<< BACK
【inv12】『まっかなはなのぷれぜんと』
まっかなおはなのぷれぜんと
(2011/02/01)

「本来プレゼントを貰う子供、ですか?」
 ヨンの質問にSANTAは不思議そうな顔をする。
「ええ、集めきらなかった場合その子供にはプレゼントはあげられなくなるとか、そういう事なのかなぁと」
「……」
 少し難しい顔で考えていた彼は、何かに気づいたようにぽんと手を打つ。
「プレゼントの配布予定なんてありませんよ?」
「は?」
 今度はヨンがキョトンとする番だ。
「余りおおっぴらにするのは好ましい話ではないのですが……
 内々にということであるならば説明いたします」
「……はい」
「我々は『徳』を分けてもらって生きる種族です」
「……徳?」
「はい。善行を行うと徳は溜まります。それを我々は頂くのです。
 そしてその余りをプレゼントと言う形に還元して置いていきます。
 我々以外にも神族の一部が幸運と言う形で加護を付与する代わりに徳を持って行く事もある見たいですね」
「……つまり、貴方がたは『徳』とやらを持っている人を探して、それを貰う代わりにプレゼントを置いていく、と?」
「はいそうです。ほとんどの種族は『徳』を持っていてもそれを利用する事ができませんから、持って行かれた人が困るような事は特にありません。
 まぁ、徳を利用できる能力を持つ種族であれば我々が近づけば気づくので遠慮してますね」
「じゃあ、プレゼントは別にあげてもあげなくても良い、と?」
「極論で言えばその通りなのですが、我々はそういう種族なのです。すでに徳を貰うという行動にプレゼントを生みだすという結果が付随しているのですよ。
 しかし、私はそのためのツールを落としてしまいました」
「ツール? それがプレゼントの箱ですか?」
「その通りです。あれは徳の吸収装置のようなものです。本質的には魔法使いの魔法陣に近いのですが……
 我々はプレゼントボックスを使って徳を貰います。その際に箱には徳がある程度残留します。
 そこに願いというイメージを付与する事で臨む物を形成するんです」
「ではプレゼントボックスを失ったあなたは……いうなれば食事ができない状態、と」
「はい。我々は回収期以外の間にプレゼントボックスを生成します。それぞれがそれぞれのプレゼントボックスを形成するので、他人の物は使えません」
「……なるほど」
 つまり徳を持ってる子をSANTAが見ければ、結果としてその子にはプレゼントが渡されるわけだ。
「子供が対象になりやすいのは純粋な徳というのは聖人君子のような悟りを開いたような人でない限りは精製されにくいからです。
 成長し、思惑が複雑化すると善行に躊躇いや計算が少なからず混じります。それが徳を歪めてしまうのです」
「全部集めてもらえれば越した事はありませんが、多少足りなくてもなんとか今年一年生きていく事はできます。
 しかし、今何よりも問題なのはSANTAという種に対しての疑念が生まれる事です」
「爆弾、ですか」
「はい。徳をエネルギーにする我々はイメージにとらわれやすいのです。マイナスの感情は我々にとっては石を投げられるようなものなのですよ」
 いくら犯人じゃないと言っても、合致してしまった状況で少なからず負の感情を抱く人も居るだろう。
「かつてSANTAの中にそういうマイナスイメージに侵され、黒SANTAとなり果てた者も居ると言います。
 彼らは悪徳を狙うようになり、それを持つ者に悪徳の名残りとして不快な物をぶちまけて去っていくようになったとか」
 聞けば聞くほど神族に近いように思える。
「ええと、不躾ですけど。SANTAって生まれながらにSANTAって事なんですか?」
「んー、生まれるとかどうとかは何とも。我々はSANTAなんですよ。人間種のように子供を産んだり育てたりするわけでもなく、最初からSANTAとして存在し、ずーっとSANTAなんです」
「……不老不死、ということですか?」
「そういう言い方もできるかもしれません。現象に近いのかもしれません」
 ヨンが思い描いたのはどちらかというと精霊だ。最初からそういうふうに発生して、存続していくような種なのだろう。
「なるほど、分かりました。じゃあまた見つけたら持ってきますね」
「申し訳ない、よろしくお願いしますよ」
 とりあえずやましい事はとにはないようだ。
 十全信じるかどうかはさておき、説明に淀みや嘘の気配はなかったように思える。
「何にせよ迷惑なのは爆弾魔、というところでしょうか」
 そう嘯いてヨンは次にどうするかを考え始めた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「……」
 管理組合にその事を全て話してみてはどうか。
 トゥタールの提案にレイヤーが押し黙ってから数分が経過していた。
 今現在、そのテロ行為を止めようとしているにせよ彼女の立場はスパイだ。普通に考えれば自首しても二人まとめて逮捕されて殺されるだろう。
 無論ただそうであるならばこんな提案などしない。トゥタールだってここがクロスロードでなければそんな提案はしないだろう。
 しかし賞金制度の根幹はこの町の安定した運営を阻害する者に大きな賞金を科す。果たして管理組合がどんな決断を下すかはやはり知れたものではなかった。
 それに仮に無難な処置で済んだとしても故郷からの制裁があるかもしれない。もしかするとそちらの方をより強く恐れているのかもしれない。
「或いは────」
 トゥタールは静かに切り出す。
「サンタさんにお願いするのはどうでしょうか?」
「……彼らに、ですか?」
 戸惑うのも無理はない。彼女らは彼らに罪を着せた張本人でもある。
「ええ。彼らの報酬でプレゼントが貰えます。或いはそれで────」
「でも、何を貰えば……?」
 そう問われれば言葉に困る。何かアイテムの一つでもあれば解決する……という状況とはちょっと思えない。
「ああ、でも彼らに協力を仰ぐとかどうでしょうか。少なくともマドゥイックさんを見つけられれば爆弾の位置もわかりますし、彼らにとっては万々歳のはずです」
「……」
 とはいえ、彼らが一番恨むべきもそのマドゥイックである。それが彼女らの所属する世界が黒幕だとしてもだ。
 トゥタールの提案が間違っていると言うわけではない。二人でちまちま探している間にマドゥイックは次々と爆弾を仕掛けているかもしれない。一刻も早く仮の身柄を取り押さえる事が結果的に罪を軽くする事にもなる。爆弾が爆発してしまえばそれも叶わないだろう。
 十数秒。レイヤーは息を止め、そして視線を挙げる。
「分かりました。管理組合に全てを話します」
「……はい。では取次を────」

 コンコン、と壁材をノックする音が路地に響く。

「お取り込み中ごめんねー」
 そこには仮面を付けた少女が居た。
 真っ赤な髪で小柄な体にはパンクな装いを付加したボディスーツ。
「ダイアクトーさん? ……いや」
 記憶を辿るが、違和感がある。
「はいはい、ダイアクトーさんですよっと。そういう事にしといて」
「……」
 自ら違う事を認める発言をして口元を本物ではありえない笑みの形を作る。
 苦笑───
「それで、ダイアクトー三世殿が何の御用で?」
「今の情報を買いたいの。どうかしら?」
「買う? 買ってどうするんですか?
 聞いた話では貴方がたが爆弾魔になっているはずですが─────、いや、貴方が、ですか?」
「そうそう、『秘密結社ダイアクトー』が今回の爆弾騒ぎを起こしてますよっと。あんまり信じてくれてないけどね、みんな」
 適当な調子ではぐらかしつつ少女は仮面の奥の瞳を向ける。
「どうして欲しいの?」
 からかいの響き。トゥタールは僅かに眉根をひそめる。その喉から出る声音はダイアクトー三世と全く同じなのに含む感情でこうも違うのか。
「できればマドゥイックさんは平穏無事に引き渡していただければ、と」
「構わないよ?」
 さらりと承諾の言葉が返ってきて訝しむ表情を濃くする。
「もちろん条件はあるわ。
 そっちの女を含めて『自白しない事』。この事件はダイアクトー一味の仕業です。そういう事にして故郷の世界とも縁を切る事
 もち、マドなんちゃらってのも説得してよね?」
「……ダイアクトー一味に恨みでも?」
「ないよ。そんなもん。どーでも良いし」
 わけがわからない。では何故そんな変装までして彼女らに罪をなすりつけようとするのか。
「説明は無し。質問もこれまで。あたしが聞きたいのはYESかNOか。そのどちらかよ」
「YESと言えば、マドゥイックも助けてくれるんですね……?」
 質問は無し。その言葉を念押しするような沈黙にレイヤーは奥歯を噛み締める。
 そして彼女の視線はトゥタールへ。彼女がNOと言う理由はまず無い。しかしこの条件にはトゥタールの協力が必須だ。
 その視線にどう応じるべきか。彼はゆっくりと二人の女性に視線を巡らせた。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
時間がかかって申し訳ない!!その2!!
ちょっと執筆環境が変わってるので調整中。加速したいなー(ノ=ω)ノ

神衣舞です。というわけで更に女性が釣れました(笑
次回最終回を予定しております。
果たしてその思惑とは──────!

 黒服さんたちが裏で頑張ってるんだけどね(笑
 まぁ、そういうわけでリアクションお願いしますねー。
niconico.php
ADMIN