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【inv08】『Walkers the Nigth』
〜その1〜
(2010/07/12)
 数多の世界、数多の種族が交錯する街クロスロード。
 それ故に数多の文化風習が入り乱れ、発する問題も多い。
 その代表格が『冠婚葬祭』である。ある者からすれば決して行ってはならない禁忌もまたある者からすれば正式な神事だったりするのだから当然と言えば当然だろう。それが一目に付くのであればなおさら。
 『祭』───いわゆる「お祭り」は基本的に神事ではあるが、人々のストレス発散の場に変化する事はどこでもある話だ。しかしその理由はもちろん様々で時期もばらばら。その全てを行っていたらクロスロードは年中お祭りになってしまう。(それはそれでOKな人も居るだろうが)
 そこでクロスロード発足の後、いくつかの祭りが「公式行事」として設定されている。



「『Walkers the Nigth』運営本部、ねぇ」
 『夜を往く』と訳すべきか。
 ガスティはケイオスタウンに設置されたその事務所に訪れていた。そして、
「なんだ、この気配?」
 なんと言うか、薄ら寒いというか……ゾクゾクするというか。えも知れぬ妙な感覚に首を傾げる。
「何か用?」
 と、後ろから声をかけられる。
「ええ、パレードの護衛っていう仕事で着たんですが」
 振り返って、ずざっと距離を取る。
「困ったねぇ。驚いて逃げてくれないと回り込めないじゃないか」
 身構えられては困ると少し不満げに言うが、その顔にはその言葉を発した口は無い。それどころか目も鼻も耳も無い。
「え、あ、えーっと」
「こら、ノッペラ。客人に何をしてんのさ」
 すると壁の向こうから女性が顔を出してくる。
「いやぁ、つい。この人護衛の希望者だって。シュテンさん中に居たっけ?」
「さっきイバラギの旦那が着たからって酒を飲み始めてるよ」
 ゆらゆらと揺れる女の頭。
「ああ、旦那ももう着てるのか。あの人おっかねーからなぁ」
「なに、酒さえ飲んでれば大人しいもんさ、おっとお兄ちゃん、入って入って」
 いいながら女がすたすたと壁の向こうから出てくる。
「……」
 とても長い首を壁の上から戻しつつ、女はおやと首を『?』の形にする。
「あんた、妖怪種を見慣れてないのかい?」
 妖怪種?と疑問が浮かぶ。PBがすぐさま彼の世界の表現で説明をするが、単に首が伸びる、顔が無いというだけの『脅かし系』妖怪はどうもしっくりとこない。
「まぁ、いいや。こっちだよ」
 おどけるように肩を竦めた女がくるりと振返ってガスティを案内しようとして。
「おい、クビナガ、危ないぞ」
 げんと、良い音を起てて彼女は後頭部を壁にぶつけたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ほほぅ。もうそんな時期じゃなぁ」
 大図書館の一角にあるカフェテラス。オープンキッチンでコック姿の老人が夏の日差しを見上げて笑みを浮かべる。
 彼はスガワラ翁。大図書館の館長なのだが、何故か嬉々としてオマケであるはずのカフェで腕を奮っている老人である。
「スガワラさんがこのパレードについてお詳しいと聞いて」
 視線を戻してヨンは老人に問いを投げかける。すると、ん?と片眉をあげた老人はなるほどと呟く。
「ほっほ。いや、まぁ実行委員ではあるがのぅ」
 テキパキとクラブサンドを仕上げつつ、片手間にパスタの茹で加減を見る。日に数百人から千人程度利用すると言われている大図書館の付属施設のため客もそれなりに多い。2頭身でバスケットボールサイズの人形2人がふわふわと宙を飛びながら給仕をしているのが横目に入る。
「百鬼夜行という言葉を知っておるかね?」
「……いえ」
 意味合いからすると『たくさんの鬼が夜歩く』という感じだろうか。
「要するに妖怪、妖魔種と呼ばれる者達が街を練り歩くというお祭りじゃな。ハロゥインでも良いんじゃが」
「はぁ、それは……」
 自分も関係するのだろうかと自問しつつ、同時に「仮装行列みたいなものでしょうかね」と呟いた。
「仮装もなにも本性なんじゃが、他の来訪者よりも独特の姿をしておるのは間違いない。仮装行列という雰囲気に違いはなかろうなぁ」
 気を悪くする事なく「見学者には仮装をして来る者も居るよ」と続ける。
「つまりは参加者が練り歩くお祭り、と言う事でしょうか。
 でも、何でそんな事を?」
「妖怪種や妖魔種、それから幻想種の中には自分の存在を認知してもらわねば存在できん者が居るんじゃよ。
 妖怪種の殆どは元々神族かその系列での、信仰の代わりに恐怖や興味を受けて存在するんじゃ」
 吸血鬼も妖怪種に属するのだが、吸血鬼やゾンビ等のアンデッド系は生前という存在があるため、そういうあり方ではない。
「なるほど。それで……」
 ならばパレードという形で多くの注目を集めるのは効率の良い方法だろう。
「でも『強襲護衛』って何ですか?」
「良いネーミングじゃろ?」
 誇るように老人は笑みを作る。お前が考えたのかよという心のうちはしっかり隠して続きを待つ。
「要は自分を知ってもらうためのアピールの場と言う事は分かってもらえたのぅ?」
 それにはええと頷きを返す。
「じゃがアピールすると言う事は自分の本性を包み隠さずさらけ出すと言う事でもある。
 妖怪種の殆どは『不明の意味付け』として生まれておってな、その裏には『不明の恐怖』を背負っておる」
 少し分からなくなってきた。スガワラ翁は出来上がったカルボナーラを女の子の方の人形に手渡し、ジューサーへ向かう。
「誰も居ないはずなのに音がする。それはきっと何かが歩き回って居るんじゃという決め付けじゃな。
 それが固まって生まれた妖怪種は『何も無いところで音を立てる』事を目的とした妖怪として生まれるんじゃ」
「……えーと?」
「吸血種からすれば随分とアバウトな発生方法かもしれんがの。そういう世界は随分とあるんじゃよ」
 そう言われると、そうなんだろうなぁと思うしかない。
「で、そこがパレードでは問題になるんじゃ」
「と言いますと?」
「『物音を起てる』ならそんなに害は無い。が、これが『暗闇に潜む殺人鬼』じゃとどうかな?」
「そんな方も居るんですか?」
 驚いて問うヨンに「何を言って居るんじゃ」と半眼を返す。
「あ」
 居るもなにも自身が「人の生き血を吸う」存在である。
「お前さんのように皆普段は抑えておるんじゃが、祭りとなるとそのタガも外れやすい。そこで強襲護衛の役目が生まれてくるんじゃ」
「つまり……やりすぎになる前に止めると」
「それが強襲の部分じゃな。もちろん護衛の意味合いもあるぞぃ。
 去年も退魔師気取りが数人邪魔をしてきたからのぅ」
「邪魔って……」
「クロスロードに居る妖魔種や幻想種は多岐に渡るし高位の者も少なくない。
 喉から手が出るほど欲しいという輩も居るんじゃよ」
 確かに魔物使いや召喚師からすれば使役対象の展覧会に見えるかもしれない。
「そういう連中からの護衛という意味合いもある。
 そしてわしらは何かしら弱点を有しておると相場が決まっているからのぅ」
 竜種と括られる事も多いが、幻想種の筆頭である竜にも竜殺しの剣や逆鱗という弱点が存在しているし、吸血鬼にも様々な弱点がある。
「って、わしら?」
「なんじゃ、知らんで聞きに来たのか?」
 まぁ、地球世界人でもないからのと呆れたような笑みを浮かべ
「わしも妖怪種じゃよ。小さな島国で怨霊やら神やらやっておったの」
 菅原道真公の化身はよっとハンバーグステーキをひっくり返しながら軽くそう言ったのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ああ、もうそんな季節だねぇ」
 とある路地の奥。ひっそりとたたずむショットバーでエディは情報屋と対峙する。
「強襲護衛か、まぁ大変ではあるが面白いと思うぞ」
「そんな事より聞かれた事を応えろ」
 ぶっきらぼうに返すと「ハイハイ」と男は眼鏡を掛け直し
「去年のデータねぇ。総合的には『つつがなく終わった』って感じだけどトラブルはやっぱり起きてるよ」
 言いながらスクリーンをポップアップさせる。空中に浮かんだウィンドウに映るのは映像記録らしい。妙な格好をした男がオーガのような男に何かを宣言している。
「百鬼夜行……パレードの顔役の一人に陰陽師だとか名乗ったやつが喧嘩を売ってな」
 解説しているうちに映像は進む。陰陽師とか言う男の周りに人型の何かが現れ、オーガを取り囲む。周囲は騒然となるがオーガは呆れたように肩を竦めて ───殴り合いが始まった。
 その凄まじさはちょっとした災害だ。周囲の観客が慌てて避難している。
「まぁ、この後強襲護衛体が陰陽師にドロップキックかまして終結するんだが」
「何でこの男は襲い掛かったんだ?」
「その鬼はかなりのビックネームでな。使役したかったんだと。
 他にもユニコーンの角を狙ったヤツとか、色々さ。逆につい観客に襲い掛かってしばかれたパレード参加者も居るんだが……」
 カタカタとキーボードを叩く。
「事件総数で言うとざっと6時間で100件程度だな」
 これを少ないとは言えないだろうが、
「強襲護衛って何人くらい居たんだ?」
「あー、23人だったかな。流石に一部手が回らなかったり、こっそり誘拐を企んだりとあったから今年は探索能力に優れた連中を別途配置するそうだ」
 とはいえ、と呟く。その先は言うまでもない。この世界には100mの壁がある。
「参加者はのべ1万人程度。今年は住人以外も祭りを見に来る可能性が高いって言われてるから、大々的に護衛隊を集めてるらしいぜ」
 なんともまぁ凄い規模の話である。
「管理組合も協力するとかしないとかだから、去年より厄介になるって事はないんじゃないかなぁ。
 まぁ、厄介事も外から来るからなんとも言えないんだけどね」
「そっちの情報は?」
「流数万ある異世界全部の情報なんてクロスロードの誰が把握してるって言うんだい?」
 それもそうかと嘆息。
「妖怪種は打たれ強いし、人間種の護衛よりかはよっぽど気楽な仕事とは付け加えておくよ」
「参考にさせてもらう。追加情報があったら教えてくれ」
「毎度あり」
 PBで情報料の支払いを済ませたエディはさてどうしたものかと店を出た。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「おお、来たか」
 座敷にオーガが2匹居た。
「ん? ああ、護衛のか。宜しく頼むわ」
「え、ええ」
 巨体も然ることながら纏う気配が半端ない。この前瘴気対策の植物を作るために招いた魔王も凄まじかったがどっこいどっこいの威圧感だ。
 ここに来る前にパレードと仕事内容については轆轤首の女に説明を受けた。ちなみに彼女は頭のコブを治療中である。
「俺はお前らを取り仕切る事になる酒天童子だ。シュテンでいいぞ。
 こっちは進行整理……つーか、脱線したやつを殴って戻す役の茨城童子だ」
 猪口に見えるが、普通サイズから見れば杯を軽く上げて挨拶をする。
「まぁ、一回集まり開くから、その他の事はそん時に説明するわ。
 お前も飲むか?」
 どんと置かれたひょうたん徳利はガスティが充分入って隠れられるサイズ。相伴に預かろうものなら軽く酒で溺れさせられそうな気がする。
「大変ありがたいのですが、今から巡回任務なんで」
「そうか。それじゃ仕方ねえな。次の集まりの後は飲み会やるから仕事入れんなよ?」
 咄嗟のことだが幸い気を悪くはしなかったらしい。
「それでは、また今度」
 撤収撤収とその場を辞したガスティは外にでてようやく安堵の息をつくのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

はい、総合GMの神衣舞です。
夏だ祭りだ怪談だ。ということで【inv07】と合わせて怪談系話でございます。
と言ってもこちらはお祭りということではっちゃけムードで進んでいきます。
ちなみに日本系の妖怪ばかりじゃね?という意見もあるでしょうが、参加者の知らない世界の知らない妖怪を出しても仕方ないのでという配慮です。きっと九尾の狐やらオベロンやら居ますよ……w
次回は事前説明会&その後の飲み会がメインになる予定です。

ではリアクションおねがいしますね。
〜その2〜
(2010/07/25)
「よーし会議始めっぞ」
 シュテンの号令はさて置いて。どう見ても宴席なのはどういうことだろうか。

 夕暮れのクロスロード、コロッセオには『Walkers the Nigth 説明会』という看板がかけられいていた。
 黄昏色に染まるこの時刻を地球世界は日本では逢魔ヶ刻と言う。黄昏とは『誰ぞ彼』を語源とし、正面に居る誰かを判別し辛い光加減から「実はそこに居るのは違う誰かかもしれない」という幻想から、そこに居るのは知っている誰かではなく、妖物魔物であるということで魔に逢う時刻と謳ったという。
 それを踏襲してか、大小さまざまな妖魔種、幻想種がコロッセオに集まっていた。
 まぁなんというか、ここまで来ると壮観である。
 想像力の限界を試すような多種多様の存在が蠢いては談笑したり言い争ったり、喧嘩したりとにぎやかしい。大きな揉め事になりそうなところには『実行委員』の印章を付けた者が仲裁に入ったりしている。

「まぁ、楽に聞いてくれや。ざっくり説明するぞ」
 空中モニターに表示されたのはクロスロードの簡略図だ。ヘルズゲートにまず大きな点が灯った。
「まず第一陣はヘルズゲートを出発地点とする。ここは主力部隊なんで希望者のみにするが、自身の無いヤツは邪魔だからな。踏み潰されない程度の実力があるやつだけにしとけ」
 主力部隊という単語に反応は二種。意味を理解する者としていない者だ。
「強襲偵察と言い、荒々しい空気が満載だね」
 ガスティはシュテンの声に耳を傾けつつ周囲を物珍しそうに見渡す。
「第二、第三陣は派手な連中を集める。当然目立つから強襲護衛の優先防衛部位になる」
 ウィンドウではケイオスタウン側のニュートラルロードのラインを10度くらいずらした外壁にぽつぽつと光が点り、大き目の通路をうねうねと通ってニュートラルロードに合流するルートが表示された。
「次にだな」
 と、次々に示されるルートを見れば外壁に沿って出発地点が設定されており、ケイオスタウンの大通りの練り歩きニュートラルロードへ合流。最後は扉の園に到着するというものらしい。
 一般参加と銘打たれている人間種を初めとした魔属性でない(瘴気に耐性を持たない者)だけはケイオスタウンの中ごろ辺りからのスタートとなっているようだ。
「あんた、初参加かい?」
 声をかけられて隣に視線を転じれば、リザードマンの男が酒を手にこちらを見ていた。
「ああ、そうだが」
「強襲護衛か?」
「そちらも?」
 肯定しつつ聞き返せば「おう、俺は二回目だがな」と頷いた。
「この祭りは好きでな。多分来年もずーっと参加するつもりさ」
 ぐぃと杯を煽って視線をシュテンへ向ける。
「人間種にとって俺たちは害獣のように扱われる事が多い。もちろん友好的に暮らしている世界もあるし、人間種を奴隷にしている世界だってあるんだが。
 まだこの土地に慣れていない人間種の目を見れば大体どう見てるかは読み取れる」
 翼を除けば見た目は人間種には近いが、竜種に属するガスティはどうと言うべきかと思い、今はそのまま口を閉ざした。
「こうやって楽しく一緒に騒げば、そんな小さなわだかまりも消えるってもんだ。
 あとは頭の固い馬鹿どもをぶちのめせば良い」
 シュテンの説明が続いている。表示されているのは去年問題のあった箇所らしい。
「第一陣は結構な戦力を持つからまぁ気にするな。問題は中陣、そして殿だ。一般参加者を傷つけちゃ名折れだし、殿はどうしても援軍に行きづらい。
 また、合流前の陣も部隊によっては戦力が著しく低い。一応陣頭はそこそこのヤツを配しているがそのあたりを強襲護衛隊には巡回してもらうことになる」
 ぐいと酒を煽って言葉を続ける。
「あと、何箇所にか百々目鬼やクレアポワンズの魔女、広目天なんかを配置しておく。ただ制限があるからな。異常があったらすぐに笛を鳴らすんだぞ。本部にゃ多聞天も控えてるから助けに行く。
 本部はゴール地点の扉の園だ。そこにはエンジェルウィングスの援助もあって飛行部隊を用意してるからな。上空からの警備も同時にやる事になっている」
 分かり合うための祭りか。とガスティは小さく呟く。
 存在を認知されなければならないだとかよく分からない理論はさて置き、確かにそれだけでもやる価値はあるのかもしれない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ん? あんた吸血種だろ?」
 遠くの空中ウィンドウを眺めていたヨンは横合いからの声に視線を転じた。
「ええ、そうですが?」
「なんで仮装してるんだい? 趣味?」 
 と聞いてきたのは河童だった。
「いえ、仮装行列のようなものと聞いたので」
 すると河童はきょとんとして、それから腹を抱えて笑い出す。
「あんた、そりゃ人間種や亜人種の参加方法だよ!」
 げらげらと笑いながら「ま、まぁ吸血種も亜人種と同じで見た目は人間種だからアリはアリかもなー!」と息を整える。
「ああ、なるほど。それもそうですね」
 今日のコロッセオ自体もちょっとしたお祭りのように見える。一般参加登録の受付も同じくコロッセオで行われており、気の早い参加者がヨンと同じく仮装してはせ参じていた。カボチャで作った仮面をつけたホビットとジャック・オ・ランタンが楽しそうにぐるぐると踊っていたりする。
「瘴気耐性の無い方はこちらへどうぞー。神気系を持つ方は抑制処理について説明しますので青旗の揚がってる所へ行って下さい!」
 ホッケーマスクの大男がメガホン片手にそんな事を言いつつ歩いていく。
「去年に比べて使徒系種族や神仙種の参加も増えたもんだなぁ」
 鎧甲冑の男が小脇に抱えた頭でしみじみと呟く。
「エンジェルウィングスの協賛もありますしね。永遠信教世界は思いっきり神聖系ですし」
 二つ角の馬、ドイコーンがきょろきょろと周辺を見ながら言葉に応じた。
「そういえばファフニールの旦那、まだ諦めてないんだって?」
「ん? ああ。あの人、人間種に変身できないのにまだぐずってるらしいよ」
「いくらニュートラルロードでもあの人が歩くとなるとなぁ」
 ヨンは疑問符を浮かべながらその言葉を聞く。クロスロードに措ける『人』の定義は『来訪者』全てとなる。どんな姿形しようとも人で、数え方は一人二人となる。
「レヴィさんが煽ったらしいんだけどね。あの人も大人気ないから」
「あー。あの人かなりの上位者なんだろ? 子供っぽいと言うかなんと言うか」
 どこからかの呼び声に二人は去ってしまう。
「ファフニールってと」
 すっかり忘れていたが河童がうーんと考え込み、それからポンと手を打った。
「確か竜種だよ」
 なるほど、それでニュートラルロードの広さなどが話題に上がったのかと納得。
 ヨンは三日月を見上げて苦笑する。さて何が起ころうとしているのやら。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「まぁ、こんな所だ。質問のあるやつは居るか?」
 一通りの説明を聞き終えてエディは頭の中を整理する。
 強襲護衛隊は主に2つの仕事に分かれる。
 一つは陣と呼ばれる集団付きになってパレードと一緒に移動。問題があったときの対処に当たる。
 もう一つは主要なポイントに待機をして、問題があったときに応援として駆けつける。
 前者にはつい本能的な行動をしてしまったパレード参加者を殴って正気に戻したり、襲撃者の足止めが最優先となる。一方後者は決定打として送り込まれる上にひっきりなしに移動することになるだろう。どちらも危険度で言えばそう代わらない。
「地上の足が使いにくいのが面倒だな」
 パレード中の道は混雑し、駆動機器での乗り入れは困難だ。そのためのエンジェルウィングス航空配達隊の投入ということだろう。
 ルートをしげしげと見る。襲撃を行いやすい場所というのはやはり殿だろうが、それと合流する前、路地の多い道などは誘拐に適しているだろう。
 祭りとなると客は数多。先手を打つには難しく後手に回らざるを得ない部分が難易度を上げている。
 それにも増して気になるのは────
 視線を向けた先、楽しげに談話している他の面々とは違い、真剣な顔でなにやら相談している一団が居る。舞台の方には降りず観客席から時折値踏みするように視線を走らせており、更にはうち二人は周囲を警戒しているように思える。
「値踏み、値踏みねぇ……」
 パレードに限らず多種多様な存在が行き交うクロスロードでは密猟者の存在が囁かれ始めていた。
 ユニコーンの角やドラゴンの骨や鱗など、一笑遊んで暮らせる金に化けるシロモノがのんきに転がっている街という見方をする者が確かに居るのである。
 護衛役と思われる一人がこちらへと視線を転じる。
 エディは自然な動作を心がけるように目線を逸らし、どうしたものかと考えを巡らせるのだった。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
 というわけで、百鬼夜行の第二話目。
 今回は説明&複線パートです。
 次回はパレード開始まで時間が進みますが、こちらでも今までとは違う方法でお話を進めてみたいなーと思っていますのでお楽しみに。
 もちろんパレード参加者、見物人としての新規参加も大歓迎ですのでどしどしよろしゅう。

 ではでは次回リアクションを宜しくお願いします。
〜その3〜
(2010/08/06)

「お前ら良く聞けぇ!!」
 号砲もかくやというほどの声がヘルズゲート前に響き渡る。
「俺たち一陣は槌だ! 後の連中の足を止めるなんて無様な真似はできねえ。分かってるだろうな!!」
 シュテンの声に『応』と応じる数は100余り。鬼系や大型幻獣が居並ぶ姿は圧巻で、多くの見物客がびりびりと震える大気に身を竦ませながらも楽しげに見物している。
 時刻はそろそろ夕暮れ────つまりは逢魔ヶ刻だ。
「今年はどうなるかねぇ」
 イバラギが楽しげに瓢箪徳利を煽ると、シュテンは貸せやとそれを奪って喉に流す。
「どうにでもならあな」
 ふいと口を拭ってニヤリと笑う。
「そのための先陣さぁ。後の連中が楽しく騒げるように。武を纏う俺たちは俺たちなりに楽しく行こうじゃねえか」
 瓢箪を投げ返してシュテンは沈み往く日を見る。
 時刻は18時を半ば過ぎる。夏の長い明の時間が終わりを告げる。朱の薄闇の中、誰ぞ彼かも分からぬ時間を迎える。
「アカネイロ、スイル。派手に頼むわ」
 赤い髪と赤い目を持つ長髪の少女、赤音色と青い髪と青い目を持つ肩口で髪を切りそろえた少女、翠流が頷いて空を見上げる。
 見る間に二人の姿が解け刹那の後に昇は赤と青。
 片や『フェニックス』『ヒクイドリ』『朱雀』などの名を連想させる炎を従えた赤い鳥。
 片や『ウォータードラゴン』、あるいは『青龍』を連想させる青い鱗のチャイニーズドラゴンだ。もっとも青龍は木行を象徴するためウォータードラゴンなのだろう。彼女が空へ向かって噴水のように水撃を放つと、夕日とアカネイロの朱と赤がキラキラとクロスロードの夕暮れを彩った。
 わあとクロスロードのいたる場所で歓声が上がる。
「夜を往き、畏を振り撒く百鬼夜行がなんとも華々しいじゃねえか」
 からからと嗤うイバラギにシュテンは「いいじゃねえかよ」と笑みを返す。
「これは百鬼夜行でもなけりゃ脅かしに行くわけでもない。
 このクロスロードって街の派手なお祭りなんだ。とことん歌舞いて往けばいい」
 この巨大な都市クロスロードのいたるところで行進の息吹が生まれ始めていた。その先駆けである第一陣がのんびりしているわけにはいかない。
「さぁおっぱじめるぞ! 祭りの始まりだ!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「始まったか」
 クロスロードの気候はとことん日本に近い。よって夏の盛り、建物や地面に溜まった熱は日が落ちたこの時間にもじりじりと空気を熱している。町の中央を流れるサンロードリバーがある種の冷房効果を持っては居るが湿気と共に警備役の額に汗を浮かべる仕事を怠っては居なかった。
 エディはある建物の上に居る。眼下では祭りの先陣を待っている観客が居る。路面電車も今日はケイオスタウン側は走っては居ない。代わりにエンジェルウィングスが代行のバス等を祭りのルート外に走らせていた。
 彼が視線を転じた先、祭りのルートから道を一本外れたところに集団があった。武装に制限のないクロスロードだが明らかに彼らは臨戦態勢だ。
「二陣狙いか?」
 1から3陣まではそこそこ戦闘能力を持った存在が多い。返せばそれだけ特殊で希少な連中が揃っているとも言える。
「超武闘派の一陣よりかは組みし易い……って発想かね」
 ちらりとその陣容は見たが、冗談でも突っかかりたくないと思うには充分だ。妖怪系の厄介なところは致命的な弱点を持つ代わりにそれ以外の攻撃を無効化する個体が多い事にある。単純に知らないだけで為す術がないことだってある。
「逆に言えば弱点さえ突けば子供でも勝てるか。極端だな」
 それだけではなく、オープニングを飾った高位の幻獣も多数含まれて居る。
「さて」
 目をつけていた一団が動き始める。
 方向からしてやはり二陣は狙いらしい。が、予防をするわけにも行かない。どうせ警告したってこちらの目を盗むだけ。現行犯でぶちのめすのが一番早い。
 動き出そうとして、不意にざわりと大気がざわめいたのを感じる。
 向きはヘルズゲートの方角。出発したばかりの一陣側だ。
「確か……去年も出発直後に問題が発生したってあったっけか」
 あれに喧嘩を売りたがるヤツは居る。気が知れない行為に肩を竦めつつ、エディは行動を開始した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「へぇ、綺麗だねぇ」
 ガスティは北の空を彩る光に目を細める。
 第六陣以降は比較的大人しい存在が多い。というのも途中で一般参加と合流するため暴走しやすい連中を安易に混ぜるわけには行かないのだろう。
 逆に第五陣までに対しては一陣と合流するたびに一陣の連中が広がり、暴走を抑える態勢にシフトしていく。無論合流すればするほど強襲護衛隊も集まるため余程の事がない限りは問題はないだろう……
「とは、思うんだけどね」
 問題が無ければ自分達はこんな仕事をしていないわけで。
 先頭が合図を見て動き始める。妖精や精霊比較的多い第六陣は見た目的にも華やかだ。小人が楽器を鳴らしながら行進したりとパレードらしい。
 道の脇には子供らしい姿が多く見られる。クロスロードでは珍しいので恐らく祭りと知って見に来た来訪者だろう。
「わあっ!?」
 と、いきなり横合いから困ったような悲鳴。見ればホビットが数人でポーチのようなものを投げ合って遊んでいる。悲鳴をあげたのは観客のようで、どうやら盗まれて遊ばれているらしい。
 いたずら好き、盗みをついやってしまう連中だ。盗みやすそうなものを見つけたのか、ついやってしまったのだろう。
「こら、返すんだ」
 ひょいと宙を舞うポーチを空中でキャッチして窘めると、ホビット達は不満げな顔を一瞬するが、強襲護衛だと知るやそそくさと去って行った。
「これの持ち主の方は?」
「ああ、ありがとうございます」
 いえいえと手渡し、ばさりと空に舞い上がる。こういう平和な事件ばかりだったら良いのだけどと思いつつ──────

 げすっ!?

 思いっきり背中に何かがぶつかってバランスを失ったガスティはそのまま体勢を立て直せないままにずざーっと落下。
「気をつけろぃ!」
 空飛ぶ頭────飛頭蛮がぷりぷりと怒りながら去っていく。
 見れば地上を歩いているわけではない。空を飛ぶ者も結構いる。
 ちょっと格好を付け過ぎたと思いつつ、気分を改めるのだった。

 ……おや?

 ずん、と地響きが聞こえた。
 方向的にサンロードリバーの方だろうか。
 そちらの方を見ると、
「うぇ?!」
 体長10mオーバーの竜が、なんか喚きながら飛んでた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ヨンが参加しているのは第九陣だった。八陣と九陣にはスタート地点がサンロードリバーに近いことから水系の人が他よりも多めに参加している。この前知り合った河童もここから出発ということで同行する事にしたのである。ちなみに水から出られない種族は水中を行進したりしている。
 ここに居るのも比較的弱めの妖怪、妖魔種だ。精霊種が比較的多いだろうか。シルフやサラマンダーが闇色に染まりつつある空を悠々と踊っている。
 百鬼夜行妖怪の大行列と聞いたからどうなるかと思ったが、ワイワイと話しながら、観客に手を振りながら、パフォーマンスをしながら歩くだけのイベントだ。確かに『存在を見せ付ける』だけなら十分だろう。中にはいきなりストンと観客の前に落ちて驚かすようなのも居るが、それはそういう存在なのだからと受け入れられている。あくまでタブーは暴力沙汰だ。
「でも、にーさん位の人なら三陣とかのほうがお仲間さん一杯居たんじゃないのかい?」
 河童がぴゅーと水芸なぞしながら話しかけてくる。
「あそこは魔族やらアンデッド系がわんさか集まってるって聞くし」
「僕はそんなに強くもありませんよ。こうやってのんびり歩く方が楽しいですしね」
「そっかー」
 わいわいキャーキャーと驚きと楽しさを含む声が上がる中、平和だなと改めて思う。少し遠くを見れば空を舞う炎を舞う鳥が追随する水龍の水滴にきらきらと赤を乱反射させながら光を振りまいている。それを面白がってかピクシーやウィル・オ・ウィプス等の光モノ系が空を次々と彩っていた。なるほど夜でなければこの演出はできない。
「おんや?」
 河童の声に視線を落とすと黒づくめの男がいきなり行列に飛び込み、フェアリーを一匹袋に押し込んでしまった。
 気付いた周囲が驚きと怒りの声を上げるが、黒づくめは魔法だろうか、炎をばっとまき散らしたために空隙が生まれる。
「感心しませんね」
 行動は早かった。一気に踏み込んだヨンはぎょっとする黒づくめに蹴りを一発叩きこむ。不意を打たれたために袋は手を離れ、中のフェアリーが慌てて逃げ出した。
「畜生がっ!」
 生まれる炎。しかしそれよりも早く炎がヨンの目の前に現れて放たれる炎を食べてしまう。
「感謝します」
 「不味い火だ」と嘯くサラマンダーに礼を呟きつつ黒づくめの顔面に強烈なパンチを叩きこむ。それでノックアウトだ。周囲から歓声が上がる。
「兄ちゃんすげーじゃないか」
 河童がぺたぺたとやってきてヨンの背中をぱしぱしと叩くと、他の連中も面白がってか「やるー」「かっこいー」とぱしぱし叩いていく。
 それに「どうも」と笑みを返したヨンはやってきた強襲護衛隊に黒づくめを引き渡しつつもう一度空を見上げた。
「やれやれ。こういう人が居るから世界は平和では居られないんでしょうかね」
 わずかながらの悲しみを抱きつつ。しかしそれ以外の多くの人が楽しむ祭りに戻るために再び歩き始めたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ああ?」
 路上に一人の男が立っている。
 烏帽子に法衣。平安風貴族の様相をした男は迫りくる妖怪の群れにわずかにおびえる事もなく迎い討つために待っている。
「わりぃ、イバラギ、ちいと外す」
「なんだ、シュテン。頭のおめぇが外れてどうする?」
「野暮用だ。おい、九十九、ちぃと頼みたい」
「ん? 何用かえ?」
 狐の耳と尻尾を生やした幼女がふわりとシュテンの肩に立つ。
「ちぃと俺の代わりやっててくれねえか?」
「構いはせんが、妾は粗暴な言葉は苦手じゃ」
「嘘つけ。つか、キャラ作りすぎだ」
 ニィと笑ってずんと音が鳴るほどに地面を踏みしめて前へ跳躍。
「早う帰ってこんと、打ち上げの酒も妾が頂くからのぅ?」
「そりゃあ勘弁だ」
 その言葉を最後に、シュテンが視界から消える。同時に男も消えていた。
「そぉれ」
 舞うようにツクモと呼ばれた狐の少女がくるりと回ると、そこにはシュテンと瓜二つの姿がある。
「よっしゃ、野郎ども! どんどん行くぞ!」
『応っ!!!』
 何が起きているのか見ている連中も野暮なことは言わない。
 シュテン代行の言葉にただ『応』と答えて祭りの夜に威風堂々と道を往く。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
 というわけで、百鬼夜行の第3話目。
 今回はスタートしたばかりなので簡単に、ですが。すでにいくつかの事件が発生している模様です。
 それらを踏まえて、まぁ踏まえなくてもいいですけどリアクションをお願いします。

 余談ですが。
 茨城童子を『イバラキ』にするか『イバラギ』にするかちょっと悩んだのですがググるとイバラギの方が多かった気がしたのでそうしました。

 ではでは次回リアクションを宜しくお願いします。
〜その4〜
(2010/08/20)
「おめぇさんも懲りないねぇ」
 巨体が羽のように軽く屋根の上に降り立つ。対峙するのは法衣を纏う男。
「黙れ下郎。どう取り繕おうと汝が為した罪業は消えはせぬ」
「去年も聞いたしな。わーってるよ」
 詰まらなそうにぼりぼりと頭を掻くシュテン。烏帽子に法衣の男は杓杖をしゃらと鳴らして鋭い眼光を殺意に染め上げる。
「だがよ? 俺は鬼だ。だから人を食った事もある。
 人間も牛や鳥を食うじゃねえか。食物連鎖って言うんだろ? 当たり前のことにいつまでぐちぐち言ってやがるんだ?」
「ならば応じよう。私は外道に落ちても貴様を許さぬ」
 あらん限りの憎悪の言葉に鬼は口をニィと笑みの形に作りなおす。
「怨み辛みも人の業。なら応じぬわけにはいくまいて」
 抜くのは鬼の体には丁度良くとも、男から見れば身の丈も越す大刀。立ち上るのは禍々しい妖気。
「けどよ、祭りの最中なんだ。さっさと終わらせてもらうぜぃ?」
 日の落ちた空に火花が散る。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 賑わいが大きくなるにつれ、空を舞う光も慌しさを増している気がする。そこらかしこで騒ぎが起きて居るのだろうか。
 だがそのざわめきは尾行者となっているエディにとっては都合のいい状況だ。ターゲットには気付かれる事無く良い位置に着くことができた。
 2陣の陣容もなかなか高位の幻獣などが顔を揃えているようで、写真のフラッシュがかなり焚かれている。先頭はすでに出発しており、今この場所に残っているのは出発の順番待ちをしている面々だ。実行委員がギャラリーに離れるように促している。
「出発の最後尾を狙う積もりか」
 連中の視線から察するにそういう目論見だろう。エディは素早く位置を変えてポジションを得る。その過程で2陣の警備を務める強襲護衛の数人と接触して状況を伝えておいた。
 それと同時に連中が動き出す。突然襲い掛かってきた集団にギャラリーは目を丸くして、それから慌てて避難する。同時に参加者は慌てて戦闘態勢を取ろうとするが、周囲のギャラリーを巻き込む事を気にしてか攻撃を躊躇している。その明確な隙を見逃す積もりはないようだ。結界術のような物が展開し、その中に捕らわれたグリフィンがぎゅんと縮んで小さな箱のとなってしまう。それだけでは済まない。次から次にその装置?を使ってめぼしい幻獣を捕獲していく。
「そこまでだ」
 聞こえるようになんて優しいことはしない。口の中で呟いてぽしゅっと気の抜けるような音が付近に響く。
 カンという音の直後、光が炸裂する。フラッシュグレネード。強烈な光で一時的に視覚を奪う非殺傷兵装だ。
 周囲でいろいろと悲鳴が上がる中、光の収まった道を走って問題の連中に次々と無力化していく。話を聞いていた連中もサポートに入り、闇雲に逃げようとした残党を取り押さえている。
「思ったよりもあっけなかったな」
 そのまま2陣に押し込んで包囲しようとしていたのだが、見事に全部捕まえる事が出来たらしい。
「お前か、フラッシュグレネードなんてのを使ったのは!」
 不意に、上からの声に見上げると実行委員の腕章を付けた翼人が舞い降りてきたところだった。
「そうだが?」
「観客に被害が出てるだろうが! あと光に弱いやつも居るんだから範囲系のは自重しろっ!」
 あ、と思って周囲を見れば観客が目を押さえて立ち上がり始めているところだった。あとカメラを慌てて弄ってる人も居る。
「やむを得ない場合があるのは分かってるが、これは祭りなんだからよろしく頼む」
 それだけ言って実行委員は「治療スタッフを用意してますので調子の悪い方はこちらへ」と誘導を始めた。
「ま、去年も荒らした連中を一網打尽に出来たんだ。若干お手柄の方が勝ってるさ」
 捕り物に協力した護衛の一人が苦笑交じりに肩を叩いて去っていく。
 エディは誤魔化しじみた苦笑いを僅かに浮かべ、気を取り直して次へと向かうのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ドラゴンを狙う者が居るのではないか。
 そんな予想と共に6陣の上を飛翔するガスティは、取り囲むように舞う存在を見咎めて慌てて進路を変える。
 護衛ではなく明らかに進路を塞ぐように取り囲んでいる以上、敵対していると見るべきだろう。
 慌てて南下し、サンロードリバーの近くまでやってきたガスティは
「お前ら! 何……」
 何をしているんだ。という言葉を飲み込む。なにしろ囲んでいる連中全員強襲護衛の印を付けているのだ。
「えーっと、裏切り者とか?」
「何を言ってるんだっ、いいからお前も止めるのを手伝え!」
 焦りを過分に含んだ怒鳴りを受けてガスティは周囲の声に耳を向けた。
「ダメですって!」
「風で他の人飛ばしちゃいますよ!」
「いいから戻りやがれ!」
 そんな有象無象の声を無視して空を舞うドラゴンは鬱陶しそうに鼻を鳴らす。
『黙れ小童どもが』
 ぐんと体を上方に向けて滞空するや、わざと大きくはためかせた翼が起こす暴風に強襲護衛の面々が派手に吹き飛ばされる。
「な、何が起こってんだ?」
 暴風の中心からは逃れていたものの、あおりを受けたガスティは目に付いた尖塔に手をかけて体勢を維持する。
 【怪物】か?と一瞬疑ったが確かに今あの竜は言葉を発した。ならば彼もまた来訪者なのだろう。
「随分ともてはやされているじゃない。ファフニール」
 不意に、カン高い女性の声が夜空に響いた。
『その声……ふん、性悪女がっ!』
「あら、祭りの夜だというのに随分と暗い言い様ね」
 女性が一人、中空に当たり前のように立っている。モデルのようなボディラインを強調させる露出度の高い薄手の服で彩っている。
「根暗で陰険な呪いの竜は大人しく遠くの花火でも見守っていればいいのに」
『黙れ歪みの竜め! 多少神魔の属性を持つが故に人化の術に優れているというだけででかい顔しおって!』
 どうやら知り合いらしい。しかも言葉を信じればあの女性も竜族なのだろうか。しかも神魔の属性?
 ガスティがどうした物かと目を白黒させていると応援らしい強襲護衛の一団が周囲に展開する。
「うふふ。お呼びでないそうよ?」
『貴様ら……!!!!』
 挑発大成功。美女の笑みにその言葉を読み取ってガスティは頭を抱える。
 そもそもこんな巨大な竜族が観客が多数集まる祭りで行進だなんて無茶な話だ。竜族専用の区画があるとは聞いているが、そこ以外の場所は彼の巨体が収まりはしないだろう。幅30mを誇るニュートラルロードならば可能かもしれないが、祭りの間にも路面電車は走って居るし、線路や駅を踏み砕きかねない。
『どいつもこいつも俺様が嫌いかぁあああ!!!』
 ぎょろりと視線が自分に向けられる。
 え? と思った瞬間、その巨体が見る間に自分の視線を埋め尽くす。

 轟っ!!!

 風圧だけで耳が破けそうになりながら尖塔ごと吹き飛ばされたガスティは上も下も分からないままに混乱から脱しようとする。幸いという生憎理不尽な不運には慣れている。なんとか下を発見して視線を向ければサンロードリバーの水面が一面に広がっていた。
「ぐぅっ!」
 暴風域からは脱している。なんとか翼を調節して水面に叩きつけられることを回避した直後、水に落ちた尖塔の頭が作り出した巨大な水しぶきにびしょびしょにされてしまった。
 めげずに彼方を見ればなにやら喚きながら遣り合っているようだ。
 このままじゃ他の護衛まで巻き込んで他の地域がお留守になりかねない。
「っても、どうすりゃ良いんだ?」
 一瞬途方に暮れつつ、気を取り直して彼はとりあえず戦域に戻るのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「なんかあちらがにぎやかですね」
 竜の咆哮だろうか。西の方から響き渡っている音に視線を向けるがここからは特に何も見えない。
 最初にどたばたがあったもののそれ以降は平穏にパレードは続いている。といってもまだ始まって一時間も経過していないのだからそう立て続けに騒ぎが起きても困る。
 視線を走らせれば空にいくつもの煙矢が上がっている。今日は強襲護衛の連絡用に使われているはずだ。それがぽんぽんと上がっているということは、色々と問題が発生しているのだろう。
「平和な問題なら良いんですがね」
 そんな気は更々しないのは……気のせいではないのだろう。
 ともあれ、今はイチ参加者としてのんびり楽しもう。
 改めてそう考えた時。

「なんだあれ?」

 河童の指差す方向に視線が集中する。
「……え?」
 例えるならば石膏像だろうか。
 中国風の武将を思わせるフォルムを持った体長20mほどの人型がいつの間にか存在していた。
 色を全く持たないため光の陰影でしか詳細は分からないが、髭を蓄えた男性のようである。
「何かのパフォーマンスでしょうか?」
 場所は一般参加者の集合場所辺りだろうか。ヨンは自分の言葉を欠片も信じていない言いようで周囲の反応を伺う。
「天帝様だ」
 誰かが驚いたように言う。
「天帝様だね」
「一部だけど天帝様だ」
 声の主を探せば狐が二匹踊るように飛び跳ねてそんな言葉を交わしている。
「天帝様って?」
「天帝様は天帝様だよ」
「偉いお方だよ」
「でも一部だね」
「一部だよ。きっと地仙の仙術だよ」
 せんじゅつ、という言葉に首を傾げるとPBがざっくりとした説明を寄越してくれる。
「あれは攻撃魔術なのですか?」
「多分そうだよ。天帝様のお力のほんの一欠けらがあそこにあらせられる」
「そうだね。そしてその偃月刀には伏魔の力があらせられる」
 字面からしてこのカーニバルの天敵のような気がする。
「ちなみに、天帝様という名前なのかい?」
「違うよ。天帝様は代替わりするもの」
「違うね。三界伏魔大帝神威遠震天尊関聖天君だよ」
 あまりに長ったらしい名前で思考停止。
 その間にもその周囲を強襲護衛隊や実行委員が取り囲んでいる。巨人が挙げた手には巨大な槍?があり、それがぶんと振るわれると触れた者がふらり墜ちていく。遠目ではっきりしないが外傷は無いらしい。
「一種の召還術のようなものですよね……術者を止めれば消えるのでしょうか」
「そうだよ」
「そうだね」
 ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねる狐を見て、はてどうした物かと考える。
 始まって丁度一時間くらいだろうか。
「随分と派手なお祭りですよね。ほんと」
 遠目で見る分には派手で興味深い大立ち回り。先ほどの攻撃といい、足元で破壊が起きていないことといい、幽霊みたいな存在なのだろう。それでも誰かがなんらか───恐らく気持ちの良い理由では呼び出してはいないだろう事は明らかだ。
「さてさて、どうしますかね」
 遠雷のような竜の咆哮も聞こえる。
「っていうか、もしかして再来の時よりも派手な騒ぎになってませんか?」

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 そんな気がします<再来の時よりも
 どーも、総合GMの神衣舞です。
 世界にはロケット花火を打ち合う祭りやらトマトをぶつけまくる祭りやら、牛を放って追い掛け回される祭りがあるらしいのですが。
 まぁそんなノリでお送りしております。まぁ、妨害側は悪意やらなんやらが満載なんですけどね。
 まだ開始して1時間という状況。何話やるつもりだよ。って感じですが次以降はもう少しテンポ良く時間は進む予定です。
 さてはて。
 目立ちまくる話の裏にはこっそり悪い事をやってる人たちも居るわけで。
 どこに目を向けるかを楽しみつつ次回リアクションもよろしゅう。

 PS.ちなみにガスティさんや。竜の話題は第二回で伏線張ってますじょ(笑
〜その5〜
(2010/09/01)
「地仙の目的?」
「地仙の目的?」
 狐が二匹、揃って首を傾げる。
「そんなの決まっているよ」
「そんなの当然だよ」
「教えてもらえるかな?」
 ヨンの言葉にぴょんぴょん跳ねる狐が楽しげに告げる。
「アヤカシを討てば善行と見做されるから」
「天仙へ至る修行のためにいっぱいいっぱい倒したいだけだね」
「……っちょ!?」
 ぎゅんと振り返って緩慢な動きで動く巨人を見上げる。その体長は20mほど。老竜クラスの大きさがある。それがパレードにあの槍みたいなのを叩きつけようものなら────
 ヨンは大慌てで近くに居る強襲護衛隊の姿を探す。見つけるとすぐに近付き「連絡手段はありませんか!?」と詰め寄った。
「え? いや、な、なんだい?」
 突然の事に驚くエルフ風の男にヨンは狐から聞いた言葉をそっくり告げた。見る間に男の顔色が変わり、彼は慌てて腰に挿していたリボルバーのような物を手にすると上空に向けて打ち上げる。青の煙がすっと上に昇る。それからややあって上空に小型のワイバーンが滞空する。エルフは暫く上を向いて、時折頷きを見せるとすぐさまその飛竜は天帝の方向へと飛んでいってしまった。
「とりあえず今の内容は伝えました」
「念話……のようなものですか?」
「ええ。この世界では使いにくいですけど、100m以内であればこういう使い方もできるんですよね」
 言いながら流石に彼も不安そうに遠くの巨人を見る。
「西の方でも古竜が暴れているそうです。そのため小さな問題も多発しているそうですから気をつけてくださいね」
 あくまで警備隊としての発言をしてエルフはその場を去った。
「……」
 もう一度ヨンは天帝を見る。流石にこの距離だ。走っていってどうにかなるものか。それよりも彼の言う通りこの辺りで不穏な動きをする輩に注意した方が建設的だろう。
「みなさん、聞いてください! どうも各所で騒動が起きているらしく警備隊が手薄になっています!
 戦闘能力のある人が外側を歩くようにしてください!」
 スタッフでもないのに出しゃばり過ぎかなとも一瞬思ったが
「よーし、悪ぃ子が着たら泣かすどーー」
「燃やしてやるさ。ケケ」
 包丁を持った鬼が嬉々として応じ、先ほどのサラマンダーが楽しそうに空中をくるりと旋回する。
『「みなさん、聞いてください! どうも各所で騒動が起きているらしく警備隊が手薄になっています!
 戦闘能力のある人が外側を歩くようにしてください!」』
『「みなさん、聞いてください! どうも各所で騒動が起きているらしく警備隊が手薄になっています!
 戦闘能力のある人が外側を歩くようにしてください!」』
 ヨンの言葉がそのまま何度も何度も遠くに響いていく。
「これは?」
「『木魂』だよ。近くに居たからお願いしたんだぁ」
 河童がえへんと胸を張る。どうやら音を反復して響かせる能力を持った何からしい。
「ありがとうございます」
「俺たちの祭りだからな!」
 ヨンはそうですねと微笑み、行き先である塔を見上げる。
 無粋だ何だとは思う反面、こうして力を合わせるというこの一瞬が大切なのかもしれないとぼんやり思った。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆

「ったく、ハードだな」
 悪態ついて屋上で呼吸を整える。この建物は4階建ての雑居ビルなのだが相手はそれよりもずっと大きい。その周りを強襲護衛隊や有志の面々が取り囲み、試しに攻撃を加えてみたりしている。
 エディはそこから視線を剥がし、周囲に視線を這わす。あんなデカブツを相手にしても意味がない。あれを呼び出した何者かを討つ方が建設的だ。
『通達。この召還物の目的は妖怪種の無差別攻撃の可能性大。攻撃の阻害と召還者の探索を最優先に!』
 PBの声に近い感覚が脳裏に響く。見上げれば飛竜が近くを舞って行った。
「無差別かよ……」
 胸糞悪い。デカブツを召還しての陽動かとも考えたが……、いや、その考えを捨てるのは早い。犯人がその積もりがなくてもこれを陽動扱いにするヤツも居ておかしくない。
 制御も通信と同じような物だ。であればこのデカブツから100m以内に居るはず。
 周囲に視線を這わす。驚きと興味の入り混じった顔が並ぶ中、違う反応をしている者を探す。
 居たが、違う。スリか。とりあえず肩口に一発お見舞いしておく。のた打ち回るのを他に任せて次、いきなり魔術を使おうとしていた男が取り押さえられているが巨人とは関係なさそうだ。次。
 相手は人ごみの中に居るのか? いや、それなら術の発動時に気付かれてもおかしくない。ならば人の居ないところ?
 大通りは人で溢れている。巨人の行動を制御するのであれば近くで、その動きが見える場所が恐らく好ましい。路地に入るととたんに建物が邪魔になるはずだ。
 で、あれば。
 視線を上へ、自分と同じ高さで水平に動かす。
「居た……!」
 50mほど先、ゆったりとした服を着た40代くらいの男が右手を妙な形にしつつ巨人の方を一心に見ている。
 銃口を向けて放つ。一直線に走るそれはしかし直前で剣に止められた。見れば甲冑を着た男がいつの間にか現れて銃弾を斬り弾いたのだ。
「護衛かよ……!」
 舌打ちして連射。だがそのどちらとも見事に斬って払う。生半可な腕ではないらしい。幸いはその場から離れる積もりがない事だと思わせるほどだ。もし肉薄されたらあっさり斬られる未来が見えた。
『見つけましたか?』
 さっきの思念だ。影が落ちてきて竜が頭の上を滞空していることが伺えた。
「あのビルの上だ。護衛が居やがる」
『了解。付近の強襲護衛隊に通達。犯人の姿を確認。捕縛行動に移行してください』
 上空で牽制をしていた、そして地上で防御をしていた者が一気に動く。
 気付かれた事に焦ったか、巨人の動きが荒々しくなる。
「やらせるか!!」
 ろくすっぽ狙いを定めない連射。護衛が致命的なものを弾くが、全てを打ち返せるわけではない。術者の足元に着弾した一発にぎょっとし、巨人の動きが狂った。
 次の瞬間、四方から飛び掛った面々が放つ飽和攻撃の前に、為すすべなく術者と護衛は爆煙の中に消えていったのだった。
「やれやれだな」
 見上げれば猛威を振るっていた巨人がゆっくりと薄れていく姿がある。詳細を知らない人たちが楽しげな声を挙げる中、どかりと腰をつけて大きく息を吐く。
 まだパレードの開幕から2時間も経過してない。ちょっとペースが酷くないか?と誰にともなくぼやき空を見上げると、飛竜と目が合った。
『皆さんから、ナイスアシストとのことです』
「そりゃどうも」
 苦笑を一つ。あまり期待されてもオーバーワークは御免だねと誤魔化すように呟いて

 がすっ

 突然目の前の床が抉れるのを見る。
「っ!?」
 即座に射撃可能な体勢を取ると
「っと、手出しは無用だ」
 鬼が笑みを滲ませるような声で告げ、隣のビルへと跳んだ。すぐさまそれを追う様に男が舞い降りて、そして去っていく。
「シュテンだよな。さっきの」
 残念ながら飛竜はすでに別の場所へ向かったらしい。
 まだ何か起きてやがんのかと呆れ顔をして、さてどうしたものかねと休憩がてら考えるのだった。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆

「壮大というか何と言うか」
 地上を歩いている妖怪種や幻獣種だけでも見飽きないというのに空には巨竜が何かを喚きながら飛んでいる。
 Ke=iが居るのは西側の区画、サンロードリバーに程近い所だ。周囲の人々の注目は上空に集中しており、パレードの足もやや鈍りがちのようである。
 ただ、かろうじて拾える単語を纏めると、あの巨竜が勝手にいじけて行ってるようにしか見えないのは何故だろうか。
 興味がわいたので背中のフライトユニットを吹かして近付いてみる。すると巨竜の傍で嘲り笑う女性の姿に気付く事ができた。
「うふふ。みんな貴方を迷惑がっているって気付いた方がいいわよ?」
『黙れっ!』
 噛み潰さんと突撃した巨竜を女性はいとも簡単に避けると「分かってるんでしょ?」とさらに嘲る。
「そこまでにしてもらえませんかね?」
 ふいに上方から声が掛けられる。
「ファフニールさん、貴方にお願いがあってきました」
 竜人───ガスティをファフニールの巨大な目がギロリと睨む。
『貴様も去れと抜かすか』
「違います。貴方に第十陣の護衛を依頼したい!」
 ファフニールの瞼が怪訝そうに動く。
「何を言ってるの、ボウヤ。陣は九つしか存在しないわよ?
 ああ、そういう事、一人で寂しくやってろって意味ね。いいセンスだわ!」
 歪みの竜は楽しげに、そして歌劇のように声を響かせる。
「違います! このお祭りはみんなに見てもらうためのもの。別に空を歩いてもいいはずです!」
 その背後からスタッフに誘導されてきたのはハーピーや飛頭蛮などの空を飛ぶ者達。
「彼らも窮屈してたんですよ。空にある者は空にあるべきです」
 ファフニールは目をぱちくりとさせてそれから改めてガスティの姿を見た。
「実行委員にも話はつけました。お願いできないでしょうか」
 ウィル・オ・ウィプスやスプライト達が空に輝きを燈すと、地上から先ほどまでの興奮とは違う、純粋な歓喜の響きが空へと至る。
『う、うむ。そこまで言うのであれば!』
 同意したファフニールの周りに飛竜やグリフォンなどが楽しげに編隊を組む。事の成り行きを見守っていたKe=iもなんとなくこの場に残っていると「とばっちり」を受けそうな気がしてファフニールに続くようにその場を辞する事にした。
「余計な事をするわね、ボウヤ」
 ギロリと、尋常でない不機嫌な視線がガスティを貫く。
「え、あ、貴方も良いんですか? 竜としての価値を彼に奪われたりするんじゃないですかね?」
「勘違いしないで頂戴。認識を得る必要があるのは参加者の極僅か。妖怪種でも人の口に上らないような連中の事よ」
「あ、そうなんですか?」
「それに私が竜である事は側面でしかないし、その『たかが側面』であっても『全ての鱗を持つ者を統べる王』に対して不敬じゃないかしら?」
「何処の世界の価値観かは知りませんけどね」
 心臓が握りつぶされそうな圧迫感の中、強気を維持して彼は続ける。
「楽しい祭りなんですから楽しくやりましょうよ」
 美女はファフニールを一瞥して鼻を鳴らすとふっと姿を消した。転移術ではないだろうがと思いながら背中の脂汗を意識し始めた瞬間
「貴方の顔、覚えておくわね」
 気配無く耳元で囁かれた言葉に心臓が活動を止めたかと思う程に体を硬直させる。
 やがてへなへなと着地して「いわゆる腰が抜けた」状態である事を悟る。
「厄介な人に目を付けられたかも」
 思わず呟いた一言。それは予感ではなく確信だった。
 
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
というわけで前半戦終了。なんでこんなに長いんだ(笑
どーも総合GMの神衣舞です。
問題継続中なのはシュテンと謎の男の戦いだけですね。彼らは町中をぴょんぴょんしながら戦っています。
次回は一回時間飛ばすついでに平和なお祭りのターンで、その次で最終戦かな。
次回の行動で結末の対処法の幅とか増えたりするかもね。もちろん騒ぎは各所で発生中ですよ。
というわけでリアクションをお待ちしております。
〜その6〜
(2010/09/13)

「あら、モモちゃん」
 ケイオスタウン側のニュートラルロード、そのほぼ真ん中辺りで情報統制に務めていた百目鬼は聞き慣れた────余り聞きたくない声にげんなりとしつつ目の一つを向けた。
「奇遇だねぇ」
「奇遇じゃないですよ。何か用ですか?」
 そこは『Walkers the Nigth』実行委員会のテントだ。といっても道端に設置しているため特に接近を拒む物はない。
 百目鬼のモモは神楽坂・文のいつも通りの笑みと、その手にあるハンディカムを睨んだ。
「祭りの取材は別の子のはずですけど?」
「良いじゃない、ネタは多くて困る事はないよ」
 良ければ言わない。カグラザカ新聞社の編集長はいつも感性の赴くままに飛び出して行くのだ。
「今日は私もフロアに居ないんですから。それに社からでも見えるでしょ?」
「うう、だってお祭りだよ?」
 そしてその大半は仕事のためというより単なる趣味である事が大問題だと思うのだが。
「それで? 今面白そうな事が起きてる場所はある?」
「面白そうって……」
 基本的には仮装行列と同じような物だ。各々が道を往きながらパフォーマンスをするのだからどこが、と言う事はない。それを理解した上で問うているのだから、それは一応は実行委員としてここにある自分に対して不謹慎だと思う。
「特にありませんよ。予定通りに進行中です。第十陣が急遽編成されたくらいですよ」
「ああ、ファフニールの飛行編隊ね。あれはあれで勇壮だよね」
 予想通り知っていて、予想通りに食いつかない。この人は適当に歩いているくせに事件のど真ん中に居るのだ。だからこう言ってやる事にする。
「貴女がそう言ってるんなら平和な証拠です。そのまま困ってください」
「ブン屋にあるまじき発言だよ!」
 別に店舗案内でも新聞は作れるのだから、良いじゃないかと溜息。
「まぁ、いいや。私は他を見てくるね」
「社に戻らないんですか?」
 嫌味を欠片も理解せず彼女はにこやかに言葉を残す。
「ほら、代表のシュテンさんがニセモノとすり替わってるから、もう少ししたら楽しくなりそうだし?」
 え? と思った時には彼女は人ごみの中に去ってしまった。百目鬼の目はその姿を捉えても祭りの熱気で声は届かない。そうこうしているうちに100m以上離れられて見失ってしまった。
 モモは暫く呆然と彼女の去った方向を眺め、それから我に返って今の話の事実確認を始めた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「随分と引っ掻き回された物だな」
 竜に神族の顕現体という大物の登場に誘拐を企む小悪党が動き回った結果、当初の警備担当が持ち場を狂わされていた。ようやく得た凪の時間にそのリセットを急遽行っている。
 先ほどの活躍もあってか、エディの提案はあっさりと通り、ついでに再編成を任せると余計な言葉まで付属してきた。随分と本部のやり方が杜撰だなと顔を顰めた物だが、放り出せば後で苦労するのは自分達だ。それに新規に発生した第十陣の事もある。ファフニールという古竜が護衛役を名乗っているがあれでは小回りが利かない。当然強襲護衛隊の一部を割らねばならなかった。
『間もなく一般参加との合流時間です。『本性』をうっかり出す人も居ますから特に注意してください』
 妖怪種は畏れから生まれてくる者も多いのだと言う。「それは暗闇の中、背後に誰かがついてきているかもしれない」「聞こえる音は誰かが何かをやっているのかもしれない」という自然現象の擬人化だ。擬妖化と言うべきか。そういった者は自身が生まれた条件に一致してしまうとついつい自分の根源となる行動をとってしまうらしい。
 それが「ただ後ろにぴったりとくっついて歩く」なんて物ならば可愛らしいが、死傷者が出かねない特性もあるのだと言う。もっとも、そういう類の者は一般参加者と合流する隊には居ない『はず』である。
 新しい配置へと散っていく強襲護衛の面々を見送り、エディはさてとと西の空を見上げた。
 有事の対応力は弱くともその威は本物だ。ファフニールに良い気になってもらっていた方が面倒が無い。
「なぁ」
『……? 私ですか?』
 伝令役の飛竜がエディの上で滞空する。
「悪いがあの竜のところに運んでくれないか? ちょっと話をしたい」
『了解です。もう少しで再配置の通達が終わりますのでお待ちを』
 あっさりと了承の思念が帰ってきた。どうやら自分を信頼してくれてるらしい。エディは了解をしめすようにひらひらと手を振り、もう一つの案件、精神操作に秀でた人材をどう探そうかと考え始めた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
「おー」
 サンロードリバーのほとりまで着たヨンはマーメイドや半漁人がパフォーマンスをしながら往く流れを見て歓声を挙げる。
 サンロードリバーの塔を挟んで西側にはアクアタウンという河底町が存在しており、彼らはそこの住人だ。普段は河の渡し守や進入する怪物の迎撃を行っている。
 ライトアップした輸送船でセイレーンが歌っている。うっかり本気をだしてしまって集団入水が置き掛けたらしい事はさておいて。
 水が間欠泉のように吹き上がってそれを色とりどりのライトが照らす様は中々に見事だ。水が上がるたびに観客からは大きく歓声が上がっている。
「友達に挨拶してきただ」
 ざばぁと河童が河から上がってきてふるふると水を払うとヨンの横に座った。
「僕の事は気にしないでいいですよ?」
「折角だからね」
 正面でぱぁっと水が吹き上がり、何人かがこちらに向かって手を振っているのが見えた。それに河童が応じているところを見るとその友人とやらだろう。
「思ってた以上に派手ですね。陸の方がメインなのでこちらはどうかなと思ったんですが」
「熱心で働き者の連中が居るだよ」
 ん?と言葉の意味を確かめようとすると、正面を半漁人に似た、しかしどことなく生物のあり方に反したような連中が「えっさほいさ」と資材を運んでいく。
「今の奴らだよ」
「マーマン……にしてはどこか妙ですけど」
「マーマンじゃないだよ。確か……深い所が好きな連中だ。まとめ役はダンゴとか言っただね」
「……団子?」
「妙な響きだったよ」
 目を凝らせば結構な数が居る。
「大親分が表にあんまり出られないから子分が頑張るんだって」
「へぇ」
 随分と協力的な人だなぁと思う反面、どこか嫌な予感がする。深く考えない方が良いだろうと何となく思った。うん、きっと。
「さて、それじゃあ───────」
 どばっと激しい音がして、まるで爆弾でも投げ込んだかのように水面がはじけた。
 新しいパフォーマンスかと視線を向けて
「……?」
 今までパフォーマンスをしていた面々が面食らった顔をしている。つまり、
「また何か起きたんでしょうかね」
 水しぶきが収まり、セイレーンや海ハーピーが乗っていた船の上に異物が1つあった。
 獣のように四肢で身を支えるそれは、水面に立つ男を見ている。
「あれは……シュテン氏?」
 遠目でもわかる。何故第一陣の頭を行くはずの彼がこんな所に居るのか。
 水面に立つ男の周囲がせり上がり、水が弾丸のようにシュテンへ走ると彼は盛大にバク転を決めてそれを避けるて、これまた当然のように水の上を走っていく。
「なんとも……」
「派手だなぁ」
 シュテンと相対する男は間違いなく殺気を孕んでいる。パフォーマンスと喜んでられないが、水の上では介入もできない。
 やがてその姿も見えなくなり気を取り直したようにパフォーマンスが再開される。
「大将、何処に言ったんだろうなぁ?」
 河童の問いを内心で繰り返し、改めてどうしましょうかと呟いたのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「おい、九十九」
「シュテンだろ、イバラギ」
 姿も声もシュテンそのもので応じるが、イバラギは苦笑して上を指差す。
 ずぅんと巨体が着地。ホッケーマスクに肉切り包丁を携えた男がシュテンを見上げた。
「説明ヲ求メル」
 くぐもった声はごまかしが聞かない事を率直に伝えていた。
「どうもシュテンの古い馴染が来たようでの。妾は代役じゃよ」
 いかついシュテンの姿で妖艶な女の声を漏らして応じる。
「進行ニ変化ハ?」
「無かろ。なに、あれで義理堅い男じゃ。最後まですっぽかすような真似はせんよ」
「承知。通達ハ?」
「しゃあねぇ。俺からやろう。いいな、九十九?」
「今宵の祭りにおいてはそなたの方が上であろ?」
 イバラギは肩を竦め、「そのツラで流石に気色悪い」と嘯く。
「同意じゃな」
 九十九もカラカラと笑い、それからとんと跳んで屋根の上へ。
「てめぇら! 祭りはまだまだ続く! 派手にやろうや!!」

『応応応応応応応応応応応応応応応ぉぉぉおおおおお!!』

 声が漣のように、しかし雄々しくそして激しく響き渡り周囲の建物をびりびりと揺らす。
 第一陣の武威こそがその本性である者達は威風堂々と言う言葉を纏って己を示す。
 シュテンに化けた九十九は満足げに笑い、それから不意に興ざめしたような視線を背後に向ける。
「今宵は祭り、楽しく踊りゃ良いものを」
 小さく呟いて生み出した火の玉────狐火でそれを受け止める。
 周囲を取り巻く者の数は50に近いか。
「まぁ良い」
 否、と続けて、彼女は────彼は声を張り上げる。
「世に名を轟かせしは鬼の中の鬼!
 之酒呑童子。闇夜に歩みて血を啜り、今宵は畏れを振り撒こうぞ!」
 イバラギも他の面々も気付いたらしい。スタッフが周囲の観客を退避させ始めるのを横目に九十九は大きく手をひろげてニィと笑みを作る。
「貴様らごとき小童に俺様の遊び相手が務まるか!」
 四方八方からの攻撃がシュテン───九十九に殺到し、闇夜に大輪の花が咲いた。

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ちゃおー。総合管理人の神衣舞です。
というわけで、次回がセミファイナルの予定です。
現在シュテン君が色んなところで戦闘中。大きな問題は発生していませんがラストの通り大集団が第一陣を襲撃した模様です。
無論これに乗じて動く人もいるかもしれません。
ちなみにエディさんご要望の精神操作系はし終わってますが数人です。というのも精神構造が違うのでうっかり異種族に使うとえらい事になるリスクがあるので専門家を名乗る人は少ないようです。
祭りの夜もあとわずか。
楽しく参りましょう。
〜その7〜
(2010/09/25)
「おうおう。俺様が酷くやられてるようじゃねえか」
 ある建物の上、敬礼のように額に手を当てて遠くを見るシュテンが歌舞くように大仰な声を上げる。
「九十九の嬢ちゃん、派手なのは良いんだがもっと俺様最強っぽくやってくれねえもんかね」
 巡り巡って、闇夜を飛び跳ねるように戦い───否、その行動は逃げ続けていると評して遜色ない動きを続ける彼はいつしか一陣の姿を見れる所まで戻っていた。
「貴様っ……!」
 男が追い付き、構える。
「ふざけているのか……っ!!」
「おうおう、俺様は何時だって真面目だぜぃ?」
 血を吐くような憤りを見せる男に対し、シュテンはどこまでも真剣味のない応じを男に向ける。
「……っ!!!!!」
 踏み込んでの斬撃をシュテンの刀が受け止める。一合、二合────シュテンの巨体でも触れれば両断するようなそれを体に似合わぬ技術で受け流していく。
「何故だっ!」
 重ねる刃に乗せられるのは悲痛な叫び。
「何故本気を出さぬ! 否、何故俺を生かす!!」
「何故ってよぅ」
 シュテンは困ったように眉尻を下げて、ぽんと男から距離をとった。
「おめえさんに恨まれる理由は重々承知しているし、俺様はてめぇに恨みはねえからなぁ」
 シュテン────酒呑童子は目を細めてかつてを思い起こす。
 茨城童子の奴と京を荒らしまわったもんだ。
 類似世界────地球世界における酒呑童子はその伝承によれば帝の名により組織された討伐隊に討たれ、首を取られたらしい。我ながら情けないと思う反面、戦って敗れたのでなく罠にかかって寝首を掻かれたらしいからまぁその点は誇ってもいいかもなと思う。
「だがよ。俺様はもうそういうのは卒業したんだ。いい加減勘弁しちゃくれまいか」
「地獄で詫びてから言うんだな……!」
 そいつはできねえ相談だと苦笑い。
「仕方ねぇ。その責任もあろうが、俺様には祭りの責任ってのもあるんだ。
 がつんとやらせてもらうぜ。頼光さんよ!」
 鬼は初めて刀を構え、男は淀んだ狂気の視線をそこにぶつける。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ヨンは遠く────今となってはかなり近づいたニュートラルロードの方で派手な爆発が上がるのを見た。
「あれは……」
 頭の中で進行図を思い起こす。第四陣と五陣が合流するあたりか、それよりも先だ。二つの陣は二陣、三陣と続いて一陣の後に続くので襲撃を受けているのは主に一陣だろう。
「シュテン氏が戦ってるんでしょうかね」
 それにしては過激な音は1つや2つではない。
「まるで戦争だな」
 誰かが同じく遠くを見て、そう呟いた。見上げれば第十陣として空に加わった飛行隊の動きがその直上に進路を変えている。
「それだけの規模の厄介な人たちが集まったということでしょうか」
 そうなると最早テロとかいうレベルではない。周囲を見渡せば不安げにする者も……
「……おや?」
 参加者には意外と少ない。それもそうかとヨンは苦笑する。参加者のほとんどは一時的でない来訪者だ。あれくらいの事でびくつくような連中じゃない。どちらかと言うと観客の方だが、参加者が不安を見せなければ演出なのだろうと割り切ってしまえる。
 注意深く見れば強襲護衛隊もこの場を離れて一陣側へと向かっている。全員では無いがそれだけの規模の襲撃と読み取れるのだが。
「今宵は祭り、楽しくみんなで踊りましょう」
 燻ぶる不安を呑みこんでヨンが楽しくおどければ、周囲の連中はめいめいに応じをくれる。
 誰かが適当な音楽を奏で、それに合わせて不格好な踊りを見せる者も居る。
 不安は拳が強い連中が何とかするでしょう。
 そう割り切って彼は軽く跳躍をする。
「というわけで、水を差さないでもらえるかな?」
 妙な道具を構える男の前に降り立ち、腹に一発。その道具を踏みにじり、近くの強襲護衛に手を振る。
「さあ、パレードも大詰めですね。楽しくやりましょう」
 なに、不審者でも出ればやっつければいいだけだ。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ニュートラルロードを挟んで反対側の第六陣も八陣、一般参加者と合流してニュートラルロードを目指している。
 空を舞うガスティは小物を数匹けん制した後、一陣側の騒ぎを目にしていた。
「あっちは派手だな」
 夜空を飾る色どりとしては一見の価値もあろうが、少々威力が伴いすぎる。
 応援に行くべきか?
 すでに数人の強襲護衛隊がそちらに向かっている。ばらばらだったはずの厄介な連中が結託しているようにも見えるので人手が欲しいのは間違いないだろう。
「でもなぁ」
 あの姐さんがすっぱりあきらめたかが少々気がかりだ。そう思っていると第十陣が予想進路を変えて一陣上空に向かうのが見えた。
「……龍のおっさん、また妙な事吹き込まれてないよな?」
 暗闇の中、飾るような光を頼りに視線を凝らすが、その影は見当たらない。
「どうも不安になるというか……」
 あの女はしつこいとどこか決めつけているのは何故だろう。
 自分も竜にまつわる種なので悪くは言いたくないが、あの女性は竜というより蛇を思わせると内心で呟き、きょろりと周囲を見渡す。とにかく竜種は蛇やトカゲと言われるのを嫌うのでまさかと不安になった。
「ま、なんにしてもむやみやたらに一か所に集まるのも良くは無いか」
 第十陣の動きは気になるが
「ヒッ」
 投げたナイフが建物の上で怪しい動きを見せた数人の間に刺さる。
「こういう手合いも居るからな」
 合図を出して人手を集める。祭りはもうすぐフィナーレを迎える。綺麗な形で終わらせるために自分はどう立ち振る舞うか。それを考えながら逃走する連中に追撃を仕掛けた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 敵は決して多くない。
 エディはそう見立てながら盛大な火炎を見上げた。
 シュテンがその炎に巻かれたようだが、それしきで死ぬようなタマではないだろう。そう割り切って思考と視線を周囲に撒く。
 大きな集団が動き出し、周囲が便乗した。そしてここを潰せばもう大きな勢力は無いだろう。
『エディさん、各隊から増援が向かって来ています』
 飛竜からの念話にくいと視線を上げる。
『それから……ファフニール氏もこちらに……』
 我儘竜の暴走については軽く聞いている。護衛役を任されたからとはしゃいでいるのかもしれないが、主に地上戦のこの局面に参加しないでいただきたいとため息。
「それの参戦前にカタつけないとな」
 こちら側の戦力をこの一点に集め続けるのも良くは無い。
「今動かせるのはどのくらいだ?」
『遊撃隊約50名と増援20数名です』
 火勢を見る限り恐らく数は襲撃者の互角か上回ってるだろう。
「よし、ひとつずつグループを潰すぞ。ダイレクトに一陣を攻撃している連中は任せておけばいいだろ」
『そうですね。すでに動き始めているようですし』
「おう。まぁ荒くれを集めているからな」
 喉が引きつり、とっさに銃口を向けた先に鬼が居た。
「驚かせたか。すまんすまん」
 フランクに詫びる鬼に『イバラギ氏、あまり陣を離れては』と飛竜が困ったような念話を飛ばす。その手にはぐったりとした男を一人捕まえており、それをぽいと床に投げ捨てた。
「いや、シュテンの代役をやってくれてるやつが居ると聞いてな。ちょっとした顔見せよ
 一陣、二陣、三陣の直接警備は必要ない。遠距離からちょっかい掛けてくるのだけ始末してくれりゃ問題はないな」
 エディもそのつもりだ。小規模な集団を発見したという報告に遊撃隊を回し、ひとつひとつ潰していく。同調して暴れているだけでこの場に居る全ての敵性が仲間というわけではないからその結果はあっけないものだ。
「代わりに立候補した覚えはないんだがな。……本人は?」
「ちょいと野暮用でな」
 眉根を寄せる。視線を向ければ炎の咲き誇った場所に7人ほどシュテンが居る。
「……あれは?」
「九十九の嬢ちゃんだ。って言ってもわからねえか。狐だよ、化かすのが上手いだろ。残念ながら美女というにはチビだがな」
 カカと笑って「まぁ、頼りにしてるぜ兄ちゃん」と肩を叩き、鬼は陣列へと舞戻る。
「まぁ、報酬分の仕事はするけどな」
 明らかに報酬以上じゃないかとも頭を掠めたが今は置いておく。
 そうこうしている間に三つ目の集団を潰した事、また首魁のシュテンが────今の言葉を信じれば狐が化けたそれがかく乱しているために協調行動が上手く取れていない事が戦況をあっさり有利へと傾けている。
「あとは迷ってる連中に精神操作系仕掛ければ大勢が決まるな」
『結構なお手前で』
 飛竜の言葉に肩を竦め、エディは遠くのスナイパーに一撃をくれてやった。

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 というわけで次回ラストです。どーも神衣舞でーす。
 いかん、エディさんが的確すぎて襲撃失敗だ(笑
 他の二人も隊を離れなかったので余所でも騒ぎ起こせない。なんか完封状態じゃねえか……?
 まぁ、素直に終わる方が祭り的には幸せなのですが、シナリオ的には次回シュテンさんメインにしなきゃいけない気がしてきた……!(笑
 とにもかくにも夜を往く祭りもあとわずか。
 最後のリアクション(っても流石にやる事がもうって感じだけどネw)をよろしくお願いしますね。

 ……明らかにこのシナリオペース配分間違えたよな、ワタシw
〜その8〜
(2010/10/20)
「何やってんだ、あの大将は」
 エディがため息交じりに視線を向ける先には鬼と武者の姿がある。
 シュテンも全く無傷と言う事はないが相手に比べれば軽症と言わざるを得ない。武者はすでに立つ事すら危うくふらついている。
「もう祭りも終わりだって言うのに」
 最早勝負は決している。手を出す必要も見受けられない。それでも武者は刀を構え、シュテンは殺意無く相対している。
「ん? おお、丁度いい」
 鬼がこちらを向いた。そしてちょいちょいと手招きをする。
「コイツを治療班にでも送り届けてくれ。夜明け前に帰らないといけないはずだしなぁ」
「……戯れてただけか?」
「いやぁ、奴さんは本気よぅ」
 完全に隙を見せているのに踏み込む事すらできない。血走った目と軋む歯の音が唯一の抵抗とばかりに鬼へと向けられ続けている。
「治療したらまた襲い掛かってくるぞ?」
「いやぁ。もう時間が無いからなぁ。真面目な頼光は無理と居座るまいよ」
 時間? 訝しげに眉を潜めると「俺っちの世界への扉は常時開放型じゃねえのよ。一年に一回月夜の晩に開いて夜明けには閉まっちまうんだ」と肩を竦める。
「そいつは今や推しも推されぬ英雄様だ。まさか神隠しに遭うわけには行かないからなぁ」
「貴様……っ! 何処まで私を愚弄するか!」
「一晩付き合ってやったんだ。愚弄だなんて言うもんじゃないな」
「……つーか、そんな日に祭りの日程を設定したのか?」
 エディが呆れ顔で言うと
「いやぁ、こっちとあっちで微妙に月齢が違うらしくてなぁ。ずらしたつもりだったんだがよぅ」
 ごりごりと誤魔化すように頭を掻いてまん丸の月を見上げた。
「元々この祭りというか百鬼夜行は俺たちがこっちに来た記念の日としておっぱじめたヤツだからなぁ。なんかわらわらと集まってデケェ祭りになっちまったが」
「時期が被るのは当然ということか」
 迷惑な話だと言うには憚られる。
「でもそれじゃ、来年も出てくるってことじゃないのか?」
「できりゃぁ諦めて貰いたいんだがねぇ」
 その気迫だけで刃でも作れそうな目をした武者を見て、その希望が叶うとは思えない。
「そんなに怨み辛みを重ねたら鬼道に墜ちるぜぃ?」
「ともあれ、治療の件は請け負っておくさ。アンタは本陣に戻れよ」
「悪いな。今度酒でも奢るからよ」
 ひらりと手を振って巨体と思わせぬ跳躍で去っていく。
 さて。
 治療を請け負ったが噛み付かれないかねと振り返った瞬間、どさりと倒れる音。
「まぁ、楽で良いんだけどな」
 最後の後始末だと彼は苦笑を漏らし、男に近付いた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「首尾はどうだ?」
「ん?」
 巨大な目玉がぎょろりと動き、ややあって横を飛ぶガスティの姿を捕らえる。
「おお、貴様か。俺が居るのだ。大事があるわけがない」
 「良く言う」とは思っても顔に出しはしない。この子供っぽい巨竜に機嫌を損ねられると面倒でしかないのは充分理解した。
「しかし一陣の方の加勢はした方が良さそうだが」
「大丈夫だよ。あらかた片付いたって連絡があったし」
 実際先ほどまで聞こえていた音は祭りの物に完全に塗り替えられていた。
「そうか、残念だ」
 残念がるなと以下略。自分も地上の掃討戦に加わるつもりだったのだが、その必要も無いらしい。
 悠々と闇夜を舞う巨竜に従う光は変わらず艶やかで、こちらを見上げる人々の顔も明るい。ライトを足で掴んだハーピー達が曲芸飛行をして夜空に光のラインを描き出すとどっと歓声が上がった。
「ぬう、アレくらい!」
「アンタは先頭なんだから、後ろの奴らが困るような事はしないほうが良いだろ?」
「……残念だ」
 ホントに頭の中ガキだな、と盛大にため息を吐いて眼下を見渡す。
 どの陣もその先頭がニュートラルロードに突入しており、あと三十分もしないうちに第1陣も扉の園に入るだろう。
「そう言えば忘れていた」
「いや、余計な事をしなくていいから」
「ぬう! 汝の名を聞くのが余計な事と?」
 へ? と目を瞬かせた彼はややあってから
「ガスティだよ」
 と苦笑いを浮かべて応じた。
「ガスティか。見れば竜の系譜に連なる者のようだな。その名覚えておこう。光栄に思うが良い」
「まぁ、ほどほどにな」
 余り覚えられても良い事なさそうだなぁと内心でぼやくと
「あら、しっかり覚えておくわよ。ガスティ?」
 耳元で妖艶な女性の声。心臓を捕まれたような、怖気に振り向いてもそこには誰も居ない。
「……やっちまったかなぁ」
 地球世界における『全ての鱗を持つ者を統べる者』とは嫉妬を象徴する大悪魔であり、ついでに蛇は執着の象徴でもある。
 世界体系が異なる彼が後にそれを知ったとき、どんな顔をしたのかは定かではない。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ゴールっと」
 飾られた北側の入市管理場を横目にその境界を越える。そのまま打ち上げのパーティになるらしくブルーシートが敷かれたり、食べ物を用意する人々が遠くに見受けられる。
 邪魔にならない程度にそのまま進んだヨンは丁度良さそうなところでくるりと反転し、列の方へと向き直った。
「みなさん。今日はありがとうございました!」
 突然の事にきょとんとしていた面々もすぐに笑顔を作って「あんちゃんカッコよかったぜ」だとか「まだ今から飲みだ! 付き合え!」とかわいのわいのと騒ぎになる。それほど協力な種が居ない事もあるかもしれないが、終始穏やかな空気で来れたなぁと思う。
「よっしゃ、9陣はここを乗っ取るぜ! お前ら、食い物とか持って来い!!」
 サラマンダーがぼわりと一際大きな火柱を上げてアピールすると、ノリの良い連中が「おおー」と用意している食べ物などに散会した。
「朝まで騒ぐぜ!」
 ぼわんぼわんと火柱を上げて、ぜぇぜぇと荒い息を吐く。下級精霊なのでそんなにヒートアップしたらばてるのは当然である。
 まぁそれでも月夜に彼の火は映える。すぐに宴会場となって呑めや歌えやの騒ぎに発展した。
「稲荷寿司だよ」
「稲荷寿司だね」
 ぴょこぴょこ跳ねる天狐の二人にヨンはそれを取り分けながら「おらは河童寿司がいい!」と手を挙げる河童に苦笑する。自分の名前が入ってるのは共食いじゃないかと思えば、どうやらそれぞれ稲荷と河童が好きな物を使った寿司と言う意味とのこと。
「さてと」
 ヨンは賑やかな祭りが続く周囲を見渡した。
 お世話になった人たちに挨拶をしませんとね。
 律儀な吸血鬼はやいのやいのと騒ぐ集団へともぐりこんでいくのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「随分と楽しんできたようだな」
 不遜な物言い。いつもの相棒のそれだがやけに艶っぽい。見れば相対するような大男はそこには居らず、見目麗しい女性が身に余る大杯を手にしている。
「なんでぇ、その格好」
「俺はこれが本性よ。お前に合わせておいただけだ」
 ああ、そうだったとシュテンはぺんと額を叩く。イバラギこと茨木童子は大鬼とも語られるが女性であるという説も根強い。そしてここに居る彼───彼女はその確かに女性だ。
「なに、もう山で暴れているわけでもねえ。俺がこの姿で居てもナメる子分が居るわけでもない」
「道理だな。俺が見慣れないという問題を除けばだが」
 イバラギは珂々と笑って「それにこの姿の方があの武者に狙われなくて良い」と嘯くとシュテンはやや苦みばしった表情を浮かべた。
「返り討ちにしたんだろ?」
「まぁな。奴さん来年も来そうだが」
「なんじゃ、生かして返したのかえ?」
 イバラギの横でお猪口を持った幼女が首を傾げる。外見はコレでも齢数千歳の大妖狐で、清酒は大好物である。
「憂いも無くなろう?」
「とは言え、奴さんが無事だから奴さん以外こっちに乗り込んで来ねえようなもんだ。四天王まで引き連れて着やがったらコレくらいの騒ぎじゃ済まねえからよ」
 彼の世界でも酒呑童子は源頼光に殺された事になっている。が、現実は偶然アジトに発生した扉を潜ってこちらにやってきていただけ。事実として討伐した事になり、英雄扱いされた頼光はその嘘を真実にするためにやってきているのだ。
「真面目だからねぇ、あの男。嘘で都の平穏が守られるならと思いながらその嘘に耐えられない。無様な男だ」
 辛らつな言葉を美女が言えば「じゃが、あれは力が強い。いつぞや討たれるかもしれんぞ」と幼女が囃した。
「なぁに、そん時はそん時よ。鬼道であっちの鬼と酒宴でも開くさ」
 剛毅に言い放ちぐいと酒を呷る。
「祭りの席で辛気臭いのはいけねえな。さあさぁ呑もう呑もう」
 観客の誘導を終えたスタッフや強襲護衛隊の面々も集まってきている。一段と賑やかになる扉の園で鬼は高々と酒盃を揚げたのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*- 

酒呑童子は八岐大蛇から生まれたそうです。
つまり今回の引っ掻き回し役は実は全員竜族だったりします。かっこわらい
どーも神衣舞です。【inv08】もこれにて閉幕となります。お疲れ様でした。
一周年を迎え、随分と世界も広がったなぁと思います。NPCとの関係もそれぞれ深めていますしね。良し悪しはあれ(笑)
表立って表現していませんがこのお祭り、重軽傷者多数、死者数名という過激な物になっています。まぁ、言わずもがな。もちろん襲撃者や強襲護衛隊を抜いた被害です。
それでもこのお祭りは続いていくでしょう。スペインの牛追い祭りが続いていたんですからクロスロードなら尚更です。
というわけで、まぁ正直最初にはしゃぎすぎて以下略。来年は規模は大きくなりますがシナリオ的にはもう少しコンパクトになるかと。
……来年もやるって事は2周年かw やれるように頑張るヨ。
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