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【inv13】『襲来! (=ω=)』
襲来! (=ω=)
(2011/05/17)
「随分とお疲れのようじゃないか、V様」
 とぼとぼと家路を歩くヨンに声をかける男。
「アドウィックさん」
「何処か飲みに行くかい? 良いバーがあるんだが」
「遠慮します。色々と疲れたんで」
 言いながら目の前を通り過ぎ
「……調査終了、じゃないですよね?」
「おや、それはどういう意味かい?」
 ハンチング帽をくいと指先で持ち上げ、自称ハードボイルド探偵はニィと笑みを作って見せた。
「……そのままの意味です」
「君はどんな結末を望んでいたんだい?」
「……」
 止まりかけた足を強引に進める。そんな背中に探偵は笑みの滲む言葉を続ける。
「無力感かい?」
 応じる気も無い。
「流石はヒーロー。誰もが笑顔になるハッピーエンドでなければ気が済まないらしい」
「……なにが言いたいんですか?」
「君は彼女らの事情を少なからず知っていた。だから何とかしようとして、なんにも出来なかった。ただそれだけじゃないか」
 ギと奥歯が鳴り、しかしその通りだと振り返ろうとする身を戒めた。
「その通りですよ。それでは」
「だがヒーロー? 君の動きは決して無駄じゃなかった」
「慰めですか?」
「賞賛さ」
 間髪入れずに探偵は言い切る。
「君は彼女にとってのジョーカーを動かしたんだ。間違い無くそれは君の功績さ」
「……アルカさんは……」
「なに、すぐに分かるさ。今回は彼女も退かざるを得ないだろうからね」
 探偵の人を食った笑みを背に感じながら、ヨンは首を振ってそのまま歩を進めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

『Meは』
『BAKUHATU』
『しないよ?』
 巨大ナニカはそう主張していた。
『あいあむ』
『製造工場』
『でも自爆ボタンは』
『完備』
『b』
 自由気ままにナニカ文字を走らせる巨大ナニカを横目にザザは嘆息する。
「殺すのはすぐにでもできることだが……」
 これの言う事を信じるのであれば、これは怪物に対抗するために設置された防衛装置らしい。それは明確な戦力ではないだろうか。
「おい、お前」
『なーに?』
「そのちっこいのはもう俺たちを襲わないのか?」
『元々』
『襲ってない』
『YO〜』
 むと眉根を寄せる。そういえばこのナニカと名付けられた生物。自爆する事はあっても攻撃してくる事は今まで無かった。
『ただ』
『近くで動く物に』 
『近づくだけ』
『シンプル2000しりーず』
「文字作ってるそいつらみたいに制御できないのか?」
『できるハズ』
『だけど』
『遠くのに』
『電波』
『届かない』
「……そりゃそうだろ、100mの壁があるんだから」
『ナニソレ?』
 むと眉根を寄せる。
「100m以上電波も念話も届かないだろうに」
『ナニソレコワイ』
「知らない……、だと?」
 これはこの世界の法則じゃないのか?
『でも』
『確かに届かない』
『制御離れると』
『動体捕捉モード』
『になっちゃう!』
 このやりとりを見ていた周囲の探索者も顔を見合わせる。
「てめぇは本来どの程度の距離まで制御できるんだ?」
『スペック上は』
『20km』
 20Kmという単語。それは『100mの壁』の全否定だ。
「かつて、この法則は無かったってことか?」
 無論答えられる者は居ない。
「……こいつを殺すのは簡単だが、防衛兵器として。なによりも色々と聞かなきゃならねえ事があるようだな」
『かつ丼出る?』
 まぁ、まともに話が聞けるか定かではないが。
「元々この世界での植民は綱渡りのようなものだ。今回の件は言うに及ばず、何度も危機を見て来た」
 ザザは周囲に良い聞かすように言葉を紡ぐ。
「俺たちがこの先、生き残るには危険を考慮しない大胆さも必要だろうな」
 そうと宣言したならば。どうやってこの穴ぼこの中のこれを引っ張り出すかが問題だ。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「土中を移動させる術式ですか?」
 クネスの言葉に研究者はうんと悩んで
「不可能ではないと思いますが、今は無理ですね」
「と言うと」
「我々用の傘をあれに使うようなものです」
 なるほど。あの巨体に適用させる程の魔術となると一人の手には余る。
「管理組合に相談ですね」
「そうね。さてと」
 クネスはくるりと振りかえって車へと向かう。2号車には彼女が寝ているはずだ。
「はろー、起きてるかしら?」
 その言葉に、猫耳少女は────目を閉じたまま、眉根をおもいっきり寄せた。
 それに満足そうな笑みを浮かべたクネスはすっと近づくと
「助けたわよ?」
 と、耳元で囁く。
「因みにお礼は感謝の言葉だけで良いわよ。あたしと貴女の仲だものね?」
 少しだけ身を離し、そして傍らに座るルティアに視線を向けた。
「───私の事を名前以外で呼んだ上で、ね?」
「……」
 視線の意味、そしてその言葉の意味を測りかねたルティアは少しだけおろおろと視線を彷徨わせるが、やがて悲しそうに目を伏せた。
「どうしたの? 起きてるんでしょ?」
「……」
「そんな風であたしはともかく────」
 クネスは満面の笑みで続ける。
「あの子を欺けると思ってるの?」
 それは決定打だった。少女はばちりと目を見開き、忌々しげにクネスを睨む。
「なんでお前が居るにゃ」
 なんで、と彼女は言った。そう、眉根を思いっきり寄せる前に、彼女がほんのわずか垣間見せた困惑は
「あたしが誰か、思い出せた?」
 応じる代わりに弾けるように猫娘は前に飛び出し、しかしその行動は光の縛鎖に遮られる。
「アルカさんは、どこですか?」
「にふ、るーちゃんどいて、そいつ殺せないっ!」
 殺気を一瞬で溶けさせた猫娘は冗談交じりにそう叫んでひょいと壁際まで退いた。
「ったく、吸血鬼ちんといい、なんでこんなイレギュラーが居るにゃよ」
「あなた、アルルムって子ね?」
「義母様って呼んで欲しいにゃ?」
「義理の娘が増えそうね」
 え?とルティアがほんの僅かに視線を動かした瞬間、車体の壁に赤の魔法陣が輝き、クレイモア地雷のごとく外側へと爆発。
「っ! 待ちなさい!」
「やだぴょん。ったく、オリジナルはオリジナルでよっけーな事してるしさ。
 ああもう、やり直しやり直し!」
 爆発に何事かとざわめく周囲の音を爆煙に巻きながらアルルムと言う名の少女は苛立たしげに
「アレなら逃げたにゃよ。そこらでのたれ死んでるんじゃない?」
「アルカさんが……!」
「どーせ生きてるだろうけどね。サバイバル系のマジックアイテムくらい常備してるだろうし」
「どうして殺さなかったの?」
 クネスの問いかけにアルルムはべーと舌を出して、魔法陣を展開。幻のように消え去ってしまった。
「転移魔法……? それより今はアルカちゃんかしら?」
 と、振り返ればすでにルティアの姿も無い。
「……あの子、大人し系に見えて心配性なのね」
 くすりと微笑むも、さてどう探した物か。
 それに。あのアルルムという少女はいったい何者なのだろうか。随分とアルカを恨んでいる……違う。
「我が血族にも困った物ね」
 ちょっと説教が必要かしらと考えつつ、クネスは人手を求めるために車を降りたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 結局本物のアルカはすぐ近くに隠匿の魔法陣を張って倒れていたのをルティアが発見し、無事回収された。
 その際にクネスが再度からかって大騒ぎになり、興奮しすぎたアルカがぶっ倒れたのはまた別の話。
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はいな。神衣舞です。これにて『襲来! (=ω=)』は終了となります。
あとはショートで(=ω=)の輸送計画がありますのでぜひ参加ください。(=ω=)は基本的にウザいです(ぉい
今回は裏話としてアルカとアルルムのやりとりがありましたが……これ、来年くらいに持ってくるつもりだったネタなんだよねぇ……。
 釣りあげたのはヨン様です。ヨン様のトラブル発掘率が酷くて怖いです。

 なにはともあれお疲れさまでした。
 次のシナリオにもぜひ参加くださいませ。
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