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【inv11】『にあですぱらだいす』
にあですぱらだいす
(2010/11/30)
「とりあえず確認なんだけど」
 独り言のようだが、もはやクロスロードでは珍しい光景ではない。
「PBでの金銭のやり取りって管理組合に残ってるの?」
『回答不可。但し管理組合のスタンスから例えデータを残していても公開することはありません』
「クロスロードの危機でも?」
『最終判断は副組合長となりますが、個人の要請に応じ、個人にのみ情報提供することはありません』
 絶対に公開しない、というわけではないらしいが腕輪一つに一つに判断を委ねるほど緩い管理ではないらしい。
「じゃあニギヤマ、あるいはDr.ニギヤマの家は案内できる?」
『該当1名。自宅への案内は可能です』
「なんだ? あんたもニギヤマってのを探してるのか?」
 不意に、クネスを影が覆った。正確には巨体が丁度太陽を背にするように立ったのだ。
「あら、ええと、ザザさんだったかしら?」
「ああ。そいつの家に行ってみたがダメだ。ありゃ暫く立ち寄った形跡がない」
 偉丈夫の言葉に首を傾げ
「どういう意味?」
「丁度エンジェルウィングスの配達と鉢合わせてな。3ヶ月ほど前から直接手渡し指定の荷物を渡せずに居るらしい」
「夜だけ帰ってるとかじゃなく?」
「可能性が無いとは言わないがな」
 とは言え、家に行ったところで遭う事は望めそうに無い。
「んー、そうね。PBで確認するのにも限度が有りそうだし、本部にでも顔を出してみるかしら。貴方は?」
「俺は俺で調べるさ。情報屋の連中もいい金づるだろうからな。いくらか情報を握ってるだろ」
「そう、じゃあ互いに幸運が有るといいわね」
 クネスの言葉にザザは「全くだ」と応じてその場を立ち去った。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「凄いわね、これ」
「毒物の展覧会って所でしょうかね」
 Ke=iとピートリーは同じ資料を眺めて呆れたような顔をする。
 一団が持ち帰った10個のキノコ。それを調査すると出てくるのは発言の通り毒物のオンパレードという有様だった。それも少量でもさくっと大量殺戮が可能なレベルの物である。
「良く枯れないわね、これ」
「一つ一つ構成主成分が異なってますね。これらの毒物を精製していると言う事でしょうか?」
「でもそれじゃ放射性物質を含んでたタイプがおかしくない?」
「そうでしょうか? 錬金術あたりを併用すれば放射性重金属の練成も可能では?」
「植物内で錬金? ……それなら植物を使う必要がわからないわ。フラスコでやった方がよっぽど効率が良いと思うけど?」
「確かに。では……地中内のこれらを栄養として吸収していると言う事でしょうか」
 アフロの言葉にKe=iは返事を返さずに黙考する。もちろんその案は彼女の脳裏にも既にある。
「うん、まぁそう考えるのがベターね。何しろコレだけの毒物だもの」
「この紫のヤツ3つ4つ刻んで浄水施設に投げ込んだらクロスロードくらいの街ならあっさり全滅させられますからね」
 それには水溶性の毒が蓄積されており、数ミリリットルの摂取で酷い神経障害を起こす事が可能である。流れの比較的早く水量が莫大なサンロードリバーに影響を及ぼすには莫大な量が必要だろうが、上水道に投入されれば悪夢の発生は間違いない。
「しっかし……こんなヤバイキノコ作って何をするつもりなのかしらね」
 食べなくても恐ろしい放射性物質キノコなどなど、森の中心で確認された量をクロスロードにばら撒けばどんな事態になるか。
「ニギヤマという男を捕まえなくては分かりませんがね。ただ、テロの武器庫の番人にしてはフレンドリーというか幼いというか」
「ああ。話を聞く限りじゃそう感じるねぇ」
 別段戦闘をするわけでもなく、分けてもらったらしい。破壊活動を目論むのなら手の内を晒したような物である。
「ともかくこのデータを管理組合に届けて配信してもらいましょう。それからニギヤマ氏探しですえね」
 言いながらよいしょとリュックを担ぐアフロ。
「どこに行くんだい?」
「いえ、ちょっと番人だかにお話を聞ければと」
「聞いて何とかなるものかねぇ」
「単なる興味本位ですよ。では」
 しゅたっと手を挙げて去っていくアフロ。
 Ke=iは物好きなと肩を竦めてデータの取りまとめに入った。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ええと、少々お話いいですか?」
『ナニ?』
 一人森に残ったヨンはしばし間を空けて問いかけてみると、案外あっさり返事があった。
「ええと、ニギヤマさんにどういう命令をされたんですか?」
『ヤクメヲハタセルクライヒロクヒロクヒロガレ』
「……役目、とは?」
『マダキイテナイ』
 まだ、と言う事は次のステップがあると考えるべきか。
「ではどんな成分を抽出しているのですか?」
『ドクブツ』
 何の事もないような感じで物騒な単語が返ってきた。確かにイベリにくっついていた2つも、そしてまだ彼は知らないが持ち帰ったキノコにも各種猛毒というしかない成分が詰まっていた。
「どうやって抽出してるんですか?」
『ソレゾレタイオウシタキノコガアル。セイチョウスルサイニイッショニキュウシュウシテタメコム』
「……キノコの内部で生成してるわけではないのですか?」
『チガウ』
 ん?と考える。
「そのキノコは貴女の体の一部ということは?」
『……チガウ、ト、オモウ』
 曖昧な回答。自分でも良く分かっていない感じだ。
『ソレハワタシノシハイカニアルモノ。ワタシダケドワタシジャナイトオモウ』
「……もしかして森の植物を操れたりします? 進行方向をクロスロードの反対側にしたりとか」
 もしそれが可能ならば広がる事を止めずにその進行方向だけでも変えられるのではないだろうか。
 そう期待しての問いかけに彼女は─────

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ん? ニギヤマを探してるのか?」
 雷堂が尋ねていったのはとある植物学者。彼は不思議そうに首を傾げた。
「アイツなら家に行っても居ないと思うぞ。あと管理組合にどう訴えても鍵は開けてもらえないと思うがなぁ」
「緊急事態なのにですか?」
「あいつら徹底してるからなぁ。まぁ、いいや。
 ニギヤマなら大図書館の地下に居るはずだよ」
 雷堂はぐっと眉根を寄せて「大図書館の地下とかありましたか?」と問うと
「ああ、あんまり知られてないもんな。大図書館の地下には核シェルター並みの封印施設があってな。今じゃ技術者の巣窟になってんだよ」
 核という言葉に親しみは無いが、封印施設という字面から大体どのような場所かを推測する。
「あそこならどんな実験しても外に漏れる事ないからな。魔窟だよ、マジで」
 ずぞぞぞと出来上がったカップ麺を啜って男は一息吐く。
「そこには入れるのですか?」
「誰でも入れるが、命の保障はしない」
「……といいますと?」
「大図書館の地下は3階層まであってな。地下第1階層が軽度禁書庫。読むと発狂するだとか、ちょっとした大量殺戮兵器とか魔術とかの本が収納されてるんだよ。
 まぁ、そこはまだマシなんだが第2階層が重度禁書庫でな。人を食う本や開けるだけで自動的に魔道式が起動して開いたやつの魂を生贄に魔人を召喚する本だとかそういうのがゴロゴロしてんのよ」
「……え、あ?」
 何の冗談だと目を瞬かせる。現にラーメン啜りながらでは与太話にしか聞こえない。
「強度の精神操作を兼ね備えた本とかまずいな。気がついたら本を開いていてそのまま本に取り込まれたヤツもいたっけか。元気にしてるかなぁ」
「いや、それ助けないんですか?!」
「一介の植物学者に何を求めてるんだ、君は?」
 極当たり前のように言われては絶句するしかない。
「まぁ、とにかくそこを突破して初めて第3階層の閲覧室に到着するんだ。ここがまた厄介でな。快適な環境を維持しつつ地下階層のヤバイ本やら呪いやらを外に出さないためにありとあらゆる世界の封印やら結界やらを張り巡らしてるんだが……こいつがかなり精神に来る」
 一応神仙系の雷堂はその言葉の意味は何となく分かった。結界に踏み込むと少しだけ肩が重いというか、息が詰まる気がする。
「そのせいで本来閲覧室のはずだったその場所で発狂するヤツが続出してな。
 今じゃそんな場所でも平気な顔してる一線外れた連中の実験場になってるのさ」
「……はぁ……。そんな場所にドクター・ニギヤマが?」
「数日前にちょっとだけ出てきたらしくてな。知り合いが目撃したってさ。
 さっきも言った通りあそこは入るのも出るのも一苦労だからなぁ。わざわざ一度出てきて戻ったって事は暫く篭るんじゃねえかな」
 喋りながらなのにあっという間に食べ終わった容器を机に置く。
「まぁ、話すだけなら内線電話があるはずだし、引っ張り出すだけなら司書院に頼めば行ってくれると思うけどな」
 余談だが本の呪力でその内線電話も妙な声が良く混じる。
「わかりました。ありがとうございます」
 道理で探し回ってるニギヤマが見つからないはずだと息を吐く。
「とにかく大図書館に行ってみるとしましょうか」
 そう一人ごちて彼は次の目的地へと足を向けた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 清潔すぎる真っ白な床や壁が、散乱する資料を汚らしく見せる。
 そんな部屋の扉が静かに開き、こつこつと小さな足音が無遠慮に進入した。
 それに従うのは銀の髪。その主を覆い隠さんほどの綺麗な銀糸が照明の光に輝きを見せる。
 しかし、この部屋の主はそれを全く見る事も無く、それどころか動きもしない。
 動かぬそれを見定めた侵入者は数秒の停止の後に再び無遠慮に近付くと
「起きぬか」
 げすと容赦なく寝袋を蹴っ飛ばした。
「ぬ、ぬぉお!?」
 びくんと危ない跳ね方をして、もぞもぞと妙な動きをすること数秒。自分が寝袋の中に居ることを思い出した老人は動きを止めて侵入者を見上げた。
「な、なんだ。いきなり!」
「何だではなかろ。ぬしの作ったもんのせいで大騒ぎしておるぞ」
 はぁと溜息を吐く唇は背丈に応じて小さい。人間種だろう少女の年齢は10かそこらに見える。青のロリータファッションに身を包んだその少女は寝袋の老人よりも老人ぽい口調と共に睨みつける。
「大騒ぎだと? なるほど、私の偉大な発明にもう気付いたか」
「戯け。被害の方じゃよ」
「……」
 老人はしばし目をぱちくりとして、それからジジジと寝袋のチャックを下ろすとそこから脱出する。しわくちゃになった白衣をピッと引っ張って正して
「私の計画に不備は無いはずだが?」
「一発ぶん殴った方が頭のめぐりが良くなるかのぅ」
 手にした処刑鎌にも見える杖をひゅんと振るった。
「いやいや、暴力反対。こんな年寄りにご無体な。ゲホゲホ。
 ……い、いや。本当だよ?! 計算どおりなら丁度いいサイズに育っているはずだ。このままサイズを維持してクロスロードを一周すればクロスロード周辺の土壌を農業に最適な土質に作りなおせるはずなのだよ」
「……現に森からの砲撃で市街や防壁に被害が出ておるのじゃが、それも計算どおりなのかえ?」
「なん……だと……!?」
 くわっと目を見開き、それから腕のPBを見遣り
「今日は何日だ!? ……な、何!? ……私とした事が寝過ごしただと!?」
 どうやら『計算』以上に森が育っているらしい。
「とにかく、上に探索者連中が集まってぬしを待っておる。何とかしてくるんじゃな」
「う、うむ。こうしてはおれん」
 ニギヤマは慌てて駆け出す。それを見送って少女はやれやれと肩を竦めた。
 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『────ムリ』
 と、あっさり言い切った。
『ワタシノセイギョリョウヲ、オオハバニウワマワッタカラ、チュウシンブノ、セイギョデ、テイッパイ』
「ちょっ!?」
 確か既に外延部が防壁の300m近くにまで迫っているはずだ。駆除作業を続けているがじりじりとその範囲は拡大している。
『イチブノクカクニゲンテイスレバ、セイギョハカノウダケド』
「一部ってどのくらいですか!?」
『ンー? アレ? トオクノカンカクガワカラナイヤ』
「100mの壁かっ!?」
 ちなみに管理者は群体生物のような物だったのだが、余りにもその規模が大きくなりすぎて管理者のキャパシティをオーバー。制御を離れた部分が違う生物となり、100mの壁の適用を受けてしまったのである。
『コマッタ』
 いや、困ったとか言われても!?
 ヨンは途端に周囲の植物が空恐ろしく感じる。番人の言葉通りであればこの周囲の植物は彼女の制御下のはずだが
「っ!?」
 慌てて右に飛ぶと足元にホウセンカの種が突き刺さる。
「な、何をするんですか!?」
『ワタシジャナイ』
 ふるふると首を振る管理者。
『フ、フ、フ。ワタシヨ』
 全く同じ声が種の飛んできた方向から響く。
『アナタガコアナンテミトメナイ。ワタシガパパノタメニハタラクノ』
『ナニヲイウノ? コノモリノカンリシャハワタシダヨ』
『セイギョハモウワタシニハツウジナイ。ワタシニヒザマヅキナサイ!』
「……なんなんですか、この厄介な展開は……?」
 がっくしと肩を落としたヨンだが、更なる殺気に再び跳躍。するとやはり種が3発ほど地面に突き刺さった。
 しかも別方向から。
「……ま、まさか」
『ワタシコソガパパノタメニハタラクコアユニットニフサワシイノヨ』
『ナニヲイッテルノワタシノホウヨ』
『ミンナキエテシマエバイイノニ』
 わさわさと現れる管理人モドキにヨンはげんなりとした顔をしながらも構える。
「というか、なんで私を狙うんですか!?」
『『『『ナントナク?』』』』
 見事にハモった。
「どうにかできないんですか!?」
 背後のオリジナル管理者に問いかけるが、他の個体と同様感情の見えない顔のまま『ウーン』と唸る事数秒。緊張感のかけらも感じられないが同時に食人植物が触手をしならせモドキを攻撃。同じく食人植物がそれを迎撃するというバトルが発生している。
『パパガクレバナントカナルカモ。パパノイウコトナラキクダロウシ』
『トウゼンヨ。デモパパハワタシヲエラブワ。アナタノトコロマデハコラセハシナイ』
『ソウヨ。アナタニハワタサナイ』
『アナタニワタスクライナライッソ』
「なんで一人病んでるのが混じってるんですか!?」
 そんな突っ込みはさらっと無視。
『フフ、アナタハモリノチュウオウ。ソコマデパパガタドリツケルトオモワナイコトネ』
『ソシテワタシガパパヲテニイレルワ』
『ソシテパパハワタシノナカデエイエンニイキルノ』
「……ええと、どうするんですか?」
 ひゅんひゅんと飛んでくる触手や種を迎撃するオリジナル。ふとヨンが背後を見ればそこにはキノコの山。
 管理者連中はなんとも無いが、そこに直撃すれば殆どの種族がここに近づく事すら危険になる。
『ドウスル?』
 オリジナルの問いかけは自分の身の振りについてだろう。現状ここに居る価値がどれほどあるか。

 渾身の力を込めてホウセンカの種を迎撃冷却してヨンは考える。
 自分はどう動くべきか、と。

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 エディさんもたいがい良いポジションに居るけどヨンさんもおいしいよね(=ω=)
 はい、神衣舞です。キリンさんが好きです。でもエリマキトカゲさんのほうがもっとry
 というわけで事件の真相はほぼ分かったと思います。そして更なる問題発生(笑
 早くニギヤマ氏を起こしてたらこうはならなかったかもしれませんね(笑顔
 ラストに向けて楽しく参りましょう。失敗するとますますやばくなってきましたな☆
 とりあえず1本幕間をもう一度挟むかもしれませんが、とりあえずリアクションをお願いします。
 ちなみにニギヤマ氏を探してたメンバーは『ニギヤマ君寝過ごしちゃったんだって』って話まで把握してOKです。
 あとアフロは森の中でも外でもOKだお。
 
 PS.当初のプロットからすると間違いなく『どうしてこうなった?』的展開です。ワハーw
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