく警備隊が手薄になっています!
 戦闘能力のある人が外側を歩くようにしてください!」
 スタッフでもないのに出しゃばり過ぎかなとも一瞬思ったが
「よーし、悪ぃ子が着たら泣かすどーー」
「燃やしてやるさ。ケケ」
 包丁を持った鬼が嬉々として応じ、先ほどのサラマンダーが楽しそうに空中をくるりと旋回する。
『「みなさん、聞いてください! どうも各所で騒動が起きているらしく警備隊が手薄になっています!
 戦闘能力のある人が外側を歩くようにしてください!」』
『「みなさん、聞いてください! どうも各所で騒動が起きているらしく警備隊が手薄になっています!
 戦闘能力のある人が外側を歩くようにしてください!」』
 ヨンの言葉がそのまま何度も何度も遠くに響いていく。
「これは?」
「『木魂』だよ。近くに居たからお願いしたんだぁ」
 河童がえへんと胸を張る。どうやら音を反復して響かせる能力を持った何からしい。
「ありがとうございます」
「俺たちの祭りだからな!」
 ヨンはそうですねと微笑み、行き先である塔を見上げる。
 無粋だ何だとは思う反面、こうして力を合わせるというこの一瞬が大切なのかもしれないとぼんやり思った。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆

「ったく、ハードだな」
 悪態ついて屋上で呼吸を整える。この建物は4階建ての雑居ビルなのだが相手はそれよりもずっと大きい。その周りを強襲護衛隊や有志の面々が取り囲み、試しに攻撃を加えてみたりしている。
 エディはそこから視線を剥がし、周囲に視線を這わす。あんなデカブツを相手にしても意味がない。あれを呼び出した何者かを討つ方が建設的だ。
『通達。この召還物の目的は妖怪種の無差別攻撃の可能性大。攻撃の阻害と召還者の探索を最優先に!』
 PBの声に近い感覚が脳裏に響く。見上げれば飛竜が近くを舞って行った。
「無差別かよ……」
 胸糞悪い。デカブツを召還しての陽動かとも考えたが……、いや、その考えを捨てるのは早い。犯人がその積もりがなくてもこれを陽動扱いにするヤツも居ておかしくない。
 制御も通信と同じような物だ。であればこのデカブツから100m以内に居るはず。
 周囲に視線を這わす。驚きと興味の入り混じった顔が並ぶ中、違う反応をしている者を探す。
 居たが、違う。スリか。とりあえず肩口に一発お見舞いしておく。のた打ち回るのを他に任せて次、いきなり魔術を使おうとしていた男が取り押さえられているが巨人とは関係なさそうだ。次。
 相手は人ごみの中に居るのか? いや、それなら術の発動時に気付かれてもおかしくない。ならば人の居ないところ?
 大通りは人で溢れている。巨人の行動を制御するのであれば近くで、その動きが見える場所が恐らく好ましい。路地に入るととたんに建物が邪魔になるはずだ。
 で、あれば。
 視線を上へ、自分と同じ高さで水平に動かす。
「居た……!」
 50mほど先、ゆったりとした服を着た40代くらいの男が右手を妙な形にしつつ巨人の方を一心に見ている。
 銃口を向けて放つ。一直線に走るそれはしかし直前で剣に止められた。見れば甲冑を着た男がいつの間にか現れて銃弾を斬り弾いたのだ。
「護衛かよ……!」
 舌打ちして連射。だがそのどちらとも見事に斬って払う。生半可な腕ではないらしい。幸いはその場から離れる積もりがない事だと思わせるほどだ。もし肉薄されたらあっさり斬られる未来が見えた。
『見つけましたか?』
 さっきの思念だ。影が落ちてきて竜が頭の上を滞空していることが伺えた。
「あのビルの上だ。護衛が居やがる」
『了解。付近の強襲護衛隊に通達。犯人の姿を確認。捕縛行動に移行してください』
 上空で牽制をしていた、そして地上で防御をしていた者が一気に動く。
 気付かれた事に焦ったか、巨人の動きが荒々しくなる。
「やらせるか!!」
 ろくすっぽ狙いを定めない連射。護衛が致命的なものを弾くが、全てを打ち返せるわけではない。術者の足元に着弾した一発にぎょっとし、巨人の動きが狂った。
 次の瞬間、四方から飛び掛った面々が放つ飽和攻撃の前に、為すすべなく術者と護衛は爆煙の中に消えていったのだった。
「やれやれだな」
 見上げれば猛威を振るっていた巨人がゆっくりと薄れていく姿がある。詳細を知らない人たちが楽しげな声を挙げる中、どかりと腰をつけて大きく息を吐く。
 まだパレードの開幕から2時間も経過してない。ちょっとペースが酷くないか?と誰にともなくぼやき空を見上げると、飛竜と目が合った。
『皆さんから、ナイスアシストとのことです』
「そりゃどうも」
 苦笑を一つ。あまり期待されてもオーバーワークは御免だねと誤魔化すように呟いて

 がすっ

 突然目の前の床が抉れるのを見る。
「っ!?」
 即座に射撃可能な体勢を取ると
「っと、手出しは無用だ」
 鬼が笑みを滲ませるような声で告げ、隣のビルへと跳んだ。すぐさまそれを追う様に男が舞い降りて、そして去っていく。
「シュテンだよな。さっきの」
 残念ながら飛竜はすでに別の場所へ向かったらしい。
 まだ何か起きてやがんのかと呆れ顔をして、さてどうしたものかねと休憩がてら考えるのだった。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆

「壮大というか何と言うか」
 地上を歩いている妖怪種や幻獣種だけでも見飽きないというのに空には巨竜が何かを喚きながら飛んでいる。
 Ke=iが居るのは西側の区画、サンロードリバーに程近い所だ。周囲の人々の注目は上空に集中しており、パレードの足もやや鈍りがちのようである。
 ただ、かろうじて拾える単語を纏めると、あの巨竜が勝手にいじけて行ってるようにしか見えないのは何故だろうか。
 興味がわいたので背中のフライトユニットを吹かして近付いてみる。すると巨竜の傍で嘲り笑う女性の姿に気付く事ができた。
「うふふ。みんな貴方を迷惑がっているって気付いた方がいいわよ?」
『黙れっ!』
 噛み潰さんと突撃した巨竜を女性はいとも簡単に避けると「分かってるんでしょ?」とさらに嘲る。
「そこまでにしてもらえませんかね?」
 ふいに上方から声が掛けられる。
「ファフニールさん、貴方にお願いがあってきました」
 竜人───ガスティをファフニールの巨大な目がギロリと睨む。
『貴様も去れと抜かすか』
「違います。貴方に第十陣の護衛を依頼したい!」
 ファフニールの瞼が怪訝そうに動く。
「何を言ってるの、ボウヤ。陣は九つしか存在しないわよ?
 ああ、そういう事、一人で寂しくやってろって意味ね。いいセンスだわ!」
 歪みの竜は楽しげに、そして歌劇のように声を響かせる。
「違います! このお祭りはみんなに見てもらうためのもの。別に空を歩いてもいいはずです!」
 その背後からスタッフに誘導されてきたのはハーピーや飛頭蛮などの空を飛ぶ者達。
「彼らも窮屈してたんですよ。空にある者は空にあるべきです」
 ファフニールは目をぱちくりとさせてそれから改めてガスティの姿を見た。
「実行委員にも話はつけました。お願いできないでしょうか」
 ウィル・オ・ウィプスやスプライト達が空に輝きを燈すと、地上から先ほどまでの興奮とは違う、純粋な歓喜の響きが空へと至る。
『う、うむ。そこまで言うのであれば!』
 同意したファフニールの周りに飛竜やグリフォンなどが楽しげに編隊を組む。事の成り行きを見守っていたKe=iもなんとなくこの場に残っていると「とばっちり」を受けそうな気がしてファフニールに続くようにその場を辞する事にした。
「余計な事をするわね、ボウヤ」
 ギロリと、尋常でない不機嫌な視線がガスティを貫く。
「え、あ、貴方も良いんですか? 竜としての価値を彼に奪われたりするんじゃないですかね?」
「勘違いしないで頂戴。認識を得る必要があるのは参加者の極僅か。妖怪種でも人の口に上らないような連中の事よ」
「あ、そうなんですか?」
「それに私が竜である事は側面でしかないし、その『たかが側面』であっても『全ての鱗を持つ者を統べる王』に対して不敬じゃないかしら?」
「何処の世界の価値観かは知りませんけどね」
 心臓が握りつぶされそうな圧迫感の中、強気を維持して彼は続ける。
「楽しい祭りなんですから楽しくやりましょうよ」
 美女はファフニールを一瞥して鼻を鳴らすとふっと姿を消した。転移術ではないだろうがと思いながら背中の脂汗を意識し始めた瞬間
「貴方の顔、覚えておくわね」
 気配無く耳元で囁かれた言葉に心臓が活動を止めたかと思う程に体を硬直させる。
 やがてへなへなと着地して「いわゆる腰が抜けた」状態である事を悟る。
「厄介な人に目を付けられたかも」
 思わず呟いた一言。それは予感ではなく確信だった。
 
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というわけで前半戦終了。なんでこんなに長いんだ(笑
どーも総合GMの神衣舞です。
問題継続中なのはシュテンと謎の男の戦いだけですね。彼らは町中をぴょんぴょんしながら戦っています。
次回は一回時間飛ばすついでに平和なお祭りのターンで、その次で最終戦かな。
次回の行動で結末の対処法の幅とか増えたりするかもね。もちろん騒ぎは各所で発生中ですよ。
というわけでリアクションをお待ちしております。
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