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【inv12】『まっかなはなのぷれぜんと』
まっかなおはなのぷれぜんと
(2010/12/16)

「ったく、何であたしが……」
 ぶつくさと言いながら手鏡でチェック。赤く染めた髪を下ろして仮面を手にする。
「あーあー」
 喉に手を当てて声を出しつつ目の前の計器を見る。本来の声音から変化し、一致したところでコホンと咳払い。
 遠くから見られることを意識した強めの化粧で顔の造詣は誤魔化している。近くでじっと見ればすぐに分かるが遠目から見ればその姿はダイアクトー三世そのものだ。
 彼女が居るのはニュートラルロードに面するちょっとした雑居ビルの屋上だ。吹き付ける風が寒い事この上ないが文句を言っても始まらない。
 よしと気合を入れる声もダイアクトー三世そのもの。
「聞きなさいっ!」
 張り上げた声が冬の大気をびりびりと震わせ、近くを歩いていた人々が何事かと見上げた。
「この街にあたしからのプレゼントをばら撒いたわ! 喜びなさいっ!」
 ある意味(本人は全く自覚していないが)この町最大の大道芸人であるダイアクトーの登場に周囲は「今度はなんだ?」と期待やら失笑やらの視線が集まる。
 その時には戦闘員がわらわらと集まり始めていた。一体ドコから聞きつけてきたのかというほどの素早さである。
「プレゼントは24日にこの街に綺麗な花を咲かせる。美しい花に逃げ惑い、怯えると良いわ!」
 誰もが何の事かと顔を見合わせる。綺麗な花から逃げるというその意味を図りかねていた。
 実質はファンクラブである戦闘員達の反応はまた少し違う。というのも
「ダイアクトー様、噛まなかったな」
「多分誰かが作ったシナリオなんだろうけど、大抵そういう場合噛むもんなぁ」
「でも、ダイアクトー様、理解してるのかな?」
 まるで子供のお遊戯会を見守る親の会話であるが、どこか違和感を感じているという顔つきである。
「で、今回はどういう話なんだ?」
「いや、俺は聞いていないぞ?」
「こういう大掛かりなシナリオの場合、黒服さんから通達があるもんだけどなぁ」
 親衛隊とも呼ばれる7人の黒服は彼らのリーダー的存在である。まぁそのために真性のロリコンだとも目されているのだが。あと1人くらいドMの変態が居るし。
「のんびり待つのも、必死に駆けずり回るのも自由よ」
「貴様、誰だ?」
 まるで闇から伸びるような声に彼女は反応しない。わずかばかりに視線をずらせばそこには黒服の姿がある。
「誰ってどういう意味? 私の顔を忘れたとでも言うの?」
「詰まらない冗談を言うならば容赦はしない」
 流石に親衛隊の1人を誤魔化せるとは思っていなかったがまさかここまでの接近をいとも容易く許すとは思っても無かった。
 チと口の中で舌打ちして
「誰って、今はダイアクトー三世に決まってるじゃない」
 全く同じ声音で、しかし本物が浮かべる事がまず無い冷め切った嘲笑を見るや黒服が動いた。
 一足で踏み込める距離。必中の一撃はしかし空を切る。
「幻影、だと!?」
 魔術を使った様子は無い。もし使われていたのであれば彼が気付かないはずが無かった。
「悪いけどあんたを相手してる暇は無いの。それに、あんたの方もあたしの相手をしてる暇は無いはずよ?」
 声は違う方向から。
「ッ! 現象使いかっ!」
 極稀に異常な親和性から魔術を介さずに無機物を操作する種族が居る。それと悟った時にはもう遅い。100mの壁を突破されてしまえば超感覚による探査は不可能だ。
 黒服は眼下の騒ぎを睨み、それから不意に視線を上げた。

 どぉおおおおおおおん!!

 轟音。サンロードリバーの辺りで巻き起こったそれは続けてもうもうと爆煙を上げ始める。
「真っ赤な花、だと」
 悟る。つまりあのニセモノは秘密結社ダイアクトーに罪を着せようとしている。
 否────
「それならば爆発した後に犯行声明を出せば良い。先んじたという事は」
 面倒な事に巻き込まれたかと瞑目し、すぐにその場を離れた。
 予想通りであればリミットは宣言通り24日。すぐに戻り対策を立てねばならない。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇
 
「テロ行為だと?」
 作戦指令室に座する男が眉根を寄せる。
「はっ。クロスロードで任務中の隊員一名が事故を起こし、プレゼントが散乱。
 その捜索に携わってた住人が爆薬の仕込まれたプレゼントを発見したとのことです」
「馬鹿馬鹿しい、とは言えないのだな。我々の特性を彼らが信じるには時間が足りない」
 男は机に肘突き手を組んだ。
「で、管理組合からは何と?」
「事実確認のみです」
「安易に疑わぬか。混沌の町の支配者なだけな事はある」
 男はしばし黙考し、やおら立ち上がると周囲を見渡した。
「以後クロスロードでの作戦行動は中止とし、《扉の園》以外での飛行を禁止する。
 この旨を管理組合へと通達せよ」
「はっ」
「私はこれより管理組合に赴く。各世界への対応状況は逐一報告せよ」
「了解」
 お手本のような敬礼が周囲から返る。それを満足そうとも不満足とも見れぬ顔で見渡し、男は椅子を立った。
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