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【inv15】『ヒーローの名は?』
【inv15】ヒーローの名は?
(2011/06/29)

「……ノーコン」
 颶風を巻き起こすパンチをなんとかかわしたアインは持ち前のポーカーフェイスを最大限に生かし、そう呟く。
「っ! なんだとぉおおおお!!!」
「制御が甘い」
 下手に紙一重を狙うとあっさり巻き込まれてひき肉にされかねない。それでも単純なパワーに裏打ちされた速度が彼女の体を木の葉扱いするように翻弄していた。
「確かに、甘いですねぇ」
 ヨンが手を抜きまくったパンチをダイアクトーの肩に当てる。彼女が振り返る前に距離をとり、やれやれと肩をすくめる。
「それじゃあ暴れ雄牛と同じですよ。このマントをひらひらさせてあげましょうか?」
 ばさりとマントを広げて見せるVに本当に闘牛のような突進を見せる。
「っ!」
 流石にこれに乗ってくるとは思わなかったヨンの行動が一瞬遅れるが────

「ふぎゃぁっ!?」

 咄嗟にアインが鎌で足を払ったためにどっしゃーーーーっとすさまじい土煙りを上げてダイアクトーが壁際まで滑って行く。
「た、助かりました」
「……構わない。それよりも、これじゃラチが明かない」
 ちらりと周囲に視線を這わせればKe=iとスティルが黒幕探しに奔走している姿がある。しかし千人規模を収納するこの場所ではなかなか成果を出せていないらしい。
「分かっていますがね。今は気を逸らさせるしかないでしょう」
「誘導尋問を仕掛ける」
 きぱりと言い放ったその言葉にヨンは半瞬黙り、
「お任せします」
「こぉぉおおのぉおおおおおおおおおお!」
 どんと地面が音を立てて陥没し、その反動をすべて動エネルギーに変換したダイアクトーが弾丸の勢いで迫ってくる。
 咄嗟にヨンはマントをちぎり取って進路上へ。
「ちょっ!?」
 そのまま二人の傍を暴風を伴って通過、十数メートル先でまた派手な土煙りを上げる。
「本当に闘牛ですね。あれ」
「……何とかなる?」
「次はありませんよ。まさか同じように剣を突き刺すわけにもいかない」
「……わかった」
 うがーと吠えながらマントと格闘している少女に視線を向けて
「時間稼ぎ」
「それしかありませんね」
 ついにマントを取っ払ったダイアクトーは仮面の奥の目を真っ赤にしてそれだけで人を殺せそうな殺意を向けてくる。
「……滑稽ね」
「っ……!」
「……まだ、気付かないの?
 貴方の今の状態が……私たちの作戦で生み出されたって」
 今にも突進しようとしていたダイアクトーの動きが止まる。
「今のあなたは御者のいない暴走馬車。
 真正面に立てば危ないかもしれないけど、そんなものはなんとでもなる」
「……! なんとでもなるって言うなら!」
「して見せた」
 ずばりと言葉が切りこむ。
「……何度地面とキスしたの?」
「があぁあああああああああ!!」
 羞恥が理性を吹き飛ばす。しかしいくら早くともまっすぐの突撃。少なからず武人としての鍛錬を積んだ二人にはなんの事は無い。
 十分に引き付けて左右に分かれるようにステップを踏めば、目標を失ったダイアクトーは左右どちらを追うべきかと迷い、そのまま足をもつれさせてしまう。
「……今の貴女なら簡単に倒せる」
「っさい!!!」
 がばりと立ち上がった所にヨンが踏み込む。
 咄嗟に防御しようとしたダイアクトーだが、しかしヨンは攻撃するわけでもなく、真横をすり抜けるようにして
「ところで貴方をそそのかした『猫』は、こんな喋り方をしていたんじゃないかにゃ?」
 と、一言。
 駆け抜けたヨンが構えをとるが、ダイアクトーは固まったままだ。
 
────当たり、ですか。あの人は何がしたいんですかね。

 ひとりごちて、しかし構えは解かない。
 「お嬢様! このままではやつらの思うつぼです!
 解除してください!!」
 これを機と見て黒服が叫ぶ。
 しかし葛藤故か、ダイアクトーに返事は無い。

「なるほど。今なら確かになんとでもなるな」
「護衛も少なくなったしな」

背後からの声に反応が遅れた。
「ぐぅっ!?」
 横なぎの一撃がVの腹部を襲い、吹き飛ばす。
「随分と硬いスーツだな。ふん、寝てろ」
 刀を持った男がVを薙ぎ払った刀を肩に担いで言い捨てる。
「く……、やめ、ろ!」
「俺たちを邪魔するんならてめえも悪だ」
「まったくね。殺しましょう?」
 もう一人、男につき従う獣人の女が手に持った銃を向けて
「───無垢なる凶弾を我が手より、エーテルロアー!」
 そこに趨勢を見守っていたマナがインターセプト。女の銃を弾きあげ、銃弾は青空へと飲みこまれていった。
「っ! そこのチビ! あんたも殺すよ!」
「いきなり割り込んできて随分な言いぐさね!
 乞食の行いと気付かないのかしら?」
「なにぉううう!!」
 挑発しながらも目は彼らの衣服へ。それぞれにあるのはエンジェルウィングスとは意匠の異なる翼のエンブレム。
「やめとけ。相手にする必要はない。
お前らも余計な事はすんな。もしするというなら────」
周囲に降り立つ人、人、人。
人種も格好もばらばらだが共通するのはそのエンブレム。
「五番隊がお前ら全員を正義の刃の元に切り捨てる」
 飛び道具も魔法も揃った中で動くに動けず「何が正義よ。腐れ外道じゃない!」と憤慨する他ない。
「……」
 そんな中、ゆらりとダイアクトーが動き始める。
「ここまで、お膳立て通りって言うの?」
 無論これだけの戦力が乗り込んでくるとは想定していなかったアインは答えに窮する。
「なら……」
 ぎ、と。大地が鳴る音を聞いた。
「全部踏みつぶせばいいのよね?」
「お、お嬢様っ!?」
「いいわ。全部────全部吹き飛ばしてあげる」

 まずい。
 何かが崩壊した、そんな音が幻と響いた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「飛びこまれてしまいましたか」
 数人の過激派を打倒したものの、流石に人数が人数だった。
 観客席から舞台を見下ろすポリゴンロボはどう動こうかと思考を巡らせる。
「あいつらが黒幕なのかしら?」
 同じく舞台を見下ろすKe=iの言葉にスティルは首を横に振る。
「その割には随分と躊躇っていたようですから」
「そうよね?
 過激派の連中が黒幕じゃないのかしら?」
「……すると、まだ何か起きるのでしょうかね?」
 とりあえず足元で伸びている男をぐいと掴みあげ
「というわけで尋問タイムです。
 貴方達がこれを仕組んだのですか?」
「な、なんでてめえに教える必要が……ぐぎゃぁああああ!?」
 ばちんと音が響き、男が悲鳴を上げる。
「痛覚だけを刺激して見たんだけど。まだ欲しい?」
「ちょ、おま……ぎゃぁああああああああ!?
 しゃ、しゃべります! しゃべります! 俺たちはここでダイアクトーが暴れるって聞いたから確認のためにっ!!」
「つまり、ダイアクトーのあの凄いパワーは貴方達の誘導では無いと?」
「ち、違う! 今だって、好機だからって隊長がっ!」
「……どう思います?」
「まぁ、嘘を吐いているようじゃないわね。
 となると……他に誰が?」
「わからないわよ。わかったら苦労は無いわね」
「なにか心当たりはありますか?」
 ぐいと締めあげて見る。
「な、ないです! ないですってば!
 ……あ」
「あ?」
「い、いや、心あたりと言いますか……。
 バリアの制御装置を解除しようという話が」
「……それ、死人が出ますよね?」
「だねぇ。……で、それはアンタ達が?」
「あ、ああ。
 だが、俺たちだって流儀がある。討伐すべき相手以外をむやみに傷つけるつもりは無い」
「でも、準備はしていると?」
 視線を情報へ。舞台を見渡せる場所に放送室や管制室があるというのは地図で知っている。
「あ、ああ。そうだ」
「……どうします?」
「放っておくと────」
 視線を振り向ける先、取り囲まれたマナが何事か怒鳴りつけている光景が見える。
「シャレじゃ済まなくなりそうね」
 手に余るような状況の中、自らがすべきは何か。
 気を抜けば暗澹たる思いが湧きあがりそうな中で、思考だけが高速で巡っていた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 集団────

 制御を投げ捨てた少女に対し、動きがどうしても鈍化するこの方法はまさしく愚策だったと彼らは思い知る。
 重い音が連続で響く中、包囲の一角があっという間に吹き飛んだ。
「馬鹿がっ! 今お嬢様を取り囲むなどっ!」
 黒服が歯を食いしばるようなくぐもった声で呟く。
「……どういう事?」
「……お嬢様のあの馬力の原因は……『飽食』の罪業によるものだ」
 一瞬の逡巡の後。黒服は呻くように応じる。
「周囲の者の力を食らい、自らの物として振う。
 ……つまり、強き者と、或いは圧倒的な戦力差に相対すればその力は相対的に上がっていく……!」
「……無茶苦茶ね」
 マナの呟きはアインも心を同じくする。
「それだけじゃない。今のお嬢様は4つの罪業を開放している。
 そして……残りも解放しようとしている。このままでは……私も耐えきれん……!」
「つ、つまり、散らせばいいっスか?」
 不意に足元からの声。
 三人が視線を下に向けると
「……っ!?」
 めずらしくアインが表情をひきつらせる。そこには舌をびろんと飛びださせ、黒目がどこかにぐりんと行方不明の少女があった。
 おおよそ女の子がして良い表情ではないのだが、これが彼女の完璧な死んだふりということらしい。
「放送事故レベルね。見苦しいから戻してくれないかしら?」
「し、失礼っスね。……まぁ、鏡を見たくなかった気分っスが」
 表情をノーマルに戻したトーマが銃口のやたらでかいハンドガンのようなものを差し出す。
「……これは?」
「超臭気ガスっス。とりあえず目を空ける事も息すらも拒否したくなるほどの臭いがばら撒かれるっスね」
「……時間稼ぎには使えそうね」
「……遠慮したいけど。背に腹は代えられない」
 少女二人が他に策は無いと暗澹な気持ちでそれを受け取る。
「Vは私が引っ張り出そう。ひと思いに頼む」
「……マナは先に下がってて」
「……うん。悪いけどそうさせてもらうわ」
 そして。

 すぽんという間の抜けた音とともに放たれた弾丸がこつんと騒乱の中心に炸裂し

 阿鼻叫喚の地獄が開幕を告げたのだった。

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はいはーい。神衣舞ですよん。
 というわけで次回か、その次くらいがラストになると思います。
 超臭気ガスのせいで戦闘は一旦中断。モロに食らったダイアクトーはしばらく気絶しますが、精霊術師とかが臭いを散らすので五分も持たない事でしょう。
 さて、クロスロード崩壊の危機がwktkですが、張り切ってリアクションをお願いしますね☆
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