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【inv16】『その祈りは誰がために』
【inv16】その祈りは誰がために?
(2011/07/14)
「……すぅ」

「ね、寝るなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっス!!」

 がっと手持ちの袋から飴玉を掴みだして船をこぐ少女の口に叩き込む。
「……すーすーする」
「その為の飴っス! 良いから話を続けるっスよ!」
「……話? ……ああ、指輪?」
「そうっス! あらゆる光学的、物理的、魔力的な仕掛けが無いかもう一度確認してほしいっス!」
「……」
 また寝たのではないかと不安になりながらがさりと袋に手を突っ込むと「起きてるよ?」とか細い声が返ってきた。
「調べても無駄」
 続けるように、ユイ・レータムは告げた。
「無駄ってどういう意味っスか?」
「怪物と意思疎通ができない。と同じ法則かしら?」
 背後からの声に振りかえれば微笑を湛えるクネスの姿。
「ど、どういう意味っスか?」
「怪物とはありとあらゆるコミュニケーションが行えない。炎の魔術を使い、剣で殴ってきている事は分かっても、その魔術構成も剣に刻まれた銘も決して読む事が出来ない」
「……でも、発生した炎は体を焼き、剣は体を傷付ける」
 同意するようにユイが言葉を継いだ。
「あたしもいろいろ考えたんだけどね。
 最後に行き着いた回答例がそれだったわ」
「……で、でもほら、この指輪は探索者が造ったんスよね?」
「本当に?」
「……正確に言えばこの指輪を作っていたのは機械だったわ。
 ただ、その機械を作った人物は恐らく来訪者ではあると思うんだけど」
「じゃあ、それが怪物と同じ性質を持つ理由が無いじゃないっすか!」
「そうとも言い切れないわ。現にナニカは怪物になっていたわけだし」
 そう言われればむと口籠る。ヘルズゲートの向こう側にずんとたたずむ巨大ナニカは確かに怪物化していたらしい。
「何らかの条件下でこの世界にある物は『怪物』化する可能性があるのよ。
 それはまず間違ってないと思うわ」
「いや、でもそうするとその生産装置は『回復効果を生む指輪を作り出す怪物』だったと言うんっスか?!」
「その可能性はあるんじゃないかしら?
 ……でも、その場合には壊せば元に戻りそうだけど……」
 例の生産装置はラビリンス商業組合管理の下で破壊されたらしい。
 しかしそういう話は聞いては居ない。
「……違うんじゃないっスか?」
「……でも他の理論だとすっきりしないのよね」
 そんなやりとりを水色髪の少女はぼんやり眺めつつ一言。
「80点」
 二人の視線がうつろな瞳へと向けられる。
「そう言えばユイの結論を聞いていなかったスね」
「どういう事かしら?」
「……怪物の魔術式は理解できない。
 怪物の作る機械も理解できない」
「……まって。多分だけど、その機械を作った子は来訪者だわ。
 怪物じゃないはずよ?」
「え? 知ってるんスか? 犯人」
 先にきょとんとしたのはトーマの方だ。むしろ当然だが。
「推測だけどね」
「……何か問題?」
 こっくりと首を傾げる少女にクネスは一瞬押し黙り
「怪物とは一切のコミュニケーションが取れない。だから怪物の造った機械も、そこから出てくる物も解析できない。そういう話じゃなかったわけ?」
「そう」
 今度はこっくりうなずく。
「その人とは会話ができるわ。つまり怪物じゃないって事じゃないの?」
「……あるいは一つ抜け道があるにゃよ」
 ひょいと顔を出した若草色の髪の少女がほんの少しの苦笑を浮かべつつ告げる。
「抜け道って?」
「確認できたことじゃ無いにゃ」
 そう前置いて彼女は────犯人だろう少女と瓜二つの少女は告げる。
「来訪者でありながら怪物であれば良いにゃよ。
 もちろん、そんな事が可能かどうかなんてさっぱりにゃけどね」
 そうは言うアルカだが─────
 二人にはそれが何故か事実のように聞こえるのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆

「お疲れさまでした。これが報酬です」
 優雅に、にこやかに。
 美少女の風体を完全に備えた彼女はPBを操作し、二人のPBへと送金する。
 ここに来たのはヨンとマナの二人だ。無論他の者にも報酬は支払われているが、所謂電子マネー的なCRCは目の前で受け取る必然性が無い。
「ところで、どういう処理にするのかしら?」
 マナの問いかけにリリーはほんの少しの間を置く。
「あの機械はラビリンス商業組合が責任を持って破壊いたします。
 彼はまぁ、罰金刑というところですかね」
「……できればあの指輪はただの金属の指輪で、噂もなにもかもデマだって触れこんでもらいたいわね」
「……それは難しいかと」
 マナの要求にリリーは困ったような笑みを浮かべた。
「『癒し』の力が働いていたのは間違いなく事実ですわ。そしてあの指輪を使う者が居れば正体不明の力はこの大迷宮都市へと送られてくる。
 こちらとしては噂を信じて全ての指輪を破棄していただけるのが一番なのです」
 そう言われると反論は難しい。現況が破壊されても一度出回った指輪は消えはしないのだ。
「これから謎の力をなんとしても打ち砕くなりしなければなりません。
 気が重い話ですわ」
「……正体不明ですからね」
 ヨンが苦笑いを浮かべた。
「利用できる物は利用するのが商人の性というものですが、リスクしかありませんから」
「確かに。
 しかし、今回の件もありますしアルルムさん……いえ、アルカさんのそっくりさんに注意してもらうように商業組合には通達をお願いしたいです」
 告げながら、ヨンはふと違和感。完璧な微笑を浮かべるリリーの表情にほんの少しだけ亀裂が入ったように思えたのだ。
 気のせいだろうか?
「……ええ、もちろんですわ。ご忠告感謝いたします」
「いえ。では私はそろそろ」
「……私も帰るわ。またね?」
「はい。お気をつけて」
 こうして微笑みに見送られた二人は一路クロスロードの我が家へと向かうのだった。

 ◆◇◆◇◆◇◆

「有耶無耶のうちに終わってしまいましたか」
 そしてポリゴンロボは一人考える。
「イワシの頭も信からと言いますが、思い込みだったのでしょうかね」
 ぽてぽてとクロスロードの町並みを横目に。
 ひと騒動ではあったが、今日もクロスロードは平和であるようだ。

 ……たぶん。

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にゃふ。神衣舞ですにょろ。
これにてinv16は完了となります。
まだ出すつもりのなかった裏設定がね、ポコポコ出てる……っ!w
これもそれもフラグが妙な勢いで立ったからでして……
うん。なんかいろいろすっ飛ばしてるけど何とかなると思うw
というわけで、inv15と並んでちょっと参加者フレンドリーでないシナリオでしたが、この世界の秘密に近づくシナリオと思っていただければ幸いです。
では次回もおたのしみにー。
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ADMIN