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【inv10】『愛しさの行き先と』
愛しさの行き先と
(2010/11/16)
「おや?」
 トゥタールは首をかしげる。
 とある目的地でばったり遭った2人組。片方は黒サングラスに黒スーツというギャングファッション。もう一人はプラスアフロ。
「お二人ともこんな所で奇遇ですね」
「え、あ、ああ。ええ。奇遇ですね。では」
 あからさまに動揺を見せるヨンはひょいと手を上げて左の建物に足を進めようとして。
「おや? お二人もここに御用事で?」
「……も?」
「ええ、私もここに用事があるんですよ。今『V』様という方を探していまして。
 ここの方なら御存知かと」
「ぶ、ぶいさまですか……?」
「ええ、V様です。もしや御存知ですか?」
「え、ええ、いや。シラナイナァ」
 トゥタールはニコニコとした表情を崩さずに汗をだらだら流す吸血鬼を物珍しそうに眺める。背後で何かうずうずアフロを蠢かせているのに警戒心を向けつつ目線がブレイクショット状態だ。
「えーっと、ウチに何か御用ですか?」
 事務所からにゅっと顔を出すボディビルダー体型の男が不審そうにサングラスの奥の瞳をひそめる。
「おや、Vさんにアフロさんじゃないですか。……今お嬢は居ませんが、あぶないですよ?」
「……」
 トゥタールは笑顔で二人を見る。
 アフロはニヤリと楽しそうに笑い、V様ことヨンはがっくりと思いため息をついた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ああ、その依頼の件は承知してますよ。ウチで『V』を知らない奴は居ませんからね」
 お嬢ことダイアクトー三世に遭うとまずいと言う事で河岸を変えた一行は近場のカフェテラスに来ていた。
「つまり、ヨンさんがV様、と」
 アフロについてはもう言うまでも無いのでスルー。
「ええ。ショーでそういう役をする事になりまして……」
 流石にこれ以上ごまかすのは無理だと何度目かのため息をついて紅茶を啜った。
「まぁ、Vに関してはまだ大丈夫ですよ。アフロ博士なんてお嬢を始め、親衛隊の連中全員から恨まれてますからね。うちらから襲撃禁止令を出してなきゃサンロードリバーに沈んでたかもってくらいで」
「はっはっは。マジ抑制よろしくお願いします」
 ガチで頭を下げるアフロ。
「緊急避難ってことはわかってますし、アフロさんがあの時動かなきゃクロスロードがおっと。それはそうとして」
 ピチピチスーツの男は体のサイズと比較するとエスプレッソカップに見えるようなコーヒーを手にくいと飲み干し、
「そこの人はV様の情報収集って事でわかりますが、お二人はどうして?」
「面白そうだからです!」
 間髪入れず応じるアフロを睨み、視線を戻すと
「ディアナ・カームズヴェルド、或いはトルネルロ・アンゼリナという方に心当たりはありますか?」
 そう問いかけると、黒服(と言っても4人中3人黒服状態だが)は目を丸くしたように眉を上げる。
「知ってるも何も、お嬢がディアナ様じゃないですか。知らなかったんですか?」
「……やっぱりそういう流れですか」
「では、アンゼリナさんも御存知で?」
 アフロの問いかけに黒服は頷き
「ええ。ここの流儀で言えば彼女とは同郷ということになりますか。あのお嬢さんはウチの世界の最大宗教派閥の教皇ですよ」
 ……。
 あの残念っぷりから光年単位で離れた回答に三人は言葉を失う。
「教皇って……要するに一番偉い人ですよね?」
「そうなりますか。少なくとも個別の国の王に物申す事ができるくらいの発言力を持った人ですよ」
「……その割にはぞんざいな言い方ですね?」
 アフロの突っ込みに確かにと二人は頷く。
「そりゃあ、うちらは魔族ですからね。要は敵の親玉ってヤツですよ。
 と言っても、会ったのなら分かるでしょうが、お嬢といい勝負……げふげふ。穏やかな方ですからね。大して敵愾心は抱いていませんが敬意を払う理由はありません」
 さらっと失言をしつつも男は取り繕ってそう説明する。
「しかし、教皇なんて人がそんなふらふら歩いてて良いのですか? 見た所護衛も付いていないようですし」
 先日当の本人を連れまわしたトゥタールが尤もな問いをした。
「問題ありませんよ。彼女自身世界最高の法術の使い手ですし、うちの世界の連中は少なくとも破滅主義者や虚無主義でない限りあの人を襲わないでしょうから」
「……それは?」
「おっと、喋りすぎましたね。そこに対する突っ込みは無しでお願いします」
 質問をかわされたトゥタールはしばし男を見つめるが表情は揺らがない。
「ともあれ、あの人がこちらに来ている大義名分は予想が尽きます。そしてその通りであればあと数日も滞在はできないでしょうね。
 さくっとデートでもしてあげた方が話が早いと思いますよ。好意を持たれても求婚はされないと思いますし」
「ええ? ショウは?!」
「いや、まぁやっても良いでしょうけど。多分意味無いと思いますよ?」
「でも。彼女はVのショウを見て気に入ったんですよね?」
「正確には違うと思います」
 駄目押しが欲しいアフロの追及に黒服はドきっぱりと否定する。
「彼女はお嬢に果敢に立ち向かうヒーローに好感を得たんですよ」
「……すっごい仲が悪いとかですか?」
 トゥタールの問いに黒服はやや視線を宙空へ彷徨わせ
「そうですね。宿命の敵、である事は否定しません。
 ここに来てお嬢は好きにやってますからね。やっかみとかもあるでしょうし」
 つまり、ショウを行うにせよ彼女の興を買うにはダイアクトー三世の参戦が必須であり────
「少なくとも、アフロ博士の命は保証できませんからね。やるわけにはいかないでしょう」
「そ、そうですよ。ショウとか短絡的です」
 自分の命が大変大切なアフロは神妙そうに頷いて見せた。
「……改めて聞きますが、ディアナさんの素性は教えていただけないのですか?」
 一応その調査がアドウィックとの契約だ。
「……私からはできかねます。そして知らない方が良いと忠告しましょう。
 現状では問題になる事ではありませんし、無理に問題を誘発されても面倒だ」
 お代わりしたコーヒーを見つめて男は応じる。
「こちらの活動予定はお教えします。それがこちらのできる協力。
 お嬢にはくれぐれも遭遇しないように。それがこちらの希望です」
 男の声音は厄介事に対するため息のようでもあり、ヨンへの同情のようでもあった。
「君が夜の眷族でなければ、もう少し安心して傍観できたものだがね」
 話は終わりと男は立ち上がり、一行の分全ての支払いを引き受けて去っていく。
「さて、どうします?」
 実際依頼人がVと遭って何をしたいのかはこっそり不明確だったりする。
「彼の証言が正しければ彼女にはそう時間が無いはずです。焦って暴走されると面倒そうですよ?」
 トゥタールの言も一理ある。
 ヨンは我が身が何故か中心になることになったこの事件に改めて盛大なため息を送るのだった。

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 ちょいと強引ですが。話の背景情報がざらっと出てきました。
 そろそろクライマックスを見据えて進行する事にしましょうかねーと。
 あ、神衣舞です。やほ。
 それにしても今回書いてて呟いた一言。
 「……誰も依頼人に探した後の事聞いてねぇ……!」

 ……(=ω=;

 ま、まぁ次回リアクションをよろしくおねがいします。
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