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【inv10】『愛しさの行き先と』
愛しさの行方と
(2010/11/29)
「……」
 朝、家を出ようとしたらポストに変身ベルトが入っていた。

 付いているのは『にくきゅう』マークのついた封筒。
 こうなると犯人は一人しか居ない。
 確かに先日純白の酒場で働いてた彼女にそういう話をしたが、金額が折り合いそうにないからと立ち話程度になったはずだが。
 嫌な予感を感じつつ封筒を開ける。

『なんか気が向いたから作ってみたー☆』

 嫌な予感が倍増した。
 とりあえず続く用紙を見ると取扱説明書らしい。
『ポーズをとって「変身」とか「蒸着」とか叫ぶと0.1秒で変身するよ』
 説明はそれだけで以降はポーズの例とか掛け声の例らしかった。
「……」
 いや、確かに必要な物だが妙に乗り気になられるとそこはかとなく危険臭がする。
『お代はつけとくにゃ。今度なんかやらせるから☆』
「……あははは」
 冷たい朝の空気に乾いた笑い声が響いた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「本当ですか!」
 目をキラキラ輝かせながらずいと詰め寄ってくる少女に「ええ、まぁ」とトゥタールは苦笑いを浮かべる。
「ところで、V様に遭って何をされるおつもりなんですか?」
「それはそのー」
 顔を赤らめてもじもじとすること数秒。それから彼女ははにかんで
「お話だけでもできればなぁと」
 恋する乙女の表情でそう言われてはむやみやたらと疑うのは憚られる。今までの言動からすれば演技とも考え辛い。もちろんその可能性は心の隅に残しては置くが。
「ではV様も都合があるでしょうし、段取りをつけて見ましょう。
 げい……コホン。アンゼンリナさんのご都合は?」
 そう聞くと彼女はほんの少しだけ嬉しそうだった顔を翳らせる。
「明後日までなら自由にできますよ?」
 それも幻だったかのように笑顔を作りなおして応じる。彼女にはリミットがある。黒服の情報提供の通りだ。
「明後日までですか?」
 けれども初めて聞いたように取り繕い、問い返す。
「ええ……お仕事がありますので。最後に良い機会に恵まれそうです」
「それは重役を任されましたね。なんとか交渉してみましょう」
 色々と重い身の上のようですし、と内心で呟き彼は行動を開始した。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「へ……変身っ」
『ピー。エラーです。もっと堂々とやってください』
「ほら、ヨンさん頑張ってー」
「……貴方は何をやっていらっしゃるのですか?」
 確かカーターには録画機能が付いていたはずだが、わざわざハンディタイプのカメラを構えたアフロが気楽な声援を送っている。
「メイキングムービーですよ。ほら、DVD版のオマケに付いてくる」
「でぃーぶい……?」
 意味は分からないがろくな事をしてないというのは何となく分かった。
「おや、ブルーレイ派ですか?」
「……で、まぁ記録してる事は大体分かりますが、何のためですか?」
「期待しておいてください!」
「だから何をっ!?」
「まま、とりあえず変身しないと始まりませんし。ささ、ロストオブ羞恥心。どっかんと爆誕しちゃってください」
 アフロをウネウネさせながらカメラを構えなおす。とりあえず張り倒したい気分はさておき、確かに変身できなければ意味がないのは確かだ。もうかれこれ10回ほど機械にダメ出しされている。
「しかし……こっそり変身するためのアイテムのつもりだったのですが」
『そういうシーンにはそれなりの対応をします』
「最初っからしてくださいよ! あと、何で無駄にインテリジェンスアイテムなんですか?!」
 確かクロスロードでもインテリジェンス、つまりは知能を付加したアイテムはかなり高額のはずだ。
「というか、それって別にポーズも台詞も要らないって事じゃ……?」
『……』
「……」
 ベルトとアフロ、共に沈黙。
「……ヨンさん」
「……何ですか?」
「お約束って大事だと思うんです」
『良い事言いますね。様式美万歳』
「ばんざーい」
 なにやらベルトとアフロは心を通じ合わせていた。
「というわけで」
『堂々とどうぞ?』
「ああ、もうっ!!!」
 さすがのヨンさんもガガっと地団太を踏む。そのままヤケクソのように叫んで『もう少し凛々しくカッコがガガが』ダメ出しをするベルトを思いっきりぶん殴ったのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「は、初めまして!」
 次の日。
 なんか吹っ切れてOKの出る変身が出来るようになった『V』とトゥタールは待ち合わせのカフェテラスに来ていた。
 彼女がこちらを見つけるなり喜色満面のお手本のように顔を輝かせてばっと頭を下げる。
「あ、いえ。こちらこそ」
「お会いできて光栄ですわ」
 ここまで目をキラキラさせられると照れるというよりもなんか悪いことしてるようになるのは何故だろう。
 ちなみに。
 ピートリーことアフロはと言うと待ち合わせの場所と時間を聞いたくせに現場には現れなかった。もちろんV様よりも立場上危険な彼がアフロ博士となって歩き回るわけには行かないし、どうせ同行するよりも撮影するほうが面白いと思っているのだろうというのが二人の結論だった。
「きゃあ、どうしよう。手を握ってもいいですか?」
「え? あ、はい。どうぞ」
 黄色い声に若干押され気味で手を差し出すとアンゼンリナは両手でふわりと包んでキラキラとした目で見上げてくる。
「……」
「……(キラキラ)」
「…………」
「……(キラキラ)」
「え、えっと。何か注文しましょうか?」
 視線が彷徨い始めたVを見てトゥタールが助けを入れる。
「え、あ、そうでしたね!」
 途端に顔を真っ赤にしてそそくさと離れるアンゼンリナ。なんというか、ここまでの反応を見せられると今までの超警戒モードが馬鹿馬鹿しくなるくらいだ。
「え、ええと」
 ヨンは気を取り直しつつ椅子の一つに腰かける。
「ところで、私に会いたいと言う事でしたが」
「はい。一目見たときからファンなんです!」
「ファン……ですか?」
 今日を除けば2回目の扮装なのだから1度目は確実にあのショーの時だろうが……最初の黒服との前哨戦はそこそこ格好良く立ち回れていたが、ダイアクトー三世がいきなり予想外の本気を出した後はグダグダも良い所だった。
「はい。もう大好きです」
 美少女に分類していい少女に真正面から言われる言葉としてはインパクトがありすぎる。
「そ、それはありがとうございます」
「うふふ、お礼を言われる頃ではありませんわ?」
 気を取り直しつつ考えていた事を再度脳裏に浮かべる。こちらに対して恨みやらなんやらを抱いているのならば別の対応も考えたが、これなら問題は無いと思う。
「……そ、そういえばアンゼンリナさんでしたか。見た所人間種のようですが、魔属性の方はどう思われますか?」
 しかし聞いた話がすべて正しいならば彼女はとある世界での最高峰の神聖術師だ。これだけは確認しておかねばなるまい。
「どうと言いますと?」
「いえほら、怖いとか憎いとか……」
「ああ、そうですね……可愛いと思います」
 ……
 これには蚊帳の外を徹していたトゥタールもきょとんとして朗らかに笑う少女を見やる。
「彼らって結局のところ原初のルールをそのまま用いて生活してるんですよね。なんというか、一回理解してしまえば動物と接するのと同じ感じでしょうか。
 こちらが上位とわかればむやみと歯向かって着ませんし。その点では人間の方がよっぽど怖いですよね」
 かなり独特の見解だが、言われてみれば弱肉強食を旨とするのだから動物社会に近いと言われても無理はないのかもしれない。吸血種だって魔眼や霧化などの特殊能力で優位に立っているから人間を捕食できるのだ。
 それにしても「可愛い」と言い切れるのは彼女の実力故だろうが。
 しかしこれで自分はかなり安全圏ではないだろうか。
「実はですね」

「お嬢様! そっちは駄目です!?」
 声が乱入してきた。
「うっさい。なんかこっちに嫌な気配がするのよ!」

「ちょっ、この声!?」
 ガタリと立ち上がるヨン。
「ん? どうしました?」
 この場でその存在と面識のないトゥタールが不思議そうな顔をする。
「こっちかし───────」

 すぽんと間の抜けた音。
「わぷっ!?」
「うぉっ!?」
 現れた二人の前に落ちた缶から突如急激な煙が噴き出し、周囲を真っ白に染め上げてしまう。
「な、何よこれっ!」
「お、お嬢様。危険ですよ。さぁ。引き返しましょう!」
 男の方の声がやや棒読みになっているのだが、どうやらこちらの仕業と気付いたためだろう。
「行きましょう?」
 気づけば楽しげな笑顔のアンゼンリナがヨンの方へと手を差し出していた。
 良いのかと一瞬悩み、しかしこの場に居ては大惨事は確定だ。
「はい」
 その手を取って二人と、そして首をかしげるトゥタールは煙幕をかいくぐるようにその場を後にするのだった。

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 というわけで、次回最終回のつもりです。
 お嬢様とはいったい何者なのか!? ワクワクしている神衣舞です。嘘です。
 次回はまぁ、軽く街中ぶらぶらする話になるのかなぁって嘘をついてみます。
 嘘ばっかりです。うひひひ。
 まぁ、みなさんのリアクションで全てが決まるのでそこんところよろしくw

 ではよろろろん。
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