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【inv13】『襲来! (=ω=)』
襲来! (=ω=)
(2011/03/16)
 どーん、と。もう聞き慣れ過ぎた爆音が響く。それを見守る人々の表情は一様に困惑を表していた。
「一言で言うと子供の思考回路だな」
 代表するようにイルフィナが口を開いた。
 ナニカは興味を引く者があれば近づき、火があれば怯えたり、何故か飛びこんだりする。近くの爆発に怖がるように逃げる者も居れば、はしゃいだ様に周囲を飛び跳ねる者も居る。
 まるで子供の反応とはそういう一連の行動を指した物だ。
「しかし一通り興味が離れると南下───クロスロード方面に進行を開始するようですね」
 アースがコホンと咳払い一つ、言葉を継ぎ足す。
「正確には『扉の塔』へ向かって、だろうがね」
「ねえ、アースさん?」
 クネスがひょこりと現れてそう声をかける。
「はい? 何かありましたか?」
「ちょっと質問なんだけどナニカと同じ機能を持ったゴーレムって作れるかしら?」
「……それは自爆や再生の能力を持ったゴーレムと言う事ですか?」
「ええ。例えば内部に炎の魔術を閉じ込めたり」
「いや、別に魔術でそこまで仕込まなくても爆弾を内包すればいいだけだね」
 困惑するアースを横目に青髪の青年が口を挟む。
「ただ、私のゴーレムはあくまでストーンゴーレムやマッドゴーレムです。
 爆薬のような物を内部に仕込めば歩行の衝撃で爆発しかねません。かといってリモコン式では100mの壁に遮られて実用的ではありません」
 ナニカは手ごたえ的にはゴムボールと言う感じだ。
「爆弾抱えてナニカが来る方向へ歩いて、接触したら爆発するようなのって作れないのかなぁと思ったんだけど」
「いや、それなら普通のゴーレムに直進させれば同じさ。ゴーレムの質量で踏みつければまず爆発するよ」
「……確かにそれもそうね」
 クネスはやや考えるような素振りを見せる。
「それともアースが犯人とか考えてるのかい?」
「……」
 冷たい視線に「冗談だよ」と軽い口調で応じ「しかし、同じような事ができるのであれば、そんな事をしでかしている誰かを疑う事もできるって事かな?」とクネスへ視線を向ける。
「森の一件があったばかりだもの。でも前々から四方八方から来てたから流石にそれは無いと思うけど」
「妥当な判断だね。フィールドモンスターを相手にする事を考えたらそっちの方が対処は楽だろうけど」
 再来の時にもフィールドモンスターの討伐は数十人単位で当たって辛勝という有様だった。相手にしなくて済むならそれに越した事は無い。
「しかしよ」
 ぬぅと巨体の影が一同にかぶさる。
「斥候の一つも出さなくていいのか? 発生させてる元があるって考える方が妥当なんだろ?」
 ザザの言葉に一様に口ごもる。その必要性は感じているが何を措いても危険なのだ。
「俺なら飛べるし速度も出せる。斥候には最適だが?」
「駄目だな」
「駄目ですね」
 管理官二人の即答にザザはやや不機嫌そうに眉根を寄せる。
「理由はあるんだよ。一人で荒野を行けばまず返ってこれない。飛行ならなおさらだ」
「やってみなければ分からない」
「わかるんだ。これまで何度も試して来たんだからね」
 イルフィナがぴしゃりと言い放つ。
「ガイアスが戦闘機や無人偵察機までこの世界に持ち込んで航空調査を行った記録がある。それをはじめとした全ての単独飛行のうち、目視可能な観測距離────つまり4km以上離れたユニットが帰還した例は1つたりともないんだ」
 そう言われては流石に返す言葉も無い。
「何より恐ろしいのは失踪の原因が未だに分からない事です。原因が分からなければ対策の取りようがない。それがクロスロードに航空機器が無い理由でもあります」
 アースの補足に苛立たしげに頭を掻く。
「なれば単独でなければ良いか?」
 少女特有の甲高い声。しかし老人のような言葉づかいで新たな問いが差し込まれる。
「ザザとか言うたな。わしくらいなら乗っけても平気そうじゃな」
 見た目の年齢は10歳くらい。場違いとも言えるふわふわのドレスとそれに負けないくらいにふわふわした銀髪。ビスクドールが人に化けたような少女にザザは訝しげな視線を向ける。
「ティア君。君が離れるといざという時に困るんだけどね」
「アリスがおれば問題あるまい。管理官が二人もおって泣き言もなかろうがの」
 まいったなと頭を掻くイルフィナにクネスも疑問顔を浮かべる。
「管理組合の子なの?」
「違うよ。南砦でMOB対応組の子なんだけどね」
 MOBとは数十から数百といった大軍で押し寄せる雑魚怪物を指す言葉だ。こういう手合いには範囲攻撃をぶつけなければあっさりのみ込まれてしまう事もあり、各砦には範囲攻撃を得意としたチームが専任として詰めている。
「二人になった所で消失の可能性が薄れるとは限らないのですよ?」
 アースが咎めるように言うが「こやつの言う事はもっともじゃろ? まぁ、ぬしの言う事もまた一理ある。ザザとやら、ぬしがそれでも行くならわしは付き合ってやろう」と少女は言い放つ。
「オーケイ、アリス君の説得は君がするってのがティア君への条件だ。
 あとはザザ君が今の話でどう判断するかだな。必要性はごもっとも、いずれ行くならここからの方が効率は良い」
「イルフィナっ!」
 アースが咎めるが、青年は取り合わない。ゴーレム使いの女性は射殺しそうな視線をしばらく向けていたが諦めたように一度閉じ、それから周囲に目線を巡らせる。
やおらふうと疲れた吐息を漏らした。
「危険です。できればやめてください」
 最後にそうとだけ口にしてザザの判断を待つように視線を向けたのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「なにか妙な流れに巻き込まれている気がするなぁ」
 そうぼやきつつ路面電車に揺られるヨン。
 北砦でスー・レインに頼まれたお使いは『とらいあんぐる・かーぺんたーず』に荷物を取りに行く事。しかしその前に遭遇した事件がどうにも腑に落ちていない。
 近くの駅に着いた。路面電車から降りたヨンはどこかあわただしい町並みを横目に『とらいあんぐる・かーぺんたーず』へと向かう。その店構えが見えてまずは足を止めると周囲をよく確認。
「ミサイルとか今日は無いですよね?」
 無論答えてくれる人など居ない。深呼吸して一歩、また一歩と前へ。とりあえず今日は大丈夫そうだ。何故か長く感じる数秒を抜けると木製のドアをゆっくりと押しあけた。からんからんとカウベルの軽い音がゴールのファンファーレに聞こえるのはどうかと思う。
「にゃ? いらっしゃーい」
 一瞬誰も居ないと思ったがカウンターの向こうからひょこりと猫耳が飛びだす。
「V様じゃん。どーしたの?」
「……」
 引っかかりを覚える。
「V様?」
「V様っしょ?」
 なにを言ってるの的な雰囲気でちょこんと小首をかしげる。
「……吸血鬼ではなく?」
「にゅ? 確かに吸血鬼にゃけど。ヴァンパイア様って言った方がいい?」
 確かにV様のVはヴァンパイアのVでもある。
「……。ちなみにアルカさん。今日北砦に行きました?」
「み? あちしは今日はお仕事でずーっと工房にいたけど? いましがたできたからこれからお届けのつもりだったんだけど。なにか急ぎの用でもある?」
 でんとカウンターの上に置いたのはリュックサック。カウンターの後ろでごそごそやってたのはそれに荷物を詰め込んでいたらしかった。
「スーさんへの依頼品ですか?」
「にゅ? なんで知ってんの?」
 口を噤み、状況整理。あれだけ真正面から出会い、会話してとぼける意味が分からない。
「いえ……スーさんから荷物の引き取りをお願いされたんです」
「にゅ? あちしが届けるって言ったのになう。まぁ、行ってくれるなら楽ちんにゃけど」
「……えっと、ホントに北砦には行ってないんですよね?」
「んー? なーにー? まるであちしのドッペルゲンガーでも見たような感じにゃけど」
 くいくいと首を傾げつつ、ふいにその動きを止め
「もしかして、あちしを見たとか言う?」
 すっと目が細められる。身長と共に子供じみたくりくりとした若草色の目が鋭い光を宿した。どう答えた物かと迷う間に「ふーん。そうなんだ……」と彼女は考え込むようにして呟く。
「可能性は考えてたけど……ドッペルじゃなきゃ厄介にゃね」
「アルカさん?」
 ぶつぶつと独り言をつぶやく猫娘にヨンはどんどん嫌な予感が膨らむのを感じる。
「ああ、うん。V様お使いだったにゃね。だったらこれ、届けてくれるかな?」
 ずいとリュックサックを差し出される。
「え? アルカさんは?」
「あちしはちょっと用事ができたにゃ。んじゃよろしくね☆」
 ひょいとカウンターを飛び越して外に出て行く猫娘に手を伸ばすがあっという間に扉を抜けて居なくなってしまった。
「……」
 どういう事だ?
 ヨンはうっすら思い浮かびそうな回答を形にすべきかどうかから悩みつつずしりと重い荷物を抱えたのだった。

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斥候案が出ましたが、一応出張組は帰宅準備です。
 ちゃお神衣舞だお。
 本当に斥候をやるんであれば返ってくるまでは待機と言う事になるかと思われます。
 一方のヨンさんはどこまで深みにはまるやら。

 さて、次のリアクションをお願いします。
 次回こなしたら「転」のターンに入る予定です。
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