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【inv15】『ヒーローの名は?』
【inv15】ヒーローの名は?
(2011/07/25)

「一応収拾はついた……のかしらね?」
 憮然とした面持ちでKe=iがぼやきを漏らす。
「コロシアムの事?」
 昼下がりとあってか客の姿はまばらだ。純白の酒場はこの時間、主にカフェテリアとして機能しているが、嗜好品の類はは一定以上に第三次産業が発達している世界でなければ上流階級のたしなみとなってしまうため、どうしても客足は遠い。
 そんなこんなでやや暇そうなフィルからの問いかけに、Ke=iは気の乗らない視線を返した。
「ええ。有耶無耶って感じかしら。
 ……色々大惨事があった気がするけど」
「大惨事、ねえ。結構後引いてる感じではあるんだけど」
「?」
「律法の翼で大きないざこざが起きてるみたい。
 去年もコロシアムで神災級の魔術を発動させかけたし、それ以外でも過激派の行動は問題視されてたもの。今回の一件で過激派内でも意見が分かれてるらしくてね」
「……無理もないかな。あんな大惨事の中でバリアシステムを切るなんて真似までしてたし」
「らしいわね。そこで番隊長が一人殺されたって話だけど」
 それを目撃していたKe=iは口をへの字にする。魔術も科学もサポートできないはずの超遠距離からの狙撃。舞台では魔王もかくやという超戦闘能力を持った少女の暴走が起きていた中で、完全において行かれた感がどっと肩にかかった。
「浮かない顔ね?」
「……ええ、まぁ」
「大方状況に振りまわされて凹んだって感じかしら?」
 心中を見抜かれて彼女は苦い顔をする。
「ターミナルはいろんな存在が居るからね。たまにインチキみたいな能力持ちも居るから、気にするよりも、自分の立ち位置を間違えない事に注視した方が良いわよ?」
「インチキな能力ですか?」
「ええ。特に魔法と科学が組み合う時の反応が怖いわね。アルカの造る道具なんて良い例だわ」
 Ke=iも魔術を研究している。その理論はわからないでもない。
「ちわーーっスぅ……」
 へろりと一人の少女が入ってくる。
「いらっしゃい。随分とやつれてるわね」
「ちょっと徹夜した上にクロスロード中をめぐってたっスよ」
「ああ、消臭剤配ってたのね」
 トーマが放った臭気ガスはあの大混乱に終止符を打った一手ではあった。が、なにぶん結果が後引きすぎた。というわけで、特製消臭剤を作って配布していたのである。
「途中から配布を管理組合の人が引き継いでくれたっスから、まだマシっスけどね」
 それでもへにょりとしたトーマにKe=iは「おつかれさま」と苦笑を向ける。
「……なにか、揃ってる?」
 次いでふらりと入ってきたのはアインだった。長い髪がやや重そうなのは先ほどまで風呂にでも入っていたのだろう。
「何の話、してたの?」
「律法の翼がバタバタしてるって内容ね。そういえばダイアクトーの方はどうなったのかしら?」
「戦闘員がコロシアムで修復作業をしていましたね」
 ぬと現れたスティルが淡々と述べた。
「謝りに行ったらきょとんとされてしまいました」
「どうして誤ったんスか?」
「何もできませんでしたからね」
「……別に依頼でもなんでもない。ある意味巻き込まれただけ」
「……」
 ポリゴンロボはしばし停止。
「なるほど、報酬など元々無かったのですね」
 一人納得するスティルに全員首を傾げた。
「それで、ダイアクトーは?」
「ダウンしているそうです。暴れすぎが原因らしいですが。
 しばらくは自宅謹慎させるとのことですね。……外部からの接触を避ける意味でも」
 彼女に良からぬ事を吹き込んだ『誰か』の姿は結局表には出ていない。
 ダイアクトー自身は自分が利用されたとは欠片も思っていないのが一番問題だったりするのだが。
「……結局どういう展開だったの?」
 アップルジュースを注文しつつ、そう問いかけると誰もが口籠る。
「ダイアクトーが大騒ぎして、そこに集まったヒーローとトンパチ。
 そこに律法の翼が乱入して有耶無耶のうちに終わった。というところでしょうか」
 スティルの解説は流れとしてはほぼ完ぺきだろう。が、
「その流れの外側がきな臭すぎたのよね」
「……黒幕の目的も不明。律法の翼が黒幕……?」
「そうでもないっぽいっスよ。
 一番被害受けてるの律法の翼っぽいスからねぇ」
 その不透明さがKe=iの浮かない顔の原因なのだが。
「そういえば、ヨンさんは?」
 戻ってきたフィルが揃いも揃ったメンツを見つつ問いかけると、皆、そう言えばと顔を見合わせる。
「ああ、ヨンさんなら事務所っス」
 へにょりとしたままのトーマの言葉に一同不審げな視線を向ける。
「ヒーローの組織を作るらしいっス」
「ヒーローの組織ですか? ……反ダイアクトー的な?」
 ふむとスティルが質問すると
「本質的には逆じゃないっスかね。でもまぁ、あの乱戦はヒーロー側がばらばらだったのが原因ですし」
「そうね。なんかロボットがヒーローの方を襲ってたし」
 Ke=iの言葉にさりげなく全力で視線を来年の方まで向けるトーマ。「ま、まったく酷い有様だったっスよ」と震える声が店内に響く。
「でも、難しいんじゃないかしら?」
 ぐだぐだな空気をすっと切り裂くようにフィルが言葉を漏らす。
「……難しい?」
「協調性の取れる連中は大抵律法の翼に参加しているもの。
 過激派か、穏健派かはさておくけど、ヨンさんが集めようとしている連中は穏健派に属しそうなメンツでしょ?」
 確かにそう言われればそうかもしれない。
「単独で活動しているのって、結局そう言う所に参加できない人達だろうし……
 集めるのは難航しそうね」
「んー、そうでもなかったっスよ」
 トーマの言葉にフィルは不思議そうに小首をひねる。
「そこそこ人、集まってたっス。
 律法の翼から足抜けしたって人も居たっスね。あとは、やっぱりバラバラに戦ってはどうしようもないと感じたとかなんとか」
「どうしてトーマさんがそんなにお詳しいので?」
「ええと、あのですね。事務所の電球を交換してきたっスよ! 頼まれてっ!」
 グシケーンの事もあるので言えない!って感じでトーマは慌てて取り繕う。
「なるほどね。ただ、それだと過激派からかしら……。
 ますますとがった組織になりそうだわ」
 フィルの心配は恐らく間違ってはいないだろう。
 ───なにしろ、仲間であろうと、その額をぶち抜く連中なのだから。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「では、よろしく」
「ああ、正義のために!」
 固い握手を交わすV様とヒーロー。
 彼の呼び掛けに初日から応じたのは十数名のヒーロー達だった。
 それ以外にも様子を確認しに来たり挨拶だけと顔を出してくれた人も居た。
「先行きは好調、というところでしょうかね」
 組織とは言っても上下関係を持たせるつもりは毛頭なかった。言わばコミュニティだ。個人主義のヒーロー達に横のつながりを持たせ、巨悪に対し一丸となって戦えるための方針づくりである。
 少なくとも。その実は無害なコンパニオン集団であるダイアクトーに死闘を申し込むようでは今後何があるかわかったものじゃない。そんな状態は避けたかった。
「失礼する」
 次の客かと視線を向けたヨンは、その男を知りもしないのに硬直した。
「貴公がV殿か?」
「……え、ええ」
 喉から絞り出すように応じながら、臨戦態勢にもシフトしない体が脂汗だけを流す。
「どのような御用件で?」
「なに、同じ志を掲げる者に挨拶をと」
 その言葉で確信した。
「……失礼ですが。ルマデア・ナイトハウンド氏ですか?」
「自己紹介が遅れて申し訳ない。いかにも」
 律法の翼、その過激派と呼ばれる者達を取りまとめる鋼鉄の騎士。
 写真で見れば硬そうな軍人というイメージしか持たないかもしれないが、直に目の当たりにして、その威圧感は圧巻の一言ではとても足りない。
「できれば良い関係を」
「……え、ええ。そう望みたいところですね」
 殺気ではない。ただ存在が重いのだ。これと似た雰囲気を思い出しVは───ヨンは苦笑いをひきつった頬に拒まれた。
 これほど恐ろしくは無いが、戦場にあるときのある将軍がまさにこれと同じ空気を纏っていた。
「では、短い挨拶だが、これで失礼する」
 周辺の空気を支配し、何事もないかのように去りゆく男の背を見送ってヨンはようやく大きく息を吐いた。
「前途多難、と言うべきでしょうかね」
 その問いに応じる言葉は、彼自身にも見当がつかなかった。

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わっほい、ヨン様がなんか面白い事はじめた☆
ども、神衣舞です。ちょっと雲の上な感じのシナリオでしたが、これにて完了となります。
次回はギャグシナリオでちょっと緩めるつもりですが、世界の行く末に関わるシナリオについてはたまにこのレベルのNPCがごろりと出てきますのでよろしゅう。
とにもかくにもお疲れさまでしたー。
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