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【inv09】『知られざる名前と』
知られざる名前と
(2010/09/17)
 ロウタウンの一角。かなり奥まった場所にあるためお昼過ぎのこの時間は人通りも無く静かだ。
 元よりクロスロードにある家のうち、半分以上が家主がいない状況なのだからニュートラルロードを外れれば大体こんな物だが。
「ここですね」
 PBの案内を頼りに一軒の家の前に立ったのはガスティとノアノだ。
 インターフォンを押し暫く待つと、戸が開いた。
「あら……ノアノさん。半年振りかしら」
「おひさしぶりです。それから、急にお邪魔して申し訳ないです」
 ノアノの姿を確認して淡い笑みを浮かべるのはユエリア。かつての『再来』で共にロックゴーレムを相手に戦った女性だった。
 あの時の消えそうな空虚さは鳴りを潜めて、時間の流れが彼女を慰撫しているだろうことがうかがい知れる。
「実は、ユエリアさんにお伺いしたい事があってきました」
 挨拶が終わった事を見てガスティが口を開く。
「聞きたい事?」
「ええ、副組合長の事について、昔からクロスロードに居る人に情報収集をしていまして」
 実質引退しているとは言え、彼女も探索者としてこのクロスロードにある人だ。どうやら事情は知っているらしい。
「いいわ。立ち話も何だからどうぞ」
「あ、はい」
「邪魔する」
 さて、何が聞けるのか。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ほっほ。なるほどのぅ」
 今日の館長は庭に居た。脚立の上に座り、高枝バサミで木の形を整えている。ばさりばさりと落ちる木の枝はお手伝いだろうか、センタ君がせっせと拾って集めている。
 いつも通りカフェに居ると思ったらその道中で庭師みたいな事をしている人を発見。良く見ればスガワラ翁だったというわけだ。
「じゃあ、僕はこれで」
「ええ、ありがとうね」
 クネスの事を紹介し終えたヨンは自分の目的地に向けて去っていく。
「して、クロスロード成立前後の話じゃったかな」
「ええ。スガワラさんは大襲撃の頃ここに居たの?」
「残念ながらワシがこの地に来たのはクロスロード成立直後じゃな。新暦1年1の月じゃから本当に直後じゃが」
「とすると、門前会議は?」
「あれは旧暦の最後の月のことじゃからな。直接は知らん」
 直接は、という言葉にクネスは老人を見上げる。
「率直に、副組合長の心当たりは?」
「無い事も無いが、確信は無い。いいとこそして正解でも確証が無ければ違うと言われて終わりじゃな」
 確かに今までの調査でもそんな感じだ。それらしい人は確かに色々居る。けれどもそうであると証明する事は難しい。
「大体、他の者からすればわしだって候補に上がるじゃろう。主だった組織のトップは一様に怪しく、しかし証拠は無い。
 ついでに大前提は『副管理組合長は原則秘密』じゃ。はいそうですと素直に答えはせんじゃろうよ」
 ぱちりと鳴り、枝が落ちる。
「ただ、副組合長が『救世主』とイコールであるならば、3人は魔法使い、1人は機械か、その乗り手となろうて」
「んー、そこも問題なのよね。PBの情報の中で副管理組合長が5人ってなってる箇所があるのよね」
 動きが僅かに止まった。
「何か知ってるの?」
 老人は再び作業を開始してぱちりと枝を落とす。
「副組合長は確かに5人だったんじゃよ」
「……そうなの?」
「うむ。無論『誰か』は未発表のままじゃがな。じゃが数ヶ月、いや3の月くらいじゃったかなぁ。その時に一度副組合長は誰かという疑問がクロスロード中に広まったんじゃよ。今みたいにの」
「それで?」
「それが『副組合長は救世主だ』という噂のきっかけじゃ。その時には一部のPBの記述で副組合長は4人となっておった。
 ただ5人という記述はPBにのみあった。その殆どは3の月までに改ざんされ、見ても居なかった者も多いのじゃろうな」
「けど、今も改ざんされていない部分がある、と」
「そういうことじゃろ。これが単なるミス、という事はまず無いじゃろうな」
 流石にこの町を管理するトップの記述をあからさまに間違えるような事は考えにくい。
「じゃあ、どうして減ったのかしら?」
「率直に言ってわからん」
「想像は? 例えば……実は1人は更に隠されたトップにしちゃったとか、死んで引退したとか」
「どちらもありえる話ではある。が、どうじゃろうなぁ」
 老人は目の前の木を仰ぎ見るように目を細めた。
「結局その時もほんの一部の者が気付いて、興味本位で調べたらしいが何一つ出てこんかったらしい。
 その噂の出所も含めての」
「言いだしっぺが分からないのね」
「あるいは、情報の改ざんを悟られないために『最初から4人だった』という印象を押し付けたかったのかもしれんのぅ」
 そうなるとややきな臭い話だ。そうまでしなくてはいけない理由とは何だったのだろうか。
「ともあれわしが話せるのはこんなものじゃ」
「うん。ありがとうね」
「いやいや」
 好々爺の笑みを浮かべて脚立を降りたスガワラ翁は次の木へ向かうために脚立を持ち上げたのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 地面がこげていた。
 あと何度か補修した後がある。
 『とらいあんぐる・かーぺんたーず』と丸っこい文字で描かれた看板のお店はケイオスタウンの川沿いにある。看板だけ見ればファンシーショップか何かと思うが、視線をまた道路に戻すと言葉を詰まらせるしかない。
「おや、Ke=iさん?」
 道に立ち尽くす白衣の女性に声をかけたのはヨンだ。
「どうしたんですか? 道の真ん中で」
「いえ、ね?」
 ヨンもすぐに気付く。
「……戦闘でも?」
「知らないわ」
 数秒考えたが結論は出ない。
「ま、まぁ過去の事でしょうし。ここで立ってても始まりませんしね。
 とらいあんぐる・かーぺんたーずに用事なんでしょ?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、行きますか」
 と、ヨンが一歩を踏み出した瞬間。
『サーチ・アンド・デストローイ』
 あからさまな合成機械音声と共に大量の噴射音。
「は?」
 店の裏手から大量のマイクロミサイルが飛来してくるのをヨンは目を丸くして見るしかなかった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「本当に申し訳ありません」
 お盆を抱きかかえるようにして頭を下げる銀髪の女性にヨンは引きつった笑みを返す。
「はは、いや、まぁ、無事でしたし」
 どうやらミサイルには幸いにして信管が仕込まれていなかったらしい。被害は雨霰と降ってきたミサイルが一発頭に直撃したくらいか。まさか街中であんな目に合うと思って居なかったため僅かに対応が鈍ったのだ。
「ところで、アルカさんは?」
「お説教中です」
 と、壁の向こうを透かし見るようにした。
「そのお説教って効果あるの?」
 Ke=iが出された紅茶を手に店の前の惨状を思い起こす。銀髪の女性は苦笑いを浮かべるばかりだ。
「まったく……。
 やっほ。ごめんねー」
 店の奥からひょこりと現れた猫耳娘がひらひらと手を振る。
「るーちゃん、あちしにも頂戴」
「はい、……ユイさんは?」
「お説教の途中で寝たにゃ。揺すっても叩いても起きないからとりあえず転がしておいた」
「お説教、意味無いじゃん」
 Ke=iの呟きにアルカは珍しく困ったような苦笑いを浮かべる。
「んで? 二人揃って何の話?」
「私はそのユイちゃんに話を聞きたかったんだけど」
 と、ヨンに目線をやると
「じゃあ、僕から。例の副組合長の件です」
 ことりと新しく淹れられた紅茶がアルカの前に置かれる。
「アルカさんっていつ頃この世界に来たんですか?」
「にゃ? 開かれた日にゃよ」
 さらっと口にされた言葉の意味を理解し損ねて
「つまり最古参?」
 Ke=iの言葉に言葉の意味が繋がる。
「うん。あちしらはそうにゃよ。って言っても偶然その日にこの世界に渡るルートを見っけただけって言い方もできるけどね」
 どうやら猫っぽくても猫舌ではないらしい。湯気がほんのりあがる紅茶に口をつけて二人の様子を伺い見る。
「『ら』って事は、このお店の人が、って事ですか?」
「うん。あちしらは前の世界でも同じ店やってたからね。元よりあちしの世界はターミナルほどじゃないけど他世界との交流が多い世界だったから、さして問題も無かったし。
 この世界へのルート見っけて、まぁ、面白そうだったからね」
「じゃあ、随分と顔が広いとか?」
 探るような問いにアルカはひょこりと首を傾げた。
「どーだろうね。何しろヴェールゴンドが侵攻してくる前までは学者ばっかりだったもん。探索者というか、冒険者もたまに来てたけど何も得る物が無いって帰っていっちゃってたらしいし」
 また生まれる疑問に眉根を寄せる。しかしよくよく考えてみればクロスロードが成立する前のこの地には扉がやたら付いている塔と茨の園があるだけで周囲はずっと荒野。塔にも園にも得る物が無いと悟れば冒険者達が去るのも無理は無い。あるいは別の世界へと渡りなおした可能性もある。
「……なるほど。探索者がここに居座る理由は、クロスロードが成立してから生じたのですね」
「不定期開放型の扉のせいで帰れないから残ってた人も居たらしいけどね」
「じゃあ門前会議に出るような人にも心当たりが?」
「んーーー?」
 ひょこりと首を傾げる。
「扉の園の広さ、知ってる?」
 質問と趣旨が異なる質問に言葉を詰まらせる。
「直径約9.5Km。だいたい70Kuにゃね。そこにヴェールゴンドの大征以前は数千人しか来訪者は居なかったにゃよ。
 種族というか、まぁ話が分かる連中でコミュニティが作られて細い交流だけがあったにゃ」
「……つまり、面識が無い人が多いと?」
「そ。だからどのコミュニティが管理組合の核になったかも不明。大征できな臭くなったから帰った人も居るし、大襲撃の前後は死体だらけで誰が生き残ってるかも不明だったからねぇ」
 何事もないような言い方をするが、凄惨な光景がそこにはあったのだろう。
「んー。あ、じゃあフィルさんっていつから居たか知ってます?」
「んに?」
 猫は首を傾げる。
「いや、同じような質問をしたら、どうも何か隠してるようで」
「フィルっちねー? 随分と前から居たと思うけど」
「それは大襲撃の前ですか?」
「うん。その前に見たにゃよ」
 確かアルティシニも大襲撃の前から居たのはフィルだけだと言っていた。
「フィルさんって何をしてたんでしょうか?」
「ふらふらしてたんじゃないかなぁ」
 随分と適当な言い方だ。「お店はやってなかったんですか?」と言葉を重ねると
「純白の酒場ができたのはクロスロード成立の後にゃ。お店を手伝ってるのは大襲撃の後処理の時にフィルっちが炊き出しをしてたから手伝ったのがきっかけかな」
 と、目を細めた。
「まぁ、あちしも物見遊山というか、適当に学者連中と話ししたり技術書読ませてもらったりとかふらふらしてたし。他にする事ってそーないもんねぇ」
「そういえばこのお店は?」
「ここも純白の酒場と同じ頃にゃよ。怪物相手に戦うために武器の手入れとかしたげたのがきっかけ。というか、まぁ元々お店開くつもりではあったんにゃけどね」
「割り込んで悪いんだけど。だったらセンタ君を作った人に心当たりは無いのかい?」
 Ke=iの問いに猫は空になったカップを置く。
「あちしは魔術専門で機械工学とかは嗜み程度だけどさ、あの程度なら幾らでも量産できる世界はあるんじゃないかにゃ?」
 Ke=iは体の殆どを機械化しているサイボーグだ。彼女の世界の技術であれば確かにセンタ君程度は子供の玩具とも言えるかもしれない。
「管理組合の派出所は地球世界のATMとかいう機械とそっくりらしいし。
 クロスロードじゃ驚くほどの物じゃないんじゃないかなぁ」
 そう言われてしまうと候補は山のようにあるように思えた。PBだって念話というシステムは彼女の知識の外の技術だがそれ以外は頭に埋め込み、脳に接続できるほど小型化していることもある。
「あれって管理組合の備品なんですよね?」
「一応そうなんじゃないかなぁ。簡単なお仕事なら手伝ってくれるらしいけど」
 そういえば先ほどスガワラ翁のお手伝いをしていたと思い出す。
「そのユイちゃんとはお話できないの?」
 元々ユイと話をしたいと来たKe=iの問いにアルカは肩を一つ竦めて
「あの子がいつ起きるとか予想できたら妙な事する前に止めれるんだけどね」
 出来なかった結果に遭遇してしまっては、流石に説得力のありすぎる言葉だった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『更新履歴に関する情報はありません』
 早速蹴っ躓きそうな答えにエディは眉間に皺が寄るのを感じる。
「記述の違う部分については?」
『管理組合に連絡をし、訂正を要求します』
 あくまで機械的な回答だと嘆息。
 既に彼は今PBに尋ねたことへのある程度の回答を得ていた。即ち新暦1年の3の月頃に改ざんがあったという事だ。
 カグラザカ新聞社と司書院にはPBの情報をわざわざ書き出した物が残っていた。司書院の方は委員の一人の趣味とのことらしい。
「変更されている事は事実か」
 5人が4人に。つまり1人減っているという事は間違いない。ならば求めるべきはその理由だ。
 カグラザカ新聞ではその頃に一度、今と同じような記事を書いていた。
『管理組合の実態に迫る』。その殆どはクロスロードの成長録に近いようなものであったが、
「管理組合の副組合長は『救世主』かもしれない、ねぇ」
 その一文はカグラザカ新聞の中にあった。噂が先か、この記事が先かは判然としない。発行日は新暦1年3の月半ば。この時点でそういう認識が確かにあったという事だ。
 では、他に────大きな事件は無かったか。
 一番目を引くのは『桜前線』の話題だろう。あの迷惑な酔っ払わせドライアドは去年もやってきていたようだ。
 ふと違和感を覚えるが、結論に辿り着かないので他の情報を眺め見る。とは言え、それ以上の情報で目に付く事はないようだ。成立直後で、また建設中ということもあってか事件事故が比較的多いというくらいか。
 ふうとため息を一つついて、
「よう」
 近付いてきた男を見上げる。
「悪いな、呼び出して」
「いや、お前から声を掛けて貰えるとは思っていなかったからな」
 にぃと笑みを浮かべるクロトコネル。
「とは言え、単に飲みに来たわけじゃないだろ?」
「それでも良いんだがな」
 とりあえず酒を酌み交わし、やや経ったところでエディは一応の目的を思い出す。
「そういやぁ、今、副管理組合長を探し回ってるんだが、何か知らないか?」
「ん?」
 蒸留酒をストレートで空けているが顔色一つ(元々メタリックブラックで分かりにくいが)変えない男は質問の意味を吟味するようにしばし黙り
「いや、知らんな。というか、昔少しばっかり話題に上ったが、結局あの時もうやむやになったはずだが」
「去年の3の月頃の話か?」
「なんだ、知ってるのか。そうだ。まぁ、あの頃はそれどころじゃなかったからなぁ」
 しみじみと呟いて杯を空ける。
「それどころじゃないって?」
「俺が『律法の翼』の関係者だって事は話したな? その頃のクロスロードは本当にただの無法都市だったんだ」
 言葉の意味を掴み辛いとやや眉をひそめると
「ターミナルを狙っていた2世界は去り、怪物の脅威も一旦は落ち着いた。その頃にクロスロードを奪おうと画策した世界がいくつもあったんだよ」
「……ありえない話じゃないな」
「そいつらにとっちゃ管理組合っていうわけの分からん組織さえ抑えてしまえばどうにでもなるだろうってのが分かりやすいハラだ。
 しかし直接の交渉はできねぇ。だからある世界が厄介な事を始めやがった」
「と、言うと?」
「テロだよ」
 あぶり肉をがぶりと齧って男は続ける。
「管理組合を貶めれば良い。そう考えたんだろうな」
 なにしろ容疑者の特定は難しく、逃走は安易。そして司法機関が無く対策はどうしても後に回る。
「律法の翼が大きくなったのはその頃だ。総大将の、今の言い方じゃ穏健派筆頭のウルテ・マリス様はテロを防ぐために呼びかけ、憂いた連中が集まった。俺もその一人だ。
 それまでは復興支援のボランティア団体に近かったと聞いている」
 テロ活動を行う者には《賞金》が掛けられていたが世界単位で組織的な犯行を行う者に小さなパーティでは足取りすら追うことが難しかったのだと言う。
「それが丁度新暦1年2の月から3の月にかけてだ。ルマデアの野郎は戦術指揮に関してはピカイチでな。随分と戦果を挙げたもんだ。
 今じゃ荒くれ者の親分だがな」
 罵りを交えて言い放つ。
「まぁ、あの野郎はどうでもいいや。そのテロも4の月に入る頃にはピタリと止んだ。俺達は活動が実を結んだと喜んだものだが」
 思い出すように天井を見上げ、
「あの野郎と、ウルテ様だけは笑ってなかったんだよな。いや、ウルテ様は喜んではいたんだが、あの野郎はどっちかってと悔しがってた気がする」
「……」
 どういうことだと聞いても仕方ないだろう。彼もまたその意味を未だ掴みかねている。
「ま、その後にあの野郎は実績を掲げて声高に叫び始め、やがてウルテ様を見限るような事を言って袂を別った。
 未だに同じ名前を掲げているのが気に食わねえがな」
 ちびりと酒を呷って考える。
 テロの発生と、噂の発生。5人が4人になり、テロが収束した。
 これらは関係あるのだろうか? 時期が連なっているだけと言えばそれまでだが。
「ああ、まぁ、良いや。飲もう飲もう。あのむさ苦しい顔を思い出すだけで反吐が出る。
 酒追加だ!」
 店員に声をかける姿を見遣りながらエディは今の情報を頭の隅に記憶した。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「率直に言うと私は管理組合の副組合長を知りません」
 最初から設えられた家具のみの居間。通された二人は差し出された冷茶からユエリアに視線を転じた。
「では門前会談の参加者、あるいはそれに準ずる活躍をした人物に心当たりは?」
「あれは酷い負け戦でした」
 彼女はぽつりと呟く。
「誰が何をしているかなんてきっと誰にもわからないと思います。私達もパーティの単位を維持するのがやっとでした」
 ほんの少しだけ苦い色が表情に走る。
 当時、彼女らはヴェールゴンドの傭兵団としてこの世界に渡ってきた。
 元々は冒険者で、しかしヴェールゴンドが世界を統一した後遺跡への勝手な調査などが禁止されてしまったため護衛や山賊討伐に参加するという方法で日銭を稼いでいたと言う。
「ヴェールゴンドは次なる侵略の場所としてこの世界を選び、兵が集められたのです」
 この世界で言う『ヴェールゴンドの大征』である。
「結果はご存知の通り、ヴェールゴンドとガイアスは撤退を開始。その混乱だけでも多くの兵が混乱の中で死にました。
 私達は早々にヴェールゴンドを見限り、戦う事を選択したのです」
 そこまで語って、吐息を漏らす。
「私達が見たのは巨人でした」
「それって……」
「はい、救世主の1人、1体と言うべきでしょうか。今は大迷宮にある機械兵です。
 それは南より現れて、怪物を蹴散らしました」
 ドラゴン級のサイズを誇る鋼の巨人はその一挙一足で数多の怪物を踏み潰し打ち砕いた。
「特に肩に担いだ光の槍を生む装置と、全身に用意された誘導弾の力は圧倒的でした。怪物たちをゴミのように打ち払い、最後は逃げる彼らを追う様に消えていったのです」
 しかし、その果てに何かが起こり、その鉄巨人は怪物となって大迷宮の上にあったということだ。
「戦果に措いて救世主に勝る者は居ないでしょう。他の三方向に措いてもその圧倒的な力は怪物を打ち砕いたと聞いています」
「……ユエリア達も随分と強いと聞いたんだが、あんたらは門前会議には出てないのか?」
 再来の前までは探索者としてトップのチームだったのだからその可能性があってもおかしくない。
「出ていません。私達だけでなくヴェールゴンドを離反し、戦った者は恐らく出ては居ないでしょう。
 我々には負い目があり、そして最後まで戦ったとしてもそれを拭えるとは考えませんでした。管理組合の理念として侵略した三世界の者がトップになる事はありえない事だと考えています」
 意地汚く自分を売り込むような者が仮に居たならば、管理組合が公平性を保っているとは思えない。
「ただ、管理組合員として働いている者は数人居ます。私達も誘われましたが、探索者としての生活を選びたいとして断ったのです」
「誘われた?」
 ノアノがきょとんとして聞きなおす。
「はい。新暦1年1の月の終わり頃ですね。見慣れない女性の方が私達の元を訪れて」
「名前や特徴は教えてもらえますか?」
「名前は名乗りませんでした。人間のようでしたが貴族っぽい人だったと記憶しています」
 ユエリアは少しだけ記憶を整理するように目を閉じ、
「緑色の髪の20代半ばくらいの女性でした」
 とりあえず思いつく人は居ない。人間と言ってもその姿の別の種族も普通に居る。
「緑って、アルカさんじゃないですよね?」
「変装にしても無理があると思います」
 ノアノの思いつきに苦笑して否定する。
「知ってるんですか?」
「彼女らは腕の良い鍛冶屋ですから。かつては利用していました」
 二人の会話を聞きながらガスティはむぅと考え込む。あの機械の戦いぶりを見た人は少ないとは言え存在している。彼女もその一人で、だから救世主と分かったと言うならば納得できる。
「他の『救世主』については何かご存知ですか?」
 んと彼女は記憶を掘り起こすと
「いえ。その巨人と違って現象の派手さだけが伝え聞こえています。太陽のような火の玉とか、すべてを薙ぎ払い塵と化した破壊の嵐とか……。
 最初に聞いた時には虚飾にも程があると思ったのですが、逆にそれくらいの力があれば押し返せるかもしれないと話していました」
 流石に誰と、とは聞いてはいけない。ぐっと問いを飲み込んだノアノにユエリアは優しく微笑んだ。
「追いかけて消えた巨人はバケモノになっていた、か。わけが分からんぞ」
「でも、中の人が無事なら副管理組合長になっててもおかしくないですよ?」
「中の人。ねぇ」
 ガスティが困ったように繰り返すが、
「もし、操縦主が居るとすれば。再来の時に『空帝の先駆け』を狙撃した誰かがあの場所に居た」
 ユエリアの思考の間にもれたような言葉に視線が集まる。
「アルカさん?」
 もう一度ノアノはその名前を呟く。
「ロックゴーレムが崩れて巨人が出てきたとき、そう。アルカさんがやってきて。巨人にお届け者って」
「……それって、パイロットって事か?」
 頷けない。でもそう考えるのが妥当だと思う。
「少なくとも、あの人は巨人を、救世主を動かす何かを知っているようですね」
 ユエリアは物言いたげなのを堪えるようにぎゅっと瞼を閉じ、ゆるゆると呼気を漏らす。
 情報を租借するかのような静寂に充ちた時間の中、三人は静かに視線を交わした。

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ケーベ●ハウス風に(=ω=)ノ ハーイ
軽蔑ハウスじゃないぞ。神衣舞です。
さて次回辺り最終回になりそうだな。総合管理人の記憶と情報整理と名高いシナリオもここまでやってまいりました。
ぶっちゃけ別に正体わかんなくてもいいよねーと思ってるわけですが、裏の描写とかがあるのでPL視点から行くともうね。
ともあれ、色んな過去が湧いて出てきてますのでナルホドーと思っていただければ幸い。
とにもかくにもリアクションをよろしゅうお願いします。

☆補足☆
カグラザカ新聞の設立が1年4の月に対して、3の月に新聞があるという事について補足です。社の設立以前は神楽坂・文が一人で新聞を作成しており、その時の新聞もカグラザカ新聞でした。
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