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【inv09】『知られざる名前と』
知られざる名前と
(2010/08/17)
「うーん」
 ひと段落着いてぐーっと伸びをした少女はパソコンの画面をさっと見返す。そこには様々な情報が絵と文章で記されており、右上には『カグラザカ新聞』のロゴが確認できた。
 彼女が今の今までやっていたのは紙面の割付チェックだ。とりあえずは問題はないのであとは他の人にチェックを入れてもらえれば印刷に回せる。
 カグラザカ新聞は週に二度の発行だ。どちらかと言うと情報誌の色合いが強く、またゴシップ系の記事も目立つ。政治は名目上このクロスロードには存在していないし、経済もその根幹たるCRCのあり方が特殊なため、記事にするほどの事が滅多に起こらない。
「ん〜」
 不意に、背もたれ付きの椅子でくるくると回り始めた彼女は、ぐるぐると回る視界の中で天井を見上げる。
 カグラザカ新聞の売れ行きは可もなく不可もなくという状態をずっと続けている。新聞の文化を持つ世界は珍しくないものの、さりとて読むかと言えばまた別の話だ。紙や本が貴重な世界だって多々あり、読めるけど読む習慣が無いという人が予想外に多い。そんな背景で売るためには興味を惹く内容を少しでも詰め込むしかないと考えるのは仕方ないのかもしれない。
 もっとも、彼女が元の世界で所属していた新聞社がゴシップ専門だったこともあるのだが。
「ねえ、モモちゃん」
 ふいにぴたりと回転を止めて、近くのデスクで作業をしている社員に声を掛ける。
「はい?」
 彼は振り向く事無く視線を編集長のデスクに集める。30個くらいの目がきょろりと若い編集長を見た。
「確かお便りの中に最近管理組合に関するネタが多かったって言ってたよね?」
「ええ」
 そう応じながら反対側の目を少し先のデスクに向ける。そこには読者からの感想やらおたよりやらを詰め込んだボックスがある。
 モモ───妖怪種百目は脇に措いてある資料に手を伸ばし、手についた目で内容を再確認。
「英雄────メルキド・ラ・アース女史の評判に端を発している興味と思いますが、他にも大迷宮の所に救世主と思わしき巨大ロボットも確認されていますからね」
「管理組合の副組合長は大襲撃の最後に活躍した4人の救世主ではないか。この予想が崩れたって皆思ってるのかな?」
「ロボットに知識の無い人々はそうでしょうが、あれは自律機械ではありません。当然操縦主が居るはずです」
「実は中に白骨死体とか?」
「ありませんでしたよ」
 『100mの壁』があっても、逆に言えば100m以内ならば透視などのアビリティは使用可能だ。目を飛ばすことのできる彼は立ち入り禁止区内に目を飛ばして開かれた無尽のコックピットを確認してきていた。
「というか、報告しましたよね。それ?」
「いやぁ、そういうネタもありかなぁって」
 悪びれる事無く笑みを浮かべ、それからもう一度思案顔に戻る。
「クロスロードが成立して1年半。再来からも約半年。そろそろみんな管理組合に興味を持ってもいい頃だよねえ?」
 百目のモモが「何するつもりですかね、この人」とため息交じりで小声を零す。
「管理組合が非公開にしている『副組合長』。これを白日の下に曝すという企画はどーでしょう?」
 楽しげにそんな事を言い始める編集長に対し、モモは「ええええ……」とかなりげんなりした声を漏らす。
「管理組合と喧嘩するのは勘弁ですよ?」
「喧嘩じゃありませんよ。ただの報道活動ですから。それに管理組合は積極的に教えてはくれないでしょうけど、こちらに圧力を掛ける事は無いと思いますよ?」
「根拠は?」
「勘です☆」
 他のデスクに居る面々も揃ってシーンと沈黙。フロアの急激な冷却に編集長はあれ?と周囲を見渡す。
「一応会社としてやってるんですから他の社員が困るような真似は止めてくださいよ」
 仕方なくモモが苦言を呈すると、「だから、大丈夫だって」と反省してない口調で応じる。
「去年までならまだしも、すでにインフラ整備もほぼ終わってるし、建築関係はセンタ君が一手にやってのけるもの。もう管理組合に癒着する必要性って一部を除いてほぼ無くなってるもの」
「一部とは?」
「賞金システムかな」
「いや、大事でしょうに!」
 無法都市の唯一の安全装置であるこのシステムに干渉されたらたまったものではない。
「今更ブレないって。管理組合は善意を売ってる会社みたいなものだもん。
 1割に肩入れして9割を敵に回すようなおバカさんならとっくに破綻してるよ」
「それはそうかもしれないですけどね。ただ、真剣に考えれば不気味な組織ですよ」
 管理すれど統治せず。殆どのサービスを無料で提供する謎の団体。資金源は異世界の通貨とCRCの両替賃、あるいは怪物から拾得した品物の買取転売などだと言われている。
「あれだけのセンタ君を運用するのだって随分な資金が必要でしょうし……どこかの世界1つがバックボーンに付いていても驚きませんよ」
「あはは。そうすると管理組合はその理念に反して単一世界に肩入れすることになっちゃうね」
「笑い事じゃないですって、それ。もし事実だとしても全力でもみ消されるような内容ですよ!」
 そもそも管理組合成立は3つの世界がこのターミナルでの主権を争って起きた戦いを背景に、どの世界にも組しない公平な組織を目指して作られている。戦乱から身を守るためにその他の世界の人々が寄り集まって作られていたいくつかのコミュニティが母体と言われている。
「でもさ、どうも四方砦の管理官は元々知り合いだったっぽいし……あり得る話ではあるんだよね」
 すっと細めた瞳に猫を思わせる好奇心たっぷりの暗い光を宿す。
「そこで、主軸の副組合長を一人でも確認できたなら色々と推論が進むと思うんだよね」
「……どう聞いても管理組合が敵に回りそうですよね?」
 心の底から勘弁してくれという響きに彼女は首を横に振って否定を示す。
「今だからアリだと思うんだよね」
「だから、勘で物を言わないでくださいよ」
「勘にも根拠はあるんだよ?」
 編集長は視線を窓の外に。視界の先に塔の姿が見える。
「一つは『英雄』メルキド・ラ・アースを露出させてる事。一つは大迷宮に管理組合以外の組織が統治の礎を築いた事。そして衛星都市の迷走」
「迷走……?」
「そ。まるで衛星都市をどう運用しようとしているのか、今になってもまだ迷ってる感じがするんだよね」
「……仮にそうだとして、話が繋がらない気がするんですが」
「繋がるよ?」
 邪気の無い笑みにモモは困ったように沈黙する。
「まぁ、編集長様を信じなさいって。ちょっと派手目にやってみよ?」
 もうすでに彼女の中で実施は確定しているのだろう。こうなると退かない。
「了解」
 モモは聞き耳を立てる周囲を確認しつつそう応じたのだった。 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
はい、総合GMの神衣舞です。

なーんか適当な理由で始まった依頼ですが。かなり重要なイベントだったりします。
いろんなアプローチで調べてみてくださいね。

ではリアクションおねがいしますね。
知られざる名前と
(2010/08/27)
『管理組合には組合長は存在しません。
 これは管理組合が一個人の意思によりどこかの世界の肩入れをしてしまわない措置です』
 ニュートラルロードを歩きながらエディはPBの説明に意識を傾ける。
『統括するのは4人の副組合長です。彼らもまた同様の理由から名前を明かさずに居ます』
「四人居るのは間違いないのか?」
『管理組合の公開データでは4人となっています』
 テンプレ通りの回答にエディは少しだけ眉根を寄せる。
「彼らって言ったな。男なのか?」
『便宜上「彼ら」と称しました』
 PBは機械のような物だ。安易な詐術は通用しない。
「役職として『副管理組合長』ってのはあるんだよな?」
『肯定です』
「組合長と同じで空席って事はないよな?」
『公開情報では4名の就任となっています』
「組織表とか役職表とか、そういうのはあるのかね?」
『肯定。ただし有事に対しての臨時の部門やプロジェクトに対しての期間を有した部門が存在するため、細部までの情報は公開されていません』
 9の月に入ったとは言え、残暑の厳しい中。ようやく駅に到着すると丁度良く来た電車に乗り込む。
「上位陣の役職ってどんな物があるんだい?」
『組合長、副組合長、四方砦管理官、各部門の統括官が主なところです』
「各部門って?」
 電車の中は適度に涼しい。どかりと空いた座席に腰掛けて質問を続ける。
『物流、入管、施設管理、システム統括、両市街管理、事務統括などです』
 まぁあって然りのラインナップだ。軍事や警察、司法に当たるところが並ばないのは流石この街というところか。
「その辺りの偉い人の名前は分かるのかい?」
『非公開情報に指定されています』
 まぁ、そんなに上手くは行かないかと窓の外を見る。
「例えば、管理組合のヤツがうっかり喋ったりしたら何か罰則でもあるのかい?」
『いえ、罰則規定はありません』
 ただ、この街の性質上随分とゆるいところもあるようだ。
「さて、どうアプローチしたものかね。
 もしかして副管理組合長の家まで案内とかできないかい?」
『データにありません』
 やっぱりと思う反面、データがあれば案内できるという意味にも取れる。
 さてはてと呟きながら他に聞く事はあるかなと頭をめぐらせた。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆

「あら、わざわざようこそ」
 案内された先には、ほんわか笑う女性がソファーに腰掛けていた。彼女はガスティの姿を見るなり立ち上がって手を差し出してくる。
「カグラザカ新聞社編集長の神楽坂・文です。初めまして」
「初めまして。今日は依頼の件で少々確認させてもらいたくて着たんだが」
「ええ、なんなりと」
 にっこり微笑んで座るように勧めると、自らもソファーに腰掛けた。
 カグラザカ新聞社のデスクはぱっと見、ありきたりなビジネスフロアだった。パソコンの数が多く、壁に業績表なんかが貼ってある。机が並ぶ周りを取り囲むように打ち合わせ用の広いテーブルが用意されていて数人のスタッフがなにやら議論を交わして居る。
「ええと、まずですね。依頼内容は『副管理組合長の名前を明かすこと』ですよね?」
「はい、そうですよ」
 黒髪美人の女性は楽しげに頷く。
「どの程度の証拠を得れば良いのでしょうか?」
「貴方が確信したらその確信した理由と一緒に教えてください」
 確信、とはまた随分とゆるい条件だ。
「それを元に追調査をし、こちらでも確認できれば認定という形をとります。
 推測ですけど、多分管理組合側もうちが調べて間違いないって確信を持った時点で無理に隠そうとはしないでしょうし」
「そう……なんですか?」
 賞金まで出して調べようとする内容のはずなのに随分と気楽な言い様だ。
「だって本気でどうにかしたいなら今頃私に賞金を賭けてますって」
 ……それはそうだが。と、ガスティは平気な顔で中々問題じゃないかと思われる発言をする編集長をまじまじと見る。
「クロスロードは一応安定してますからね。今更外部干渉を受け入れようだなんて判断は早々できません。だったら最初のお題目である他世界の干渉を避けるためというのは有名無実になってるんです。
 だから公開されてもそんなに痛くないはずなんですよ」
「だったら自分で公開しそうなものですけど」
「そこの理由は分かりません。分かると楽しそうですよね」
 本当に楽しげに言う。
「……ええと、それじゃもう一点。
 南砦管理官のイルフィナ・クォンクースの情報を教えて欲しいのですけど」
「彼が怪しいと?」
「確証はないですけどね」
 フミはんーと暫く考える素振りを見せると、
「大した情報はありませんね。恐らく人間種で南砦管理官。恐らく魔法使いですね。
 四方砦の管理官は全員昔なじみのようですけどね」
「昔なじみ?」
「普段は皆さん砦に常駐してますけど、クロスロードに居るときは一緒に居ることが多く目撃されていますから。
 特に北砦管理官スー・レインとは恋仲とかなんとか」
「あとの二人って誰でしたっけ?」
「西砦管理官はセイ・アレイ。東砦管理官はメルキド・ラ・アースですね。アースさんの方は先の再来において英雄とか言われてますから有名でしょうけど」
「その四人がって事はないですかね?」
「それを調べるのがお仕事じゃないですか。
 ただ、あの四人は管理組合で一番目立っていますからね。どうかなって思う部分はありますけど」
 確かに謎の副組合長という存在とは真逆にある。
「でも、カモフラージュかもしれない。でしょ?」
「調査結果を楽しみにしてますね」
 フミは楽しげにそう応じた。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆

「この街ができた経緯?」
 昼過ぎの純白の酒場はカフェテラスのような雰囲気になる。
 この店の売りはあらゆる世界の料理を再現してしまう事にある。この時間でなくとも異世界の珍味やら懐かしい自分の世界の食べ物を求めてやってくる客が多い。しかしそれを実現しようとすると様々な材料を少量ずつ用意しなければならないのだが、似ている食材を上手く調理して再現しているらしい。
 ともあれ、この時間はいろんな種族の客がアイスやらカキ氷やらを口にしていた。
「ええ。フィルさんってクロスロード成立時から居たって言ってましたし」
「そりゃあ居たけど」
 ウェイトレス幼女のヴィナが楽しげにカキ氷機を回すのを横目で見守りながら「で、何を聞きたいの?」と問う。
「テンプレ通りの話ならPBにも入ってると思うけど」
「一応聞きましたけど、ほら、管理組合については『成立した』くらいの記述しかないようで」
 3つの世界によるこの世界の覇権を賭けた戦い。それは決着を待たず『大襲撃』に押し流されてうやむやになった。
 なし崩しに始まった怪物対来訪者の戦いの後、戦力の殆どを失った3つの世界は戦闘の継続を断念。被害者であったその他の世界の来訪者のうち、大襲撃で活躍した数名や識者が今後の世界を憂い管理組合を成立させた。と、PBからの説明にはある。
「管理組合成立の立役者に覚えが無いですか?」
 満足げに氷を盛った皿を出してくるヴィナにシロップを渡しつつ、少しだけ首を傾げる。
「大襲撃は再来以上の怪物が押し寄せた上に、いがみ合ってた3世界の戦力が足並みを揃えられなくて右も左も分からない大騒ぎだったもの。
 その上末期になってヴェールゴントとガイアスは撤収し始めてそこはそこで大混乱になるし。誰が活躍したかなんて分からないわね」
 再来での死者は五千人超だが、大襲撃での死者は数十万とされている。
「《扉の園》の前は敵味方の死体の山で、それを越えて怪物がやってくるような有様だったのよ」
 当時は堅牢な城壁も通用口たる2つの門も無かった。あるのは世界を奪うために送り込まれた数十万の兵士のみ。
「怪物が退かなかったらこの街は無かったわね。それくらい滅茶苦茶な戦いの中、誰がどれだけなんて誰も把握してないわよ。きっと」
「フィルさんも戦ったんですか?」
「この子たちを守る程度にはね」
 フルーツをカットしながら肩を竦める。
「じゃあ、知り合いに話を取りまとめそうな人、つまりは副管理組合長やってそうな人に心当たりは?」
「誰でもありえるんじゃないかしら」
 完成した物をハム君が頭にのっけてとっててと運ぶ。この暑さのせいか、氷菓の売れ行きはまずまずのようだ。
「来訪者の殆どは自分の世界で少なからず経験を詰んでるもの。中にはどこかの将軍とか政治家も居るはずよ。
 それに名前だけで何やってるかも伝わってない職なんだから誰がやっても問題なさそうじゃない?」
 この街一つを管理している組織がそんな緩いものだろうかとは思うが、一方で名誉職のようなものであればその可能性も否定できない。
「そういう噂ってここじゃ聞けないんですかね?」
 客層も結構まちまちだ。某地球世界のように男だけで入って恥ずかしいというイメージも存在しないため、純粋にいろんな人が集まっている。
「というより、副管理組合長なんて誰も気にしていないと思うわね。四方砦の管理官とかの方がよっぽど目立ってるもの」
「ふぃるー。ラムネの在庫きれたー」
「倉庫にまだあるからハム君と取ってきて頂戴。ついでにそろそろ夜用の仕込み部材もね」
「はーい」
「きゅーい」
 てってこと裏手に回る2人を見送ってフィルは大きな寸胴を準備し始める。
「まだ聞きたい事でもある?」
「いえ、私もカキ氷下さい」
 そう言いつつも僅かな違和感をが脳裏を掠めていた。
 それでも一人くらい名前が挙がってもいいんじゃないかな、と。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆

「ふーん」
 鼻を鳴らして書架を見る。
 ここはカグラザカ新聞社の地下倉庫だ。紙独特の匂いがあるかと思いや、そこには数台のパソコンがぽつんとあるのみだ。壁が一枚あり、その奥にはサーバーセンターがあるらしい。
 過去の新聞も資料も全部デジタル化して保存しているらしく、紙の資料は全く無いらしい。
「勝手に扱っていいの?」
「そのIDで見れる範囲は構いません。まぁ特殊な情報もそんなにないですけどね」
 百目のモモが微笑んで応じる。
「でも、ここで調べられる事なんてPBで公開されてる情報と殆ど同じですよ? 街角のトピックスや、一般的な事件や賞金首の顛末とかなら別ですけど」
「まぁ、勉強ついでにね」
 データベース化しているので複雑な事をする必要も無い、飛ばし飛ばし過去のニュースを見ていく。
「そういえばこの新聞社っていつからあるの?」
「新暦1年6の月創刊ですね。社自体は4の月からありますけど」
「じゃあ管理組合が結成した日とかの記録は無いのね」
「記録自体はありますけど、大したことは残っていませんね。後始末でそれどことじゃなかった、と聞いています」
 横合いから手を出して資料を引っ張り出す。画面に出たのはお茶の間に流せない死屍累々たる惨状だ。
「七日間の後の映像です。見渡す限り死骸の山で、疫病発生を防ぐためにてんやわんやだったそうです」
 丘にも見えるそれはこのターミナルの地形を考えればやはり死体か、それが積み重なった物なのだろう。一体どれだけの命が失われてここに詰みあがって居るのか。
「門前会議だったかしら。その情報とか映像は無いの?」
「そこに関してはありません。そもそも門前会議の詳細が不明なんですよね」
 クロスロードの成立と管理組合の発足を定めたはずの重要な会議のはずだ。それが仔細不明とは妙な話だ。
「話の上だけでは扉の塔の前、出入り口となってる巨大な門の前で行われたから門前会議って名前になったらしいのですが。
 そうすると目撃するのは別に難しい話じゃないんですよ。なのに目撃証言がとことん無いんです」
「ミステリーねぇ」
 クネスは面白い話だと目を細める。
「出てそうな人とか、そういう有名人は?」
「そうですねぇ……四方砦の管理官はその時から居たらしいですし、今も重要なポストに居ますからね」
「ふーん」
「後はマルグスロスさんですか」
「それは?」
「エンジェルウィングスの社長さんですよ。そもそも永遠信教世界の人たちはみんなあの大襲撃の時に居た人ばかりですから」
 確か大襲撃が起こる前に争っていた三世界のうちの1つだ。
「あの世界との扉は大襲撃で破壊されましたから、今ターミナルに居る永遠信教世界の人たちはみんな大襲撃経験者ですね」
「なるほどねぇ」
「ただあの人は義理堅いというか、元軍団長だったらしいですから口の硬さは比較になりませんよ」
 ただでさえ永遠信教世界は天使と称すべき者達のお堅い軍団だ。言わずもがなである。
「正直戦闘要員で有名な人は少ないですよ。高位の神族や魔族は街の隅っこで大人しくしてますし、活発に活動している来訪者ではユエリア・エステロンドの居たパーティが有名でしたけど、先の一件で壊滅。唯一の生き残りの彼女も最近は探索者としての活動をしていないみたいですし。
 他だと、そうですね。『登頂者同盟』や『律法の翼』なんかのまとめ役や『ダイアクトー』の連中は結構なつわものとは聞きますが」
「候補は結構居るのねぇ」
「何しろ世界によっては英雄級の人もごろごろ居ますからね。扉の影響で能力が平坦化してるって言われてますけど」
 彼女自身もそういう存在だ。だから気付かれない程度の苦味を笑顔に混ぜてパソコンに向き直る。
「さて、どうアプローチしようかしらね」

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 犯人は、俺だ!
 って言うと刺されるって聞いた神衣舞です。古っ!
 さて今回のお話は1周年を目前にしたクロスロードの情報整理も兼ねていたりします。つかもう一周年か。早いのぅ
 この回は公開情報の整理その1って感じでしたねぇ。踏み込むための通路確認という事もあるでしょうが。
 ともあれウォークラリーの気分で色々探ってもらえれば幸いかと。
 では次のリアクション、並びにチャットでの情報収集を宜しくお願いします。
 ちなみに、同じ事を何度も書いても仕方ないので意図的に情報を削除しているところがあります。参加者のみなさんは今回の結果の内容に関しては把握しておいて構いません。
知られざる名前と
(2010/09/06)
「副管理組合長ですか?」
 管理組合本部受付嬢の1人が「またか」という表情を浮かべる。
「申し訳ありませんがお答えできません。あと、我々も知りません」
 テンプレの回答に追加された「我々も〜」は何人も質問に来た事を伺わせる。
「知らないって、全員知らないの?」
 Ke=iの問いに彼女はこくりと頷き、
「少なくとも私の知る限りですが。
 カグラザカ新聞社の依頼が出てから質問者が増えていますし、組合員の中でも話題に上っていますが知っているという話は一つも出てきていません」
 隠している様子は無く、むしろ知って居るなら教えて欲しいという雰囲気が僅かに垣間見えると困惑せざるを得ないのはKe=iの方だ。
「上の人も?」
「流石にそこまでは。それに管理組合の基本理念として、副組合長の原則秘匿は守らねばなりませんので」
 責任者なら知っていてもおいそれもらすわけには行かないのは確かだろう。
「その人たちと話できないかな?」
「それに付いては受付けておりません。管理組合の業務外となりますので」
 本来ならば今の質問に関しても応えるべきでない事を彼女は述べているのだろう。ちょっとしたウンザリ感がそうさせているらしい。
「……でも、上の人を知らないでよく仕事できるねぇ」
 組織ならば必然的に指示を出し、承認を行う人が必要のはずだ。というか、そのために上は存在するのが普通だろう。
「管理組合の業務に例外は殆どありませんから、そのような特別処理を行う必要が無いんです。
 『再来』や『衛星都市建設』のような特別な事例が発生した場合にも私達の仕事は一切変わりませんし」
 システマチックと言うべきか。そもそもこの本部にだけ『受付嬢』が存在している理由は街の至る所にある管理組合派出所の機械になじめない人(特に中世世界の商人に多いらしい)が人と人のやり取りを求めるから設置された物である。機械(?)での管理が主で、彼女らはあくまでサポート的なスタンスである。
「でも、特別な事が起きた時に、特別な事をする人も居るんでしょ?」
「はい。プロジェクトが組まれ、必要な人員が内外から召集されます」
「それを決定している人は?」
「分かりません」
 思わず絶句。そこははっきり言って良いものではない気がする。
「それが副組合長かどうかを私達は聞いてはいないのです」
「……疑問に思わないの?」
「思いますけど、それで不都合しているわけではないので」
「……管理組合の人ってみんなそんな考えなの?」
 流石に淡白すぎやしないかと怪訝そうな顔をすると
「私の主観だけで言えば王が誰であっても平穏に暮らせるならば構わないのです。
 議会制や民主主義などに移行した世界の人はそのような考えに至るようですが」
「価値観の違い……ね」
 恐らく受付嬢をやってる面々は似たような考えなのだろう。
 となれば彼女らは積極的に事実を求めてはおらず、握って居る情報も必然的に限られる。
 張り込んで彼女ら以外の組合員に当たってみるかと内心で呟き、Ke=iは一度受け付けフロアを後にした。

◇◆◇◆◇◆◇◆

 管理組合本部に程近い場所にあるもう一つの建築物はクロスロードの物流を一手に引き受けるエンジェルウィングスの本社である。
 裏手には大きな駐車(?)場があり、駆動機械や飛竜などが整備、飼育されている傍らで様々な輸送物が搬入、搬出されている。
「ちょっといいか?」
 広々としたロビーは郵便局の窓口を思わせるカウンターがいくつか見受けられ、その他のスペースにはテーブルと椅子が用意されている。そのうちの一つではエンジェルウィングスの社員らしき人と商人風の男が商談をしていた。
 ガスティがそれを横目に受付に声をかける。
「はい、どういうご用件でしょうか?」
 何か作業をしていた社員が手を止めて顔をあげる。
「マルグスロスさんに会いたいんだが」
「社長にですか?」
 きょとんとする社員はややあって「どのようなご用件でしょうか?」と問い返す。
「門前会議の事について調べているんだよ。昔から居るって聞いてるから何か話が聞けないかと思ってな」
 職員は困ったような顔をして後ろを振り返ると、そのHELPの視線に気付いた上役らしき人がカウンターに寄ってきた。
 職員が声を落として事情を告げると、上役は少しだけ眉根を潜め、「あちらのテーブルへどうぞ」と空いている机を示した。
 ガスティがとりあえず従うとその対面に「失礼します」と上役が座る。
「社長との面会を希望と言う事ですが、アポイントメントは?」
「いや、無いけど……」
 ちらっとだけ「だろうなぁ」的な表情が垣間見える。
「社長は現在社には居りませんし、ここ暫くは衛星都市や大迷宮都市へと移動されており、アポイントメントもなく時間を確保するのは困難な状況です」
 「帰れ」的なオーラがチラチラと見える。
「そこを何とかならないかな」
「とりあえずお名前とご用件を改めて頂いておきます。
 社長がお時間を取るかどうかは後日連絡を致しますので」
 どうやら気さくに会える人物ではない事はガスティにも理解出来てきた。
「……”ガスティ”・ブリーズィアだ。門前会議とその参加者に付いて調べてて話を聞きたい。
 社長さんは『永遠信教』世界の人なんだろ?」
「はい、それは確かに。
 内容については承りました。それ以上御用が無ければ私はこれで」
 上役は早々に席を立つと一礼して去っていく。
 期待できそうにないなぁと内心呟き、彼は仕方なくその場を後にするのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「これは美しいお嬢さん。ようこそアドウィック探偵事務所へ」
 恭しく礼をする男はどこかうそ臭い紳士顔そう迎えた。
「失礼するわね」
「NonNon、貴女のような人なら大歓迎さ。ささ、どうぞ」
 勧められるままにクネスがソファーに座ると女性が紅茶を差し出す。
「あら、ありがと」
「いえ」
 女性が物静かに壁際に下がるとアドウィックは面白そうに目を細める。
「さて、早速だけど」
「OK。なんなりと」
「各種組織とヴェールゴンド、ガイアスの人間で組合成立前から居る有名人を教えて欲しいのだけど」
 探偵は「ふむ」と大仰に頷き、
「まぁ、初回特別サーヴィスだ。
 まずヴェールゴンドとガイアスの有名人は居ないと思って構わない」
「どうして?」
「彼らは『恥』と思っているからさ」
 改めた歴史を脳内に開く。永遠信教世界は扉を破壊されて逃げ場を失ったという理由こそあれ、最後まで人々の盾のように戦ったが、ヴェールゴンドとガイアスは全てを見捨てて逃げ出している。
「今クロスロードに残る2世界の来訪者は見捨てられた負傷兵だったか、最後まで戦い抜いた勇者だ。
 BUT、口さがない連中は人くくりにしてかの世界の者を悪しく言ったのさ。そして彼らは大襲撃が無ければ確かに侵略者の側であった」
「引け目、ということ?」
「That’s Right」
 ぱちんと指を鳴らす。
「Of Course、残った彼らの奮戦は見ている者はちゃんと見ていた。だがそれ以上に逃げ出した挙句その混乱で死傷者まで出した無様な世界という印章が強いのさ」
「なるほどね。じゃあ身分を隠してでもそういう立場に居る人は?」
「Sensitive! 鋭いね。居るよ」
 彼はにやりと笑う。
「施術院の院長。アイギス・ヨーデンハイド氏。彼女は元ガイアスのメディックだ」
 施術院とはクロスロードの医療全般に幅広く関与していると言われる組織だ。
「大襲撃直後の混乱期にガイアスの医療技術を惜しみなく伝え、広めたすばらしい人だ。
 種族を整理して医療方法の間違いを無くす取り組みや、魔術を併用して衛生環境を整えるというのも彼女が発案だね」
「へぇ。随分と立派な人ね」
「And、あとヴェールゴンドではユエリア・エステロンド氏かな」
「それは?」
「おや? 知らないかい?」
 意外そうな顔をして、「Oh、Sorry」と一言。
「キミは再来の後にこちらに来たんだね。ならば納得だ。
 衛星都市建設のきっかけとなった初のフィールドモンスター討伐者パーティの生き残りにして、大迷宮都市のフィールドモンスター討伐にも貢献した魔術師さ」
「その人もヴェールゴンド出身って隠してるの?」
「NO。隠してるわけではないけど語らないという感じだね。彼女のパーティメンバーはヴェールゴンド軍に傭兵として雇われたメンバーだったらしい。
 今となっては生き残りは彼女だけとなってしまったが、それまではクロスロードでもトップの探索者と謳われていた」
「その人とは会えるのかしら」
「『再来』の後は引退したらしいね。純白の酒場の客の中に親しい人がいたと思うけど」
 誰かと聞こうとしてやめておく。あくまでサービスを逸脱しない方が今はいいだろう。
「あとは各組織の有名人だったかな?」
「ええ」
「OK,まずは管理組合。知られているのは四方砦の四人の管理官だ。
 北がスー・レイン。南がイルフィナ・クォンクース。東がメルキド・ラ・アース。最後に西がセイ・ア・レイだね」
「それ以外の人は?」
「Sorry、表立って名前が知られてるのは彼らくらいなものだよ」
 鼻を鳴らし、先を促す。
「各組織の代表は大体こんなもんかな。
 『エンジェルウィングス』代表マルグスロス氏。
 『大図書館館長』スガワラ翁に『司書員長』のサンドラ女史。
 『律法の翼』の穏健派の長ウルテ・マリス 、過激派の長ルマデア・ナイトハウンド
 『施術院』はさっき言ったとおりアイギス氏。
 AND、『秘密結社ダイアクトー』のダイアクトー三世。
 知ってるだろうけど、カグラザカ新聞社の神楽坂・文 女史。
 『登頂者同盟』と『シーフギルド』、それから『双子神殿』についてはトップは不明。登頂者同盟に関しては学者の集まりだから明確なトップが無いとも言えるね」
「それは不明? それとも別料金?」
「僕は探偵さ。個人の興味で調べ者をするのはマナーに反する。 OK?」
 とりあえず「OK」と返しておく。
「それにしても結構な数ね」
「NO,NO、NOだ、クネス女史。
 クロスロードは十万人を抱える都市だよ。まだまだ居るさ」
 そう考えると、その中でたった数人を特定するというのは至難の業なのかもしれない。
「キミが探しているのは副組合長だろう?
 クロスロード始まって以来一度も名前が明かされない幻の存在を突き止めるんだ。そう簡単にはいかないさ」
「貴方でも?」
 苦笑交じりに返すと彼は心外だとばかりに首を横に振る。
「僕はクロスロード一番の探偵だよ?
 でも流石にこの案件については安い値段じゃ受けられない。そう思ってくれたまえ」
 話はここまでのようだ。それを悟ったクネスは「紅茶ご馳走様」と席を立つ。
「Your Welcome
 いつでもどうぞ。貴女のような方を迎えるのは紳士として誉れだからね」
 キザ過ぎてどこか嘘っぽい声を背に、彼女はその場を後にした。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「……」
「……」
 昼下がりの純白の酒場。昼食時を過ぎたこの時間、客足がひと段落した中で妙な雰囲気が流れていた。
「えーっと」
 食器を回収し終わったアルティシニがその原因たる二人に視線をめぐらせる。
 ややあって、しゃべりやすそうな方へと彼女は少し近づいた。
「ヨンさん?」
「あ、はい、何でしょう?」
「えっと、フィルさんに何か用事でも?」
「いえ、別に」
 フィルには一度はぐらかされていると思っている。そしてはぐらかすということは何かを知っているに違いない。
 そう思って毎日通うヨンである。
「ちなみにアルティシニさん」
「アルで良いですよ? 何でしょう?」
「このお店の人で大襲撃のときにからいた人って居るんですか?」 
「え? ……フィルさんだけだと思いますけど」
「ヴィナちゃんも?」
「ええ。私もヴィナちゃんもフィルさんに招かれてきましたから」
 アルティシニの肩越しにカウンターを見ると無視を決め込んでいるフィルの姿。
「あれ? アルカさんは違うんですか?」
「アルカさんと会ったのはこの世界でが初めてですよ?
 フィルさんの知り合いだそうで。それにあの人は私が夜あまり出られないので応援で着ていただいているんです」
 そう言えば自分が顔を出す時間帯に居る事は少ない。
「アルカさんは昼はとらいあんぐる・かーぺんたーずでお仕事してますからね」
「なるほど。他に店員は居ないのですか?」
「ええ。店員とは違いますが、たまにサラさんが食事時に歌いに来ますね」
「吟遊詩人……なのですか?」
 見た事もないが、歌いにというならばそう言う存在なのだろうと予想すると、アルティシニは肯定の頷きを返す。
「自称、ですね。あの方も私たちと同じ世界の人なんですけど……」
 何か隠すように、また困ったかのように苦笑を洩らす。
「……実質フィルさんだけが先にこの世界に居た、と」
「そうなりますね」
 その唯一の人は取りつく島もなさそうである。
「管理組合の人ってここに来たりは?」
「どうでしょう?」
 困ったように視線を上へ。別に上に何かあるわけでなく考える時の癖なのだろう。
「なにしろ『管理組合の人』が誰かがわかりませんし。
 たまにアースさんとセイさんが来るくらいでしょうか」
「……砦の管理官の?」
「ええ。非番の時はよく一緒に……歩かれてますから」
「今の間は……?」
「え、いや……」
「セイおにーちゃんをアースおねーちゃんがばーんってやってずるずるなんだよー」
 どどどーと音を引き連れてハム君に乗ったヴィナがそんな事を言う。
「……尻に敷いている?」
 困ったような笑みは肯定らしい。
「次、いつ来るかわかりますか?」
「非番の日は定期的じゃないですし、お二人がいつも来てくれるとも限りませんので。
 下手をすると来月とかになるかもです」
 申し訳なさそうに言われてはそれ以上言葉もない。
「ふむ」
 もう一度ちらり。お使いに行って来たらしいヴィナと話すフィルはこちらの視線に気づいているだろうが、気にしないというスタンスを変えてはくれない。
 どうしたものか。
 内心で呟き、アイスティのお代わりを注文するのだった。 


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 疲れた〜〜〜〜!!
 私自身の記憶だの記述などをひっくり返しながらの執筆です。データを残さない私が悪いんだがなw
 どーも、神衣舞です。律法の翼の首魁の名前、どっか別で出した気がするんだけどなぁと思っています。見つけたら教えてください(笑
 ともあれ事件の進展は牛歩のこのお話です。
 まぁ、主目的は一周年を前にした情報整理だから、いろいろと確かめてみてくんなましょ。
 では次のリアクションをお願いしますね。
知られざる名前と
(2010/09/17)
 ロウタウンの一角。かなり奥まった場所にあるためお昼過ぎのこの時間は人通りも無く静かだ。
 元よりクロスロードにある家のうち、半分以上が家主がいない状況なのだからニュートラルロードを外れれば大体こんな物だが。
「ここですね」
 PBの案内を頼りに一軒の家の前に立ったのはガスティとノアノだ。
 インターフォンを押し暫く待つと、戸が開いた。
「あら……ノアノさん。半年振りかしら」
「おひさしぶりです。それから、急にお邪魔して申し訳ないです」
 ノアノの姿を確認して淡い笑みを浮かべるのはユエリア。かつての『再来』で共にロックゴーレムを相手に戦った女性だった。
 あの時の消えそうな空虚さは鳴りを潜めて、時間の流れが彼女を慰撫しているだろうことがうかがい知れる。
「実は、ユエリアさんにお伺いしたい事があってきました」
 挨拶が終わった事を見てガスティが口を開く。
「聞きたい事?」
「ええ、副組合長の事について、昔からクロスロードに居る人に情報収集をしていまして」
 実質引退しているとは言え、彼女も探索者としてこのクロスロードにある人だ。どうやら事情は知っているらしい。
「いいわ。立ち話も何だからどうぞ」
「あ、はい」
「邪魔する」
 さて、何が聞けるのか。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ほっほ。なるほどのぅ」
 今日の館長は庭に居た。脚立の上に座り、高枝バサミで木の形を整えている。ばさりばさりと落ちる木の枝はお手伝いだろうか、センタ君がせっせと拾って集めている。
 いつも通りカフェに居ると思ったらその道中で庭師みたいな事をしている人を発見。良く見ればスガワラ翁だったというわけだ。
「じゃあ、僕はこれで」
「ええ、ありがとうね」
 クネスの事を紹介し終えたヨンは自分の目的地に向けて去っていく。
「して、クロスロード成立前後の話じゃったかな」
「ええ。スガワラさんは大襲撃の頃ここに居たの?」
「残念ながらワシがこの地に来たのはクロスロード成立直後じゃな。新暦1年1の月じゃから本当に直後じゃが」
「とすると、門前会議は?」
「あれは旧暦の最後の月のことじゃからな。直接は知らん」
 直接は、という言葉にクネスは老人を見上げる。
「率直に、副組合長の心当たりは?」
「無い事も無いが、確信は無い。いいとこそして正解でも確証が無ければ違うと言われて終わりじゃな」
 確かに今までの調査でもそんな感じだ。それらしい人は確かに色々居る。けれどもそうであると証明する事は難しい。
「大体、他の者からすればわしだって候補に上がるじゃろう。主だった組織のトップは一様に怪しく、しかし証拠は無い。
 ついでに大前提は『副管理組合長は原則秘密』じゃ。はいそうですと素直に答えはせんじゃろうよ」
 ぱちりと鳴り、枝が落ちる。
「ただ、副組合長が『救世主』とイコールであるならば、3人は魔法使い、1人は機械か、その乗り手となろうて」
「んー、そこも問題なのよね。PBの情報の中で副管理組合長が5人ってなってる箇所があるのよね」
 動きが僅かに止まった。
「何か知ってるの?」
 老人は再び作業を開始してぱちりと枝を落とす。
「副組合長は確かに5人だったんじゃよ」
「……そうなの?」
「うむ。無論『誰か』は未発表のままじゃがな。じゃが数ヶ月、いや3の月くらいじゃったかなぁ。その時に一度副組合長は誰かという疑問がクロスロード中に広まったんじゃよ。今みたいにの」
「それで?」
「それが『副組合長は救世主だ』という噂のきっかけじゃ。その時には一部のPBの記述で副組合長は4人となっておった。
 ただ5人という記述はPBにのみあった。その殆どは3の月までに改ざんされ、見ても居なかった者も多いのじゃろうな」
「けど、今も改ざんされていない部分がある、と」
「そういうことじゃろ。これが単なるミス、という事はまず無いじゃろうな」
 流石にこの町を管理するトップの記述をあからさまに間違えるような事は考えにくい。
「じゃあ、どうして減ったのかしら?」
「率直に言ってわからん」
「想像は? 例えば……実は1人は更に隠されたトップにしちゃったとか、死んで引退したとか」
「どちらもありえる話ではある。が、どうじゃろうなぁ」
 老人は目の前の木を仰ぎ見るように目を細めた。
「結局その時もほんの一部の者が気付いて、興味本位で調べたらしいが何一つ出てこんかったらしい。
 その噂の出所も含めての」
「言いだしっぺが分からないのね」
「あるいは、情報の改ざんを悟られないために『最初から4人だった』という印象を押し付けたかったのかもしれんのぅ」
 そうなるとややきな臭い話だ。そうまでしなくてはいけない理由とは何だったのだろうか。
「ともあれわしが話せるのはこんなものじゃ」
「うん。ありがとうね」
「いやいや」
 好々爺の笑みを浮かべて脚立を降りたスガワラ翁は次の木へ向かうために脚立を持ち上げたのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 地面がこげていた。
 あと何度か補修した後がある。
 『とらいあんぐる・かーぺんたーず』と丸っこい文字で描かれた看板のお店はケイオスタウンの川沿いにある。看板だけ見ればファンシーショップか何かと思うが、視線をまた道路に戻すと言葉を詰まらせるしかない。
「おや、Ke=iさん?」
 道に立ち尽くす白衣の女性に声をかけたのはヨンだ。
「どうしたんですか? 道の真ん中で」
「いえ、ね?」
 ヨンもすぐに気付く。
「……戦闘でも?」
「知らないわ」
 数秒考えたが結論は出ない。
「ま、まぁ過去の事でしょうし。ここで立ってても始まりませんしね。
 とらいあんぐる・かーぺんたーずに用事なんでしょ?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、行きますか」
 と、ヨンが一歩を踏み出した瞬間。
『サーチ・アンド・デストローイ』
 あからさまな合成機械音声と共に大量の噴射音。
「は?」
 店の裏手から大量のマイクロミサイルが飛来してくるのをヨンは目を丸くして見るしかなかった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「本当に申し訳ありません」
 お盆を抱きかかえるようにして頭を下げる銀髪の女性にヨンは引きつった笑みを返す。
「はは、いや、まぁ、無事でしたし」
 どうやらミサイルには幸いにして信管が仕込まれていなかったらしい。被害は雨霰と降ってきたミサイルが一発頭に直撃したくらいか。まさか街中であんな目に合うと思って居なかったため僅かに対応が鈍ったのだ。
「ところで、アルカさんは?」
「お説教中です」
 と、壁の向こうを透かし見るようにした。
「そのお説教って効果あるの?」
 Ke=iが出された紅茶を手に店の前の惨状を思い起こす。銀髪の女性は苦笑いを浮かべるばかりだ。
「まったく……。
 やっほ。ごめんねー」
 店の奥からひょこりと現れた猫耳娘がひらひらと手を振る。
「るーちゃん、あちしにも頂戴」
「はい、……ユイさんは?」
「お説教の途中で寝たにゃ。揺すっても叩いても起きないからとりあえず転がしておいた」
「お説教、意味無いじゃん」
 Ke=iの呟きにアルカは珍しく困ったような苦笑いを浮かべる。
「んで? 二人揃って何の話?」
「私はそのユイちゃんに話を聞きたかったんだけど」
 と、ヨンに目線をやると
「じゃあ、僕から。例の副組合長の件です」
 ことりと新しく淹れられた紅茶がアルカの前に置かれる。
「アルカさんっていつ頃この世界に来たんですか?」
「にゃ? 開かれた日にゃよ」
 さらっと口にされた言葉の意味を理解し損ねて
「つまり最古参?」
 Ke=iの言葉に言葉の意味が繋がる。
「うん。あちしらはそうにゃよ。って言っても偶然その日にこの世界に渡るルートを見っけただけって言い方もできるけどね」
 どうやら猫っぽくても猫舌ではないらしい。湯気がほんのりあがる紅茶に口をつけて二人の様子を伺い見る。
「『ら』って事は、このお店の人が、って事ですか?」
「うん。あちしらは前の世界でも同じ店やってたからね。元よりあちしの世界はターミナルほどじゃないけど他世界との交流が多い世界だったから、さして問題も無かったし。
 この世界へのルート見っけて、まぁ、面白そうだったからね」
「じゃあ、随分と顔が広いとか?」
 探るような問いにアルカはひょこりと首を傾げた。
「どーだろうね。何しろヴェールゴンドが侵攻してくる前までは学者ばっかりだったもん。探索者というか、冒険者もたまに来てたけど何も得る物が無いって帰っていっちゃってたらしいし」
 また生まれる疑問に眉根を寄せる。しかしよくよく考えてみればクロスロードが成立する前のこの地には扉がやたら付いている塔と茨の園があるだけで周囲はずっと荒野。塔にも園にも得る物が無いと悟れば冒険者達が去るのも無理は無い。あるいは別の世界へと渡りなおした可能性もある。
「……なるほど。探索者がここに居座る理由は、クロスロードが成立してから生じたのですね」
「不定期開放型の扉のせいで帰れないから残ってた人も居たらしいけどね」
「じゃあ門前会議に出るような人にも心当たりが?」
「んーーー?」
 ひょこりと首を傾げる。
「扉の園の広さ、知ってる?」
 質問と趣旨が異なる質問に言葉を詰まらせる。
「直径約9.5Km。だいたい70Kuにゃね。そこにヴェールゴンドの大征以前は数千人しか来訪者は居なかったにゃよ。
 種族というか、まぁ話が分かる連中でコミュニティが作られて細い交流だけがあったにゃ」
「……つまり、面識が無い人が多いと?」
「そ。だからどのコミュニティが管理組合の核になったかも不明。大征できな臭くなったから帰った人も居るし、大襲撃の前後は死体だらけで誰が生き残ってるかも不明だったからねぇ」
 何事もないような言い方をするが、凄惨な光景がそこにはあったのだろう。
「んー。あ、じゃあフィルさんっていつから居たか知ってます?」
「んに?」
 猫は首を傾げる。
「いや、同じような質問をしたら、どうも何か隠してるようで」
「フィルっちねー? 随分と前から居たと思うけど」
「それは大襲撃の前ですか?」
「うん。その前に見たにゃよ」
 確かアルティシニも大襲撃の前から居たのはフィルだけだと言っていた。
「フィルさんって何をしてたんでしょうか?」
「ふらふらしてたんじゃないかなぁ」
 随分と適当な言い方だ。「お店はやってなかったんですか?」と言葉を重ねると
「純白の酒場ができたのはクロスロード成立の後にゃ。お店を手伝ってるのは大襲撃の後処理の時にフィルっちが炊き出しをしてたから手伝ったのがきっかけかな」
 と、目を細めた。
「まぁ、あちしも物見遊山というか、適当に学者連中と話ししたり技術書読ませてもらったりとかふらふらしてたし。他にする事ってそーないもんねぇ」
「そういえばこのお店は?」
「ここも純白の酒場と同じ頃にゃよ。怪物相手に戦うために武器の手入れとかしたげたのがきっかけ。というか、まぁ元々お店開くつもりではあったんにゃけどね」
「割り込んで悪いんだけど。だったらセンタ君を作った人に心当たりは無いのかい?」
 Ke=iの問いに猫は空になったカップを置く。
「あちしは魔術専門で機械工学とかは嗜み程度だけどさ、あの程度なら幾らでも量産できる世界はあるんじゃないかにゃ?」
 Ke=iは体の殆どを機械化しているサイボーグだ。彼女の世界の技術であれば確かにセンタ君程度は子供の玩具とも言えるかもしれない。
「管理組合の派出所は地球世界のATMとかいう機械とそっくりらしいし。
 クロスロードじゃ驚くほどの物じゃないんじゃないかなぁ」
 そう言われてしまうと候補は山のようにあるように思えた。PBだって念話というシステムは彼女の知識の外の技術だがそれ以外は頭に埋め込み、脳に接続できるほど小型化していることもある。
「あれって管理組合の備品なんですよね?」
「一応そうなんじゃないかなぁ。簡単なお仕事なら手伝ってくれるらしいけど」
 そういえば先ほどスガワラ翁のお手伝いをしていたと思い出す。
「そのユイちゃんとはお話できないの?」
 元々ユイと話をしたいと来たKe=iの問いにアルカは肩を一つ竦めて
「あの子がいつ起きるとか予想できたら妙な事する前に止めれるんだけどね」
 出来なかった結果に遭遇してしまっては、流石に説得力のありすぎる言葉だった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『更新履歴に関する情報はありません』
 早速蹴っ躓きそうな答えにエディは眉間に皺が寄るのを感じる。
「記述の違う部分については?」
『管理組合に連絡をし、訂正を要求します』
 あくまで機械的な回答だと嘆息。
 既に彼は今PBに尋ねたことへのある程度の回答を得ていた。即ち新暦1年の3の月頃に改ざんがあったという事だ。
 カグラザカ新聞社と司書院にはPBの情報をわざわざ書き出した物が残っていた。司書院の方は委員の一人の趣味とのことらしい。
「変更されている事は事実か」
 5人が4人に。つまり1人減っているという事は間違いない。ならば求めるべきはその理由だ。
 カグラザカ新聞ではその頃に一度、今と同じような記事を書いていた。
『管理組合の実態に迫る』。その殆どはクロスロードの成長録に近いようなものであったが、
「管理組合の副組合長は『救世主』かもしれない、ねぇ」
 その一文はカグラザカ新聞の中にあった。噂が先か、この記事が先かは判然としない。発行日は新暦1年3の月半ば。この時点でそういう認識が確かにあったという事だ。
 では、他に────大きな事件は無かったか。
 一番目を引くのは『桜前線』の話題だろう。あの迷惑な酔っ払わせドライアドは去年もやってきていたようだ。
 ふと違和感を覚えるが、結論に辿り着かないので他の情報を眺め見る。とは言え、それ以上の情報で目に付く事はないようだ。成立直後で、また建設中ということもあってか事件事故が比較的多いというくらいか。
 ふうとため息を一つついて、
「よう」
 近付いてきた男を見上げる。
「悪いな、呼び出して」
「いや、お前から声を掛けて貰えるとは思っていなかったからな」
 にぃと笑みを浮かべるクロトコネル。
「とは言え、単に飲みに来たわけじゃないだろ?」
「それでも良いんだがな」
 とりあえず酒を酌み交わし、やや経ったところでエディは一応の目的を思い出す。
「そういやぁ、今、副管理組合長を探し回ってるんだが、何か知らないか?」
「ん?」
 蒸留酒をストレートで空けているが顔色一つ(元々メタリックブラックで分かりにくいが)変えない男は質問の意味を吟味するようにしばし黙り
「いや、知らんな。というか、昔少しばっかり話題に上ったが、結局あの時もうやむやになったはずだが」
「去年の3の月頃の話か?」
「なんだ、知ってるのか。そうだ。まぁ、あの頃はそれどころじゃなかったからなぁ」
 しみじみと呟いて杯を空ける。
「それどころじゃないって?」
「俺が『律法の翼』の関係者だって事は話したな? その頃のクロスロードは本当にただの無法都市だったんだ」
 言葉の意味を掴み辛いとやや眉をひそめると
「ターミナルを狙っていた2世界は去り、怪物の脅威も一旦は落ち着いた。その頃にクロスロードを奪おうと画策した世界がいくつもあったんだよ」
「……ありえない話じゃないな」
「そいつらにとっちゃ管理組合っていうわけの分からん組織さえ抑えてしまえばどうにでもなるだろうってのが分かりやすいハラだ。
 しかし直接の交渉はできねぇ。だからある世界が厄介な事を始めやがった」
「と、言うと?」
「テロだよ」
 あぶり肉をがぶりと齧って男は続ける。
「管理組合を貶めれば良い。そう考えたんだろうな」
 なにしろ容疑者の特定は難しく、逃走は安易。そして司法機関が無く対策はどうしても後に回る。
「律法の翼が大きくなったのはその頃だ。総大将の、今の言い方じゃ穏健派筆頭のウルテ・マリス様はテロを防ぐために呼びかけ、憂いた連中が集まった。俺もその一人だ。
 それまでは復興支援のボランティア団体に近かったと聞いている」
 テロ活動を行う者には《賞金》が掛けられていたが世界単位で組織的な犯行を行う者に小さなパーティでは足取りすら追うことが難しかったのだと言う。
「それが丁度新暦1年2の月から3の月にかけてだ。ルマデアの野郎は戦術指揮に関してはピカイチでな。随分と戦果を挙げたもんだ。
 今じゃ荒くれ者の親分だがな」
 罵りを交えて言い放つ。
「まぁ、あの野郎はどうでもいいや。そのテロも4の月に入る頃にはピタリと止んだ。俺達は活動が実を結んだと喜んだものだが」
 思い出すように天井を見上げ、
「あの野郎と、ウルテ様だけは笑ってなかったんだよな。いや、ウルテ様は喜んではいたんだが、あの野郎はどっちかってと悔しがってた気がする」
「……」
 どういうことだと聞いても仕方ないだろう。彼もまたその意味を未だ掴みかねている。
「ま、その後にあの野郎は実績を掲げて声高に叫び始め、やがてウルテ様を見限るような事を言って袂を別った。
 未だに同じ名前を掲げているのが気に食わねえがな」
 ちびりと酒を呷って考える。
 テロの発生と、噂の発生。5人が4人になり、テロが収束した。
 これらは関係あるのだろうか? 時期が連なっているだけと言えばそれまでだが。
「ああ、まぁ、良いや。飲もう飲もう。あのむさ苦しい顔を思い出すだけで反吐が出る。
 酒追加だ!」
 店員に声をかける姿を見遣りながらエディは今の情報を頭の隅に記憶した。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「率直に言うと私は管理組合の副組合長を知りません」
 最初から設えられた家具のみの居間。通された二人は差し出された冷茶からユエリアに視線を転じた。
「では門前会談の参加者、あるいはそれに準ずる活躍をした人物に心当たりは?」
「あれは酷い負け戦でした」
 彼女はぽつりと呟く。
「誰が何をしているかなんてきっと誰にもわからないと思います。私達もパーティの単位を維持するのがやっとでした」
 ほんの少しだけ苦い色が表情に走る。
 当時、彼女らはヴェールゴンドの傭兵団としてこの世界に渡ってきた。
 元々は冒険者で、しかしヴェールゴンドが世界を統一した後遺跡への勝手な調査などが禁止されてしまったため護衛や山賊討伐に参加するという方法で日銭を稼いでいたと言う。
「ヴェールゴンドは次なる侵略の場所としてこの世界を選び、兵が集められたのです」
 この世界で言う『ヴェールゴンドの大征』である。
「結果はご存知の通り、ヴェールゴンドとガイアスは撤退を開始。その混乱だけでも多くの兵が混乱の中で死にました。
 私達は早々にヴェールゴンドを見限り、戦う事を選択したのです」
 そこまで語って、吐息を漏らす。
「私達が見たのは巨人でした」
「それって……」
「はい、救世主の1人、1体と言うべきでしょうか。今は大迷宮にある機械兵です。
 それは南より現れて、怪物を蹴散らしました」
 ドラゴン級のサイズを誇る鋼の巨人はその一挙一足で数多の怪物を踏み潰し打ち砕いた。
「特に肩に担いだ光の槍を生む装置と、全身に用意された誘導弾の力は圧倒的でした。怪物たちをゴミのように打ち払い、最後は逃げる彼らを追う様に消えていったのです」
 しかし、その果てに何かが起こり、その鉄巨人は怪物となって大迷宮の上にあったということだ。
「戦果に措いて救世主に勝る者は居ないでしょう。他の三方向に措いてもその圧倒的な力は怪物を打ち砕いたと聞いています」
「……ユエリア達も随分と強いと聞いたんだが、あんたらは門前会議には出てないのか?」
 再来の前までは探索者としてトップのチームだったのだからその可能性があってもおかしくない。
「出ていません。私達だけでなくヴェールゴンドを離反し、戦った者は恐らく出ては居ないでしょう。
 我々には負い目があり、そして最後まで戦ったとしてもそれを拭えるとは考えませんでした。管理組合の理念として侵略した三世界の者がトップになる事はありえない事だと考えています」
 意地汚く自分を売り込むような者が仮に居たならば、管理組合が公平性を保っているとは思えない。
「ただ、管理組合員として働いている者は数人居ます。私達も誘われましたが、探索者としての生活を選びたいとして断ったのです」
「誘われた?」
 ノアノがきょとんとして聞きなおす。
「はい。新暦1年1の月の終わり頃ですね。見慣れない女性の方が私達の元を訪れて」
「名前や特徴は教えてもらえますか?」
「名前は名乗りませんでした。人間のようでしたが貴族っぽい人だったと記憶しています」
 ユエリアは少しだけ記憶を整理するように目を閉じ、
「緑色の髪の20代半ばくらいの女性でした」
 とりあえず思いつく人は居ない。人間と言ってもその姿の別の種族も普通に居る。
「緑って、アルカさんじゃないですよね?」
「変装にしても無理があると思います」
 ノアノの思いつきに苦笑して否定する。
「知ってるんですか?」
「彼女らは腕の良い鍛冶屋ですから。かつては利用していました」
 二人の会話を聞きながらガスティはむぅと考え込む。あの機械の戦いぶりを見た人は少ないとは言え存在している。彼女もその一人で、だから救世主と分かったと言うならば納得できる。
「他の『救世主』については何かご存知ですか?」
 んと彼女は記憶を掘り起こすと
「いえ。その巨人と違って現象の派手さだけが伝え聞こえています。太陽のような火の玉とか、すべてを薙ぎ払い塵と化した破壊の嵐とか……。
 最初に聞いた時には虚飾にも程があると思ったのですが、逆にそれくらいの力があれば押し返せるかもしれないと話していました」
 流石に誰と、とは聞いてはいけない。ぐっと問いを飲み込んだノアノにユエリアは優しく微笑んだ。
「追いかけて消えた巨人はバケモノになっていた、か。わけが分からんぞ」
「でも、中の人が無事なら副管理組合長になっててもおかしくないですよ?」
「中の人。ねぇ」
 ガスティが困ったように繰り返すが、
「もし、操縦主が居るとすれば。再来の時に『空帝の先駆け』を狙撃した誰かがあの場所に居た」
 ユエリアの思考の間にもれたような言葉に視線が集まる。
「アルカさん?」
 もう一度ノアノはその名前を呟く。
「ロックゴーレムが崩れて巨人が出てきたとき、そう。アルカさんがやってきて。巨人にお届け者って」
「……それって、パイロットって事か?」
 頷けない。でもそう考えるのが妥当だと思う。
「少なくとも、あの人は巨人を、救世主を動かす何かを知っているようですね」
 ユエリアは物言いたげなのを堪えるようにぎゅっと瞼を閉じ、ゆるゆると呼気を漏らす。
 情報を租借するかのような静寂に充ちた時間の中、三人は静かに視線を交わした。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
ケーベ●ハウス風に(=ω=)ノ ハーイ
軽蔑ハウスじゃないぞ。神衣舞です。
さて次回辺り最終回になりそうだな。総合管理人の記憶と情報整理と名高いシナリオもここまでやってまいりました。
ぶっちゃけ別に正体わかんなくてもいいよねーと思ってるわけですが、裏の描写とかがあるのでPL視点から行くともうね。
ともあれ、色んな過去が湧いて出てきてますのでナルホドーと思っていただければ幸い。
とにもかくにもリアクションをよろしゅうお願いします。

☆補足☆
カグラザカ新聞の設立が1年4の月に対して、3の月に新聞があるという事について補足です。社の設立以前は神楽坂・文が一人で新聞を作成しており、その時の新聞もカグラザカ新聞でした。
知られざる名前と
(2010/09/29)
「救世主、ねぇ?」
 ぱらぱらとページをめくる。
 救世主。世界の滅亡に際してその対抗存在として現れるモノ。
 さまざまな世界の文献を集める大図書館には様々な救世主の記述がある。が、今知りたいのはそんな事じゃない。
「何をお探しですか?」
 これも違う。あれも違うとKe=iがやっていると黒髪の少女が声をかけてくる。服装からして司書院の人らしい。
「いやねぇ、大襲撃の最後に現れたっていう救世主について調べたいんだけど」
「……」
 16かそこらに見える少女は少しぽかんとして、それからクスクスと小さく笑う。
「んん?」
「ああ、申し訳ありません。お探しの本はここにはありませんよ」
「ない?」
「正確には『誰も本にしていない』と言うべきでしょうか」
 少女は長い髪を従えるようにくるりと周囲を見渡す。
「はい。この世界の本はまだほとんどありません。なにしろクロスロードが成立してようやく二年ほど。記すほどの歴史が集まっていないのです。
 あるいは、その書きかけの物はあるかもしれませんがそれは個人の所有する物であり、ここに蔵されては居ないのです」
「ああ、なるほど」
 情報ならここに来ればと思ったが、確かに本にもなっていないならばここにあるはずが無い。
「大襲撃その物を扱った戦記のようなものや簡単な歴史書はありますが。
 そもそも救世主については未だ推論も多く尾ひれ背びれも付いた話ですからね。例え作られたとしてもその信ぴょう性は保証できる物ではないでしょう」
「じゃあ打つ手なし?」
「いえ、一応カグラザカ新聞のストックならあります。ある意味クロスロードの情報についてはあれが一番の『蔵書』でしょうね」
 一応ここがダメならカグラザカ新聞社に行くつもりだったのだが。
「とりあえずそれから調べましょうかね」
 Ke=iは一つ大きく伸びをして新聞をストックしている場所への案内を少女に依頼した。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……」
 視線がたまーに痛い。
 今日も今日とてヨンは純白の酒場に来ているのだが。
 別に邪険にされているわけではない。……のだがやっぱり何もしないままぼーっと居ると、こー背中に視線が来るのだ。恐らくこの痛さの8割はやっちゃった事に対する自責だろう。
 というわけで謝るタイミングを探っているのだが、昼の間はアルティシニとヴィナが給仕、フィルはほぼ厨房に入り浸りなのでなかなか機会に恵まれていない。
「来ないかなぁ……」
 居たたまれなくなってぼやく。謝る事も大事だが目的のひとつは東西の砦管理官に遭遇する事だ。
「誰か待ち合わせですか?」
 アルが苦笑を浮かべつつ問いかけてくる。
「あ、いえ。約束をしているというわけでもないんですけどね。東砦管理官のアースさんと西砦管理官おセイさんに会えればなと」
「え? 前にも言いましたけどお二人の非番が重なる事も稀ですし、だからとここに必ず来るわけではありませんよ?」
 確かに前にこの話を聞いたときにそう言われたが。他にどうしたものかと言う事でこうしているわけで。
「来ないですかねぇ……」
「難しいと思いますけど……。アースさんも最近有名になりすぎて街を歩きにくいって言ってましたし」
 確かに再来の英雄となった彼女は注目の的ではあるだろう。
「……どうしたものかな」
 視線を厨房へ。そうすると丁度厨房から顔を覗かせたフィルとばったり目があった。
「……」
「……」
 交わる視線。
「……」
「……」
 緊迫する空気。
「……」
「……って、なによもう。注文があるなら早く言いなさい!」
 腰に手を当てて眉尻を上げたフィルの一喝に彼はびくりとして
「あ、いえ、違います!?」
 ぶんぶんと否定の意を込めて手を振った。
 ────かなりテンパってたらしい。コホンと咳払いをして
「あ、いえ、この間失礼な事を聞いたかなと思って……謝罪を」
「失礼な事?」
 きょとんとして、それから数秒停止。困ったように視線を巡らして
「何か言われたかしら?」
 と問い返されてしまった。どうやら覚えていないらしい。
「えっと……じゃ、じゃあなんで不機嫌だったのですか?」
「そりゃぁ沈鬱な顔でじーっと見られたら気持ち悪いわよ」
 言われてみればもっともな話だ。ここで説明すると藪蛇だなと割り切って外を見る。
 流石に偶然の遭遇は難しいらしい。
 ヨンは改めてどうしたものかとため息をついた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ウルテ様に会う? そりゃあ無理だ」
 クロトコネルに希望を伝えてみたものの、彼は困ったようにそれを拒否した。
 ウルテ・マリスは『律法の翼』のトップだ。だが急進派はそれを快く思っていない。武闘派である彼らにとって、カリスマ系の彼女は上に抱く人ではないと考えているらしい。
 そのため彼女を今むやみに外に出せないというのが保守派の悩みどころだと言う。
「俺が同行すりゃ別なんだが……今ここを離れるわけにもいかない。
 あるいはお前がウチに入ってくれればな?」
 そんな言葉を適当にあしらいつつクロスロードに戻ってきたエディはクロトコネルから聞いた話を元に調査を再開していた。
「テロ、ねぇ」
 調べてみて分かった事はテロが起きていた事は把握しているが、その回数、規模についての認識がまちまちであることだ。クロスロードの建築ラッシュの末期である事と今よりかなり治安が悪かった事からそれがテロなのかただの事件なのか、はたまた建築中の事故なのかがはっきりしなかったようである。
 更には例えテロがあっても管理組合が有する建築能力とセンタ君ズの物量はその結果を修繕してしまうことや家の数に対して住人が圧倒的に少なかったので人的被害が少なかったことも原因しているらしい。
「ついでに律法の翼が動き回って火消ししたと。ふむ」
 クロトコネルの話では大事に見えないのは律法の翼の活躍あってこそらしかったが、複合的な要因と見て良いらしい。
「こりゃぁテロで死んだとかそういう話じゃなさそうだな」
 調べた事を整理して、彼は近づいてくる人影に視線をやった。
「あのぅ。エドワード・ウェインさんですか?」
 見覚えのない男だ。戦士っぽい身なりだが、と一通り観察して「何だ?」と問いかける。
「クロトコネルさんから頼まれて、ウルテ様からの御返答を持ってきたのですけど」
 流石にやや眉をひそめる。あまり貸しになるような事を重ねるとまずいな、と思いつつこうなっては追い返すのもまずい。なにしろ相手のリーダー直々の親書というやつである。
「わざわざすまないな」
「いえ。それでは」
 男は礼儀正しく一礼してその場を去っていく。彼が見えなくなってエディはやや気味悪げに、その白い便せんを見つめた。
 ややあって開けると、そこにあるのは
「……」
 すっごい丸文字だった。
 エディは目頭を押さえてそれから秋晴れの空を見上げ、それから気持ちを落ち着けて手紙に向ける。
 なんというか、無理やりケーキを腹いっぱい食わされた気分になる。
 それでも何とか読み進めてみる。一応は質問に答えてくれているらしい。
「あー、つまるところ……」
 この文字で文章は普通というか公文書に近いというのもどうかと思いつつ内容を整理。
「テロ組織が引いた理由は……目的を達したからというのは否定しているが、理由は秘するねぇ」
 言いたくない理由というのが気になる所だが手紙に問うても仕方ない。
「被害者の中に5人目の副管理組合長は居ない。ねぇ」
 断言だ。これはつまり、
「こいつ、5人目を知ってるのか?」
 そして
「ここにまで回答してくれてんのか。律儀だというかなんというか」
 三つめの問い。何故急進派、つまりルマデアと何故袂を別ったのか。まさかこれを伝えることも、回答してくるとも思ってなかった。
「……彼は『人間系種にとって良い町を目指し、私は来訪者にとって良い町を目指した』か」
 人間型の来訪者は多く、それゆえに法律を制定するという事を目指せばその方針はある意味正しい。しかしクロスロードのこれまでを否定するやり方でもある。
 何かの契機があったという感じではなく、最初から考え方が違ったということだろうか。
「別ったのはテロが収束してから。武力組はその矛先を見失って別方向に走り出したって感じかねぇ」
 手紙から目を離してもう一度視界をリフレッシュする。
「直接会いたいが、そうもいかんとなると……」
 どうしたものかねと呟き、空を見上げた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ねえ?」
 昼下がり。カグラザカ新聞社のデータベースを一通り閲覧し、覗きに来た神楽坂・文を昼食に誘ったクネスは食後のコーヒーを前に改まった。
「はーい?」
「副管理組合長って何人居るのかしらね」
「四人ですよ?」
 さらりと応じて彼女はコーヒーをすする。
「PBの説明文の中に五人となってる所があるのは御存知?」
 そう続けるとフミはわずかに口の端を吊り上げた。
「はい。知ってますよ?」
「そう。じゃあ新暦1年、3の月頃に広まった噂については?」
「もちろん知ってますよ。だって私がソロで活動をしていた最後の記事ですもの」
 僅かにも考える事なく、彼女はすらすらとクネスの問いに応じる。
「……『副管理組合長』は『救世主』。これは正しいのかしらね」
「私は正しいと思って取材してました。まー、私もその5人ってなってる所について気付いた時点で困っちゃったんですけどね。
 なにしろ取材を始めたきっかけである管理組合の発表と違うんですから」
「発表?」
 コトリとカップをソーサーの上に置く。
「『管理組合』はあらゆる世界に対し基本的に公平に接する事を信条とし、単独意志を避けるために組合長は永久不在。救世の四人に倣って副組合長を4人措くこととしました」
 それはPBの説明の中にある文句だ。
「『救世の四人に倣って』、実はこの言葉から大襲撃の最後を彩った4人を『救世主』って呼ぶようになったんですよ」
 それは初耳だとクネスは思考を凝らす。
「でもそのあとの文句がおかしくない?
 『この四人は公平に運営管理するために原則秘密としていますが、噂では本当に救世の四人がその立場にあるのではないかと大いに噂されました。』よね?」
 これではまるで管理組合が運営を開始した直後の噂のように思える。
「クネスさん。PBの説明って何時聞きました?」
「え?」
 急に話題が変わって、少しうろたえつつも「来てすぐだけど」と応じる。
「みんなそうなんですよね。この世界に来てすぐ────PBを支給されてすぐって感じですよね。
 そして聞き返した事は?」
 この依頼があるまであまり聞き返した覚えは無い。そもそもそんな事があったからこの「5人」と「4人」という不可解な食い違いに気付けたのだ。
「もしかして……」
「最初そんな記述はなかった。そして後から追加しても誰も『違い』に気付けなかった。
 そして後から来た人はあたかもそうであったかのようにこの情報を聞き、前から居た人は「そんな噂が流れた事もあったな」と応じるわけですね」
 噂が「いつ」されたかの記述は無い。そして結果的に「かつてそんな噂が流れた」という事実だけが共通認識として成立する。
「その頃はいくつかの世界が裏から手を伸ばしてまして……いろいろ混乱が加速してた時期でもありましたからねぇ。
 大方は『管理組合にはあの数十万の怪物を追っ払った存在が居る』っていう看板を広げたかったんじゃないかなって思ったわけです」
 確かにそれなら管理組合が故意に噂を広める理由にはなる。
「じゃあそれに信ぴょう性を持たせるために5人だった副組合長を4人にした、と?」
「それはわかりません。ただ『5人目』とは話した事があるんですよね」
 ……
「は?」
 一拍の間をおいて間抜けな声をあげたクネスを見てフミはきょとんとし、
「あ、顔は見てませんよ。暗がりで脅迫されただけですから」
 ほんわかな笑顔を浮かべて彼女は続ける。
「ソロ活動をやめた理由であり、今回の依頼の原因でもあるんですけどね」
「……どういう脅迫を?」
「副管理組合長を調べるのはやめなさい。それだけの実力もないのだから」
 確かに脅迫だが
「つまり実力として」
「会社を構えて個人ではなく『新聞社』としての実力を持つようにしたわけです。つまりリベンジなのですよ」
 彼女はかわいらしい顔でニヤリとしてみせた。できてないけど。
「でも、どうしてその人が5人目と?」
「ああ、その時に聞いたんですよ。『もしかして貴女が副管理組合長です?』って。
 そしたら彼女『もう違うわ』って答えたんですよね。うっかりというより引き下がるお駄賃と言うか稚魚の放流的な雰囲気でしたけど」
 確かに『もう』の意味はそう捉える他ない。
「女性だったの?」
「このクロスロードでどれだけ意味があるかですけど女性型の声と口調でしたね」
 大きくため息をついてクネスは背もたれに体重を預ける。
 つまりこれが依頼の理由。そして脅迫されたと言うならば確かに今のやりとりを依頼に乗せるのは危険な気がする。
「カグラザカ新聞代表としては今現在皆さんの集めたソースで楽しい記事は書けるんですけどね。
 あと一歩はかなり個人的な挑戦だったりするわけです」
 情報を整理する。
 副管理組合長は元々5人。そして今は4人。移り変わった時期は恐らく新暦1年の3の月頃で間違いは無いだろう。
 減らした理由はあいまいだが、その元1人が管理組合のために動いているらしい事から喧嘩別れという感じではない。
「ただ、問題はもう時間が無いんですよねぇ」
「時間?」
「締め切りですよ。個人的な目的はあっても一応依頼ですし、こちらも紙面の事をないがしろにできませんからね。
「……それもそうね。でも諦めて良いの?」
「べっつに死ぬわけでもありませんし、今回随分と多くの事がわかりましたしね。
 勝負に負けて試合に勝った感じでしょうか。今回の記事が好調なら本腰入れて調べられます」
 楽しげに微笑んで彼女は支払いを済ませて出て行ってしまった。
「んー」
 中途半端になる感じはあるが、元よりこの世界最大の組織が隠している事を調べようとしているのだ。こんなものかなという雰囲気もある。
 ……かなり怪しい人物にも心あたりはあるし。
 酒場で聞いた話などを統合すればいくつか思い描く人物もある。
「次が最後の調査かしらねぇ」
 一人呟いて店を後にした。

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 どーも神衣舞です。
 1周年を前にした情報整理話ということでいろんなネタが飛び出してまいりました。
 ちょっとグダグダ感も出てきたので次回最終回となります。
 記事にするだけの情報は十分に出ているのでカグラザカ新聞社からは別途情報料として報酬の支払いがあると思ってください。
 では、次回ラストアクションをお願いします。
知られざる名前と
(2010/10/11)
「にふ。なんか緊張してんねー?」
 両手で頬杖を突き、楽しげに目を細めるアルカにノアノとガスティはお互いに目線を配る。
「お店のお客さんっぽく無いにゃね。何の御用かにゃ?」
「聞きたい事があって来た」
 ガスティに髪と同じ若草色の視線が向けられる。
「なーに?」
 甲高い、子供特有の甘い声。実際の年齢はさておき見た目そのままの敵意の無い声の裏側を慮りつつ、ガスティは意を決して訪ねた。
「あんたは大迷宮にあった巨人に何をしたんだ?」
 アルカはすっと視線をノアノへ。あの場で言葉を交わしたのは彼女の方だ。
「にふ」
 彼女特有の笑み。獲物を前足で転がす猫の笑み。
「動かせる子をつれてきた。それ以外にないよね?」
 『子』が何を意味するのか。恐らく焦点はそこだろうかと一人ごち、ガスティはアルカを見据えた。 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「お時間を作っていただき、ありがとうございます」
 ヨンは頭を下げて相対する少女を見た。
 メルキド・ラ・アース。東砦管理官にして『再来』の英雄。しかしその姿は深層の令嬢という言葉がピタリと来る。
「探索者が副管理組合長を調査しているのは聞き及んでいます」
 挨拶もそこそこに彼女は切り出す。
「まず最初に申し上げておきます。私は砦の管理官という立場にありますが、副管理組合長の顔も名前も存じていません」
 ヨンは押し黙りその言葉を咀嚼する。予想はしていたのでやはりという感情もあった。
「私が聞きたいのは貴女が管理官になった経緯です」
 彼の言葉に管理官はほんの少しだけ瞼を動かす。
「知る限り明確な役職持ちは貴女方4人だけです。どうやってその地位に就いたかがヒントになるんじゃないかと思いまして」
「なるほど。着眼点は悪くは無いと思います」
 目を伏せ思考を纏めるように沈黙。
「私達四人がこのターミナルに来たのは大襲撃の前、三世界が危うい均衡を保っていた頃でした」
 おもむろに語りだす言葉は過去の物。
「幸いと言うべきでしょうか。我々は大きな力を持っていましたので、大襲撃を無事乗り切る事もできました。
 管理組合が成立してすぐでしょうか。管理組合の名前でスカウトのお誘いがあったんです。書面で」
「と言う事は……誰か偉い人に合ったと言うわけではないのですね」
「はい。門前会議にも私達は出ていません。そもそも……」
 何かを言いかけて彼女は口を噤む。
「とにかく、我々は管理組合からの依頼を受ける事にしました。元々故郷となる世界に少し居辛い状況だったので、居場所がいただけるならばと」
「業務の説明とかは……?」
「PBで確認できますから」
 確かにその通りだ。これを統括管理する管理組合なら業務内容をインプットするくらいわけないだろう。
「……副管理組合長かなって思う人も分からないということですか」
 ダメかと嘆息しかけたヨンはふとアースの固く結ばれた唇に気付く。
「アースさん?」
「はい?」
 それは幻だったかのように消え失せては居るが、逆にだからこそ先ほどの光景が訝しく記憶に残る。
「あ、えっと。管理組合が出来る前にフィルさんが何をしていたか知りませんか?」
「え? ……純白の酒場の店長さんですよね?」
 きょとんとした顔は年相応の物で、それから記憶を辿るように視線を彷徨わせたアースはゆっくりと首を横に振った。
「申し訳ありませんが、クロスロード成立前に遭った事はないはずです。
 彼女ほどの魔術師であれば忘れるはずも無いですし」
「魔術師?」
 聞き返すヨンを不思議そうに見つめる目にはからかいも嘘も見られない。
「彼女はクロスロードでもトップレベルの魔術師ですよ。
 偽装はしていますが常に魔力圏を保持していますし」
 そう言われても酒場の若い店長さんというイメージしか無い。只者ではなさそうなのは分かるのだが。
「ただ、扉の園は広いですから偶然出会わなかった可能性は否定しませんよ?」
「……フィルさんって人間種なんでしょうかね」
「人間種だと思いますよ。ただ、人間種はちょっとした切っ掛けで色々飛び越えてしまいますけど」
 かく言うヨン────吸血種だって人間種の派生であるという世界は多い。
 ともあれ。
 もしだ扉の園にに居なかったのなら、彼女は何処に居たのだろうか。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「んー」
 カフェテリアのテーブルに手紙を広げてクネスは鼻を鳴らす。
 『新暦1年3の月 4/5』そう書いて送ってみた手紙。しかしマルグスロス宛の物には返事は無く、アイギス宛に出した物は丁寧に施術院に所属するネクロマンサーの医院の住所と紹介状が送られてきた。
「はずれか本当に知らないのか判断に困るわね」
 そんな事を呟きつつ、周囲へと視線を這わす。ここはニュートラルロードから道二つ入ったところにあったカフェで、歩行者の数は殆ど無い。
「あれ? クネス……だったかしら?」
 掛けられた声に視線を上げればそこには見覚えのある白衣の女性、Ke-iが居た。
「……じゃあこれは貴女宛?」
 疑問符つきで差し出された便箋。そこにはただ「5/4」とだけ書かれている。
「5/4……ね」
 苦笑いを浮かべて「これを何処で?」と問いかける。
「図書館で救世主について調べてたら、女の子が着てね。
 ここに居る人に手紙を届けたら情報を一つくれるって言うから」
「どんな子?」
「ブロンドの髪の女の子。年齢は……人間なら14かそこらかな」
 思い出しつつKe-iはクネスの正面に座る。
 五人目だろうかとクネスは眉を潜めるが、Ke-iはばっちり顔を見ているようだし例え本人としても何らかの変装をしていると思うべきか。
 彼女は便箋の封を開けると中の手紙を取り出す。
 中身は2枚。1つはどうやらKe-i宛らしい。
「救世主について、らしいわ」
 Ke-iは受け取って視線を走らせる。
「救世主は4人。神と等しく制約を受ける」
 何の事やらという顔で復唱する。
「町の端っこに神様が居るって噂は聞いたけど。制約って何なの?」
「さぁ?」
 クネスも初めて聞く内容だ。何と言われても答えようがない。
「ただ、神様が居るにしては神罰みたいなのは見当たらないし……。全力が出せないって事じゃないかしら?」
「んー。確か再来の時には救世主は出張って来なかったのよね?
 制約のせい、ってわけ?」
 やはりクネスには応じる言葉は無い。ただ「大襲撃」の時には現れ、「再来」の時には現れなかったという事実だけは改めて認識する。
「そっちの手紙は?」
 クネス宛ての手紙。それを開くと
「貴女にはまだそこまでの価値は無い、ですって」
 それは『彼女』をおびき出そうとした事に対する答えなのだろう。
「価値……?」
「どういう意味での価値かしらね」
 クネスはタイプライターで打ったような文字をもう一度見つめ、やおらくしゃりと丸めた。どうせこの手紙から追跡探知する事なんてできない。
「で、この手紙は誰からなの?」
 Ke-iの問いかけにクネスは封筒の方に視線を向けて「そこに書いてある通りよ」と苦笑いを漏らした。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「それは、ユイちゃんなんですか?」
 沈黙を裂いたのはノアノの問いだ。
「だとしたら?」
 直球を受け流し、ボール遊びを始める猫をノアノはやりにくそうに見つめ
「ユイちゃんは管理組合の副組合長、その一人じゃないのですか?」
「んー。それはあの巨人が『救世主』で、そのパイロットだからという理論だよね?」
「はい」
 アルカは日だまりでウトウトするような緩い笑みを浮かべる。
「あれ、あちしでも動かせるにゃよ?」
「は?」
 前のめりに答えを待っていたガスティが間抜けな声を上げる。
「てか、多分二人にも。操作系がガチの機械だから魔法世界関係の人には辛いかもだけどね。
 ドゥゲストのおっちゃんとか上手いんじゃないかなぁ?」
 二人の困惑と猜疑の視線にもアルカの表情は崩れない。
「じゃあ質問の答えね。あの場に連れて来た子は確かにユイちゃんにゃよ。
 そしてその理由はあちしの知ってる中で一番の機械の専門家だから」
 誰にでも動かせるという言葉が正しいと仮定するならば、それは一つの答えだ。
「本当に誰でも動かせるんですか?」
「今は管理組合が確保して修理してるらしいからおいそれ試せはしないけどね。
 あれはそういうシロモノにゃ。ほら、別の世界の物だけど同じような規模のロボットならクロスロードの外壁付近に1機あるにゃよ。
「……じゃあ、アンタはなんでそれが『誰にでも動かせるモノ』だって知ってたんだ?」
 ノアノがガスティに振り返り、それからアルカを見る。
「いいトコ突くにゃね」
 猫娘はにふりと笑う。
「超重量級電子戦型戦闘機『ユグドシラル』。そして肩に備わった砲身創造式ロングバレルカノン『フェンリルハウル』。
 あれを作ったのはユイちゃんにゃよ」
 勝利が見えかけた衛星都市を一瞬で壊滅直前に追い込んだ『空帝の先駆け』。これを50キロメートルという超遠方から撃墜せしめた異常兵器の制作者がユイ・レータムという少女だと猫は言う。
「でもあれは荒野のど真ん中で敗北した。だってそうでなきゃ怪物に取り込まれたりなんてしないでしょ?
 その時、もしもユイちゃんが乗っていたなら、あの子は下でお昼寝なんてしてないにゃよ」
「脱出した、とか?」
「そこは証拠写真も何もないから水掛け論にゃよ。でもあちしから言える事はそういう過去にゃよ」
「だったら……! アルカさん。貴女はパイロットを知ってるはずです!」
「うん。知ってるにゃよ」
 猫娘はにこりと笑った。そして続けて「結構有名じゃない?」と笑みを濃くする。
「有名だと?」
「あのロボットがある所はどーこだ?」
「……あ」
 ノアノは思い出す。視線をガスティに向け、それからガスティははっとして金属プレートを取り出した。
「これって……」
「なんで大迷宮に居るのかはあちしにはさっぱりだけどね。
 あの子からのメッセージじゃないかなぁ。夢も、そしてそのプレートも」
「……その、その人の名前は?」
「センタにゃよ」
 え? と目を見開く。
「センタって……あの青いボールじゃないのか?」
 外を歩けば掃除やらお手伝いやらをやっているお手伝いロボットは最早見慣れた存在だ。
「うん。そのメインホストというか、コアユニット。全自動選択機センタ君の元になったアンドロイドが、大迷宮の捕らわれ姫だとあちしは思ってるわけにゃよ」
 ほのぼのとした空気に少しだけの寂しさのような物を混ぜながら。
 アルカは取り出されたプレートに視線を注ぐのだった。

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というわけで神衣舞です。
inv-0Xの方に関係する話題にこぎつけましたな。GM的にはおいしい迷走ですw
というわけでというわけでもなきにしもあらずんばあらずもなし?
わけわからん、次回最終回です。
自分なりの報告をするなり、もうちょっと調べてみるなり。いろいろとやってみてくださいませ。
ではリアクションよろしゅう。
知られざる名前と
(2010/10/20)
「そうですか」
 神楽坂・文はニコニコとカップを手に取る。
 ここはカグラザカ新聞の面会室だ。彼女が相対するのはクネスである。
「随分と危険なところまで踏み込みましたね。正直予想外です」
「危険、ね」
 『5/4』その手紙の出し方を伝えたクネスにフミは少しだけ戸惑ったような風を笑みに混じらせていた。
「私はその5人目を管理組合の『暗部』だと考えています」
 ややあって、彼女はぽつりと言葉を零した。
「私は誰よりもこの町を見守り続けてたっていう自負があります。新聞社を立ち上げてからは多くの耳目が私に情報を届けてくれます」
 確かに、彼女以上にこの街に精通している人物は早々思いつかない。
 ────管理組合を除いて。
「そうするとどうしても腑に落ちないことが出てくるんです」
「それは?」
「異世界からの干渉が恐ろしく少ないのです」
 少しだけ眉根を寄せ、それからこのターミナルの性質を思い返す。
「情報伝達や航空機並の移動方法を得ていない世界であれば、このクロスロードに喧嘩を売るほどの戦力を集める事は確かに難しいでしょう。
 けれども数多の世界には私の故郷のように、個人で扱える大量破壊兵器を幾らでも量産できる所だってあります」
「気持ちの良い話ではないわね。要は『第四の世界』が何故か現れないって事ね」
 フミはこくりと頷く。
「怪物の脅威こそあれ、異世界へのゲートを大量に持つこのクロスロードは誰が見ても「おいしい」都市です。自分の世界にない物質、技術を1つ持ち帰るだけで様々な技術がブレイクスルーを起こすでしょう」
「でも、実際にそういう世界は現れていない」
「正確には現れたんですが、ある時期に総撤退。以後現れていないと言う状況です」
「新暦1年3の月頃、ね」
 調べてきた事を思い返し、応じる。そして今までの言葉を繋ぎなおして口を噤んだ。
「現副組合長の四人が本当に『救世主』で、五人目がそれに匹敵する能力の持ち主なら」
 フミはそこまで言って、二コリと笑う。
「ともあれ、ここまでいくと妄想なので次の機会としましょう」
「妄想、ね」
 五人目は管理組合から離反したわけではない。その理由は確かに限られている。
「触らぬ神に祟りなし。神に触るためには準備が必要です。まだ準備が足りなかった、あるいは─────」
 彼女は目を閉じて、続ける。
「時が満ちていないのでしょうね」
 クネスはそれには何も応じず、紅茶に手をつけた。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「いやぁ、おいしいですね。いつもながら」
 ヨンの声が白々しく響いた。
 ヴィナがきょとんと彼を見上げ、アルが困ったように苦笑いをしている。
「何が言いたいのよ?」
 あきれ返ったトドメの言葉にヨンは軽く挫折を感じつつ「いえ、別に他意はないのですけどね?」と視線を逸らした。
 フィルは肩を竦めて皿洗いに戻るのを見つつ、パンを齧る。
 会話をするために昼下がりを狙ったのだが、実はそもそもお昼時はそこまで混まない。というのも文化的に昼食をとらない世界があり、また多くを占める探索者は基本的に外出しているためである。すっきりした店内の中で数人が飲み物を前にのんびりとした時間をすごして居るという状態だ。
 そのまま数分。結局食事も終わり、アルが空いた皿を片付けたところで目の前に頼んだ覚えのないコーヒーが置かれた。
「えっと」
「何を聞きたいわけ?」
 置いたのはフィルだ。やれやれと言った風で正面に腰掛ける。
「……えっと」
「別に店の売り上げに貢献してくれる分には良いんだけどね。別のことに気を逸らしながら食べられたら料理が可哀想よ」
「……すみません」
 素直に頭を下げると「で?」と多少表情を崩して先を促す。予定は狂ったが、と質問を口にしようとして
 ───また、不機嫌にしないですかね。
 という懸念が過ぎったがここで口を噤むのも譲歩してくれた彼女の気を害するだろう。
「大襲撃の前って、フィルさん何をしてたんですか?」
 自分の分として持ってきたのだろう。同じく湯気を立たせるコーヒーを手に、彼女はすぐに応えることなく口を付ける。
「教えられないわ」
 かちゃりと、ソーサーを鳴らす音と共に彼女の冷静な声音が耳朶に響く。
「アルに聞いたんでしょ? こっちに来たのは新暦に入ってからって」
 疑問の基点はまさにそこだった。以前フィルに問うたとき、彼女は大襲撃の際に「この子達を守る程度に戦った」と言っていた。でも、それに値するはずの彼女らはまだこの地に居なかった。
「うん。アレは嘘。だから本当の回答は『貴方に教えられない事をしていた』よ」
 嘘を付いた理由は『教えられないから』だろう。それは何故か?
 ───何故という疑問を持たれる事すら嫌ったのだろうか。
「じゃあフィルさんがかなりの魔術師というのも本当ですか?」
「魔術は扱うけど、ピンキリのクロスロードで自分の実力がどの程度なんて分からないわよ。
 純粋な魔術師としての実力は圧倒的に猫の方が上だろうし」
 確かに。自分も戦士としてクロスロードではどの程度かと問われれば正しい評価ができる自信は無い。
 ここには余りにもイレギュラーが多すぎる。
「それに見ての通り私は『探索者』ではなく『住民』としてここに居るわ。猫みたいに魔術で商売をしているわけでもないしね」
 酒場の店長の視線にアルが苦笑を返し、ヴィナがきょとんとした顔を見せる。
「ここに来る前の世界から私は酒場の女将で、魔術師───冒険者は廃業したつもりよ。
 唯一魔術師らしいことを残しているとすれば、複雑怪奇な魔術式をいくつも覚える代わりに色んな世界のレシピを覚えてるって事ね」
 壁を埋め尽くす勢いでずらり並んだメニューを見て思う。確かに優秀な魔術師なのかもしれない。
 それに───確かアースは彼女が常に偽装した魔力圏を保持していると言っていた。これが事実であれば彼女はまだ魔術師として何かをしているということにならないだろうか。
 彼女は大襲撃の前に何をしていたのか。そして今、何をしているのか。それを改めて問うても不興を買うだけだろう。
「なるほど。ありがとうございます」
 だからここを引き際として、ヨンは素直に礼を述べる。
「いいえ」
 まだ二十歳にも満たない若い女将はにこりと綺麗な笑顔を見せてコーヒーを手に取る。
 恐らく人間種であろう彼女はその内に何を隠して居るのだろうか。表情に出さないように気をつけながらヨンもコーヒーを手に取った。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 
 その週の末。
 カグラザカ新聞は予定通り定期発行され、PBの記述の不可解な点等を機軸に謎の5人目を大きく取り扱った。
 しかし内容には真実味を付け忘れたようなアレンジが為されており、読者の大勢はたまにあるイロモノ記事として取り扱ったという。
「これで良かったんですか?」
 デスクの前で畳んだ新聞を手にしたモモが笑顔の編集長へと声を掛ける。
「これじゃ信じる人なんて居ませんよ? それどころか結構な裏づけが取れてる箇所まで裏づけを省いて……」
「良いんですよ。残念ながら私は今回チェックメイトをかけるまでのネタを手に入れられなかった。
 ただ、分かる人に『チェックをかける手をいくつか入手したぞ』って伝われば充分なんです」
「……それは、宣戦布告じゃないですか?」
 しかも突きつける相手が洒落にならない。
「ふふ。宣戦布告ならもうずーっと前にし終えてますよ」
 この記事が為した事はたった一つ。謎の五人目の噂を生んだだけだ。
「まだ表舞台には立とうとしないようですしね。
 報告に来ない人たちも気になりますしね。ゆっくり裏で調査を続ける事にしましょうか」
「……いや、まず自分の仕事片付けてくださいよ」
 今回の分が発行されたと言う事はすでに次回の分の記事が纏まりつつあるということだ。
 デスクに山と乗ったファイルに視線をやるモモを無視して椅子をくるりと半回転。窓の外に広がる光景をほのぼのと見渡した。
「いい天気ですよねー。取材日和です」
「フミさん!?」
 いつも通りの怒声が響く。
 記事をまとめている記者たちがやれやれと苦笑いをした。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ほったらかしでいいの?」
 金の髪を横でお下げにしたツーテールの少女が気だるそうに問う。
「構わないわ。彼女は身をわきまえてるし、いずれ知られないとならないことだもの」
 彼女の傍らには誰一人存在せず、ただ声だけが楽しそうに応じる。
「いずれって?」
「さあ? この街が『来訪者』の街で無くなったらじゃないかしら」
 少女は呆れたように空を見上げ「それまでお役御免は無いって事?」と溜息交じりの言葉を零す。
「100m先も見通せないこの世界で未来を聞くのはナンセンスと思わない?」
「うっさい、チートのくせに」
 くすくすという笑い声だけが遠ざかる。
 少女はぼーっとそのまま空を見て、それからもう一回深く溜息を吐くとふらり街のどこかへと消えていった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
 というわけでこれにて【inv09】は終了となります。
 クロスロードでは副組合長は不明のまま! って感じなのですが。プレイヤー的にはどうでしょうか。
 あ、5人目に付いては現在完璧にノーヒントなので推測するだけ無駄と言っておきます(笑
 趣味のほーでも出演してますけど、やっぱりSOUND ONRYです。
 まぁあれです。まだ一周年ってことなのでそこまで秘密をポンポン暴露するもんでもないでしょうって感じです(笑
 まず先に解明すべきはセカンドターニングの大迷宮だということで、まぁ一つ。
 ともあれ、みなさんお疲れ様でした。
niconico.php
ADMIN