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【inv16】『その祈りは誰がために』
【inv16】その祈りは誰がために?
(2011/05/25)
「おお、こいつは凄えや」
 獣人が眉と声を跳ね上げる。
「インチキじゃなかったんだな」
 仲間のドワーフが意外そうな声を返しつつ、ゴブリンを打ち払った。
「俺も話半分と思っていたんだがな。こいつは使えるぞ」
「ふむ、戻ったらわしも貰おうかな」
「そうしとけ。祈るだけで回復できるんじゃ、ポーションなんかよりもよっぽど安いじゃねえか」
「確かにな」
 会話もそこそこに、二人は残党処理を再開するのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「指輪、ですか?」
 すっきりとした執務室で美しい少女が机に置かれたそれに視線を向ける。
 簡素な指輪。そうと称するしかない装飾品がそこに鎮座していた。
「はい。出回っている物は基本指輪です」
 執事服をびしっと纏った男が恭しく応じる。
「回復魔法を付与されたマジックアイテムは珍しいですね」
 回復魔法は大抵神聖術に通じる。そうすると『奇跡』となるため、奇跡を安易に再現できてしまうマジックアイテムは信仰の敵となりやすく、そういう組織からの抹消対象になりやすいのだ。
「いえ、お嬢様。これは『マジックアイテム』ではないのです」
「……え?」
 眉根を寄せる。それから引き出しからレンズを取り出して右目に当て───
「術式が、無い?」
「はい。あるいは解読できないだけかもしれませんが……
 おおよそ発動時にも魔術的な反応は観測できません」
「では?」
「『奇跡』に近いかと」
 神聖術系も魔術系も術式を元に発動する物だが、
「奇跡なんて解析できていない事象の総称では?」
「そうとも言えますが」
 執事は言葉を濁す。どうにも言いづらいだけだろう。
「……あえて言うのであれば概念系の効果に近いようです。『祈り』をトリガーに『癒す』という結果を招く媒体、と言うべきでしょうか」
「つまり、これを使えばアンデッド系でも癒せると?」
「そのようです」
「そして、使用者に制限はない、と」
「はい」
「厄介ですね」
 夢のようなアイテムを前に少女はきっぱりとそう言いきった。
「配布している主はまだ見つからないのですか?」
「はい。やはり数名の商人がただ同然に受け取り、売りさばいているようです」
「そこからの聴取は?」
「芳しくありません。受け取った場所も相手もばらばら。しかも追跡調査を行いましたが、渡した相手が何者かも掴めませんでした」
「たしかアドウィックという人探し屋が居ましたね? そこに依頼は?」
「断られました」
 形のよい眉がきゅっと寄せられる。
「ただ、断られたと?」
「はい。理由は『答えの無い問題を解く趣味は無い』と」
「……。指輪を配布した人を探すように依頼したのですね?」
「はい」
「つまり……」
 少女は数秒黙考し、それからふぅと小さな吐息を漏らす。
「相当数出回っている状況で派手に調査をするわけにも行きません。適当に数名の探索者を雇い、調べさせてください」
「かしこまりました」
 執事が恭しく一礼をし、去っていくのを見送って少女は立ち上がると、忌々しそうに顔を歪めた。
「チッ……きなくせえな。こいつは」
 先ほどまでの清楚な空気はどこへやら。口汚く呟いて少女はぎらついた瞳を窓の外へと向けたのだった。

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はい、次のシナリオの第ゼロ話です。
依頼文では分かりにくくなると思いましたので簡単に中身を。
第一話から早速捜索にうつってもらう予定ですよーっと。
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