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【inv15】『ヒーローの名は?』
【inv15】ヒーローの名は?
(2011/06/07)
「正義なんてどうでも良い事だけど、なんだか面白そうな事になってるじゃない」
 ビール片手に一人の女性が観客に交じっていた。
 とはいえ、背にはフライトユニットをアクティブにしており、なにかあった際にはすぐに逃げられる準備は怠っていない。
 眼下では数十人のヒーローがダイアクトーとその一味を囲むように構えていた。構図からすれば善悪が逆かもしれないが、黒の集団とカラフルな集団という視覚的な分かりやすさがそこに展開している。
「これを使う羽目にならなきゃ楽しい見世物なんだけどね。
 それで終わってくれないかしら」
 腰にはビームガン。しかしあくまで護身用、あるいは補助用としての出力設定にしてあるものだ。
「さて、どうなることやら」
 ぐびりとビールを喉に流し込んでKe=iは目を細めた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 クロスロードには2種類のヒーローが存在する。
 一つはその行為から、自然と英雄───ヒーローと呼ばれるようになった者。
 そしてもう一つは『ヒーロー』という存在として生れついた者。
 後者の場合その行動、思想全てがヒーローであり、悪は断罪すべき物である。しかしそのほとんどの者は単独、或いは固定メンバーでの戦闘を好むため、律法の翼に所属している者は僅からしい。

 彼ら存在がヒーローである者にとって、このダイアクトーの宣布は無視するわけにはいかない物だった。

「でも、つまんないわ」
 舞台に乱入して来たヒーローを見渡して、しかしダイアクトー三世はぽつりと呟いた。
 クロスロードで唯一明確に悪を表明する彼女とヒーロー達の交戦など日常茶飯事だった。そして未だ一人たりとも彼女に手を届かせた者は居ない。
 ───たった二人を除いて。

「雑魚に用は無いの。
 ────蹴散らしなさい」

 言葉に戦闘員達はさっと避難。代わりに前に出てくるのは六人の黒服。
「お嬢様の言葉にずいぶんとキてるようだな」
「手加減などできもせんか」
「それにこの前哨戦を長引かせるわけにはいかんだろ。
 嫌な殺気がまとわりついてくる」
「所詮ヒーローだ。英雄はまだ観戦を決め込んでいる」
「『宿命』に巻き込まれさえしなければどうという事は無い。
 ……そして、この舞台では『宿命』は発動しまいよ」
「ハァハァ。何でもいいからさっさと俺をぶって!」
 とりあえず最後の一人の尻を全員で蹴飛ばして五人の黒服は構えをとる。
 彼らの背後には仰ぐべき主が不満そうに立っていた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「律法の翼、ですか」
 コロシアムの一角を歩きつつポリゴンロボは情報の整理をしつつ状況を見守っていた。
「クロスロード成立前は自警団として発足し、クロスロード成立後もそれを自認して継続。しかし一部団員が無法を謳ったクロスロードに反発。過激派として同じ名前を名乗りつつも袂を別った。
 穏健派のリーダーはウルテ・マリス。過激派のリーダーはルマデア・ナイトハウンドですか」
 そう言えば街を何人かで歩きまわり、商店主とかと和やかに会話している一団をたまに見る事がある。彼らは恐らく穏健派の律法の翼なのだろう。
 一方で無法を働く者を問答無用で切り捨てる一団が居るという噂も聞いた事がある。その強引なやりくちは自らを賞金首にしてしまう程だ。しかし過激派内の賞金首が狙われる事は少ない。筆頭のルマデアを始め、かなりの武闘派揃いの集団に喧嘩を売るのと同意義であるためた。
「穏やかではありませんね」
 なまじ正義を標榜し、しかもクロスロードの賞金首を一番打ちとっている集団である事は間違いないので誰もが扱いに困っているというのが実際のところだろう。
「さて、一方だけなら兎も角として、に手を中止しなければならないのであれば必ずミスが出ますよね。というわけで助力を頼みましょう」
 ぐりんと周囲を見渡しつつ
 こういう騒ぎだったら絶対居ますよね。トーマさんとかアインさんとか」
 ある意味酷い言いようだが、間違ってないから困る。
 その目がそのかた割れ、アインの姿をしっかりととらえていた。 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「さすが、殺試合(ころしあ)むと言うだけあるわね」
 含み笑いをしつつそう呟いたマナにアインは無感情な視線を向けた。
「貴方どうするのかしら?」
「……どうって?」
「あそこには加わらないの?」
 アインはゆっくりとかぶりを振る。
「────統率者のいない群れは……キョウキになる」
 下手に踏み込めば、どころではないとアインはその視線を周囲へ。
 周囲の観客は規模の大きな戦いにのんきな歓声を上げているようだ。
「確かに、好き勝手に攻撃してるようだし、危険ね」
「……ここも安全か分からない。いつでも飛べるようにした方が良い」
「ご忠告どうも。何を探しているの?」
「扇動者」
 この馬鹿騒ぎに居てもおかしくは無いだろうが、今舞台で戦っているヒーロー達には必要無いようにも思える。
「でも、何人か、熱狂の外に居る人も居るわね。
 貴方や私みたいに」
 その言葉にアインは頷く。祭りの傍観者を決め込むわけでなく、まるで期を待つように───あるいは、何か起きるそのタイミングを待つかのように。
「……戦ってるダイアクトーの人も多分手を抜いてる。
 まだ、これは前哨戦」
「随分派手だけどね。なにあの光線、ぎざぎざに飛んでるわ」
 もちゃのような銃から放たれたカラフルでじぐざぐ飛ぶ光線が着弾し、何故か蒼い爆煙が上がっている様子を指さして笑みを作る。
 そんなマナの目の前にずいとバスケットが差し出された。
「なぁに?」
「……あげる。
 観戦はもう少し避難しやすい場所の方が良い」
「もう一度聞くわ。
 貴方はどうするのかしら?」
 サンドイッチを一つだけ取り出してマナはうっすらと笑みを作り問う。
「……」
「意外とおせっかいなのね」
「……そうかもしれない」
「これのお礼があるもの。少しくらいは手伝ってあげるわ。
 それに、ここの方がよく見えそうだもの」
 その言葉にアインは返す言葉を見つけきれず、ただ頷いて視線を周囲に這わすのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 目の前でヒーローが宙を舞う。
 主にブン殴られて。
 黒服6人はぶっちゃけ強かった。別に武器を持っているわけでもない。素手だけで剣も光線も受けて弾き、拳一発で強化スーツのヒーローをなぎ倒してしまう。
 半分くらいが脱落した舞台の有後ろの方で一人の少女が目をきゅぴんと光らせていた。
「こいつの出番っスね……」
 かつてケイオスタウンのコロシアムで六度試合をして、その全てに勝利を収めた妖狐の拳闘士が居た。その身のこなしは軽やかで、拳は閃光の如く岩をも砕く。しかし最後の勝利の後にぷっつりを姿を消してしまったと言う。
「グシケーン、起動するっス」
 話では元の世界に帰ってしまったとも言われているが、彼女はその話を聞いた時に一つのインスピレーションを得ていた。
『ちょっちゅね』
 これはその妖狐グシケーンのデータを徹底的に分析し、瓜二つの戦闘力を持たせるのに成功したという格闘ロボである。しかし頭脳のほとんどを戦闘用プログラムに費やしたために発言が『ちょっちゅね』に限定されてしまったという点は残念だが、その性能は折り紙つきだ。
「天才科学者の生み出した正義のロボが、巨悪を討つために立ち上がるっス!
 行くのだグシケーン!」
『ちょっちゅね』
 その瞬間。
「貴様っ! 何をしている!!」
 近くにいたヒーローがすっごく怒った。
「え? な、なにか問題っスか!?」
 思わず素に戻ったトーマが目を白黒させるとヒーローはびりしとグシケーンを指さし

「悪がロボットを出す前にロボットを出すとは何事だ!!」
「なん……だと……!」

 衝撃を受けた。
 確かにそうだ。まだ相手は戦闘員同士の戦い。ここにロボを持ちだすのは

「────あたし、間違ってたっス」
 目からうろこがざらざらと落ちる気分だった。
「分かってくれたか。流石に君もヒー」
『ちょっちゅね』
 どごっ
 説教したヒーローがぽーんと飛んで行った。
「……ちょ、グシケーン?」
『ちょっちゅね』
 慌ててモバイルでデータ確認。するとどうやらトーマに喧嘩を売ったヒーローを敵と認識したらしい。
「き、貴様っ! 裏切り者かっ!」
「背後から攻撃するなど、何と卑怯なっ」
「ちょっ、みなさん落ち着いて!! 今こっちに怒りを向けたらっ!」
『ちょっちゅね』
 そしてグシケーンの目が光った。
「ちょ、待った! グシケーンかむばーーーーーーーっく!!」
『ちょっちゅね』
 しかし言う事聞かない。
 伝説の拳闘士の戦闘力を完全再現したロボットがヒーローの集団に留めを指すべく動き始めた瞬間だった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「トーマさん。なにやってるんですかね」
 背後で始まった大混乱に視線をちらり向けてヨン、もといV様は小さくため息を吐いた。
 前線の乱闘は終盤が見えてきた。そろそろこ頃合いとヨンは黒服へと踏み込む。
「お前はっ」
「少しお付き合い下さい」
 パンチを黒服がいなし、返しをVは紙一重でかわす。
 激しい攻防に見えて双方にダメージの無い演舞は前回のヒーローショウの時に打ち合わせた動きだったりする。
「で、これはどういう状況なんですか?」
「……誰かがお嬢様に吹き込んだらしいのだ」
「吹き込んだ? 確かに彼女らしくない宣告でしたけど……。
 その目的は?」
「分からん。お嬢様はあくまで自分のアイディアだと言い張っている。
 が、あのお嬢様がここまでの段取りをできるはずがない」
 きっぱり言い切る黒服。
「……だったらさっさと切りあげた方が良いんじゃないんですか?
 律法の翼も来ていると思いますし」
「そこは承知の上だが……、お嬢様が妙にやる気なのだ。
 しかもいつもと違って興奮している感じではない」
 視線を向ければ口を引き結んで仁王立ちするダイアクトーの姿。怒鳴りもしなければこちらに掛かっても来ない。
「調査できなかったと?」
「ああ。尻尾を掴ませない。目的が分からない状態で調べるには時間が足りなかった」
 打ち合いながらVは眉根を寄せる。
「お嬢様を止める事は我々にはできん。説得はしたが今回は全く耳を貸さなかったからなおさらだ」
「……しかし、このままでは本当に全てのヒーローを倒すまで終われませんよ?」
「……その時は戦い抜くしかあるまい」
 悲壮な決意と思いきや、しかしそこにはそれが可能だと言わんばかりの力強さがあった。
「……私がダイアクトーさんを敗退させましょうか?」
「……それも手段の一つか。
 ならば一度吹き飛ばされろ。もう少し状況が整理されてから頼む」
「わかり────」

「ねぇ、あのロボット鬱陶しいんだけど」

 不機嫌な、しかし凛とした声が舞台に響いた。
「は、はい! すぐに排除を!」
「良いわ。私がやる。
 ……うん。あいつが言う通り、できそうな気がするわ」

 そして彼女はその一言を呟く。

「フォースリミットリリース」

 その瞬間、四人の黒服が忽然と姿を消し、
「ば、馬鹿なっ! お嬢様がそこまでできるはずがっ!」
 残ったうちの一人、Vと打ち合っていた黒服が驚愕の声を挙げ

『ちょっちゅ────』
 めきょり。
 まるで瞬間移動をしたような速度。
 一瞬で数十メートルを走り抜けたダイアクトーの小さな拳がグシケーンの胴体に大穴を開けていた。
『ちょ……ちゅ……』
「ぐ、グシケーン!?」
 このコロシアムには相当のツワモノが集う。そこで無敗を貫いた男のコピーは伊達ではなかったはずだ。しかしそれが何の抵抗も無くボディを貫かれ機能停止した。
「い、いかんっ!」
「どういう事なんですかっ!?」
「説明は後だ。逃げろ! 今のお嬢様を相手にしたらお前など一撃でけし飛ぶぞ!」
 切羽詰まった声。しかしそれが事実であるかのように立ち向かった一人のヒーローが爆撃にも似た打撃音とともに壁に叩きつけられてがくりと倒れた。
コロシアムには緊急回避用バリアシステムが設置されており、命の危険がある攻撃を受けた時に自動的に防御をするはずなのだが、果たしてそれが有効だったのか疑わしい光景だった。
 突然の光景にコロシアム内は静まり返る。
「っく!
 下がれ! 我らが首領に立ち向かうなど、貴様ら十把一絡げのヒーローには過ぎた行為よ!」
 黒服がコロシアムを震撼させる程の声量で放った言葉は、いましがたの光景と相まって全てのヒーローの動きを止めた。
「……ふん、つまない。
 まだ足りないわ。もっと強いやつら、ここに居るんでしょ?」
 仮面の奥で赤の目が会場を見渡した。
「出てきなさい。あたしがみんな潰してあげる」
 その言葉に動く者が居た。
「まずい」
 呻き、黒服が奥歯をかみしめた。
「どういう、状況なんですか?」
「お嬢様が規定以上の力を出してしまった。
 このまま戦わせたら、クロスロードが壊れるぞ……!」
「……は?」
 流石に突拍子の無い言葉に目を見開くV様。しかし
「もしかして、彼女のお母さんがかけた封印が解けてるんですか?!」
「恐らく。いや、だったら最後まで解けているはずだ。
 ……正確には、解いている最中というべきか」
 せすじがぞっと冷える。
 今会場内で立ち上がり、舞台へ向かう者達が弱いと言う事は無いだろう。しかし黒服の弁が確かならばそれは破滅へ至るプロセスとしか思えなかった。
「くっ!」
 胸には運営から借りたピンマイク。
 自分はなにをすべきか。
 刻一刻と迫る非常事態を目の前に仮面のヒーローVは決断を迫られていた。

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はーい、クロスロード壊れるフラグをお届けしました☆
 やふい。神衣舞です。というわけで今からが本番ですw
 参加者のみな様はダイアクトーの出力が異常な事には気付けます。
 感覚的に、また客観的に見てこのまま戦闘を続けさせるのはやばいんじゃないのかなー的な感じは十分にわかるでしょう。
 というわけで次回はクロスロードでも中〜上級レベルの来訪者が入り乱れる戦いになるのか! 或いは他の道に行くのか!
 リアクションよろしゅー☆
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