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【inv09】『知られざる名前と』
知られざる名前と
(2010/08/17)
「うーん」
 ひと段落着いてぐーっと伸びをした少女はパソコンの画面をさっと見返す。そこには様々な情報が絵と文章で記されており、右上には『カグラザカ新聞』のロゴが確認できた。
 彼女が今の今までやっていたのは紙面の割付チェックだ。とりあえずは問題はないのであとは他の人にチェックを入れてもらえれば印刷に回せる。
 カグラザカ新聞は週に二度の発行だ。どちらかと言うと情報誌の色合いが強く、またゴシップ系の記事も目立つ。政治は名目上このクロスロードには存在していないし、経済もその根幹たるCRCのあり方が特殊なため、記事にするほどの事が滅多に起こらない。
「ん〜」
 不意に、背もたれ付きの椅子でくるくると回り始めた彼女は、ぐるぐると回る視界の中で天井を見上げる。
 カグラザカ新聞の売れ行きは可もなく不可もなくという状態をずっと続けている。新聞の文化を持つ世界は珍しくないものの、さりとて読むかと言えばまた別の話だ。紙や本が貴重な世界だって多々あり、読めるけど読む習慣が無いという人が予想外に多い。そんな背景で売るためには興味を惹く内容を少しでも詰め込むしかないと考えるのは仕方ないのかもしれない。
 もっとも、彼女が元の世界で所属していた新聞社がゴシップ専門だったこともあるのだが。
「ねえ、モモちゃん」
 ふいにぴたりと回転を止めて、近くのデスクで作業をしている社員に声を掛ける。
「はい?」
 彼は振り向く事無く視線を編集長のデスクに集める。30個くらいの目がきょろりと若い編集長を見た。
「確かお便りの中に最近管理組合に関するネタが多かったって言ってたよね?」
「ええ」
 そう応じながら反対側の目を少し先のデスクに向ける。そこには読者からの感想やらおたよりやらを詰め込んだボックスがある。
 モモ───妖怪種百目は脇に措いてある資料に手を伸ばし、手についた目で内容を再確認。
「英雄────メルキド・ラ・アース女史の評判に端を発している興味と思いますが、他にも大迷宮の所に救世主と思わしき巨大ロボットも確認されていますからね」
「管理組合の副組合長は大襲撃の最後に活躍した4人の救世主ではないか。この予想が崩れたって皆思ってるのかな?」
「ロボットに知識の無い人々はそうでしょうが、あれは自律機械ではありません。当然操縦主が居るはずです」
「実は中に白骨死体とか?」
「ありませんでしたよ」
 『100mの壁』があっても、逆に言えば100m以内ならば透視などのアビリティは使用可能だ。目を飛ばすことのできる彼は立ち入り禁止区内に目を飛ばして開かれた無尽のコックピットを確認してきていた。
「というか、報告しましたよね。それ?」
「いやぁ、そういうネタもありかなぁって」
 悪びれる事無く笑みを浮かべ、それからもう一度思案顔に戻る。
「クロスロードが成立して1年半。再来からも約半年。そろそろみんな管理組合に興味を持ってもいい頃だよねえ?」
 百目のモモが「何するつもりですかね、この人」とため息交じりで小声を零す。
「管理組合が非公開にしている『副組合長』。これを白日の下に曝すという企画はどーでしょう?」
 楽しげにそんな事を言い始める編集長に対し、モモは「ええええ……」とかなりげんなりした声を漏らす。
「管理組合と喧嘩するのは勘弁ですよ?」
「喧嘩じゃありませんよ。ただの報道活動ですから。それに管理組合は積極的に教えてはくれないでしょうけど、こちらに圧力を掛ける事は無いと思いますよ?」
「根拠は?」
「勘です☆」
 他のデスクに居る面々も揃ってシーンと沈黙。フロアの急激な冷却に編集長はあれ?と周囲を見渡す。
「一応会社としてやってるんですから他の社員が困るような真似は止めてくださいよ」
 仕方なくモモが苦言を呈すると、「だから、大丈夫だって」と反省してない口調で応じる。
「去年までならまだしも、すでにインフラ整備もほぼ終わってるし、建築関係はセンタ君が一手にやってのけるもの。もう管理組合に癒着する必要性って一部を除いてほぼ無くなってるもの」
「一部とは?」
「賞金システムかな」
「いや、大事でしょうに!」
 無法都市の唯一の安全装置であるこのシステムに干渉されたらたまったものではない。
「今更ブレないって。管理組合は善意を売ってる会社みたいなものだもん。
 1割に肩入れして9割を敵に回すようなおバカさんならとっくに破綻してるよ」
「それはそうかもしれないですけどね。ただ、真剣に考えれば不気味な組織ですよ」
 管理すれど統治せず。殆どのサービスを無料で提供する謎の団体。資金源は異世界の通貨とCRCの両替賃、あるいは怪物から拾得した品物の買取転売などだと言われている。
「あれだけのセンタ君を運用するのだって随分な資金が必要でしょうし……どこかの世界1つがバックボーンに付いていても驚きませんよ」
「あはは。そうすると管理組合はその理念に反して単一世界に肩入れすることになっちゃうね」
「笑い事じゃないですって、それ。もし事実だとしても全力でもみ消されるような内容ですよ!」
 そもそも管理組合成立は3つの世界がこのターミナルでの主権を争って起きた戦いを背景に、どの世界にも組しない公平な組織を目指して作られている。戦乱から身を守るためにその他の世界の人々が寄り集まって作られていたいくつかのコミュニティが母体と言われている。
「でもさ、どうも四方砦の管理官は元々知り合いだったっぽいし……あり得る話ではあるんだよね」
 すっと細めた瞳に猫を思わせる好奇心たっぷりの暗い光を宿す。
「そこで、主軸の副組合長を一人でも確認できたなら色々と推論が進むと思うんだよね」
「……どう聞いても管理組合が敵に回りそうですよね?」
 心の底から勘弁してくれという響きに彼女は首を横に振って否定を示す。
「今だからアリだと思うんだよね」
「だから、勘で物を言わないでくださいよ」
「勘にも根拠はあるんだよ?」
 編集長は視線を窓の外に。視界の先に塔の姿が見える。
「一つは『英雄』メルキド・ラ・アースを露出させてる事。一つは大迷宮に管理組合以外の組織が統治の礎を築いた事。そして衛星都市の迷走」
「迷走……?」
「そ。まるで衛星都市をどう運用しようとしているのか、今になってもまだ迷ってる感じがするんだよね」
「……仮にそうだとして、話が繋がらない気がするんですが」
「繋がるよ?」
 邪気の無い笑みにモモは困ったように沈黙する。
「まぁ、編集長様を信じなさいって。ちょっと派手目にやってみよ?」
 もうすでに彼女の中で実施は確定しているのだろう。こうなると退かない。
「了解」
 モモは聞き耳を立てる周囲を確認しつつそう応じたのだった。 

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はい、総合GMの神衣舞です。

なーんか適当な理由で始まった依頼ですが。かなり重要なイベントだったりします。
いろんなアプローチで調べてみてくださいね。

ではリアクションおねがいしますね。
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