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【inv13】『襲来! (=ω=)』
襲来! (=ω=)
(2011/03/05)
「随分と大胆な作戦ですね」
「そーいえば、アレ預けっぱなしだからまー、なんとかなるんじゃない?」
「……多用しても良いのでしょうか?」
「わっかんない。でも出し惜しみしてもしゃーないしねぇ」
「……」
 ため息。そして視線は遥か北へと向けられる。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「よし、ここに陣を作ろう」
 ジープから飛び降りた青年がそう声を響かせた。
「予定通り展開を頼むよ」
 やたら爽やかな声音に向けられるのは冷めた半眼。ややあって彼女は車を降りて周囲を見渡した。
 僅かな集中とそして魔力の放出。

 ゴゴゴゴゴゴ

 地面が揺れる。探索者達はただ茫然とその光景を見ていた。
「話には聞いた事があるけど、凄いわね」
 クネスが呆れを通り越した苦笑を持ってそう呟いた。
 一同を囲む12体のゴーレム。その体長は10m近い。それを一瞬で作り出した少女はさっと杖を奮う。
 ゴーレム達は地響きをまき散らしながら移動し、突如その形を崩す。しかしそれは崩落ではない。適切な場所で変化をしただけ。あっという間に半径20mほどの円形に1メートル半ほどの高さを持つ塹壕が構築されたのだ。
「手を加える必要もねぇな」
 力仕事ならと考えていたザザも肩を竦める。
 そうしているうちに小さなゴーレムが作り上げられて移動。数秒後には土壁の家が2つ、その中に作り上げられていた。
「……」
「何ですか?」
 周囲の探索者達が圧巻という雰囲気になるのは当然だろう。しかしそれを知って指示したはずの青髪の青年が抱く何かを透かし見るような眼にアースは訝しげな表情を作って睨み返す。
「いや、御苦労さま。さぁ、みんな。とりあえず1時間休憩しよう。作戦についてはそれから改めて説明する」
 この地に訪れた探索者は計12名。
 死地のど真ん中とも言える場所での偵察作戦が始まった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「あれ? おかしいなぁ」
 各砦は大襲撃を想定した出城としての機能を想定されているためそれなりの規模を有する。しかし建物はそう多くなく、人探しに苦労するという程でもない。
 きょろきょろと周囲を見渡すが、どこを見ても忙しそうに防衛任務の準備をする探索者ばかりが目にとまった。
「アルカさん、どこに行ったのかな?」
 ヨンは先ほど会った猫娘を探していたのだがこれがどうにも見つからない。
「もしかしてもう帰ったのかな?」
 出張と言ってたから何かしらの作業をしていると踏んだのだが。
「んー」
 ぐるっと砦内を一周して砦の管理所に戻ってきてしまった。ここでは防衛任務の受け付けや割り振りを行っており、内部は区役所兼公民館のようになっている。
「ああ、管理組合の依頼かもしれませんね」
 そう呟いて内部へ。それからいつもよりは賑わいの薄いカウンターへと向かう。
「あのぅ」
「はい?」
 受付をしている有翼種の男性がヨンへと視線を向けた。
「ここに『とらいあんぐる・かーぺんたーず』のアルカさん、来ていませんか?」
「……? 少々お待ちください」
 男は立ちあがって背後でデスクワークにいそしむスタッフの方へと歩いていく。いくばくか話をすると話を振られたスタッフも知らないとばかりに首を振る。
 やがて戻ってきた彼は「いえ、今日はいらっしゃっていないと思います。少なくとも管理組合で彼女を招聘などはしていません」と答えた。
「ああ、そうですか。お手数をおかけして申し訳ありません」
「いえ」
 こうなると帰ったという可能性が高いなと考えて、ついでにと何か手伝いを雇っていないかと尋ねようとした彼は近づいてくる女性に気付く。
 青銅色の髪の女性────彼女はどこか遠くを見ているような、感情が薄い瞳をヨンに向けていた。
「管理官」
 有翼の男が漏らす言葉に確信する。彼女がこの北砦を任された管理官。スー・レインだ。
「あなた、ケルドウム・アルカを知っているの?」
「え、まぁ、お客としてですけど」
 抑揚の薄い声音に頷きを伴って返答すると「そう」と呟き、「丁度良い」と続けた。
「あなた、街に戻るつもりはある?」
「街に、ですか?」
「彼女に依頼している物を取ってきて欲しいの。お使いの手が欲しかったから知り合いなら好都合」
 淡々と続けられる言葉に「え」と声を漏らす。だってその相手はこの北砦にまでわざわざ来ていたはずだ。
「アルカさんなら先ほどここで見ましたけど?」
「……?」
 整った美貌がほんのわずかに歪む。それは訝しむという表情だろうか。
「私宛に届け物、ある?」
「いえ、受け付けていません」
 翼の男はスーの問いかけに即答した。それを受けて彼女は天井をほんの少し見て、ヨンへと視線を戻す。
「あなたが見たのはエンチャンターのケルドウム・アルカ?」
「え、ええ。そのつもりですけど」
「……」
 どういう事だ?と疑問が脳裏に疼く。
 サボって歩きまわっていたというのが一番ありそうな回答だろう。しかしそこらの探索者相手ならまだしも管理官なんていう人の依頼を放り投げて?
「……」
 またしばらくの沈黙。それから彼女は眼を数秒伏せた。
「その件はどうでもいいか。あなたが街に戻って彼女から荷物を受け取ってここまで戻ってくればなにも問題は無い。お願いできる?」
「……」
 先ほど猫娘と出会ったときにあった嫌な予感が彼の胃をぐるりと威嚇した。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「来やがったぜ。間もなく地雷原に突入する」
 翼を生やし、その巨体を空へと持ちあげたザザが下へと声を飛ばす。
 その数秒後

 どどどどどどどどどどーーーーん

 一つの爆発が連鎖爆発を生んだ。
「あいつら……」
 ザザの声はもはや届きようがない。そんな音の嵐の中で彼の両目はその爆発を避けようともせず、むしろ「ひゃっほい」と飛びこまんばかりの(=ω=)を見た。爆風に飛ばされて空中で爆発する個体も次々と発生している。
「知性が無いのか?」
 まるでレミングスの集団自殺だ。次々に吹き飛んで、集団ひとつが爆発に散っていく。
 と─────

 どどどどどどどどどどーん

 爆発が違う場所で華を咲かせる。
 一度爆発し、吹き飛ばされたナニカが空中で復活し、着地の衝撃で再爆発したのだろう。
「《復活》か、タチが悪いな」
 起き上がるならもう一度ブン殴れば良い。それだけの事だったはずだが存在自体が爆弾であるナニカがこの能力を持つと別種の脅威に変貌している。
 無事に(?)復活したナニカが行軍を再開する。折角設置した地雷原は全て最初の爆発で吹き飛ばされており最早意味を為していない。
「自爆兵ってのは人間でも厄介だからな」
 怪物の脅威はその数、性能の多様性と同時に自らの命を顧みない突撃にある。その上爆発されてはたまった者では無かった。
 足元で攻撃の光がきらめいた。残ったナニカがあっけなくその攻撃に爆発していく。
 やがて静かになるとザザは地面に降り立つ。
「罠を避けたりする事を懸念してたけど、それ以前の問題だったわね」
「踏んで吹き飛ばす。あれじゃ資源の無駄だ。銃弾一発の方が効率が良い」
 クネスの言葉にザザが苦みを湛えつつ応じる。
「それに対しても爆発自体でナニカが周囲にまき散らされ広範囲に二次被害が発生する。これは北砦まで近づけるとどれだけ被害を受けるか分かった物じゃないね」
 イルフィナも苦笑を禁じ得ない。
 数度の実験ではナニカがこちらからのアクションに一切の抵抗も反応もせずただ近づいてくるという結果だけが残された。そして許容量を超えた攻撃の結果はやはり自爆である。
「怪物連中とは意思疎通はできないが、それでもやりあっていれば恐れや警戒という内心が透けて見える事がある。だがあいつらはわけがわからねぇ。兵器の類と思って相手した方がいいのかもな」
「そうなるとますます相手の総量次第になるわね……」
「総量か。キミは確かあのナニカがフィールドモンスターの使い魔か何かではないかと言っていたね?」
「可能性としてはあり得ると思っただけよ。もしかしたらあの第一発見のパーティがターゲットになっててそこに向かっているかもと思ったけど」
 時間を決めてヒャッハーズには場所の移動をしてもらっているはずだが進行に特別な変化は見られない。
「だが。フィールドモンスターがこれの発生源であるというのは私も予想していた事だ」
 イルフィナの言葉に皆言葉を留める。
「が、余り想像したくない真実でもある。もしそうであるならば、我々はこれだけの数のナニカを生み出す怪物の足元にまで近づかねばならないのだから」
「……」
 確かにぞっとしない話だ。しかし────
「でも、できない事でもない」
 アースの発言はクネスが提案した実験に則する。全員の視線が集まる先、そこには小さな土の囲いがあった。
「(=ω=)」
 その中に一匹。ナニカがぷるぷると震えて収まっていた。
「まさか手を出さなければ本当に何もしないとは」
「このまま放っておくといつかは自爆しそうではあるけど。壁にぶつかって勝手に傷ついたりとかね」
 クネスはそう言う物の今のところ大した動きは見せていない。1人上から観察しているのだが、大人しいものである。
「……視線に弱いとかか? いや」
 ザザがふと思いつきを言うが、自分で否定する。そうならばそもそも近づいては来ないだろう。
「ともかく出足は順調だ。可能な限りいろいろな事を試してみよう」
 一同は頷いて次の準備へと取りかかり始めた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「こんなに簡単な事なのにね」
 ここではないどこかで呟きが漏れる。
「気付かないなんて……。違うか。気付いてて口にしてないだけ?
 ……多分そーだろうねぇ」
 そしてそれは生み出された。
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ちゃお。(=ω=)です。
自爆していいですか?(うずうず
余談ですがナニカは最初管理人のPCとして用意した経緯とかあったりなかったり。うひひ。久々にデータ見て「うわ。なんでこんなスキル持ってるんだよ!?」って驚いた自分がいますがw
もう一回だけ斥候組は現地派遣です。次はどういう展開になるかは分かると思いますが。ええ、お約束です(くふ
一方でクロスロードの方でもいろいろ起きます。新規参加誰かしねーかなぁ。
ヨンさんが一人でどこまで行けるか!(笑
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