まっかなはなのプレゼント
(2010/12/02)
「諸君!」
男はウォッカと葉巻で焼けたダミ声を響かせる。
そこはさながら軍の司令部という様相だ。壁際には様々な地域の地図が表示されたモニター。そして同じ制服で統一されたスタッフがそれを見上げ、次々と処理を行っている。
「我々はついに理想の拠点を発見した!」
男の背後にある100インチを軽く越える大画面モニターには一つの町並みが写し出されていた。
筋骨隆々、頬には左目まで走る古傷。そのためかアイパッチが彼の片目を覆い隠している。
何よりもそのオーラが違う。それに刺激されてか、もともとの錬度が桁違いなのか。声を拝聴する者達は微動だにせずマスターと崇める男を見上げる。
「多重交錯世界《ターミナル》。こここそが我らの理想郷だ。
思えば多くの同胞が志半ばに消えていった。歴戦の猛者達がここに戻る事適わなかった……!」
その声を聞く者達の表情にほんの僅かな変化があるのは、先輩を、同胞を、そして手塩に掛けて育てた後輩を失ったからか。
「だが、見よ! この世界にある『扉』というシステムさえあれば我々はその目的を適確に遂行できるのだ!」
声に出さず、しかし歓喜のオーラが場を満たす。
「だが、無論安易に喜んではならない。そして君達を招いた理由はそこにある」
男はニヤリを笑い、居並ぶ猛者を見渡した。彼らは自らが選抜したエリートなのだ。
「現時点を持ってオペレーション・ニューゲートの開始を宣言する。
君達は現地クロスロードの先行駐在員と合流後、各世界への移動を開始。任務の遂行に当たれ!」
ザッ と、一糸乱れぬ音と共にするのは敬礼。
「往け! そして新たな一歩を踏みしめるがいい!!」
男は真っ赤な戦闘服に包まれた腕をびしりと伸ばし、高らかに開始の一声を吼えたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「めんどくさ……」
金髪ツーテール少女が言葉通りの表情を浮かべていた。
「ったく。で、場所は?」
「分からないわ」
「はぁ?」
声はどこかから。しかし姿が見えないことをことさら気にする事無く、とりあえず不満感満載の疑問符を口にする。
「あんたが分からないって、どーいうことよ?」
「冬だもの。雪も降ってるし」
「……あー」
今は降っていないものの視線をめぐらせれば降り積もった雪を認める事が出来る。
「じゃあ量もわからないわけ?」
「ええ。ただ無意味やたらに仕掛けては居ないでしょうから、場所も限られてると思うわ。
管理組合本部に近付いたのはさっさと捕らえたんだけど、あっさり自決」
「本当にめんどうね。探し回るような仕事、あたらしらには向いてないって分かってるでしょ?」
「分かってるわよ? だからあなた達がするのは捜索じゃないわ」
「……」
え?と首を傾げ、それから見る見る嫌そうな顔に変化。
「ダイアクトー三世って使えると思わない?」
「ちょ! あたし一人にやらせるつもり!?」
「だってそこそこ体術できる女の子貴女くらいじゃない」
「……別の手段考える」
「どうぞ。いい案だったら採用してあげる」
姿無き声はそれっきり。
一人残された少女は盛大に溜息をついて、目の前の雪を蹴っ飛ばした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「サンタクロース、ですか?」
そういえばクロスロードもいつの間にか12の月だ。雨が雪として降ることもままあるようになってきた。
「ユキヤ君は知ってるのかい?」
秋口からやや着る物がもっさりしてきたグランドーグが書類を手に聞いてくる。
「ええ。クリスマスって行事の時にプレゼントを持ってくるおじさんですね」
「配給みたいなものかい?」
「いえ。ええとですね……」
説明しようとして一旦口ごもる。というのも煙突から進入して子供の枕元にプレゼントを置いて去っていくという説明はどうかなぁと思ってしまったのだ。
「……まぁ、配給に近い物じゃないですかね」
日本風のクリスマスなんかは単なるケーキを食べてプレゼントを貰う祭りでしかない。そんなものしか知らない以上、詳しく説明しても誤解を招くだけだろう。
「ふーん。まぁ冬場は食料も少なくなるしね」
妙な納得をした上司に苦笑いをするしかない。
「で、サンタクロースが来る、と言いますと?」
「そのままだね。彼らが《ターミナル》の『扉』を使ってその配給をしたいらしいんだ」
「……はぁ」
ユキヤの知るクリスマスはキリスト教にまつわる物だから地球世界独特のものだと認識していた。現にグランドーグはそれを知らないらしいし。
「で、クロスロードでの物流はウチだろ? 主なところは他世界への配達を行う中央本部で行われるんだけど、ついでというかクロスロードでも配りたいんだって」
「……ああ、街の中の配達はうちの支部ですものね」
そうそうと竜人は頷く。
「今年は実験らしいんだけど、上手く行くなら来年以降もやるんだって。
彼らも配送のプロだって言ってるし、あまり気にする事も無いと思うけど事務所を使うから一応ね」
「……はぁ」
それにしても。
参考にと手渡された資料にはサンタクロースという『種族』だと明記されている。
妖怪種、もしくは妖精種に仮分類され、業や功徳を生命エネルギーに変換して生きている。
「それで『良い子にプレゼント』かぁ」
他人の善行を貰って、その一部をお礼として対象の願望に添う形に練成する。そういう種族だと書かれている。
あるいは無から有を作り出すようにも見えるため、神族系に分類される可能性もあると追記されていた。
ちなみにどこの学者が追記したのかは知らないが「社会人になれば清濁併せ呑む事を共用され純粋な功徳を積みにくいため、子供のみとなっているのか?』という言葉が苦笑を誘う。
「功徳とか精神エネルギーで生きるとか言われてもピンときませんね」
「魔法が無い世界じゃそうだろうね」
コーヒーを入れながら応じる。
「彼らの基本サポートはPBで充分だろうし、まぁ仲良くやってよ」
「はい」
とまぁ、そんな会話があったわけだが。
そのときはまさかあんな事が起こるとは誰も思っていなかった。
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さて、また珍妙な事を考え付いたのでシナリオを開始しましょう☆
12月になるとTRPG大饗宴がやりたくなる神衣舞です。これで理解できる人は相当濃いと思いますw
というわけでショートシナリオのつもりですが楽しく参りましょう。
ちょっと更新ペース早くしたいが……まぁ、年越してもいいよね?
……ね?w