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【inv13】『襲来! (=ω=)』
襲来! (=ω=)
(2011/04/07)
「それは間違い無いんだね?」
「うむ。……結論を出すのは早計じゃが、見た物は間違いない。
 複合魔術展開による魔法陣の立体構築。難易度の高い術じゃ」
「高いなんて物じゃないね。ばら撒いた水を凍らせて狙った形を作り上げるようなものだ。できたとしても自重で壊れて当然」
 内心を整理するように呟き、イルフィナは視線を横へ。
「そのレベルの魔術が使える人は百人単位で居はします。しかし未探索地域に踏み込み、このような仕掛けをする意味が分かりません」
 アースの言葉に異論は無い。二人の表情を見て彼女は続ける。
「それに魔法陣を立体化する意味を私理解しかねています。仕掛けるだけならばいくつかの陣を並列化する方が何倍も楽ですから」
「フィールドの傍だから余り時間を掛けたくなかった、とか?」
「……いえ、そもそも並列布陣できるのであればわざわざ複合立体化する必要性が薄い。トランプを並べる事に意味があるのであって、それでタワーを作る必要は無いのです」
「ティアロット君が知るその魔法陣の特性は?」
「……正直分からん。あれを見たのは数回じゃし、おおよそ下らない目的で構築されておったからなぁ……」
 どこか嫌そうに眉を寄せる少女に二人は訝しげに顔を見合わせる。
「高位の魔術師にはクセ者が多いと言いますけど」
「どうして私を見て言うのかな?」
「貴方も性格に難のある一人だからです」
 誤魔化そうともせずに言い切られ、イルフィナは言葉に詰まる。
「ま、まぁ、それはともかく。
 その魔術を使う人物に私は心当たりがある」
 咳払いをしたイルフィナの言葉に2人の少女は表情を消す。二人も覚えがあるのだ。
「だが、動機が無い。これがフィールドを抑制する術であるならばまだしも、現状を鑑みればあれはこのナニカの大量発生に一役買っていると予想してもあながち間違いではないだろう」
「ですが……」
「だから言っただろう? 動機が無い、と。なんだかんだ言って彼女は鍛冶打ちの中では顔役のような立ち位置だし、不平や不満を抱いている様子も無い。内心に隠しているとしても彼女には理解者が多い。凶行に走ると思えない」
 沈黙。推理は手詰まりと言ったところか。
「で、その彼女って?」
 話の成り行きを見守っていたクネスが言葉を掛けると、アースは困ったように顔をしかめ、イルフィナに視線を振った。
その視線を受けて、青年は微苦笑と共にその言葉を口にする。
「ケルドウム・D・アルカ嬢……『とらいあんぐる・かーぺんたーず』の店主さ」
「……マジックアイテム屋だったかしら?」
「ああ。まぁさっき言った通り彼女が犯人とは考えづらいがね」
「……んー。まぁそこを悩んでも今は仕方ないかな?
 それよりもあれを消す手段を検討すべきじゃないかしら?」
「……ああ、ひとつだけあったのぅ。立体魔法陣を構築する意味」
 ティアロットが不意にそう呟く。
「わしはある程度の魔術であれば発動時に構成を見る事が出来るんじゃが……
 あれだけは未だに理解しきれぬのじゃよ」
 ほんの少しだけ渋面を作り、銀髪の娘は続ける。
「複数の魔法陣が堆積するように重なり、どの術式がどの術式と絡んでおるのか読み解く事が困難じゃ。さりとて不用意に手を出せばどんな仕掛けが含まれておるかも分からぬ」
「消すのは難しいってこと? じゃあ抑制は?」
「抑制も改編も同じじゃ。爆薬の潜んだ瓦礫の山を撤去するようなものじゃからな」
「……お手上げじゃない?」
「いや、時間をかければ無論可能じゃ。もしくは瓦礫ごと一度に吹き飛ばすほどの消去魔術か、攻撃か」
「それができるなら苦労はしません」
 そう、そこに至るまでに気が遠くなるほどの数のナニカが待ち受けているのだ。不用意に集団で近づけばあっという間に爆発の嵐に呑まれて消えるだろう。
「……いや、最終的には彼女の言う手段に辿り着くだろうね」
 黙り込んでいたイルフィナが重さを伴いつつも口を開く。
「導火線に火を付けるが如くだ。火力でナニカを吹き飛ばし、速攻で目標地点へ移動。解析や解呪を担当する術者を防御しながらフィールド、或いはその魔法陣の排除を目指す」
「……数に限りが無いナニカに対してですか?」
 言っても仕方ない事もついつい口を吐いて出る。
「アルカ嬢が解法を持っていればやる必要もなくなるのだけどね」
 なんとなくだが。彼らも、聞いている他のメンツも
 そうはならないという予感がしていた。

 ようやく戻ってきたクロスロード。
 しかし彼らをまず出迎えたのは外壁に多大な痛手を受けた北砦の姿と、頼みの綱のアルカが行方知れずという二重苦だった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「…………」
 そこらかしこで作業の音が響く中、ザザは座して瞑目する。
 先日ミッションに同行した少女が一緒であれば迎撃にとも考えていたが近接攻撃が主体の彼では現状ナニカの迎撃には向いておらず、また少女も飛竜に乗っての一撃離脱戦術が基本のため護衛の必要も無いとあって防衛の任に就く事にした。
 防衛とは言うが一時間もすればそれがナニカに対してではないという事は理解できていた。
一週間少々の斥候任務を終え、戻ってきた彼が目にしたのは損壊した北砦の壁だった。
────テロ行為。
 そう称するに適切な惨状はすでに対ナニカシフトで人も増えていた北砦で堂々と、しかし姿なく行われたという。
 防衛とはそのテロの再発に対する警備という面が強かった。
「とはいえ」
 目を凝らし耳を欹てても、誰ひとり気づく事叶わなかったテロリストの動向を掴めるとは思えない。事が起こって動くべきだと考え、彼は未だに傷と疲れが残る体の休息を兼ねる事にしていた。
 思考は内面へ。
 心を落ち着かせてみれば、突き上げるような、胸が沸き立つ感覚を知覚する。
 自分が得てしまった獣の力は純粋な暴力としては上位に属するだろう。しかしそれで何とかなる状況ではない今を歓迎しているようだと他人事のように思う。
 富でも名声でもない。己の力を忌む事無く奮える場所があるという事が高揚の源泉であると悟る。

 ふぅと長く息を吐く。

 己を呪いのように扱った日々が遠いと感じるとは。
 秒刻みに力を蓄えて行く体を感じながら、感覚は内面から外へ。
 不意に、驚きの声とそれをかき消すけたたましい音に耳朶を打たれ、ゆっくりとそちらを見やった。
「ったったた。いくら間に合わせだからってこの機銃でかすぎるだろ!」
「仕方ないだろ! ほんとにある物を備え付けてるんだからよ!」
「まともに撃てなきゃ意味がないだろ!」
「稼働域さえ制限しちまえば、あとは下手な鉄砲なんとやらだ!」
 技術屋が口論だかなんだか分からない言葉を吐きながら作業をしている。
 どれ、と体を動かして彼はそちらへ向かう。
「使ってみて良いか?」
「ん? ぉぉう。アンちゃんでかいな。いけるか?」
 確かにでかい。常人よりもふた回りほどでかい自分が丁度良いと思えるサイズだ。
 機関砲と呼ばれる類の物だ。並みの人間が握れば吹き飛ばされるに違いない。
『敵反応。1時の方向』
 放送が鳴り響き、慌ただしく備え付けの終わった兵器が動かされる中、ザザはにぃと笑って銃口をそちらへと向けた。
「ロックは外した。やっちまえ、アンちゃん」
「おぅ」
 引き金を引いた瞬間、すさまじい衝撃が腕を、肩を駆け上り心身を奮わせる。
 腕を引きちぎらんとばかりに暴れる銃身を鋼の筋肉で押さえつけて、16の銃口から合計毎秒千発以上という馬鹿馬鹿しい数の弾丸をぶちまけるマズルフラッシュを睨んだ。
 僅か10秒。周囲に薬きょうを散らかしまくって機銃はカラカラと残弾が無い事を訴える。直後、はるか先で大爆発が起きた。
「おう、成功成功」
 技術屋が気持ちよさそうに笑い、ザザの背中を叩いた。
「よっしゃ。あとは誰でも使えるようにするだけだ。アンちゃん協力感謝するよ」
「いや。……仕事だからな」
 にぃともう一度笑みを浮かべザザはしびれに似た腕の感触を確かめるのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ええと。お届け物、です」
 リュックサックを降ろしつつ、おずおずと言う。
 通された執務室。スー・レインと言う名の美貌の管理官はいつも通りの無表情だがその周囲は氷河の牢獄を幻視させるほど張り詰めていた。
 無理も無い。自分が管理する砦をいきなり破壊され、しかもその方法も犯人も未だに分かっていないという有様だ。これでは今再発したとしてもおかしくはないし、呆れるほどのナニカが発生している事も斥候組から報告を受けている。
「御苦労様。感謝する」
 淡々とした言葉を受けて「いえ、仕事ですから」と頭を下げる。と、『4万C入金確認しました』とPBが伝える。お使いにしては多すぎる額に片眉を挙げる。
「中身は見た?」
「いえ、見ていません」
「そう。なら良い」
 見られて困るような物なのだろうか?
 ふとそんな言葉が浮かぶが突っ込むと面倒に巻き込まれそうな気がしたのでここはラッキーと思うだけにして早々に辞する事にする。
「……そうだ」
 が、止められた。
「なにか……?」
「この荷物はケルドウム・D・アルカさんから受け取ったの?」
「……はい」
「依頼前にあなたが見たのもアルカさん?」
「……」
 答えに窮する。すでに彼の頭の中にはもう一つの回答が蠢いていたがそれが正解で合って欲しくないという思いもあって音にならない。
「……」
 氷のような視線に冷や汗をかく気分だ。
「心当たりが?」
「……」
 もし彼女であるならば、自分の手に余る可能性がある。彼女は、なんというか滅茶苦茶なのだ。この世界でも同じように力を奮えるかどうかは分からないが、やりかねないと心のどこかが納得しているのも事実。ならば彼女に話す事も一つの手段ではあるが……
「すみません。確たる話ではないので」
「手がかりすらつかめない状況。貴方の証言が一番有力」
「……」
 数秒の沈黙。
「申し訳ありません。別にかばってるとかじゃなくて、本当に可能性があるくらいの話なんです。少しでも確信が持てたら報告しますから、今は勘弁してください」
「……そう」
 食い下がるかと思ったが、彼女は意外とすぐに視線を下げ、「悪かった。ありがとう」と告げた。
「いえ、では失礼します」
 彼女は彼女でいっぱいいっぱいなのだろうか。ほんの少しだけ罪悪感を覚えつつヨンは砦の管理施設を出る。
 しばらく歩いて、さて、と頭を切り替える。

 爆発は魔術で行われた。しかし目撃者はゼロ。
 すると内部犯か空間制御能力持ちか。はたまた知覚を誤魔化す術を持つ者か。
 政治争い等が背景にあるならともかく、今この段階で北砦に破壊工作を行うメリットは考えづらいため内部犯である可能性は捨てて良いと思う。そうすると空間跳躍か知覚認識操作か……。空間跳躍はもちろん100mの壁に影響する。砦の広さは軽く直径でも500m以上。同時に破壊するにしては距離がありすぎる。設置型で100mギリギリの場所から時限式の魔術を仕掛けた……というのは流石に難しそうだ。全部仕掛け終わる前に発見されかねない。
 そうなると認識操作も怪しい。この世界に光学知覚な人しか居ないならそれもありえるが、ゴーレムや精霊等は普通に魔力を知覚できる。そう言う手合いにはカモフラージュの魔術の方が悪目立ちしかねない。
 理由も集団も不明。
 その言葉が脳裏にちらつく姿が濃くなる。そういう事をしでかすのだ。彼女は。
「でも、本当に?」
 PBの説明では『別の世界の自分』との遭遇例は皆無だと言う。もちろん初の事例があってもおかしくはないのだが……
「確かめるしかないんですよね」
 はぁとため息一つ。北砦内を歩きつつ感覚を研ぎ澄ます。
 視覚、触角を鋭敏にし、代わりのように周囲の音は切り捨てる。まるで1個の機械のようにただ異常を見つけるためだけの器官となる。

 ふと気付くと。

 時間はどれほど流れたか。太陽の位置が目に見えて分かるほど移動していた。
 ふらふらとあてどなく歩いたヨンは立ち止り、その先を見る。
「……アルカさん」
 その言葉に赤い猫耳がピクリと動く。
「いえ」
 それでも顔はこちらを見ない。だからヨンは訂正する。
「アルルムさんですか?」
「にふ」
 彼女特有の、いや、最早この世界においては特有では無くなったであろう笑みの音。
「君まで居るとは思わなかったにゃよ。吸血鬼ちん。幼女ちんが仕掛けを見つける事は想定済みだったんだけどねぇ?」
 彼女の言うところの『幼女』 とはティアロットの事を指す。
「貴女が砦を壊した犯人なのですか?」
「違うにゃよ?」
 にぃと少女は笑みを浮かべる。
「アルルムなんてのは居ないにゃ。そうすると犯人は一人に絞られる」
「……それは……!」
「旧知のよしみにゃ。
君は何も見らず、聞かず。大した結果も無く家に帰ってぐっすり寝るといいにゃよ?」
でなければ、と言葉に出さずに若草色の瞳が薄く向けられる。
「頷くと思いますか?」
「にふ」
 笑み。それから少女は肩を竦めて空を見上げる。
「どっちでもいいにゃよ。ここで君に遭ってしまったのなら、あちしはそれを元にした計画に切り替えるだけにゃ」
「計画……!? 貴女は一体何が目的なんですか!?」
「今は教えてあげない。でも全部終わったら教えてあげるにゃよ?」
 アルカにそっくりの少女はくるりと背を向けて歩き去ろうとする。
「待ってください! 一体────!?」
 その姿が消える。転移魔術かと慌てて知覚を総動員するが、その姿は捉えられない。
 100m程度のジャンプならと走り回るが影も形も見えない。
「……っ!」
 全部終わったら。それがどんな結末を指しているのか。
古い記憶にある、単純に楽しいからと悪戯をしていた時の目であれば苦笑と共に納得をしたかもしれないが────
どうやっても傍観して良いとは思えない。ヨンには差し向けられた若草色の瞳には燻ぶるような闇の気配が垣間見えていた。
「どういう事なんだ……!?」
 自分はどうするべきか。
 厄介な『犯人』の背を思い浮かべ吸血鬼はぎりと奥歯を噛んだ。

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ティアロット嬢は某PBWに参加させていただいていましたキャラクターです。ヨンさんも同郷でして、今回(と言いつつ本当はもーっと先のシナリオの予定だったりw)はその辺りの絡みが出てきていますが、別にそのあたりの内情を知る必要は全くありませんのでご安心ください。ヨンさんはアルカの事はよく知らないはずですしね。

さて次回は応急修理の北砦に大軍が押し寄せますよん。
防衛に徹するのか。はたまたフィールドの撃破に向かうのか。
皆さんの行動次第ですのでお楽しみにー☆
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