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【inv12】『まっかなはなのぷれぜんと』
まっかなおはなのぷれぜんと
(2011/01/18)
「これをお探しですか?」
 神官服を来たウェアウルフが差し出すのは確かにプレゼントの箱だ。
「昨日発見しまして、管理組合からの通知は存じていますから届けようかと思いまして。
 まだいくつかあろ、あしmpで届けていただけるのであればお渡しします」
「ありがとうございます」
 トゥタールは礼を述べて一度奥へと戻る司祭を見送る。
 双子神殿と呼ばれるサンロードリバーを挟んで立てられた2つの相似の建物。そのロウ側へとトゥタールは訪れていた。
「……ここのは爆弾で無いと良いですね、心情的には」
 特定の宗教と言うものが定着していないクロスロードであってもこの神殿の存在はわりかし奇異に思われる。更に宗教家にとっては顔をしかめざるを得ないだろう。
 というのもこの神殿、共同墓地ならぬ共同神殿なのである。特に一神教の司祭からは嫌悪される事この上ないこの場所だが、しかし人種の坩堝たるクロスロードでそれを声高に叫ぶ者もそう続かない。そういう場所だと割り切って利用するか、はたまた小さな神殿をどこかに構えるのが賢い判断という感じに落ち着いている。
 ────もちろん、落ち着かない連中も居るのだがそれはまた別の話。
 服装も聖印も違う神職の人々が思い思いに祈りを捧げたり、自主的に掃除をしたりしている。その中には年若い子供の姿もあった。宗教家のサガか、それとも信者を増やす確実な手段か。迷い込んだ子供を引き取る聖職者は少なくは無い。
「こちらです」
 彼が持って来た数はなんと3つ。最初のと合わせて合計4つとなる。
「……」
 そして、そのうちひとつはあからさまにカードが無い。
「で、ではお預かりしますね」
 よろしくお願いしますという声を背に、プレゼントを預かって早足に神殿から出る。確認作業は早めに行った方が良いようですねとひとりごちて

「─────」

 視線に気づく。
 視線を直接向けるような真似をせず、偶然を装うようにその存在を視界の端に捉える。黒服───ダイアクトー一味の親衛隊と同じ装いだが基本ガチムチの連中と違ってスマートな人間種だ。
「ダイアクトー……では無さそうですね」
 彼らとの圧倒的な差は無駄に洗練された気配消し。親衛隊の連中はこれから騒ぎを起こす合図とばかりに気配を振りまいている。
「暗殺者の同類でしょうかね……さて」
 踏み込むには間合いが遠すぎるし、捕まえたからとどうなるか不明だ。
「まずはこれを処理しましょうか」
 あちらもこちらに詰め寄る様子は無い。
 トゥタールはなるべく人通りの多い道を求めて歩を進めた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ロウタウン側では朝の4時か5時くらいから朝市が開かれる。これは一般商店が開店する8時まで行われ、住民として登録していない───つまり店舗を持たない人々がフリーマーケットのように売買を行える時間帯だ。
 朝市はロウタウンでしか行われていない。代わりに、ケイオスタウンでは夜市というのが行われる。
 夕方の4時頃から開かれるこれは主に食品を取り扱う店が多い。というのも夜型の住民にすれば朝食であると同時に、歓楽街を有するケイオスタウンでこれから楽しむ、もしくは持て成す人々の腹ごしらえの場所という雰囲気が強い。もちろん酒を提供する店も少なくなく、そのまま居座って深夜まで飲み明かす者も居る。
「さて」
 そうは言っても別に食べ物関係ばかりではない。やや怪しげな物が並ぶ露店を脇目にヨンは賑わい始めた道を往く。
 プレゼントについては管理組合の告知もありそれなりに知れ渡っている。それでもこの夜市に集う売人どもは拾ったそれを平気で売りさばきかねない。
 そして奇しくもその予想は的中した。
「あの……」
「はい、いらっしゃい!」
 一見子供だがホビット種だろう。ニコニコと店主が迎える声を挙げる。
「それ、何か分かってますか?」
「商品です!」
 一応期待して聞いてみたが分かってない───或いは、分かってそう答えているのか。
「……いくらです?」
「2万Cです」
 ……果たして高いのか、安いのか。
「ちなみに売れなかった場合どうするつもりですか?」
「どうすると言いますと?」
「例えば今が23日の午後11時だった場合」
 ホビットは笑顔のまま────ほんの少しだけ目が細められる。
「質問の意味がわかりませんね」
「……」
 どう、相手すべきか。
 危険だとかそういう言葉が通じる類の人種ではなさそうだ。一番手っ取り早いのはお金を支払う事だが……
「おっと値上げしました。5万C」
「なっ!?」
 いきなりの宣言に目を剥く。
「お兄さん。市場は常に動き続けるんだよ。一秒の差で手に入れられなかったりするんだ」
「い、意味がわかりませんよ!?」
「そう言ってる間に20万C」
 ケラケラと笑いながらの発言に白黒させた目を閉じて嘆息ひとつ。
「……機会が無かったと思って諦めましょう」
「そうかい? ところでお兄さんは何でこれが欲しかったんだい?」
「……集めるのが依頼で、爆弾かもしれないからです」
「本気で言ってる? これ、サンタとかが欲しい物を出すっていうミラクルアイテムらしいじゃないか」
 本物ならねとホビットは笑う。
「良い子に与えられる物らしいですからね。自分の物にしようなんて欲を持って懐に入れても意味が無いんじゃないですか?」
「あはは。それもそうだね。じゃあお兄さんこういう取引はどうだい?」
 箱の底面を指で持ち、スナップだけで回転させるとくるくると回る箱を器用に人差し指の上で維持。
「お兄さんが箱を開けた中身を教えてくれるなら、これは挙げるよ」
「……爆弾かもしれませんよ?」
「爆弾じゃないさ」
 さらりと断言する。
「こっちとホビット族。人間種の細工した箱なら一発でわかるさ。
 これはそういうシロモノじゃない。技術で作れるものじゃないからね」
「……」
 確かに相手の願いのままに中身を変える箱なんて高位神族の御技でもそうそうある物じゃない。
「それで譲っていただけるなら」
「はは、お兄さんは人に見られて困るようなお願いはしなさそうかな」
「どうでしょうね。楽しみにしておいてください」
 ぽんと回転しながら宙を舞った箱をヨンは両手でキャッチし、「毎度あり」と言うホビットに微笑んだのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

『爆弾3つお預かり』
 センタ君がボールの手を挙げる。その後ろで爆弾判定されたプレゼントを3体のセンタ君がせっせと運び出していた。
「3つも、ですか」
 トゥタールはため息をついて残った一つを抱きかかえる。
 相手の目的が何であれ、それはテロと言うしかない行為だ。宗教的な象徴をその目標に選ぶ心理はわからないでもない。同調したいとは思わないが。
「いったいいくつ仕掛けているんですかね」
 目下増加中という可能性もある。そもそも何のためはさておいても『誰が』もわかっていない。
「今、爆弾はいくつくらい発見されているんですか?」
『39個』
 プレゼントのサイズを考えるとやはり随分な数だ。
「それだけの物資を運び込んだ……? あ、いや、難しい事ではないですね」
 クロスロードと他世界の物資のやりとりはそれこそ日に千トンという勢いで行われる事すらある。クロスロードに齎される物もあれば、このターミナルを中継して別の世界へと行き来する物もあるからだ。そこにたかだか爆弾の100個や200個、まぎれても見とがめられる物ではない。大体武器弾薬だって普通に輸入されているのだから。
「これ、何とかなるんでしょうかね……?」
 今のところ犯人の仕掛けた爆弾は24日に爆発する設定にはなっている。理由はわからないがそれが回収と言う手段がとれる要因だ。
 しかしそれも犯人の心次第。別に今すぐ爆発する設定にできないわけではないはずだ。
「もはやサンタ種の仕業に見せかける必要性も薄い気がしますが……」
 残った一つのプレゼントを手に視線を背に確認する。双子神殿からその視線はずっと追いかけてきている。
「……ふむ」
 トゥタールは僅かに考えて歩きだす。
 路地に入り、ゆったりと歩く先はどんどんと人通りが薄くなる。
 追跡者は1人。それを把握してありきたりの引っ掛けを行う。つまり角をひとつ曲がって近くに潜む。
 数秒あってやや小走りにやって来たのは人間種らしき女性だった。人間種と見るならば年齢は25には至っていないだろう。彼女は焦った顔をして通路の先へと───トゥタールが行っただろう先へと走り始める。
「……プロ、と言う風には見えませんが」
 どう見ても戦闘屋にもテロリストにも縁遠そうな感じだ。一般市民に紛れるのが得意な超一流のスパイ────にしては尾行がお粗末すぎる。
 彼は木箱の影から出ると女の後ろを逆尾行。完全に見失ったと思いこんでいる彼女は困ったように周囲を見渡して、やがて諦めたように俯いた。
「……私に何か用ですか?」
「きゃぁっ!?」
 本気の悲鳴に思わず耳をふさぐ。
「ちょ、何もしてませんよ!?」
「え、あ!? な、何で後ろに!?」
 これが演技だったら見事過ぎる。
「何ではこちらの台詞です。どうして私を尾行していたんですか?」
「……」
 女は瞳を逡巡に彷徨わせ、それから彼の持つプレゼントに固定する。
「……彼を止められる人を探しているんです」
「彼?」
「……爆弾をこの町に仕掛けて回っている男です」
 思わない言葉に息をのみ、それから不安に揺れる女性を見る。
「だから、プレゼント────それに偽装した爆弾を持ち歩いていた貴方を見つけて……」
 そう言えば、と彼はもうひとつの荷物を見る。プレゼント探しの効率UPのために、プレゼントのサンプルを作って持ち歩いていたのである。今回の回収には役に立たなかったがどうやら別の物が釣れたらしい。
「……彼を……説得したいんです。でも、彼のやってる事は即座に殺されたっておかしくない。だから、爆弾を回収している人で話ができそうな方が居ないかと……」
「ふむ。恋人か何か……ですか?」
 女性はしばし逡巡した後に小さくうなずく。
「あっちはそう思ってくれてるか、わかりませんけど」
「……爆弾魔は1人、と」
 その呼称には抵抗があったのだろう。また僅かな間があり、しかし女性は頷いた。
「彼は少し特殊な環境で育ったんです。……そしてそれは爆弾作りの才能として開花してしまった。
 それを組織は利用する事にしたらしいんです。この町を支配するために」
「それを貴方は止めに来た?」
 女は押し黙り、それから一度ぐっと歯を食いしばってからトゥタールを見あげる。
「私は、現地駐在員です。この町の状況を逐次組織に報告するためにここに居ました。
 ……彼は私に巻き込まれただけなんです」
 これはまた複雑なと内心で呟く。
「私の名前はレイヤー。彼の名前はマドゥイック。……身勝手なお願いかも知れませんが、彼を止めるのを手伝ってください……!」
 女性の必死な面持ちを見て、トゥタールは判断をするために沈黙した。

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時間がかかって申し訳ない!!
神衣舞です。というわけでなんか女性が釣れました。
裏ではダイアクトー一味が頭領のご機嫌とりつつ爆弾回収中だったりしますがそれはさておき。

さて次回は解決編前篇となると思います。
リアクションよろしゅーーー。
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