「おうおう。俺様が酷くやられてるようじゃねえか」
ある建物の上、敬礼のように額に手を当てて遠くを見るシュテンが歌舞くように大仰な声を上げる。
「九十九の嬢ちゃん、派手なのは良いんだがもっと俺様最強っぽくやってくれねえもんかね」
巡り巡って、闇夜を飛び跳ねるように戦い───否、その行動は逃げ続けていると評して遜色ない動きを続ける彼はいつしか一陣の姿を見れる所まで戻っていた。
「貴様っ……!」
男が追い付き、構える。
「ふざけているのか……っ!!」
「おうおう、俺様は何時だって真面目だぜぃ?」
血を吐くような憤りを見せる男に対し、シュテンはどこまでも真剣味のない応じを男に向ける。
「……っ!!!!!」
踏み込んでの斬撃をシュテンの刀が受け止める。一合、二合────シュテンの巨体でも触れれば両断するようなそれを体に似合わぬ技術で受け流していく。
「何故だっ!」
重ねる刃に乗せられるのは悲痛な叫び。
「何故本気を出さぬ! 否、何故俺を生かす!!」
「何故ってよぅ」
シュテンは困ったように眉尻を下げて、ぽんと男から距離をとった。
「おめえさんに恨まれる理由は重々承知しているし、俺様はてめぇに恨みはねえからなぁ」
シュテン────酒呑童子は目を細めてかつてを思い起こす。
茨城童子の奴と京を荒らしまわったもんだ。
類似世界────地球世界における酒呑童子はその伝承によれば帝の名により組織された討伐隊に討たれ、首を取られたらしい。我ながら情けないと思う反面、戦って敗れたのでなく罠にかかって寝首を掻かれたらしいからまぁその点は誇ってもいいかもなと思う。
「だがよ。俺様はもうそういうのは卒業したんだ。いい加減勘弁しちゃくれまいか」
「地獄で詫びてから言うんだな……!」
そいつはできねえ相談だと苦笑い。
「仕方ねぇ。その責任もあろうが、俺様には祭りの責任ってのもあるんだ。
がつんとやらせてもらうぜ。頼光さんよ!」
鬼は初めて刀を構え、男は淀んだ狂気の視線をそこにぶつける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヨンは遠く────今となってはかなり近づいたニュートラルロードの方で派手な爆発が上がるのを見た。
「あれは……」
頭の中で進行図を思い起こす。第四陣と五陣が合流するあたりか、それよりも先だ。二つの陣は二陣、三陣と続いて一陣の後に続くので襲撃を受けているのは主に一陣だろう。
「シュテン氏が戦ってるんでしょうかね」
それにしては過激な音は1つや2つではない。
「まるで戦争だな」
誰かが同じく遠くを見て、そう呟いた。見上げれば第十陣として空に加わった飛行隊の動きがその直上に進路を変えている。
「それだけの規模の厄介な人たちが集まったということでしょうか」
そうなると最早テロとかいうレベルではない。周囲を見渡せば不安げにする者も……
「……おや?」
参加者には意外と少ない。それもそうかとヨンは苦笑する。参加者のほとんどは一時的でない来訪者だ。あれくらいの事でびくつくような連中じゃない。どちらかと言うと観客の方だが、参加者が不安を見せなければ演出なのだろうと割り切ってしまえる。
注意深く見れば強襲護衛隊もこの場を離れて一陣側へと向かっている。全員では無いがそれだけの規模の襲撃と読み取れるのだが。
「今宵は祭り、楽しくみんなで踊りましょう」
燻ぶる不安を呑みこんでヨンが楽しくおどければ、周囲の連中はめいめいに応じをくれる。
誰かが適当な音楽を奏で、それに合わせて不格好な踊りを見せる者も居る。
不安は拳が強い連中が何とかするでしょう。
そう割り切って彼は軽く跳躍をする。
「というわけで、水を差さないでもらえるかな?」
妙な道具を構える男の前に降り立ち、腹に一発。その道具を踏みにじり、近くの強襲護衛に手を振る。
「さあ、パレードも大詰めですね。楽しくやりましょう」
なに、不審者でも出ればやっつければいいだけだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ニュートラルロードを挟んで反対側の第六陣も八陣、一般参加者と合流してニュートラルロードを目指している。
空を舞うガスティは小物を数匹けん制した後、一陣側の騒ぎを目にしていた。
「あっちは派手だな」
夜空を飾る色どりとしては一見の価値もあろうが、少々威力が伴いすぎる。
応援に行くべきか?
すでに数人の強襲護衛隊がそちらに向かっている。ばらばらだったはずの厄介な連中が結託しているようにも見えるので人手が欲しいのは間違いないだろう。
「でもなぁ」
あの姐さんがすっぱりあきらめたかが少々気がかりだ。そう思っていると第十陣が予想進路を変えて一陣上空に向かうのが見えた。
「……龍のおっさん、また妙な事吹き込まれてないよな?」
暗闇の中、飾るような光を頼りに視線を凝らすが、その影は見当たらない。
「どうも不安になるというか……」
あの女はしつこいとどこか決めつけているのは何故だろう。
自分も竜にまつわる種なので悪くは言いたくないが、あの女性は竜というより蛇を思わせると内心で呟き、きょろりと周囲を見渡す。とにかく竜種は蛇やトカゲと言われるのを嫌うのでまさかと不安になった。
「ま、なんにしてもむやみやたらに一か所に集まるのも良くは無いか」
第十陣の動きは気になるが
「ヒッ」
投げたナイフが建物の上で怪しい動きを見せた数人の間に刺さる。
「こういう手合いも居るからな」
合図を出して人手を集める。祭りはもうすぐフィナーレを迎える。綺麗な形で終わらせるために自分はどう立ち振る舞うか。それを考えながら逃走する連中に追撃を仕掛けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
敵は決して多くない。
エディはそう見立てながら盛大な火炎を見上げた。
シュテンがその炎に巻かれたようだが、それしきで死ぬようなタマではないだろう。そう割り切って思考と視線を周囲に撒く。
大きな集団が動き出し、周囲が便乗した。そしてここを潰せばもう大きな勢力は無いだろう。
『エディさん、各隊から増援が向かって来ています』
飛竜からの念話にくいと視線を上げる。
『それから……ファフニール氏もこちらに……』
我儘竜の暴走については軽く聞いている。護衛役を任されたからとはしゃいでいるのかもしれないが、主に地上戦のこの局面に参加しないでいただきたいとため息。
「それの参戦前にカタつけないとな」
こちら側の戦力をこの一点に集め続けるのも良くは無い。
「今動かせるのはどのくらいだ?」
『遊撃隊約50名と増援20数名です』
火勢を見る限り恐らく数は襲撃者の互角か上回ってるだろう。
「よし、ひとつずつグループを潰すぞ。ダイレクトに一陣を攻撃している連中は任せておけばいいだろ」
『そうですね。すでに動き始めているようですし』
「おう。まぁ荒くれを集めているからな」
喉が引きつり、とっさに銃口を向けた先に鬼が居た。
「驚かせたか。すまんすまん」
フランクに詫びる鬼に『イバラギ氏、あまり陣を離れては』と飛竜が困ったような念話を飛ばす。その手にはぐったりとした男を一人捕まえており、それをぽいと床に投げ捨てた。
「いや、シュテンの代役をやってくれてるやつが居ると聞いてな。ちょっとした顔見せよ
一陣、二陣、三陣の直接警備は必要ない。遠距離からちょっかい掛けてくるのだけ始末してくれりゃ問題はないな」
エディもそのつもりだ。小規模な集団を発見したという報告に遊撃隊を回し、ひとつひとつ潰していく。同調して暴れているだけでこの場に居る全ての敵性が仲間というわけではないからその結果はあっけないものだ。
「代わりに立候補した覚えはないんだがな。……本人は?」
「ちょいと野暮用でな」
眉根を寄せる。視線を向ければ炎の咲き誇った場所に7人ほどシュテンが居る。
「……あれは?」
「九十九の嬢ちゃんだ。って言ってもわからねえか。狐だよ、化かすのが上手いだろ。残念ながら美女というにはチビだがな」
カカと笑って「まぁ、頼りにしてるぜ兄ちゃん」と肩を叩き、鬼は陣列へと舞戻る。
「まぁ、報酬分の仕事はするけどな」
明らかに報酬以上じゃないかとも頭を掠めたが今は置いておく。
そうこうしている間に三つ目の集団を潰した事、また首魁のシュテンが────今の言葉を信じれば狐が化けたそれがかく乱しているために協調行動が上手く取れていない事が戦況をあっさり有利へと傾けている。
「あとは迷ってる連中に精神操作系仕掛ければ大勢が決まるな」
『結構なお手前で』
飛竜の言葉に肩を竦め、エディは遠くのスナイパーに一撃をくれてやった。
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というわけで次回ラストです。どーも神衣舞でーす。
いかん、エディさんが的確すぎて襲撃失敗だ(笑
他の二人も隊を離れなかったので余所でも騒ぎ起こせない。なんか完封状態じゃねえか……?
まぁ、素直に終わる方が祭り的には幸せなのですが、シナリオ的には次回シュテンさんメインにしなきゃいけない気がしてきた……!(笑
とにもかくにも夜を往く祭りもあとわずか。
最後のリアクション(っても流石にやる事がもうって感じだけどネw)をよろしくお願いしますね。
……明らかにこのシナリオペース配分間違えたよな、ワタシw