結果を言うまでも無くイベリから真っ当な話が聞けるはずもなく────
イベリの飛んできた方向や報告のない奇妙なキノコから「恐らくより中心部に近いところに踏み込んで何らかの方法で飛ばされた」という推測をするしかなかった。
「悪だ。あの中心に悪が居る……! おのれ……キノコを独り占めするなど……!」
「……まぁ、食べなくて正解だったわけですが」
調査結果を手にアフロがわさわさとアフロを揺らす。
イベリがくっつけてきたキノコはよくよく調べると2種類。
「片方の含有物質がウラニウム。もう片方が重油に似た何かですね。というか放射性物質なのに調査でバラすまでキノコの外側に漏れないとかどういう仕組みなんですかね」
軽く被爆騒ぎが発生したが高位神官が駆けつけて事なきを得ている。ただ何故かピートリーの頭を見てコレは手に負えませんと心苦しそうにしていたのは何故だろうか。
クロスロードだったので助かったが、何も知らない探索者が森の中央なんかでついうっかり食べたり裂いてみたりすると大惨事である。
「イベリーさんがもう少し詳しく説明してくれれば話も早かったんですが。
まぁ、言っても仕方ありませんね」
気になるのは1点。
『キノコを独占する悪』という言葉。考えようによっては何者かが居たようではないか。
「主犯か、はたまた番人か」
それらもイベリからすればまとめて悪の一言で終わってしまうのだが。
「ともあれ再度突入するみたいですし、分かった事だけでも伝えましょうかね」
ひとりごちて、アフロはアフロを揺らしながらその場を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……さて、と」
周囲を見渡す。うっそうとした緑の世界。
相変わらず巨大植物が不気味な沈黙を保つ中で、食人植物だけには近づかないようにと警戒を怠れない。
「前回踏み込んだあたりまでは来れましたかね」
ヨンの呟きに先頭を往くザザが足をとめた。
「少し飛んで見るか?」
「やめた方が良くない? 食人植物の数は減ってるけどタンポポの数が異様に多いわ」
クネスの指摘にザザが嫌そうな顔をする。少し前に上空からの偵察を敢行した時も、中心部に近づいた瞬間種に迎撃されたのだ。
「作為的ですね」
和服姿の雷堂が一息つくように言葉を漏らす。かなり歩きにくそうな装いだが気にしてないらしい。
「森がひとつのシステムというイメージは確かに持てますね。
イベリーさんの言い様だと中央に何か居てもおかしくない」
「中央だけキノコが生えているんだったか」
「ええ。そのキノコはくれぐれも傷つけないように、ですって」
残念ながらこのメンツの中に放射性物質だとか重油という単語を理解できる者は居なかった。危険な毒という認識がせいぜいである。
「それにしても、何が目的なんでしょうね」
雷堂の言葉は未だ誰も結論を手に入れていない問いだ。
「広げるって事だけを目的にしてるのならそれそのものに価値があると見るべきだわ」
クネスがあごに手を当てて応じる。
「一つはネットワークの拡大。この草木が何者かの感覚器であるならば処理される情報量は莫大な物よ?」
「大規模な術でも使うつもりなんですかね?」
ヨンの挟んだ言葉に「推論にすぎないわ」とクネスは首を横に振る。「それに中央にあるキノコの意味も不可解だしね」
「確かに森は神域にも魔境にもなりますからね」
何か思う事があるのか、雷堂がしみじみと緑の天井を見上げた。
「進めばわかるさ」
考えても結論が出そうにない。さっさと見切りをつけたザザが草をかき分けてさらに先へと進むと後ろの面々もそれに続く。
食人植物さえ把握していれば進む分には問題ないし、氷が有効とわかっている以上、早々ピンチにはならない。怖いのは種の爆撃唯一つだが中央に近づくにつれそれは減少している。そもそも外に広がる事が目的なのだから当然のことだろう。
先ほどの会話から三十分ほど経過したか。不意に森が開ける雰囲気に誰からともなく足を止める。
植物の間、その先に広がるのは緑一色の世界とは打って変わり、目が痛いほどの原色の園だ。良く見ればその一つ一つは同じ形ながらそれぞれ赤、青、黄色、緑等など絵の具で塗ったような派手派手しい色を誇っている。
「これがあの豚が言ってたキノコか」
「となれば、中心である可能性が高いですね」
ザザと雷堂は喋りながらも周囲を注意深く見渡す。それはヨンとクネスも同じだ。
『ダレ?』
弾かれたように構える。声は頭上から─────
『マタ、ダレカキタノ?』
ガラスをすり合わせたようなキンキンとした声。目を凝らせば巨大な葉の上に何者かの影がある。
「ドライアードかしら?」
クネスの言葉にヨンは確定させないまでも近いと判断する。フォルムは人間種の女性に近く、しかし人間とは雰囲気が異なる。
「あんたがここの管理人か?」
『……ソウダヨ。ココヲコワシニキタノ?』
「話合いができるならそれに越したことはないのですけどね」
雷堂の言葉に番人は考えるような沈黙を返す。
「このままではこの森がクロスロードを壊してしまう。もし貴方が管理人ならば森の拡大を止めてくれませんか?」
『ソレハダメ。ヒロガルコト。ソレガノゾミダカラ』
「随分とシンプルで迷惑な望みね」
クネスの皮肉に人影は首をかしげるようなしぐさをする。
『コレハクロスロードノタメ』
「ああ? クロスロードのため、だと?」
思いっきり食い違う主張に眉根を寄せる。
『ソウ。パパガイッテタ』
「パパ? ……黒幕って所ですかね」
「そうじゃない? とすると彼女を説得しても無駄かもしれないわね。
化身とかだと倒しても無駄かも知れないし」
「あのー。ちなみにこのキノコは何ですか?」
雷堂の問いかけに番人は首を傾げ「プラント」とだけ応じる。
「プラント? ってどういう意味ですか?」
『植物という意味の他に工場を意味するためそう訳されたと推測します』
PBからの回答に雷堂は少し考えると
「工場って意味でしょうかね?」
と問いかけるが、残念ながら大がかりな工場に親しみを持つ人はおらず、またキノコの群れにしか見えないそれを工場と呼ぶにはいささか違和感がある。
『セイブンノチュウシュツノタメノプラント。コワサセナイ』
キンキン声のために聞き取りづらい。この世界の翻訳機能も妙な所に拘りすぎだとは誰が思ったか。
「えーっと、成分のちゅうしゅしゅしゅう?」
「言えてないわよ?」
「妙な漫才してる場合か。どうすんだ?」
ヨンとクネスに視線をやって一つため息。
「そのパパという方の命令なら聞くんですか?」
『パパノメイレイハゼッタイ』
雷堂の問いかけに即座の回答。
「えーっと。じゃあキノコをいくつかもらっていくなら良いですか?」
『……』
逡巡。
『10コナライイ』
「……」
10個という数に果たして何の意味かあるのかと考えるが、じっと伺うような感じからすると思いついた数字のようだ。
「どうします?」
知能は会話できるほど。そして会話が成立する以上『怪物』でない事は明らかだろう。そして彼女をここで討伐する事が正解かどうかかなり怪しい。
「会話くらいはできるけど、余り頭良くなさそうだし、これ以上聞いても無駄だとは思うけどね」
「俺も同意だ。どのくらいの事ができるかは知っておきたいが……」
「せっかく話ができるくらいには有効的なんですから、それは最終手段にするべきかと。
種の集中砲火なんて受けたらシャレになりません」
一通りの意見が出て、ザザがふと思い出して上を見上げ
「空飛んでるのを撃ったのもお前の刺しがねか?」
『……ソウ。チカヅクノアマリヨクナイ。……アレ?』
きょとんとして、何か考える。
『オマエタチ、ココニイルノ、ヨクナイ?』
「あたしたちは例外よ。そうお友達でしょ?」
咄嗟にクネスが叫ぶと『……トモダチ? ……レイガイナラシカタナイ』と何やらあっさり納得してしまった。
「このまま騙せませんかね?」
「難しいんじゃねえか? 純粋に広がる事を目的にしてんだ。それをどういう言葉であれ否定されたらどんな反応するか見当もつかねえ」
確かにとヨンは頷く。
「ここは『パパ』とやらに命令解除してもらうのが一番でしょうか」
「そうなりそうね。じゃあ許された通り色違いを10種類もらって一回帰りましょ?」
「やれやれ。また往復か。エスコートでもしてくれりゃ楽そうなんだが」
先陣を切るために一番生傷の絶えないザザがうんざりしたように言葉を零す。
『ワタシハココカラハナレナイ』
人影の言葉に肩をすくめる。
「パパの名前、教えてもらっていいかしら?」
クネスがとりあえずと問うとそれは『ドクターニギヤマ』とあっさり回答。
「ドクターニギヤマ? ドクター・ニギヤマって事かしら」
「ある意味一番の収穫ですね。聞いてみるもんだ」
雷堂は苦笑半分に頷いてキノコの選別を開始した。
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どどんがどん神衣舞です。総合GMです。わほい。
大きく遅ればせて申し訳なかとです。
さてさて、無事森の奥地まで到着しました。で、番人に遭遇。
そろそろクライマックスが見えてきました。イベリが突っ込まずに荒っぽいメンバーが飛び込んだりすると漏れなくキノコのやっばい成分で死んでたというステキストーリーもあり得たわけですが……w
まぁ、それはさておき次回リアクションをよろしくおねがいしますね。