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【inv08】『Walkers the Nigth』
〜その6〜
(2010/09/13)

「あら、モモちゃん」
 ケイオスタウン側のニュートラルロード、そのほぼ真ん中辺りで情報統制に務めていた百目鬼は聞き慣れた────余り聞きたくない声にげんなりとしつつ目の一つを向けた。
「奇遇だねぇ」
「奇遇じゃないですよ。何か用ですか?」
 そこは『Walkers the Nigth』実行委員会のテントだ。といっても道端に設置しているため特に接近を拒む物はない。
 百目鬼のモモは神楽坂・文のいつも通りの笑みと、その手にあるハンディカムを睨んだ。
「祭りの取材は別の子のはずですけど?」
「良いじゃない、ネタは多くて困る事はないよ」
 良ければ言わない。カグラザカ新聞社の編集長はいつも感性の赴くままに飛び出して行くのだ。
「今日は私もフロアに居ないんですから。それに社からでも見えるでしょ?」
「うう、だってお祭りだよ?」
 そしてその大半は仕事のためというより単なる趣味である事が大問題だと思うのだが。
「それで? 今面白そうな事が起きてる場所はある?」
「面白そうって……」
 基本的には仮装行列と同じような物だ。各々が道を往きながらパフォーマンスをするのだからどこが、と言う事はない。それを理解した上で問うているのだから、それは一応は実行委員としてここにある自分に対して不謹慎だと思う。
「特にありませんよ。予定通りに進行中です。第十陣が急遽編成されたくらいですよ」
「ああ、ファフニールの飛行編隊ね。あれはあれで勇壮だよね」
 予想通り知っていて、予想通りに食いつかない。この人は適当に歩いているくせに事件のど真ん中に居るのだ。だからこう言ってやる事にする。
「貴女がそう言ってるんなら平和な証拠です。そのまま困ってください」
「ブン屋にあるまじき発言だよ!」
 別に店舗案内でも新聞は作れるのだから、良いじゃないかと溜息。
「まぁ、いいや。私は他を見てくるね」
「社に戻らないんですか?」
 嫌味を欠片も理解せず彼女はにこやかに言葉を残す。
「ほら、代表のシュテンさんがニセモノとすり替わってるから、もう少ししたら楽しくなりそうだし?」
 え? と思った時には彼女は人ごみの中に去ってしまった。百目鬼の目はその姿を捉えても祭りの熱気で声は届かない。そうこうしているうちに100m以上離れられて見失ってしまった。
 モモは暫く呆然と彼女の去った方向を眺め、それから我に返って今の話の事実確認を始めた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「随分と引っ掻き回された物だな」
 竜に神族の顕現体という大物の登場に誘拐を企む小悪党が動き回った結果、当初の警備担当が持ち場を狂わされていた。ようやく得た凪の時間にそのリセットを急遽行っている。
 先ほどの活躍もあってか、エディの提案はあっさりと通り、ついでに再編成を任せると余計な言葉まで付属してきた。随分と本部のやり方が杜撰だなと顔を顰めた物だが、放り出せば後で苦労するのは自分達だ。それに新規に発生した第十陣の事もある。ファフニールという古竜が護衛役を名乗っているがあれでは小回りが利かない。当然強襲護衛隊の一部を割らねばならなかった。
『間もなく一般参加との合流時間です。『本性』をうっかり出す人も居ますから特に注意してください』
 妖怪種は畏れから生まれてくる者も多いのだと言う。「それは暗闇の中、背後に誰かがついてきているかもしれない」「聞こえる音は誰かが何かをやっているのかもしれない」という自然現象の擬人化だ。擬妖化と言うべきか。そういった者は自身が生まれた条件に一致してしまうとついつい自分の根源となる行動をとってしまうらしい。
 それが「ただ後ろにぴったりとくっついて歩く」なんて物ならば可愛らしいが、死傷者が出かねない特性もあるのだと言う。もっとも、そういう類の者は一般参加者と合流する隊には居ない『はず』である。
 新しい配置へと散っていく強襲護衛の面々を見送り、エディはさてとと西の空を見上げた。
 有事の対応力は弱くともその威は本物だ。ファフニールに良い気になってもらっていた方が面倒が無い。
「なぁ」
『……? 私ですか?』
 伝令役の飛竜がエディの上で滞空する。
「悪いがあの竜のところに運んでくれないか? ちょっと話をしたい」
『了解です。もう少しで再配置の通達が終わりますのでお待ちを』
 あっさりと了承の思念が帰ってきた。どうやら自分を信頼してくれてるらしい。エディは了解をしめすようにひらひらと手を振り、もう一つの案件、精神操作に秀でた人材をどう探そうかと考え始めた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
「おー」
 サンロードリバーのほとりまで着たヨンはマーメイドや半漁人がパフォーマンスをしながら往く流れを見て歓声を挙げる。
 サンロードリバーの塔を挟んで西側にはアクアタウンという河底町が存在しており、彼らはそこの住人だ。普段は河の渡し守や進入する怪物の迎撃を行っている。
 ライトアップした輸送船でセイレーンが歌っている。うっかり本気をだしてしまって集団入水が置き掛けたらしい事はさておいて。
 水が間欠泉のように吹き上がってそれを色とりどりのライトが照らす様は中々に見事だ。水が上がるたびに観客からは大きく歓声が上がっている。
「友達に挨拶してきただ」
 ざばぁと河童が河から上がってきてふるふると水を払うとヨンの横に座った。
「僕の事は気にしないでいいですよ?」
「折角だからね」
 正面でぱぁっと水が吹き上がり、何人かがこちらに向かって手を振っているのが見えた。それに河童が応じているところを見るとその友人とやらだろう。
「思ってた以上に派手ですね。陸の方がメインなのでこちらはどうかなと思ったんですが」
「熱心で働き者の連中が居るだよ」
 ん?と言葉の意味を確かめようとすると、正面を半漁人に似た、しかしどことなく生物のあり方に反したような連中が「えっさほいさ」と資材を運んでいく。
「今の奴らだよ」
「マーマン……にしてはどこか妙ですけど」
「マーマンじゃないだよ。確か……深い所が好きな連中だ。まとめ役はダンゴとか言っただね」
「……団子?」
「妙な響きだったよ」
 目を凝らせば結構な数が居る。
「大親分が表にあんまり出られないから子分が頑張るんだって」
「へぇ」
 随分と協力的な人だなぁと思う反面、どこか嫌な予感がする。深く考えない方が良いだろうと何となく思った。うん、きっと。
「さて、それじゃあ───────」
 どばっと激しい音がして、まるで爆弾でも投げ込んだかのように水面がはじけた。
 新しいパフォーマンスかと視線を向けて
「……?」
 今までパフォーマンスをしていた面々が面食らった顔をしている。つまり、
「また何か起きたんでしょうかね」
 水しぶきが収まり、セイレーンや海ハーピーが乗っていた船の上に異物が1つあった。
 獣のように四肢で身を支えるそれは、水面に立つ男を見ている。
「あれは……シュテン氏?」
 遠目でもわかる。何故第一陣の頭を行くはずの彼がこんな所に居るのか。
 水面に立つ男の周囲がせり上がり、水が弾丸のようにシュテンへ走ると彼は盛大にバク転を決めてそれを避けるて、これまた当然のように水の上を走っていく。
「なんとも……」
「派手だなぁ」
 シュテンと相対する男は間違いなく殺気を孕んでいる。パフォーマンスと喜んでられないが、水の上では介入もできない。
 やがてその姿も見えなくなり気を取り直したようにパフォーマンスが再開される。
「大将、何処に言ったんだろうなぁ?」
 河童の問いを内心で繰り返し、改めてどうしましょうかと呟いたのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「おい、九十九」
「シュテンだろ、イバラギ」
 姿も声もシュテンそのもので応じるが、イバラギは苦笑して上を指差す。
 ずぅんと巨体が着地。ホッケーマスクに肉切り包丁を携えた男がシュテンを見上げた。
「説明ヲ求メル」
 くぐもった声はごまかしが聞かない事を率直に伝えていた。
「どうもシュテンの古い馴染が来たようでの。妾は代役じゃよ」
 いかついシュテンの姿で妖艶な女の声を漏らして応じる。
「進行ニ変化ハ?」
「無かろ。なに、あれで義理堅い男じゃ。最後まですっぽかすような真似はせんよ」
「承知。通達ハ?」
「しゃあねぇ。俺からやろう。いいな、九十九?」
「今宵の祭りにおいてはそなたの方が上であろ?」
 イバラギは肩を竦め、「そのツラで流石に気色悪い」と嘯く。
「同意じゃな」
 九十九もカラカラと笑い、それからとんと跳んで屋根の上へ。
「てめぇら! 祭りはまだまだ続く! 派手にやろうや!!」

『応応応応応応応応応応応応応応応ぉぉぉおおおおお!!』

 声が漣のように、しかし雄々しくそして激しく響き渡り周囲の建物をびりびりと揺らす。
 第一陣の武威こそがその本性である者達は威風堂々と言う言葉を纏って己を示す。
 シュテンに化けた九十九は満足げに笑い、それから不意に興ざめしたような視線を背後に向ける。
「今宵は祭り、楽しく踊りゃ良いものを」
 小さく呟いて生み出した火の玉────狐火でそれを受け止める。
 周囲を取り巻く者の数は50に近いか。
「まぁ良い」
 否、と続けて、彼女は────彼は声を張り上げる。
「世に名を轟かせしは鬼の中の鬼!
 之酒呑童子。闇夜に歩みて血を啜り、今宵は畏れを振り撒こうぞ!」
 イバラギも他の面々も気付いたらしい。スタッフが周囲の観客を退避させ始めるのを横目に九十九は大きく手をひろげてニィと笑みを作る。
「貴様らごとき小童に俺様の遊び相手が務まるか!」
 四方八方からの攻撃がシュテン───九十九に殺到し、闇夜に大輪の花が咲いた。

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ちゃおー。総合管理人の神衣舞です。
というわけで、次回がセミファイナルの予定です。
現在シュテン君が色んなところで戦闘中。大きな問題は発生していませんがラストの通り大集団が第一陣を襲撃した模様です。
無論これに乗じて動く人もいるかもしれません。
ちなみにエディさんご要望の精神操作系はし終わってますが数人です。というのも精神構造が違うのでうっかり異種族に使うとえらい事になるリスクがあるので専門家を名乗る人は少ないようです。
祭りの夜もあとわずか。
楽しく参りましょう。
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