「あり得ない……」
彼は呆然と呟いた。
いつもも通りの日常。仕事を探すためにPBに探索者募集の案内を確認した事で彼の苦悩は始まる。
それは一度きりの悪ノリのはずだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふむ」
トゥタールは正面に座る女性の姿をしげしげと見た。
外見的には人間種。白い肌をプラチナブロンドの緩いウェーブが流れている。ぱっちりとした目は黄金色を宿しており、小さな唇はサクラのような淡い赤を示している。
一言で言って美人だ。町を歩けば男が振り返り、声を掛けられる事だろう。
「それで、『V』という方を探していると?」
「はい。V様をどうか見つけてください」
鈴を転がすような声。その懇願は表裏無く真摯。
「で。そのVって何者なのですか?」
「正義のヒーローです」
トゥタールは3秒ほど固まった。しかしそれを気にもせず女性は続ける。
「舞台に颯爽と舞い降りた正義のヒーロー。それがあの人でした。獣のような動きで悪人をばったばったと打ち倒す姿は神々しく────」
サーガでも歌うように、否、それは神に捧げる讃美歌のように彼女は恍惚とした瞳と上気した頬を携えて言葉を続けていく。
その間に復帰したトゥタールは笑顔を取り繕ってぐりぐりとこめかみをマッサージ。
「ええと、Vさんてクロスロードに住んでいるんですか?」
「え? コホン。あ、はい。それは実は分からないのです」
「……」
この地に住み着く来訪者では無く、商売や観光を目的とした一時的な来訪者の数は少なくない。
「ではどこでお会いに?」
「コロッセオです」
コロッセオといえばケイオスタウンにある闘技場の事だ。定期的に色々なトーナメントが開催され、人々を熱狂させている。探索者としての仕事を請けずコロッセオで稼ぎを得る者も少なからず居て、彼らのことを『剣闘士』と総称するらしい。ちなみに獲物は関係ないんだとか。
「じゃあ剣闘士ってこと?」
「いえ、彼は無法を働きコロッセオを襲撃した悪の組織に立ちはだかり、正義を示したのです」
もう一度頭の中を整理。どうもこの娘、頭の中に何か気持ちの良いモノを飼っている気がする。
コロッセオは元の思想はどうであれ今は競技場としての面が強い。中には殺し合いのバトルもあるらしいのだがそれはほんの僅かなカードだ。
「悪役と善役という設定でのショウでしょうか」
試合と試合の間を繋ぐためのショウがあるという話は聞いた事がある。しかしこのキラキラした目で語る少女の口ぶりだとそんな雰囲気ではないのだが。
「名前と、それから『正義のヒーロー』以外に手がかりは無いのですか?」
「はい……。あとはお供に連れていた……あふろ?博士という方が手がかりと言えば手がかりでしょうが……
彼の姿も未だ掴めず……」
ん?と思う。 あふろ。とてもアレな響きはどこかで聞いた事があるというか。
「アフロですか」
「心当たりが?」
十万人を擁するクロスロードにアフロヘアーの人がたった一人とは思わないが。
『アフロ』で『博士』を名乗りそうな人間?なら少しだけ心に引っかかるのが居る。
「え、ええ。まぁ。ほんの少しだけ」
「本当ですかっ!」
がばっと身を乗り出し手を掴まれる。テーブルの上のコーヒーが盛大に倒れたが少女は気にする様子も無くずいと顔を近づける。
「お願いします! どうしてもV様に会いたいのです!」
「あ、いや。全力は尽くしますが、まだ可能性なので!
それから、他に思いつくことがあれば全部教えてください!」
「はい。V様の事なら幾らでも!」
まぁ、その後に聞けた事と言えば200%ほど脚色が入った天が割れたり地が裂けたりする超絶的な話だったので、彼は軽く聞き流したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何処だ……!」
彼は焦っていた。
身元がばれる可能性があるならば間違いなくあの男からに違いない。だから手が伸びる前に口止めをする必要がある。
しかしあのアフロはここ暫く姿を見ない。それならそれでも構わないのだがこのタイミングでひょっこり現れるという事になると手に負えない。
あてどなくクロスロードを巡る彼の運命は如何に─────
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「楽しい事になりそうですね」
───そう、アフロが呟いた。
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キャーV様ステキー
はい、神衣舞です。リメンバーシリーズ(笑)お次は「ばとるおぶせいぎのみかた」を元にV様ファンを登場させてみました。
果たして謎の美少女の目的は! そしてV様の運命は!
そしてアフロは現れるのか!?
みんな。引っ掻き回せ(笑
ではリアクションよろしゅう。