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【inv17】『物騒な夏の風物詩』
物騒な夏の風物詩
(2011/08/02)
「おい、誰だ!! この依頼出したのはっ!!」

 管理組合本部で男の怒声が響いた。
 何事かと言うと、つい先日管理組合から出された依頼に問い合わせが殺到していて、しかしすでに依頼を受けた者が居るため、削除しづらくスタッフがてんてこ舞いになっているのである。

「す、すみません!」
 一人の気の弱そうなハーフオークがでかい体を縮ませて頭を下げた。
「見たままだったんで、つい……」
 周囲のスタッフがなんとなく視線を合わせる。漏れ聞こえるのは「まぁ、ねえ」という呆れを含む同意。
 怒りをぶつけた上司もその空気に眉尻を落とす。

 遠くから響く断続的な爆発音。
 窓から見える大河の流れに交じる赤。

 確かにその通りなのだ。
 頭の痛い事に。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……花火?」
「花火ね」
 マナの日傘にべとべとっと果汁が降り注ぎ、どろりとぬかるんだ地面に落ちる。
 アインはやや後方、その傘の加護を受ける位置で川の上の光を眺めた。
 確かに西瓜と花火だった。
 南からスイカが、北から花火がサンロードリバーを縦断し、中央で────

 どーん

 花火が爆発し、西瓜がはじけ飛び、光と果汁をまき散らしている。

「絶景ですね」
 ろくに防御策を講じなかったために、すでに果肉やら果汁やらでかなりべっとべとになっているスティルが腕を組んで川を眺める。
「力試しに来たのですが、さてどうしたものか」
「どうしようも無いと思うわよ?」
 ピンポイントバリアを用意して来たものの、それだけではとても防ぎきれない果汁の雨にやや僻僻した感じのKe=iが川の中央あたりを眺め見る。
「水道の水は川から採っているのよね? 甘くなりそうね」
 レインコートを着たクネスが苦笑いでそう呟く。

 さて彼らの正面で起きている事を説明しよう。
 北から物凄い数のナニカが。
 南からほぼ同数の歩くスイカが。
 ざーっとサンロードリバーへ集結し、渡河を繰り返しては川の中央あたりで爆散しているのである。レミングスもドン引きする光景である。
「……でも、あのナニカ、爆発が違う」
「確かに色鮮やかですね」
 普段はただ爆発するだけだが、川の中央では『花火』の名に恥じぬ光をまき散らしている。それが絶え間なく繰り広げているのだから夜見ればさぞ綺麗だろう。
「でも、酔いそうだわ、この臭い……」
 とにかく甘ったるい。マナがげんなりとどろぐちゃの地面を見渡した。スタッフも責任を放棄せざるを得ない。
「川に影響は無いのかしらね?」
「周囲の家には影響してるわね。水は浄水施設通っているはずだから早々問題は無いだろうけど……西瓜の種とかで目詰まり起こしかねないわね」
 Ke=iの分析は実のところ管理組合の最大の懸念だった。そもそもサンロードリバーの水は微生物も存在しておらず、ほぼ何もしないまま供給されていたりする。なので浄水施設も規模に反して簡素なのだ。
 そこにこの惨状は危惧して当然と言えよう。
「これは東側だけで起こっているんでしょうかね?」
「そう聞いたわね。西側は静かなものらしいわ。河原は酷い物らしいけど」
 スティルの問いにクネスは肩を竦めた。
 ちなみに一行が居るのは防壁の外側。クロスロードの真東に位置するところだ。果汁は左手に見える大防壁をでろでろに染め上げていた。
「……西側はアクアタウンがある?」
「確かそうね。水底だからそこまで影響は無いと思うけど」
 Ke=iはPBに確認しつつ塔の方を眺め見る。北のケイオスタウン、南のロウタウンの他に水の中で生活する者の集まりであるアクアタウンが塔の西側、サンロードリバーの流れの下にある。水深数十mの所にあるため、流石に汚染は届いていないと思うが、このまま続けばどうなるか、もちろんわからない。
「それにしても、ナニカはともかく、あのスイカはどこからきてるのかしら?」
 マナがえっちらおっちら歩くスイカの集団を怪訝そうに見つめると、Ke=iはくるりと体を反転。遥か先にわさっとあるそれを眺め見た。
「植物なんだから、多分あそこでしょ?」
 違い無い。
 一行はさてどうしたものかとげんなりとした空気を漂わせた。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「抵抗勢力の仕業」
 最近結構言葉がしっかりして来たコアは訪ねて来たヨンにそう告げた。
「抵抗勢力と言うと……コアの座を狙うコピーコアですか?」
「そう」
 緑の少女───『森』のメインコアはこっくりとうなずいた。
「私達への対抗策として、作り上げた兵士」
「でもそれが何でナニカとやり合ってるんですか?」
 眉根を寄せて問うとコアは「さぁ?」と無表情に切り捨てた。
「分からない。でも、生まれた兵士は白まんまるを敵視した。私達よりも」
「……もしかして、コピーコアも制御できていないんですかね?」
「たぶん」
 またニギヤマが何かしでかしたと思って着て見たヨンだが、思った以上にどうしようもない展開が起きてると悟り盛大にため息をついた。
「なんとかできませんかね?」
「……あの増え方は脅威。こっちを向かないのはありがたい」
 確かにそれは一理ある。怪物化していた時には地平を埋め尽くすほどにナニカを量産しやがった巨大ナニカ。それよりも生産性は落ちたとはいえそれに対抗しうる数の西瓜兵士を造り続ける能力は軽視できない。
「西瓜の本体とかあるんですかね?」
「わからない。コピーの勢力内はわからない」
「ちなみに、確かエリア内に入った植物は制御できるんでしたよね?」
「あの兵士はできない。そういう風に造ったから、言う事聞かない」
 彼女らの勢力争いのルールは、近くの植物を一定数所持し、それをけ仕掛け合うというものだ。そういうわけで相手の勢力範囲内に踏み込めば戦力を増やすことはできないためオリジナルコアが能力的に優勢であっても反勢力を駆逐できない現状が続いているのである。つまり西瓜兵士はそのルールに縛られず相手に突撃するユニットのはずだったが……
「予想をはるかに越えて面倒な状況ですね」
「そうだね」
 ニギヤマの周囲に居る幼女コアに比べて感情の起伏が薄いオリジナルコアは、とりあえずのようにその言葉に同意したのだった。

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ちょっといっぱいいっぱいの神衣舞です、でもがんばる。
はい、というわけでシリアスな状況が続きましたので楽しく夏の風物詩で楽しんでいただきたいと思います。
うひひひ。
このまま続くとクロスロードの水が大ピンチだったり、防壁に疲労が蓄積したりと夢が広がります。
では、気楽にリアクションをお願いしますね☆
 
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