<< BACK
【inv13】『襲来! (=ω=)』
襲来! (=ω=)
(2011/03/27)
「出る」
 ザザはしばしの沈黙の後で力強く言い放つ。
「そもそも敵の情報を得るのも陣を作った目的の一つだ。危険は承知で参加したはずだ。それにな、一度にこれだけの手練が集まる機会もそうそう無い筈だろう。
危険な状況に対して、強い対応力を持ったチーム……。
……不安は解るが、機は逃すな。」
 イルフィナはいつもの含んだ笑みを崩さず、アースはしばらく沈黙のまま、大男を見つめ、ややあって深くため息を吐いた。
「情報は持ち帰らねば意味がありません。無理はしないでください」
「分かっている。あくまで斥候だからな」
 ニィと笑みを作り、皆から少し距離を取る。
 ミチリ……と、ザザの体から音が響く。次の瞬間彼の巨体は何倍もの大きさに変貌していた。ただ巨大化しているだけではない。長大な角を有した長毛の獣がそこにある。
「お嬢ちゃん。速ぇぞ。振り落とされねえように、俺のたてがみを腰に結ぶんだ。
……人を乗せるのは初めてだぜ」
「ふむ。高速での飛行は慣れておるから気にせんでもよい。
 最近はワイバーンに乗っておるしな」
 その服を見る限り突風が吹けば風に乗って飛ばされそうにも思えるのだが、銀髪の少女は虚栄を張る事も、おじけつく事も無くただ事実と口にする。
「ティアロット君は分かっていると思うけど、なるべく低空スレスレを飛ぶようにね」
『何故だ?』
 体長が10mほどにもなったザザの問いにイルフィナはひょいと視線をあげる。
「さっきも言ったけどね、今まで単独飛行をして帰ってきた例は一件も無いんだ。ただホバークラフトはその限りにない。戦闘や回避の時に一旦空に逃げるのはアリかもしれないけどね、移動に限れば低空に居た方が良いだろう」
『なるほどな』
 元より危険な行動だ。そこに得られる安全があるのならば選択するに越した事は無い。
「多少囲まれてもティアロット君が居れば活路を作るのは難しくないだろう」
「まぁ、できる事はするよ」
 少女の体がふわりと浮き、ザザの上に乗る。彼女が触れていないのに毛がざわめくのは
『風か?』
「高速移動用の防風術じゃよ。本来は飛行魔術と併用するんじゃが、節約のために移動はぬしに任せるよ」
 事も無しと少女は言い、ザザはほんの少しだけ口の端を吊り上げる。
「地上で手の開いている奴は、陽動もやるだけやってみてくれ。……なんでもいい。ナニカが興味を引くなら、阿波踊りでも何でもやってみろ。」
「阿波踊りが分かりそうな人、居なさそうな……」
 アリスとか言う金髪の少女が呆れ気味に呟く。地球世界の中でもごく一地方の踊りを知っている可能性は限りなく低いだろう。
「こちらでもいろいろはやるさ。問題は視界外まで出た時だろうけどね。
 とりあえずは3時間。丁度日暮れ頃だ。それまでに戻って来なければロスト扱いとする」
 酷薄な言葉だが長逗留できる場所でもない。そして捜索する事もほぼ不可能だ。
『置いていかれないようにするさ』
「期待してるよ」
 ばさりと巨大な翼が大気を打つ。
『嬢ちゃん、いいか?』
「うむ」
 短い応答を聞き、彼はその身を陣の外へと向けた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 再度北砦に向かう前にヨンは最近行き慣れた感のある場所へと向かっていた。
 アドウィック探偵事務所。
 自称名探偵、通称人探しの達人の元へと足を進めながらヨンはぶつぶつと思いだすように独り言を口にする。
 実のところ彼にはアルカによく似た他人に心当たりがあった。しかし彼の時間からして100年も前の出来事だ。その記憶はやや曖昧としている。
「あの人、自分の事を異次元同位体みたいな言い方をしていた気がしますけど。
 ……あれ? 二重存在ってまずいんでしたっけ?」
『《ターミナル》を基礎とする理論上、二重存在という物は存在しないとされています』
 PBの声が脳裏に響く。どうやら質問と捉えたらしい。
「どういう意味?」
 丁度良いと問う。
『ユーザー様と良く似通った世界からユーザー様と姿かたち、来歴の似通った方が《ターミナル》に訪れる可能性はあります。しかしユーザー様とその方は別人です。ユーザー様視点で言う『他種族の見分けがつかない』という状況に等しいだけです』
「……つまり、私には見分けがつきにくいだけで別の人から見れば全然他人……ってこと?」
『正確な表現ではありませんが、契約等で魂の形を見極める種族等は間違える事は無いかと』
「……じゃあ、あれは別の世界のアルカさんである可能性はあるわけだ」
『ただ補足して申し上げると、これまで《別世界の自分》との遭遇例は1件もありません』
「……え?」
 それは少し気になる話だ。
『例としては数万確認されているはずの《地球世界》から、唯一個体とされる神族はそれぞれ1柱ずつしか確認されていません。これが偶然か必然かは今のところ不明です。
 ただ別名や別の姿とされる存在は稀に2重に見られる事もあります』
「……つまり、私は別世界の私に遭う可能性は低いって事かな?」
『報告件数0の事象です』
 何とも機械的な答えだ。今の理解としては「まずあり得ない事」と思うべきだろうか。
「じゃあ彼女は?」
 PBは沈黙。説明は機能にあるが解析や判断は仕事ではないという事か。
 そうやっているうちにアドウィック探偵事務所の看板を見る。
「すみません。居ますか?」
「やぁ、いらっしゃい。今度はどうしたんだい?」
 今度は、と言う言葉がやや引っかかるが最近そう言われてもおかしくないペースで着ている気もする。
「実はですね。アルカさんを探してもらいたいんです。いや、なんというかもう一人のアルカさんと言いますか……」
「ドッペルゲンガーでも見たのかい?」
 人探しを得意とする彼ならば先ほどのPBの説明はすでに知っているのだろう。さらりとそんな言葉が返ってくる。
「そうか、誰かの変身である可能性もあるのか」
 管理組合や大組織の幹部ほどではないが彼女も十分に有名人だ。
「……ん? 今度はどんな厄介事を引いて来たんだい?」
「……いや、まぁ厄介事と言いますかね」
 反論しても仕方ないと事のあらましをアドウィックに語って聞かせると探偵は考えるように視線を宙へ彷徨わせる。
「で、その偽物らしいアルカ嬢を探してほしい、と。
 しかし本物が追っているんじゃないのかな?」
「そう思うんですが……知り合いの可能性もあるので少し気になって」
「気になるくらいじゃ僕の所には来ないだろう?」
 まったくもってその通りだ。
「……私の知っている通りのあの人であれば、なにかやらかしても不思議じゃないんですよね……」
「……君は本当に正義の味方が似合ってるねぇ」
 楽しげに探偵は言葉を吐く。
「わかった。その依頼は受けよう。すでにアルカ嬢が動いているのであれば結果が出せるかは微妙だけどね」
「はい、お願いします」
 その瞬間。

 ぉぉおおおおおん

 遥かかなたからの音。またナニカが大量に爆発したのだろうか?
 音の方向をしばらく見つめ、思い出したように視線を戻す。
「これは正式な依頼と言う事で構いませんから」
「うん。わかったよ」
「所長」
 メイドさんが現れていた。
「どうしたんだい?」
「先ほどの爆発、北砦です」
「え?!」
 声を挙げたのはヨン。なにしろここを辞したら行くつもりだった場所である。
「間違いないかい?」
「位置だけで言えば87%と言う所です」
「砦はどうなったんですか?!」
「分からないよ。本当に北砦なら知らせは早くても十数分後さ」
 確かにその通りだ。むしろその速報自体がどこからの情報か気になる所だが、この探偵がネタばれするとは思えない。
「……私は北砦に行きます」
「わざわざ渦中に飛び込まなくても」
「……お使いも頼まれてますからね」
 ヨンは無理に笑って探偵事務所を飛び出す。
「お気をつけて」
 飄々としたアドウィックの声がその背中をなでたのだった。

 十数分後、ヘルズゲートに辿り着いたヨンはメイドの言葉が事実であった事を知る。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「要するに、怪物が知性を持っているかどうか、ということだね?」
 クネスの言葉をイルフィナはそう要約した。
「……そう言う事になるかしら」
「確かに大襲撃や再来、それ以外の怪物の襲撃を見る限り、怪物に知性は無いように見えるね」
 大襲撃といい再来といい、作戦行動らしい動きは一つも見られない。
「だが、戦争に置いてそれは珍しい事じゃない。数が圧倒的に勝っていれば下手な策を弄する前に突撃をする方が被害も費用も減るという物だ」
「でも結果はクロスロード側が守りきっている」
「その通りだね」
 一度言葉を切って考えをまとめなおす。
「あんな数の怪物、どこからくると考えているのかしら?」
「私は『もう一つの塔』はあると考えているよ」
 『もう一つの塔』。
それはクロスロードの真ん中にそびえ立つこの世界の建築物。そして来訪者たちをこの世界へ導いた扉の集合体である『扉の塔』と同じく、『怪物』を導き続ける『扉の塔』があるという説だ。
「もっとも、四方八方から『怪物』は襲来しているからね。数からしても1つかどうかは怪しいところだけど」
「もしそうならこの世界には悪意しかなさそうね」
 イルフィナは苦笑で応じる。その可能性は無いとは言えない。
「ただ、大迷宮のフィールドモンスターは大量に『怪物』を生む能力を持っていた。他のフィールドモンスターがその能力を持っていても不思議ではないだろうね」
「彼らが探しに行ったのは『それ』ってことよね」
「まぁ、そうなるかな。フィールドモンスターと呼ばれる強力な種がこの世界に本来あった建造物や自然物が変化したものであるというのは既に証明された事だ。そしてある程度姿や能力は元の形に依存する。今回もフィールドモンスターが居るとすれば工場か火山か……そんなところじゃないかな」
「でもそれなら『もうひとつの塔』は理論上必要無いじゃない」
「まぁ、そうなるかな。今回のナニカの発生源がフィールドモンスターである可能性は高いと思う。これは怪物が一種類のみであるという事実に基づくものだ。『大迷宮』のフィールドモンスターも1種類の怪物しか生まなかったからね。春に襲来する『桜前線』にしてもその親となるフィールドモンスターが居るかもしれない」
 だが、とイルフィナは言葉を接ぐ。
「大襲撃。再来の際の怪物の多様性、そして共に南からの進軍であったこと。この2つと我々が背負う『扉の塔』が存在するという事実。これらを鑑みれば『もう一つの塔』があるという推論は見当違いということは無いだろうね。
 さらに言うならば……前文明と言うべきこの世界固有の文化は恐らく怪物によって滅ぼされている。この世界の自然物や人工物がこの世界の特性として『変容し、怪物になる』というのならば……自然物は仕方ないとしても人工物を作るという文明は生まれないと思わないかい?」
 確かに、それは身近に脅威を生みだす行為に他ならない。
「だからこう推測する。
 前文明は2つ、ないしはそれ以上の『扉の塔』を作った。しかしそこから現れた怪物に文明の全てを蹂躙された。
 ……何故我々の知る『扉の塔』だけが残っているのかは分からないけどね」
 穴だらけの予想にクネスはきゅっと眉根を寄せた。穴だらけである事は彼とて承知なのだろう。
「じゃあ怪物は蹂躙だけが目的なのかしら?」
「知性の話だね。基本的にはそうであると考えているよ。本能として怪物以外を蹂躙する事を刻まれた獣、というのがふさわしい表現じゃないかな?」
 確かにそういう傾向はある。個としての戦い方はあっても集団戦という思考は欠片も無い。獣の群れを相手にしている風というのは言い得ている。
「ただ、それは油断でしかないからね。そうは考えない方が良い。
 決めつけてしまえば視界は狭まるばかりだ」
「それもそうね……
 ……あとは、そうね。怪物の発生って無尽蔵なのかしら?」
「『もう一つの塔』があるとすれば無尽蔵だろうね」
「フィールドモンスターからは?」
「何とも言えない。が、そうである可能性は否めない。
 そもそも怪物の特性のひとつとして、彼らは寝る必要も、食事をする必要も無いということだ。血も肺も、消化器官もあるというのに数百キロ以上の距離を彼らは不眠不休で踏破する。我々が既知としない方法でエネルギーを得ているか、或いは消費という概念が無いか……どちらにせよリミットがあるとは考えづらい」
「三流ホラーね」
「吸血種の君が言うかい?」
 イルフィナの苦笑に応じて黙考。
「あたしたちが勢力をのばせば伸ばすほど、向こうが強くなる可能性は?」
「分からないね」
「異世界から物や人材を持ち込めば持ち込むほど、消費したそれらが循環して怪物になってるって可能性は?」
「あり得るというだけだ。ただ、怪物の特性に破壊した物を怪物に再構成するという物もある。死者がゾンビになって起き上がってはいないから全てがそうと言うわけではないんだろうけど、循環でなく取り込みはあり得るというくらいだろうね」
 ふぅとため息一つ。
「結局まだまだ何も分かっていないということさ」
「そうみたいね」
 今回の一件で新たになにかを知る事はできるのだろうか。
 クネスはザザ達の向かった方向を眺め見て小さく呟いた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『うじゃうじゃ居やがるな』
 高度は僅か3m程度。距離は陣から数キロというところか。迷子になるのを避けるために今のところまっすぐ北へ直進している。一応PBの地図機能は優秀なのでそれほど心配しているわけではないが。
 当初地表を滑るように飛んでいたが、次第にナニカの数が増え、今は地面の方が割合が少なくなっている。不意に爆発でもすれば巻き込まれかねないため、僅かに高度を挙げたという所だ。
「密度からすれば北に直進すべきのようじゃが」
 かなりの速度を出しているが少女は苦しげな様子も無く言葉を届かせる。これも風の精霊を従えての行為だ。淀みなく会話は成立している。
「一撃くれてやれば地平の果てまで吹き飛びそうじゃな」
『……一発やってみるか?』
 応答はしばらくない。ややあって「まだやめておこう」と少女は呟いた。
「この先を調べてからでも遅くは無いし、今は密度の濃い方向に行くという指針になる」
『しかしなぁ』
 この高さは正直ぞっとしない。爆風は容易に届くし、複数の爆発は空中に多重の衝撃波を生む。運が悪ければボロ雑巾のようにされてしまうだろう。
「なに、いざと言う時は手段がある。気にするでない」
『先にその手段とやらを教えてもらいたいんだがな』
「成功するか分からんし、慢心にもなろう。そうならぬ事を願っておく事じゃ」
 随分と手厳しいというか、酷薄なものである。ただ魔術の扱いと肝の据わり具合だけは認めて良いだろう事はわかった。
『確かにな。万が一の時は期待してるさ』
「うむ」
 翼が風を食んで体を前へと押し出す。ぐんと加速する先は白饅頭に埋め尽くされた大地のみ。
 ティアロットの手には小型の双眼鏡がある。カメラのズームは当てにできないので小型のハンディカメラは首にぶら下げられていた。
『30分経過』
 PBからの思念。距離や時間など特定のタイミングで知らせるように設定しているのだ。帰りを考えれば工程の三分の一を経過した事になる。
『クロスロードからだいたい50kmってところか』
「うむ。しかし妙じゃな」
『妙だと?』
「うむ。ナニカ以外の怪物がおらぬ」
 そう言えばそうだ。大地は真っ白。それ以外の怪物はトンと見た覚えがない。
『あらかた吹き飛んだんじゃないか?』
「じゃが飛行能力を持つのは残る」
 即答に口籠る。
「ロストの原因がどこから忍び寄るかも分からんと思っておったが……これはこれで不気味じゃ」
『確かにな。どうする?』
「……予定通り直進じゃな。いまさら行くも戻るも変わらぬ。
 そもこの辺りは未探索地域でもない。なにも無い荒野とは言え地図には記されておる」
 一応未探索地域は避ける事にしている。現在クロスロードから100km圏内で未探索の地域はフィールドモンスターが居る可能性が高いからだ。
『豪胆な意見だが、悪くはない。下の連中、俺たちを余り気にしてないようだしな』
 地面を這うというか転がるというかのナニカはこちらに気づいて見上げる事はあっても特に何かをしようとはしない。元々クロスロードまで来るナニカも積極的な攻撃は行わない。
『この先、未探索地域あり』
 PBからの警告。
『ギリギリまで寄せるぞ』
「うむ」
 速度を落として未探索地域までの距離を詰める。もちろん明確な境界線があるわけではないので地図上に表記された境界線からおおよそ50mを目指す。
「クロスロードから北方向にまっすぐ進んだ時に当たる未探索地域じゃな」
『ある意味本命だな』
 完全に速度を殺して滑空。周囲を見渡すとこころなしかこの先からぞろぞろと湧いて出てくる気もする。先入観かもしれないが。
『強硬偵察……はリスキーだな。周囲をぐるっとやってみるか?』
「……」
 返事がない。まさか落としてしまったかと訝しむが、感覚はある。
『おい、お嬢ちゃん』
「……ああ、すまぬ。ちと異様な物を見たでな」
『異様な物、だと?』
 目を凝らすが相変わらず地面は白い。
『何を見たって言うんだ?』
「……術式じゃ」
 重い一言にザザは怪訝な声を挙げる。
『術式だ?』
「この先の地面に術式が刻まれておる。……ついでに言えば見覚えがある形式じゃ」
『……はぁ?』
 地面に魔法陣だかなんだかがある、それだけならまだあり得る話だが、それに見覚えがあるというのはどういう事か。
「正確には地面で無く地中なのじゃろうな。多重魔術による立体魔法陣────」
『分かるように言ってくれないか?』
「……この先で何者かが魔術で仕掛けをしておるようじゃ」
『なにものって言うと?』
「即断はできぬ。言えるのは生半可な術者ができる事ではない、と言う事じゃ」
『お嬢ちゃんにもか?』
「多重起動くらいならできんでもないが、魔法陣を多重展開して長期間維持させるという離れ技は無理じゃ」
『だが、見覚えがあると言ったな?』
 ザザの言葉に少女は沈黙。ややあって「うむ」と弱い音を返す。
「……あの陣は恐らく圧縮言語による瞬間構築を行っておる。独特なんじゃよ」
『それは……犯人が特定できてるって事じゃないのか?』
「この世界において、特定はできぬじゃろう」
 ありとあらゆる世界と繋がる世界。そういう魔術を開発している世界があってもおかしくは無い。
「が、……もう少し考えをまと────」
 声が途切れ、詠唱へと変化。足は前へと蹴りだされ、それがサインだとザザは気づく。
『チィっ!?』
 なにかが───違う、ナニカが飛んできた。まるで砲弾のように数十の何かがこちらへと飛んでくる。

≡≡( T ДT)

 明らかに自分で飛んだというよりも、分投げられたような荒々しい飛行。飛んでくるナニカは涙をまき散らしながらこちらに迫ってくる。
「高度を上げよ!」
『応っ!』
 つけ根が軋むほどに強くはばたかせて急上昇。次の瞬間、ザザは己が金色の雪の中を舞っている事に気づく。
『こいつは……!?』
「─── 煉獄より至りて吼え猛れ
 ───《輝夜》」
 飛来したナニカが金の雪に当たった瞬間

『(T△T)アヒャ』

 爆発を起こす。だがナニカは1度復活する。それもすぐに次の雪に当たって再爆発し、塵となって消えた。雪は空だけでは無い。地面にも降り注ぎ

「来るぞ」
 腹が焼けるようだった。
 爆風、熱風が、翼を折りたたんだにも関わらず10m級の巨体を押し上げる。
『グォォオオオオオオオオオ!!』
 姿勢制御をする余裕もないが、少女をあんな爆発地獄の中に叩き込むわけにもいかない。必死に腹を下にするようにして上昇させられるがままにする。
『お嬢ちゃん、無事かっ!』
 錯覚かもしれないがぐいと毛を引っ張られたような感覚。今はそれを信じるしかない。
 一瞬か永遠か。時間の感覚が無くなるとはこの事か。
どれだけの時間、爆風にもまれただろうか。
 不意に圧力が薄れたと思うとその体は重力に引かれて────

 再びの衝撃。

 二度目の爆発が白の大地を灰と紅蓮で汚されていく姿が脳裏に焼き付く。
 しかしすでに20mほどまでに押し上げられている。その衝撃は前に比べればそれほどでもない。
『ぉぉおおおおおおお!』
 翼をこじ開けるように開き、浮力を得る。不規則な衝撃に揺られるがなんとかいなしていく。
『落ちてないよな!?』
「なんとかの……」
 応答にほっとする。しかしまぁ、良くもあの細腕で耐えた物だ。
 そう思っていると少女の姿が眼前へと舞い降りる。最後の最後で落としたかと焦るがどうやら彼女自身の魔術で飛んでいるらしい。
「悪いがぬしの体を盾代わりにさせてもらったぞぃ」
『いや、無事で何よりだ』
 よくよく考えてみれば、もし少女が自分の毛に体を巻きつけていたら腰やら腕やらがねじり砕けていたかもしれない。
『しかし……あんな不規則な爆風でよく吹き飛ばされなかったな』
「多少運を操る事もできるでな。ぬしも大した事が無かったじゃろう?」
 言われてみればそうだ。
『後で悪運に見舞われるなんて事は無いだろうな?』
 もうもうと土煙りを上げる大地を横目に軽口を叩く。今はとにかくほっとした。
「かもしれぬな。……」
 だが帰ってくる言葉は重い。その視線は恐らく魔法陣だかなんだかがあるという未探索地域の方向。
「急いで戻るぞぃ。今なら低空飛行でも大丈夫じゃろ」
『……わかった。飛ばすぞ』
 少女は再びザザの背に着地し、ぐっと一度毛が引っ張られる。
 翼は痛む事なく己を前へと押し出してくれている。その感覚を確かめながら思う。
 あのナニカは明らかに自分達へと向けて投げつけられていた。あのナニカの顔を見る限り……まぁ、そこを理由としていいかは分からないが、自分で飛んできたようには思えない。
『なにが居やがるんだ……?』
 独り言に少女は応じなかった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「状況は?」
 青銅色の髪の少女の声音はいつも変わらない。が、今日に限ってはやや厳しいと管理組合員は感じていた。
「全32箇所に設置されている迎撃兵装のうち北側を主とした12箇所が大破。8箇所が中破……」
「原因は?」
「魔術の痕跡があります。恐らく遅延発動型かと」
「……人的被害は?」
「負傷者28名。幸い死者は居ません。
 ただ……兵装の所に居たスタッフの誰ひとり犯人らしき姿を見ていないのです」
「……」
 これほど大掛かりな仕掛けをしておきながら誰ひとりその姿を見ていないという事があり得るのか?
 姿を隠したり、消したりする手段はある。しかし魔術行使をすれば誰か気づく物だし、種族の中には光学的な視界で無い者も少なくない。
「どうやって? ……それよりも、何故?」
 昨年末、クロスロードでテロ事件は発生した。しかし『住民』の少ない砦でそれを行う理由は薄い。しかもこのやり方は北砦を落とそうとしているとしか思えない。テロの目的はクロスロードの支配権を掌握する事、或いはそれに準じるなにかのはずだ。どうにせよ防衛力が落ちる事は好ましくない。
「防壁の強度は?」
「北方向でかなりの損傷があります。今全力で復旧していますが……」
「作業を続けて。それから本部に連絡と応援要請。
 他の砦やクロスロードでも同じ事をやられるかもしれない」
「了解!」
 組合員が走っていくのを見送り、スーはもうもうと煙があがる防壁を見上げた。
「……」
 そのはるか先で調査をしている連中も予定を超過して戻って来ない。
「イルフィナとアースが居るから死にはしないだろうけど」
 今からの指示をどうするかを脳裏に描きながら彼女は執務室へと戻って行った。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
長くなりそうDAZE!
はい、神衣舞です。すでに予定よりも2回くらい話増えてます(笑
次回の開始時までに斥候部隊は全員戻ってきます。
なので情報整理してさてどうしようという事になりますが……
北砦ではテロ?が発生してしまいその警備も強化される事になりそうです。

では、リアクションをお願いしますね。
niconico.php
ADMIN