Dr.ニギヤマの計画は以下の通りだった。
大前提として、クロスロード周辺には多種多様な物質が埋蔵している。その理由は既に語られたとおり、大襲撃やその後続く怪物の襲撃による物だ。
実は、と言うべきか。元々ターミナルでは腐敗が発生しない。その元となる微生物が存在していないのだ。
クロスロード内に措いては来訪者に付着してやってきた各種微生物、菌がこの世界の法則に従い、それぞれの特性が共通する物と共に活動にいそしんでいるが、大襲撃の際に埋められたそれらは二年近く経過した今でも分解があまり進んでいなかったりする。
一方で酸化等の化学変化は作用するが、別の世界を原産とする素材同士の化学(?)変化はおかしな作用をいくつも発生しており、最早新種とも言うべき素材がこっそり生成されていたり、危ないガスを作り続けていたりしていた。
こんな状態で真っ当に植物が生育するはずも無く、農地開拓計画の妨げのひとつになっていたのである。
そこで彼が考え出したのが「そんな土壌に適合した植物」による、土地改善である。
農業には休耕地という考えがある。農耕により不足してしまった栄養分補給するための土地の休息時間の事を指すのだが、別の植物を植えそのまま枯れさせる事で補充すると言う方法もある。
彼はそれを妙な形で発展させたのだ。
ホウセンカやタンポポによる拡大と金属分吸収。
同じく金属分を吸収しながら攻撃、防衛のために広がる食人植物と巨大栗
毒性のある物を集めて無毒化する改良型ラドヴィアンカ。
そして環境を整える下草とウィンデネイダ。
これらが広がる事で下準備をし、そして最後に森の中心が仕上げを行う。
ラドヴィアンカで吸収するには重過ぎる強毒性物質を各個吸収蓄積するキノコを繁茂させ、回収。後は研究に使うなり、復旧の目処すら立たない崩壊した世界に捨てるなりすればいいと考えていた。妖怪種の中には毒を好んで食べるのも居るらしいのでそういう処理方法もあるだろう。
やがて植物が枯れるとそこには茎の部分が金属パイプのように残り、有機質はラドヴィアンカが生育するバクテリアで分解。豊穣な土地が残るはずだという仕組みである。
そしてコアである番人がこの森を操り、まるでモップのようにクロスロード周辺をぐるぐると回るというのが全容だった。
が─────
彼は頑張りすぎた。
実験の前日までハイテンションで作業を続けていた彼は最初の種を撒き、コアユニットにとりあえず拡大するように命じた後で気を抜きまくりそのまま深い深い、ちょっと深すぎる眠りに付いてしまったのである。
その結果、コアユニットが自身の手足として認識できる範囲を突破、コントロールを失った森は際限なく増えていくだけでなく、失った管理者の代理を創り上げてしまったのである。しかも代行品であるためか性能が劣化しており、本来の目的をすっかり忘れる個体も数多く発生。それらが操る植物が調査に訪れた探索者をひたすら襲撃していたのだ。
本来の目的を仮インプットされてたオリジナルコアユニットだけがややフレンドリーだったのは大まかな計画を予めインプットされていたためであると推測される。
どうせだったら全部インプットすれば話は簡単だったのだが、睡眠不足のハイテンションでやりきってしまったニギヤマでは致し方ない。
「で? どうにかする手段はあるんですか?」
「あるにはある。『枯れる』までがプロセスだからな。コアユニットには『自死』を行う機能がある」
管理組合員の問いかけにニギヤマは鷹揚に頷く。
「ただ、どこまでの個体が私の言う事を聞くかさっぱりわからん。一番確実なのはオリジナルに制御権を奪わせて自死させるという方法だが、やはり問題がある。
制御ユニットの操作は早い者勝ちだ。つまり奪うためには占有権のあるコアユニットを倒さなければならない。だが相手を倒しに行くには相手の制御する植物を削っていくか、単身乗り込むかの2択になる。前者は例え勝利しても他からの攻撃を受ける可能性が高く、後者は先に制御している植物を自死させれば目立つし、放置すれば乗っ取られる。丸腰で相手の懐に飛び込むようなもんだな」
「オリジナルユニットがあなたの命令を聞く事は確かなのか?」
「中心まで行った連中の話からすればまず問題ないだろう。第二世代くらいまでなら何とかなりそうだな。知能があまり高くないからぶっちゃけ怖いが」
そこまで語って、ニギヤマはふぅと一息。
「ともかく一度オリジナルコアに会おう。少なくともあれの支配下にあるだろうキノコだけは処理しなければ攻めるも守るも危険だ。
回収と護衛の依頼を出したいのだが良いかね?」
問われた管理組合員は頷くしかない。
彼の提案はすぐさま受理され、新たな依頼としてクロスロードに知れ渡る事になった。