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【inv13】『襲来! (=ω=)』
襲来! (=ω=)
(2011/04/29)

 世界が爆音と光と熱の三つで埋め尽くされた。

 時間感覚を軽くブチ壊す長い長い数秒。
「……何と言いますか」
 自分の声が遠い。鼓膜がきんきんと痛い。
「本当に、何を考えてるんですかね。これ」
 爆発は続いているが、ひとまず被害を受ける範囲のものは終わったらしい。
 果てしない連鎖反応。あまりにも増えすぎ、密集したナニカが一度の攻撃で誘爆を果てしなく繰り返している。
「何にせよ進むしか無いな」
 目標地点まで自動車を飛ばせば2時間程度で到着する。

 ───思えば、探索者はこれだけの技術を集めながら、未だそこまでしか版図を広げられずに居る。

 世界によっては音を越える早さ、或いは光を越える早さを得ているというのに、だ。

「ままならない世界よね」
 車は疾走する。
 ただ一点の目的地へ向けて。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「空恐ろしくなりますね」
 北砦の一角で管理官がぽつりとつぶやいた。その視線の先───僅か三日。テロにより破損した防衛設備ほとんどが復旧を果たしていた。
「不思議と言う程の事でもないがな。
 人間種のサイズ、視点から見れば大質量の操作も、目視不可能なサイズの作業も至難だが、でかい物は竜種や巨人種に任せればいいし、小さな作業は妖精種に任せればいい」
「それが成立しているんですよね。この世界は」
「他の世界の種族間戦争が馬鹿馬鹿しくなるほどにな」
 それもこれもともう一人の管理官は荒野の先を見る。
「『怪物』という共通の敵が居るからだろう」
「元々仲良くできるから、とは言わないんですか?」
「2人居れば争う理由は必ずある。同じ種族であってもな。その『自分』と『他人』……その『他人』役を『怪物』に任せているという事実を忘れると酷い目に遭う」
「我々の一番の天敵が一番の庇護者というのは皮肉に過ぎます」
「仕方あるまい。神々ですら争うのだから。
 そしてより幸せであろうとする意思と行動こそが向上心とも言えるのだからな」
「……それは本当に幸せなんでしょうかね」
「幸せを感じれば感じるほど不幸せになるらしいからな。気の持ちようだろ」
 若手の管理官はもう一度重厚な砲台を仰ぎ見る。
「今はこれに安心感を覚えていれば幸せなんでしょうかね」
「そう言う考えで十分だと思うぞ。さて、配給作業を続けようか」
「はい」

  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『間もなく目的のフィールドに達する』
 ヘッドホンからの声に一同は先を見据えた。ちなみにこのヘッドホン、通信用兼鼓膜の防護───爆音への備えである。すでに数十回ものすさまじい爆音に晒されており、何の備えもなければ鼓膜が破れないにせよ三半規管が可笑しくなっても不思議ではないだろう。
『魔術解析可能圏内に入り次第、周囲への攻撃を開始する。誘爆を基調とする攻撃とし、無駄弾はなるべく避けるように。
 また迎撃役は爆風に飛ばされてきたナニカを撃ち落とす事だけを考えろ。質問は?』
 応じる言葉は無い。すでにここに至るまでにすべき会話は全て終わらせていた。
『よろしい。では作戦開始まであと5分』
 通信が一旦遮断される。ヨンはひとつ息を吐いて周囲を見渡した。
 車はホバー仕様の装甲車だ。高出力の魔力エンジンを搭載しており、そのエネルギーを使って射撃する事も出来る。
 今回の作戦にはこれが3台投入されており、ヨン、ザザ、クネスは2台目に乗っていた。
 10人はゆうに乗れるため広さ的には十分だろうが、大柄なザザが居ると少し窮屈に思える。
 彼ら3人の他にこの車には2人の乗客が居る。1人は良く知らない魔術師系のエルフだが、もう一人は───
「……アルカさんならきっと大丈夫ですよ」
「……ええ」
 ヨンの言葉に硬い表情のまま頷く有翼種の少女───ルティア。
 その会話をザザとクネスは視線を向けぬままに聞き流す。
 正直、無事という言葉はあまりにも白々しかった。
 なにしろここに至るまでに起こさざるを得なかった爆発は数えるのも馬鹿ばかしい程だ。もしアドウィックの予想が的中しているのならば、無事では済まない。
「それに、あくまであれはアドウィックさんの予想ですから」
「大丈夫です。それに、今は目の前の問題が先ですから」
 決して大きな音でないのに、強い言葉にヨンはしばしの間を措いて頷く。
 PBが作戦まで2分を切ったと告げる。車内に設えられたモニターが前面の爆発を映し出す。
「拳で殴れない相手ってのはな」
 ザザが立ちあがりながら嘯く。
「仕方ないわよ。相性の問題だから。
 逆に遠距離の攻撃を無効にするような怪物だって居るかもよ?」
 クネスも同じく立ち上がり、扉に手を掛ける。
『30秒』
 通信を聞いてザザは上部のハッチを開くと外に身を押し上げる。魔道砲のハンドルを握り、とりあえず一発を叩きこむ。派手すぎる音と光と熱風が容赦なく吹き荒れ、感染して行くのを見る。前後の2台も同じく砲撃を開始し、周囲は瞬く間に地獄絵図と化した。
「適材適所、か」
 荒れ狂う爆風の中でザザはびくともせずに砲塔を振り向ける。彼の巨体と頑健な筋肉ならばこその安定性だ。
 そうやっている間にヨンは運転席へと飛び込む。今までは前の車両についていくだけのオートパイロットだったが、以降はそうもいかない。感性を最大限に発揮してパイロットAIに進行方向を示していく。
「クネスさん。防護を掛けます」
「よろしく」
 ルティアの手に杖が現れ、収まる。詠唱も無しの術は絡みつくようにクネスに纏われ、防護する。
「……変な術式ね」
「解析すべきはあちらです」
「……それもそうね。じゃあ始めますか」
 強行突破。
 そうと言うしかない力強い走りで三台の装甲車が前へと押し進む。
 先頭車両に乗る数人の風術師と結界師が可能な限りの爆風を減衰させ、3台目に乗る攻撃魔術師が空中に舞うナニカの迎撃のために力を乱射していた。
『密度が濃い……っ! 攻撃の圧を高めるぞ!』
 その言葉に三台目の攻撃が一旦中断。砲台に人が座り込んだのを見て、ザザは素早く車内に引っ込む。

 シィィン!

 赤い光がぐるりと周囲を走った。
 その一瞬後────

 ごぅ、と周囲が一気に燃え盛った。
 
 三台目に積まれていたのはレーザー砲だ。射撃は一瞬。その威力も大したことは無いが薙ぎ払うような光が周囲をぐるりと走り、ナニカを貫いたのである。
 しかしこれ、燃費が非常に悪いため実は一度きりの切り札である。しかも周囲で一斉に巻き起こる爆風が竜巻のように中央を襲う。


 ─────カツン


 明確な音で無い、まるで頭の中に直接響いたようなそれ。
『……応戦再開っ!』
 やや唖然とした声音も無理は無い。
 暴風と言う言葉が馬鹿馬鹿しくなるレベルの風が一瞬で鎮められたのである。
「……貴方の魔術の方が解析のしがいがあるわ」
「今度にしてください。流石に何度もできる技ではありませんから」
「了解」
 そうして生み出された空白地帯に装甲車が滑りこみ、即座にクネスを含んだ数人の術師が魔術の解析を開始する。
 彼らはアルカの残したマジックアイテムを元にクネスがあらかじめ解析した式に準拠して役割分担を行う。似ている以上全く無駄な方法では無いだろうと踏んでの決め打ちだ。
『地面だ! 生えて着てやがる!』
 そんな中、先頭車両から吐き捨てるような声が届く。モニタを向ければ確かに地面からモグラが顔を出すようにナニカが次々と出てきているのである。
「まさか、フィールドモンスターって土に埋まってるんですかね……?」
 ヨンが苦笑いを浮かべながら車両に指示を飛ばす。間違って踏みつけてしまえば、そのまま連続の爆発に巻き込まれて
「笑いごとじゃねえな。どうやって掘り出すってんだ」
 ザザが地面を薙ぎ払うように砲塔を旋回させ、ナニカを吹き飛ばしながら応じる。
「今は考えません。とにかく解析の成功を祈るばかりです!」
「それもそうだ」
 次々湧いてきているとはいえ、先ほどの一撃は大きかった。十分に開いた空白地帯を掃討の連撃が吹き荒れ、状況の膠着を作り出す。
「捕縛陣……っ!?」
 クネスが漏らした声。
『どうした? 何が分かった!?』
「他の解析結果も知りたい所だけど。この魔法陣、フィールドモンスターを縛っているわ」
「縛る? どういう事だ。確かフィールドモンスターってやつは自分の陣地から動かないんじゃなかったのか?
 んなもん縛ってどうするってんだ?」
「……いや、動かないと決めつけるのはまだ早計だと思いますが……。問題はそうする理由ですね」
『錬金系の術式を発見しました。恐らく構成変換……これは……』
『こちらも錬金系の術式と思われる。地と火の術式と思う』
「……まさにナニカの生産工場になっている……?」
 ヨンの呟きは誰もが至る一つの結論だ。
「いや、あの顔野郎は昔っから湧いて出てきてただろう?」
 ザザの突っ込みにクネスは頷きを返しながら「でも、ここまでの量じゃなかったわ。つまりナニカを生み出すフィールドモンスターの生産能力を無理やり上げているんじゃないかしら」と推測に言葉を濁しながら応じる。
「っ!?」
 不意の急停車にクネスとルティアは体勢を崩して派手に転がる。ザザもシートに体を押し付けてぐぅと呻きを漏らす。
「停まってください!」
『な。うぉっ!?』
 その直後、突然先頭車両の足場がぐんと沈んだ。
「早く逃げて!」
 しかし悲しいかなホバークラフトはあくまで地面に対して『浮いている』だけで飛行とは違う。足場が崩れればそのまま落ちるしかない。
『風術師は飛び出せ! 拾ってもらうんだ!』
 声と共にハッチが開く音。数人の探索者が車から飛び出す間にも崩れた地面に車体が飲み込まれていく。
「ちっ、どうなってやがる!」
「地面が抜けている……まさか!?」
「そのまさかっぽいわね。土の錬金系術式……地面そのものがナニカの原材料になってるんだわ」
 泡を食って逃げ込んできた先頭車両の探索者達だが、その数は明らかに足りない。しかしそれをどうする時間も無く車両は地面の底に飲み込まれて行く。
「っ。あれは!?」
 そして、割れ砕け、ぽっかり空いた穴にそれはあった。

 大きさは100mは行かないにしてもそれくらいのサイズはあるだろう。
 巨大な穴の中で探索者が目視できるのは土にまみれながらも真っ白いボディ。

(=ω=)

 まさにこれが超巨大サイズで鎮座していた。
「……馬鹿げてるな」
「あれを倒すわけ?」
 二号車の上に先頭車両から脱出した者たちがなんとかという様子で着地する。
「隊長が……」
 先ほどまで指示を飛ばしていた男の姿は無い。車両と共に穴に飲み込まれたらしい。
「……おい、ヨン。テメエが指示を飛ばせ」
「わ、私がですか!?」
「私はまだ解析中だしね。頼りにするわ」
「どうなっても知りませんよ!?」
 とはいえ。指示を飛ばすもなにもこの巨大なナニカをどうしろと言うのか。
「ええと、術の解除はできそうですか!?」
『無理やり解除する事はできると思いますが……』
「下手な事をしたらどんな術になるかも分からないわね……。でもこのまま引き下がっても何も解決しないのも事実だわ」
 クネスが焦りを含む声で吐き捨てる。
「攻撃をぶち込んだらあれも爆発するんじゃねえのか?」
「この距離でそれは見たくないですね……」

 と、ぶるりと巨大ナニカが震えたかと思うと

 ずん、穴の壁面が震えて崩れた。するとナニカの表面に無数の(=ω=)がにゅっと生えてくる。サイズが巨大なだけあってその量も目視で計測するのはほぼ不可能。
『き、気持ち悪い』
 さぶいぼが全身に湧いて出たような光景は確かに見てて気持ち良い物ではないだろう。
「地面を食って増えてるのは間違いなさそうだな。……どうするよ?」

 どうするか。引くも進むも即座に決めなければ退路すら危うくなる。
「どうしましょうかね……」
 ヨンは祈るようにその言葉を唇でなぞったのだった。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【分析結果(確認された魔術式。但し真実かどうかは明確ではない)】
・捕縛陣
・地属性錬金陣
・火属性錬金陣
・吸収陣
 etcetc......



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次回クライマックスです。多分そのあと1回エンディング回かなぁ。
ども。神衣舞です。遅れてごめんさい。気分が乗らなかったんです。えへん。

というわけで超巨大ナニカご登場です。
参加者全員現地に来てますのでシンプルに「今からどーするか」になります。

ではリアクションよろしゅー。

PS.アルカの事は忘れてませんよ?(うふ
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