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【inv0X】 ・・・・・・・・
Count1
(2010/06/14)
「随分と賑やかになってきたものね」
 令嬢は商館の二階、その窓から通りを見つめる。
「せやな。そろそろ鉄道も着工やからな。ごっつー稼げるで」
 ダチョウが楽しそうに肩翼をぱたぱたと降った。
「まぁ、駅の権利を管理組合に持っていかれたんは気にいらんけどな」
「とは言え、関所のようになってしまえば反感はうちに集まりますからね。
 管理組合が『善意』で動いているというのは困りモノです」
 利用者にとってその善意は有り難いが、商業活動には悪益であるとダチョウは頷く。
「『いつまでもあると思うな管理組合』なんて標語を掲げたいくらいでっせ」
 現状では来訪者の大半は非生産者だ。怪物という天災のために一次産業が成立していないために、二次、三次産業が歪んだ膨らみ方をしている。本来は一次、二次とだんだん先細って行く形になるのが理想だが、今のクロスロードは逆三角形になっている。
「管理組合がのうなっただけで壊滅するんやったらあかん。もうそういうことを考え始める時期やろ?」
「……」
 令嬢は視線をダチョウに戻し、少しだけ目を細める。
「それはエンジェルウィングスとしてのお話かしら?
 ……それとも」
「うちの考えや。あんさんなら興味持つやろと思ってな。
 遺跡にもぐる探索者が増えたのもええ頃合やから」
 令嬢はほんの少しだけ肩を竦めると、「良いでしょう、伺いましょう?」と微笑むのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「現状報告をします」
 メルキド・ラ・アース────再来にて英雄扱いされている女性はいつもの落ち着き払った声音で告げる。
「鉄道の着手は予定通り6の月初旬から開始。敷設完了予定は8の月中旬です。
 列車自体はドゥゲスト氏を初めとした開発スタッフで魔道式動力型を建造中。こちらは7の月頭には試作品が完成するとのことです」
 返答は無い。こちらを注目している気配はあるので言葉を続ける。
「衛星都市への来訪者数は一時期から見てかなり減少しています。未探索地域への探索を主にしているパーティは積極的に活用していますが、大半の探索者はフィールドモンスターの存在が知れ渡った事もあり、二の足を踏んでいます。
 代わりに大迷宮への探索志願者が相当数増えています」
 やはり言葉は無い。なのでアースは少しだけ間を置き「ここまでで質問はありますか?」と問いかけてみる。
「大丈夫です。続けてください」
 応じる声は穏やかに。やや苦笑を滲ませているのが気にかかるが彼女は続ける。
「はい。ではその大迷宮についてです。
 再来後に比べ探索者の動員数は約5倍に膨れ上がっています。ラビリンス商業組合から提供していただいた資料によれば現在最深到達階が地下5階層。出現している敵はやはり多種多様ですがせいぜい中型の怪物しか出現していないとのことです。
 一方で未だに第一階層の全てが解明されているわけでなく、未だに探索が行われています。
 四方2Kmの範囲で迷宮が広がっていることが明らかになっています」
「夢、は?」
 二人目の言葉にアースは一瞬怪訝そうな顔をする。が、すぐに思い出して資料を脳裏から引っ張り出した。
「挑戦者が増えた事もあり、報告数は格段に増えているようです。しかし未だにそれが何を意味するのかは不明。
 助けを求めている、という話が大勢を占めているというところでしょうか」
「……そう」
「で? そのラビリンス商業組合はどんな感じ?」
 三人目の軽い声音に彼女はふと浮かぶ疑念を振り払った。
「今のところ問題なく運営されているようです。
 彼らが科したルールは3つ。
 彼らの管理区域内での一切の戦闘行為を禁止し、違反した者にペナルティを与える。
 治安向上のために野宿を禁止。
 そして管理区域で商売を営む場合の徴税です。そのどれも行き過ぎた様子も無いためおおむね受け入れられているようです」
 ラビリンス商業組合はさすが商人と言うべきか。人心を敵に回さない具合というものがよく分かっているという感触で立ち回っている。
「そ。じゃあこっちから一点」
「え?」
 つい声に出してしまって慌てて手の平を口に当てる。
「あっちに妙な物流があるかもしんないけど、別に戦争準備とかじゃないから気にしないで。今回に関しては、だけどね」
「……それはどういう意味でしょうか?」
「すぐにわかるってば」
 人を茶化す笑み。それが過分に含まれた声にアースはため息をかみ殺す。こういうところを見るとイルフィナと兄妹かかにかじゃないかと疑ってしまう。
「わかりました。報告は以上です」
「ほい、ご苦労様」
 彼女らが去るのを感じつつ、アースはこれからすべき事を頭の中で整理し始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「5階層の怪物は随分と手ごわいらしいじゃないかい」
 随分と和風で古風の割烹着を付けた人形が昼飯をかっ食らう隊長の前に茶のお代わりを置いた。 
「ん? なんか聞いたのか?」
「いや、4階層くらいまでは結構なペースで到達してたじゃないか」
「ああ、そういうことか」
 ぐびりと茶を飲んだ隊長はふうと一息。
「最近新しい挑戦者が増えただろ? そいつらが浅い階層でいろいろ見つけたらしくてな。
 無理して先に進むよりきっちり探索した方がいいって考え方にシフトしたんだ」
「はー、なるほどね」
「なにしろ広さは四方2キロくらいだって話だからなぁ。一階層はほぼ探索しつくされたようだが、地図見ても迷うぞ」
 PB経由で送られてきた地図データを参照し人形は苦笑。
「こりゃあ、PBの地図案内機能様様だろうねぇ」
 びっしりと書き込まれた地図にはそれでもまだいくらかの余白が見て取れる。
「一方通行の扉や落とし穴経由でしか行けないところもあるらしいからな。第二階層なんて第一階層に比べれば30%ってところだ」
「まぁ、複雑ならそれだけ客も長居するから、あたしとしては大歓迎だけどね」
 からからと気持ちよく笑うが、作り物めいた(実際作り物なのだが)美貌を有してるためにもう少しお淑やかにとか言いたくなる。まぁ、これはこれで愛嬌があるのだから相対する人は下手に畏まらないでいいのだろう。
「無理に踏み込むより少しでも怪物が掃討された浅い階を探索するって流れってことさ」
 ごっそさんと手を合わせたところでバンと少し強めに扉が開く。
「隊長! 喧嘩です!」
「ああ? 喧嘩くらいお前らでなんとかしろよ」
「それがどっちも有名どころのパーティで、手が出せず……!」
 めんどくせぇなぁと頭を掻いて席を立つ。
「まぁ、自警団の資金増額したんだからしっかり働いてきな」
「わーってるよ。ほれ、いくぞ。案内しろ」
「はい!」
 若い隊員をせかして隊長は後に続く。
「怪我しない様にね」
 威勢の良い声を背に受け、男は軽く手を挙げて応じる。
 ともあれ、今はまだ平穏無事な時間が流れていた。

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はい、不定期更新第二回です。
あれ? 俺リアクションしたのに出てきてないじゃん!?
とお思いでしょうが、確実にリアクションを反映した流れになっています。このあたりは再来を体験した人は分かるのではないでしょうか。うひひ。
まぁ、それだけでは寂しいのでちゃんと経過報酬を用意する事にしますので今後とも上手く楽しんでいただければ幸いかと。
もちろんフラグとなるポイントに触れたりすると色々と登場の機会は生まれます。
では、リアクションをお待ちしております。
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