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【inv11】『にあですぱらだいす』
にあですぱらだいす
(2010/12/13)
「ところで君達」
 ヨンは荒い息を吐きながら問いかける。
「こんなところまで来て、自分の管理区画の方は良いのかい?」
 雨霰と襲い来る触手をオリジナル・コアがその殆どを迎撃してくれているにせよ数本は自分で処理しなければならない。吸血種の彼でもそろそろ限界が見えてきていた。
『カンリクカク? ソレガドウカシタノ?』
 コピーの1人が反応した。
「君達の本分は管理することなんだろ? ほったらかしてパパに怒られないのかい?」
『フヨウ』
 即答は別の個体から。
『コノクカクガホシイ』
『ソレニワタシタチガイナクテモカッテニヒロガル。パパノメイレイドオリニ』
 植物は彼女(?)らにとって『道具』であって体の一部ではないのだろう。主命令が無くなれば基本的な生態に沿って勝手に生育するという意味か。
 上手く追い返せないと悟り舌打ち。それから半瞬考え────
「パパはもうすぐここに来る」
 ヨンはその声を森に響かせた。
『ジャア、イソガナイト』
「良いのかい? 君達の制御していない森なんて彼らはすぐに突破してくる。それまでに博士を捕まえてしまえば君達がオリジナルになれるんじゃないかな?」
 攻撃の勢いが目に見えて減る。
「それとも、君達の制御外になった植物がパパを殺してしまうかもね」
『ソレハヨクナイ』
『ドウシヨウ?』
『ココヲモラワナイトパパニハミトメテモラエナイ』
『デモパパがシンダラエイエンニミトメラレナイ?』
 自問自答を繰り返す声がざわざわと広がる中、ヨンはおやと周囲を見渡した。
「病んだ発言してるのが居なくなってませんか?」
『アア、ソイツナラ』
 取り囲むコピーの一人が言った。
『オマエノコトバヲキイテイソイデドッカニイッタ』
『ソノテガアッタトイッテイタ』
「……」
 彼はしばし呆然とし
「こ、殺しというか、心中に行きましたよね、あの個体!?」
『シンジュウ?』
「パパを殺して自分も死ぬつもりですよ! 止めないと!!」
『パパヲコロサレルノハヨクナイ』
『トメナイト』
 ざわざわという音が遠ざかり始める。それと同時に背後に居たオリジナル・コアも動こうとする。
「君はダメですよ」
『ドウシテ? パパガキケン』
「この区画を他の個体に奪われたほうが危険です。
 彼は探索者達が守ってくれますから待っていましょう」
『……ホントウニ?』
「本当です」
 口からでまかせのつもりは無い。なんだかんだ彼らは危機を乗り越え続けているのだ。
『ナラ、マツ』
 静まり返った森の中で彼はようやく一休みができそうだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「キノコはそこまで発育していたのかね」
 ようやく現場に到着したニギヤマは周囲からの冷たい視線を意ともせず、報告を吟味していた。
「とにかく。君たちの話からするとコアとは話ができそうだ。キノコを回収し、あの子を自由にしてから死滅プログラムを発動させて行けば収縮は可能だろう」
「ちなみに、キノコの無毒化はできるのかしら?」
 Ke=iの問いにニギヤマはかぶりを振る。
「あれはあくまで地中に埋没する有毒物質をキノコの毒として抽出するための物だ。自浄作用までは持っておらんよ」
「じゃあ埋めるとかするしかないのね」
「とんでもない!」
 できの悪い教え子を叱るかのような勢いで大声を出す。
「キノコが土中で分解されればせっかく抽出された汚染物質が再び戻ってしまう!
 回収し、しかるべき場所で処理をしなければならいんだよ」
「しかるべき場所って言うと?」
「廃棄世界でも良いし、ブラックホールへ投げ捨てるのもかまわないだろう。
 物質によっては再利用も可能だしな」
「少なくとも森の中では無理って事よね?」
「うむ」
 はぁと深々とため息。確かにその仕様ならば回収以外の道はなさそうだが
「回収班が全滅とかシャレにならないわよ?」
「まぁそのためのコアなのだがなぁ。彼女が全て支配している限り、そこは一番安全な場所だ」
 周囲のあの凶悪な植物全てが味方なのだから頷かざるを得ない。

 ─────ただ、この時点で彼らは知らないのだ。
   ─────オリジナルコアからの支配を逃れた結果、コピーコアが大量に発生して言えるというとんでもない事実を。

「オーライ。とりあえず処理方法をこっちの研究者と検討しておくわ。あなたはコアの説得をお願い」
「無論だ。では早速」
 ずかずかと森に向かおうとするニギヤマを慌てて数人が追いかける。
「……ホントに大丈夫なのかしら。あの人」

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ほほう。これは面白い」
 というわけで、再度森に入った一行はクネスの新しく構築した術により地中を歩いていた。
「最初っからこうしてれば良かったんですね」
 雷堂がそんな事を言うが「中心に何があるかもわからないし、根に感覚器が無いってお墨付きがなければとてもじゃないわよ」とクネスは苦笑いを反す。
「ああ、そうだ。お二人ともこれを」
 雷堂が思い出したように防護服と防毒マスクを渡す。
「借りてきました」
「あら、気がきくわね。でもできれば使わないで済むようにしたいけど」
 言いながら不意に足を止め、ほとんど直観のようにバックステップ。
 そこに数本の触手がどすりどすりと刺さり、トンネルに格子を作り上げる。
「なっ!?」
「話が違うんじゃない!?」
「おかしいな。仕様上コア以外はそういう機能は無いはずなんだが」
「じゃあ、コア?」
 ぼこりと音を立ててトンネルの天井に穴が開く。そこからにゅるりとさかさまに顔を出したのは確かにあの管理者だった。
『ミツケタ』
「おお、コア。悪かったな。これから周囲の植物を────」
「ちょっと、ここまだ中心じゃないわよ!」
 クネスの声、雷堂はその意味を測りかねてキョトンとするが
『パパ、アイシテル。エイエンニナリマショウ?』
 その言葉にぎょっとして、次の瞬間一直線に伸びてきた触手を撃ち払う。
「何をする、コア! 私だぞ!」
『ワカッテルワ。パパ。ワタシトエイエンニナルノヨ。シハエイエンナノ、イッショニシニマショウ。ウフフ』
「これって!?」
「壊れちゃったの?!」
「馬鹿な、機械じゃあるまいし、世代交代にはまだ……」
 言いかけた言葉を飲み込み、
「まさか、お前。コアのサブユニットとして自生した別のユニットか!?」
『ウフフ、ソンナコトハドウデモイイノ。パパ、アナタヲコロシテワタシモシヌワ』
「ぶっちゃけ偽物ってわけ?」
 クネスが格子の間から土の槍を叩きこむ。ガチンと酷い音がトンネルに響くが
『ギャァアアアアアアアアア?!』
 加護属性を付加した一撃は硬質の皮膚を貫き、コピーユニットから樹液を噴出させる。
「ってあぁあああ!!」
 好機と雷堂も二刀を振るうが、ギンと激しい金属音を響かせて弾かれる。
「っ! 硬いっ!」
『イタイイタイイタイイタイ、パパ、イッショニイタクナリマショォウウウウウウウ!?』
 ぎゅんと伸びる触手を雷堂がすんでで弾くと、興味が離れたと見たクネスが同じ一撃を叩きこむ。
『モット、モット! イタイィイイイイイ!』
 幸いはこのコピーの執着か。背後に回る形となったクネスを完全に無視して、その眼はニギヤマだけを見つめている。あまりの硬さに歯が立たないと踏んだ雷堂はとにかく防御に徹し、隙をクネスが突いていく。
 数分もするとコピーはふいに力を失い、くたり天井からぶら下がった。
「おわった、かしら?」
「……恐らく」
 警戒する雷堂の横をニギヤマはすっと通りすぎる。
「ちょっ! まだあぶないですよ!」
「大丈夫だ」
 そのまま、彼は緑の樹液を垂らすコピーに触れると何かを呟く。それからクネスを見ると
「急ごう。この調子ではコピーが何体発生しているかわからん」
「……オリジナルがやられてるとか無いわよね?」
「あの子が中心から動いていないのであれば早々陥落はせんよ。
 襲撃する方が別のユニットの支配地域に入り込むには部下となる植物を削らねばならない」
 なるほどとうなずき、けれども楽観できないと彼女は中心方向を睨んで歩を進めた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『ナニカキタ』
 ばっと起き上がったヨンは思いのほか自分が疲労している事を悟る。
「どこからですか?」
『ウエ』
 上? と、見上げると

 ずぅうん

「ぬぉあ!?」
「よぅ、ずいぶんな有様だな」
 もぅもぅとあがる土煙の中から巨体がぬっと出てくる。
「うわぁあああああ?!」
 それは巨大な獣だった。コウモリの翼をぶんとひと振りしてヨンを睨み据える。
「な、何ですか、次は!?」
「俺だ。落ち着け」
 どこかシニカルな響きにヨンはきょとんとする。それからもうもうと上がる土煙りの中にその巨体は消失し。
「ザザさん!」
 出てきたのはここに来るときに同行した大柄な男だった。
『……メイワク』
 ボソリとコアユニットが呟いて触手を持ちあげていた。
「こいつとやり合ったのか?」
「うわ、待ってください。二人とも!!」
 戦闘態勢を取るザザにヨンは慌てて間に入って制止する。
 とりあえずかいつまんで事情を説明した所で彼は「厄介な事になってるな」と森の外方向へ視線をやった。
「で、ニギヤマ博士は?」
「今、他の連中が連れてきているはずだ。
 とはいえ、そんな敵は予想していなかったからな。ちとマズッたか」
「……一応ニギヤマ博士が居れば強引な真似はしないと思うんですが……約一匹を除いて」
『ワカラナイ』
 声はオリジナルコアから。
『コピーガススムトメイレイジョウホウノレッカガオキル。ソウナルトパパヲオボエテイルカスラワカラナイ』
「……ありがちな話ではあるな。それにしても。この分だと自死をさせれば自分だけ武器を捨てるようなもんか」
「……そうなりますね。方法はコピーを討伐していくこと、でしょうか」
「その前にキノコの処理が先だな。まぁここが無事なだけマシだ。なんとか運び出す手段を講じないとだが」
 広がるキノコは数にして数百個。変身したザザならば背中に乗っけて持って行けるかもしれないが、タンポポやホウセンカの迎撃を考えると取り落とさずに帰るのは難しそうだ。
「とにかく、博士を待ちましょう。他の人も来るでしょうし」
「……まぁ、そうなるか。それに、どうやら先客も来たみたいだしな」
 周囲の気配にいまさら気付いたヨンははっと戦闘態勢を取る。
「もうしばらく休んでても良いぞ」
「そういうわけにはいかないでしょう。……それにしても、博士を探しに行ったはずなのに」
『チガウ』
 コアユニットは首を振る。
『モットレッカシテル。ソレモイッパイ』
 雑草を踏み分けて現れる影はどれもこれもコアの面影を持ちながらも形が崩れたりしている。 
「ザザさんが着てくれて助かりましたよ」
「生き残ってから言いな」
 にぃと笑って構えをとる。

 再び、森の中心での戦いは幕を開けた──────


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 はい、神衣舞です。
 なんというシリアス。ギャグはどこ!?
 まぁ、ともあれ次回最終回のつもりですのでラストアクションをお願いします。
 今回ノーリアクションの人が救援してくれるといろいろありがたいかもねー。
 それでは次回リアクションお願いします。
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