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【inv08】『Walkers the Nigth』
〜その8〜
(2010/10/20)
「何やってんだ、あの大将は」
 エディがため息交じりに視線を向ける先には鬼と武者の姿がある。
 シュテンも全く無傷と言う事はないが相手に比べれば軽症と言わざるを得ない。武者はすでに立つ事すら危うくふらついている。
「もう祭りも終わりだって言うのに」
 最早勝負は決している。手を出す必要も見受けられない。それでも武者は刀を構え、シュテンは殺意無く相対している。
「ん? おお、丁度いい」
 鬼がこちらを向いた。そしてちょいちょいと手招きをする。
「コイツを治療班にでも送り届けてくれ。夜明け前に帰らないといけないはずだしなぁ」
「……戯れてただけか?」
「いやぁ、奴さんは本気よぅ」
 完全に隙を見せているのに踏み込む事すらできない。血走った目と軋む歯の音が唯一の抵抗とばかりに鬼へと向けられ続けている。
「治療したらまた襲い掛かってくるぞ?」
「いやぁ。もう時間が無いからなぁ。真面目な頼光は無理と居座るまいよ」
 時間? 訝しげに眉を潜めると「俺っちの世界への扉は常時開放型じゃねえのよ。一年に一回月夜の晩に開いて夜明けには閉まっちまうんだ」と肩を竦める。
「そいつは今や推しも推されぬ英雄様だ。まさか神隠しに遭うわけには行かないからなぁ」
「貴様……っ! 何処まで私を愚弄するか!」
「一晩付き合ってやったんだ。愚弄だなんて言うもんじゃないな」
「……つーか、そんな日に祭りの日程を設定したのか?」
 エディが呆れ顔で言うと
「いやぁ、こっちとあっちで微妙に月齢が違うらしくてなぁ。ずらしたつもりだったんだがよぅ」
 ごりごりと誤魔化すように頭を掻いてまん丸の月を見上げた。
「元々この祭りというか百鬼夜行は俺たちがこっちに来た記念の日としておっぱじめたヤツだからなぁ。なんかわらわらと集まってデケェ祭りになっちまったが」
「時期が被るのは当然ということか」
 迷惑な話だと言うには憚られる。
「でもそれじゃ、来年も出てくるってことじゃないのか?」
「できりゃぁ諦めて貰いたいんだがねぇ」
 その気迫だけで刃でも作れそうな目をした武者を見て、その希望が叶うとは思えない。
「そんなに怨み辛みを重ねたら鬼道に墜ちるぜぃ?」
「ともあれ、治療の件は請け負っておくさ。アンタは本陣に戻れよ」
「悪いな。今度酒でも奢るからよ」
 ひらりと手を振って巨体と思わせぬ跳躍で去っていく。
 さて。
 治療を請け負ったが噛み付かれないかねと振り返った瞬間、どさりと倒れる音。
「まぁ、楽で良いんだけどな」
 最後の後始末だと彼は苦笑を漏らし、男に近付いた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「首尾はどうだ?」
「ん?」
 巨大な目玉がぎょろりと動き、ややあって横を飛ぶガスティの姿を捕らえる。
「おお、貴様か。俺が居るのだ。大事があるわけがない」
 「良く言う」とは思っても顔に出しはしない。この子供っぽい巨竜に機嫌を損ねられると面倒でしかないのは充分理解した。
「しかし一陣の方の加勢はした方が良さそうだが」
「大丈夫だよ。あらかた片付いたって連絡があったし」
 実際先ほどまで聞こえていた音は祭りの物に完全に塗り替えられていた。
「そうか、残念だ」
 残念がるなと以下略。自分も地上の掃討戦に加わるつもりだったのだが、その必要も無いらしい。
 悠々と闇夜を舞う巨竜に従う光は変わらず艶やかで、こちらを見上げる人々の顔も明るい。ライトを足で掴んだハーピー達が曲芸飛行をして夜空に光のラインを描き出すとどっと歓声が上がった。
「ぬう、アレくらい!」
「アンタは先頭なんだから、後ろの奴らが困るような事はしないほうが良いだろ?」
「……残念だ」
 ホントに頭の中ガキだな、と盛大にため息を吐いて眼下を見渡す。
 どの陣もその先頭がニュートラルロードに突入しており、あと三十分もしないうちに第1陣も扉の園に入るだろう。
「そう言えば忘れていた」
「いや、余計な事をしなくていいから」
「ぬう! 汝の名を聞くのが余計な事と?」
 へ? と目を瞬かせた彼はややあってから
「ガスティだよ」
 と苦笑いを浮かべて応じた。
「ガスティか。見れば竜の系譜に連なる者のようだな。その名覚えておこう。光栄に思うが良い」
「まぁ、ほどほどにな」
 余り覚えられても良い事なさそうだなぁと内心でぼやくと
「あら、しっかり覚えておくわよ。ガスティ?」
 耳元で妖艶な女性の声。心臓を捕まれたような、怖気に振り向いてもそこには誰も居ない。
「……やっちまったかなぁ」
 地球世界における『全ての鱗を持つ者を統べる者』とは嫉妬を象徴する大悪魔であり、ついでに蛇は執着の象徴でもある。
 世界体系が異なる彼が後にそれを知ったとき、どんな顔をしたのかは定かではない。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ゴールっと」
 飾られた北側の入市管理場を横目にその境界を越える。そのまま打ち上げのパーティになるらしくブルーシートが敷かれたり、食べ物を用意する人々が遠くに見受けられる。
 邪魔にならない程度にそのまま進んだヨンは丁度良さそうなところでくるりと反転し、列の方へと向き直った。
「みなさん。今日はありがとうございました!」
 突然の事にきょとんとしていた面々もすぐに笑顔を作って「あんちゃんカッコよかったぜ」だとか「まだ今から飲みだ! 付き合え!」とかわいのわいのと騒ぎになる。それほど協力な種が居ない事もあるかもしれないが、終始穏やかな空気で来れたなぁと思う。
「よっしゃ、9陣はここを乗っ取るぜ! お前ら、食い物とか持って来い!!」
 サラマンダーがぼわりと一際大きな火柱を上げてアピールすると、ノリの良い連中が「おおー」と用意している食べ物などに散会した。
「朝まで騒ぐぜ!」
 ぼわんぼわんと火柱を上げて、ぜぇぜぇと荒い息を吐く。下級精霊なのでそんなにヒートアップしたらばてるのは当然である。
 まぁそれでも月夜に彼の火は映える。すぐに宴会場となって呑めや歌えやの騒ぎに発展した。
「稲荷寿司だよ」
「稲荷寿司だね」
 ぴょこぴょこ跳ねる天狐の二人にヨンはそれを取り分けながら「おらは河童寿司がいい!」と手を挙げる河童に苦笑する。自分の名前が入ってるのは共食いじゃないかと思えば、どうやらそれぞれ稲荷と河童が好きな物を使った寿司と言う意味とのこと。
「さてと」
 ヨンは賑やかな祭りが続く周囲を見渡した。
 お世話になった人たちに挨拶をしませんとね。
 律儀な吸血鬼はやいのやいのと騒ぐ集団へともぐりこんでいくのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「随分と楽しんできたようだな」
 不遜な物言い。いつもの相棒のそれだがやけに艶っぽい。見れば相対するような大男はそこには居らず、見目麗しい女性が身に余る大杯を手にしている。
「なんでぇ、その格好」
「俺はこれが本性よ。お前に合わせておいただけだ」
 ああ、そうだったとシュテンはぺんと額を叩く。イバラギこと茨木童子は大鬼とも語られるが女性であるという説も根強い。そしてここに居る彼───彼女はその確かに女性だ。
「なに、もう山で暴れているわけでもねえ。俺がこの姿で居てもナメる子分が居るわけでもない」
「道理だな。俺が見慣れないという問題を除けばだが」
 イバラギは珂々と笑って「それにこの姿の方があの武者に狙われなくて良い」と嘯くとシュテンはやや苦みばしった表情を浮かべた。
「返り討ちにしたんだろ?」
「まぁな。奴さん来年も来そうだが」
「なんじゃ、生かして返したのかえ?」
 イバラギの横でお猪口を持った幼女が首を傾げる。外見はコレでも齢数千歳の大妖狐で、清酒は大好物である。
「憂いも無くなろう?」
「とは言え、奴さんが無事だから奴さん以外こっちに乗り込んで来ねえようなもんだ。四天王まで引き連れて着やがったらコレくらいの騒ぎじゃ済まねえからよ」
 彼の世界でも酒呑童子は源頼光に殺された事になっている。が、現実は偶然アジトに発生した扉を潜ってこちらにやってきていただけ。事実として討伐した事になり、英雄扱いされた頼光はその嘘を真実にするためにやってきているのだ。
「真面目だからねぇ、あの男。嘘で都の平穏が守られるならと思いながらその嘘に耐えられない。無様な男だ」
 辛らつな言葉を美女が言えば「じゃが、あれは力が強い。いつぞや討たれるかもしれんぞ」と幼女が囃した。
「なぁに、そん時はそん時よ。鬼道であっちの鬼と酒宴でも開くさ」
 剛毅に言い放ちぐいと酒を呷る。
「祭りの席で辛気臭いのはいけねえな。さあさぁ呑もう呑もう」
 観客の誘導を終えたスタッフや強襲護衛隊の面々も集まってきている。一段と賑やかになる扉の園で鬼は高々と酒盃を揚げたのだった。

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酒呑童子は八岐大蛇から生まれたそうです。
つまり今回の引っ掻き回し役は実は全員竜族だったりします。かっこわらい
どーも神衣舞です。【inv08】もこれにて閉幕となります。お疲れ様でした。
一周年を迎え、随分と世界も広がったなぁと思います。NPCとの関係もそれぞれ深めていますしね。良し悪しはあれ(笑)
表立って表現していませんがこのお祭り、重軽傷者多数、死者数名という過激な物になっています。まぁ、言わずもがな。もちろん襲撃者や強襲護衛隊を抜いた被害です。
それでもこのお祭りは続いていくでしょう。スペインの牛追い祭りが続いていたんですからクロスロードなら尚更です。
というわけで、まぁ正直最初にはしゃぎすぎて以下略。来年は規模は大きくなりますがシナリオ的にはもう少しコンパクトになるかと。
……来年もやるって事は2周年かw やれるように頑張るヨ。
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